今年の冬は暖かいらしいですね。
実際、この時期にしては、私が働いている雪国も穏やかでした。
自然環境が良いんで、雪さえ少なければ余生はここで送りたいほどなんですが、現実は毎年、豪雪なんで……。
ということで、本日は昨日アップ出来なかった、これを――
■A Tribute To Cannonball / Don Byas - Bud Powell (Columbia / Sony)
お気に入りのミュージシャンの発掘音源というのは、本当に嬉しいものですが、失望されられるブツも少なくありません。
しかし1979年に突如発売されたこのアルバムに関しては、リアルタイムで聴いた瞬間の驚愕と感動が、今も鮮烈です。
ちなみにタイトルは、このセッションをプロデュースしたキャノンボール・アダレイ(as) にちなんでいるらしく、元々はドン・バイアスのリーダー盤として企画されたものですが、何故かお蔵入り……。しかし同時期にはバド・パウエルの隠れ名盤「セロニアス・モンクの肖像(Columbia / Sony)」もキャノンボール・アダレイによって製作されていますので、決して内容が悪いはずは無かったのです。
録音は1961年12月15日のパリ、メンバーとドン・バイアス(ts)、バド・パウエル(p)、ピエール・ミシェロ(b)、ケニー・クラーク(ds) を中心に、曲によってアイドリス・シュリーマン(tp) が加わります――
A-1 Just One Of Those Things
コール・ポーターの名曲が早いテンポで演奏されますが、当時、レギュラートリオとして活動していたリズム隊が、劇的なイントロから溌剌としてテーマを提示! その勢いをそのまんまにアドリブに突入するドン・バイアスは、えっ! コルトレーン!? という強烈さです。
この人は基本的にはスイング時代のプレイヤーで、コールマン・ホーキンスの影響が濃厚なんですが、そのモリモリブリブリと吹きまくる躍動感満点のスタイルとモダンな感覚は、ベニー・ゴルソン~ジョン・コルトレーンに直結するものだと、私は思います。
しかもスロー物が得意という、本当の実力者なんで、どんなに吹きまくっても歌心を蔑ろにしない姿勢が、私は大好きです。
で、ここでの演奏なんか、目隠しテストだとベニー・ゴルソン、と答えてしまいそうな♪ とにかくグイグイにノッています。
またバド・パウエルが強烈で、当たり前ながら、これが正統派ビバップピアノ! ケニー・クラークのドラムスとの相性も最高ですし、ピエール・ミシェロのベースが、これまた、どっしりとした快演になっています。
そしてラスト・テーマでのドン・バイアスのテナーサックスが、本来の魅力を発揮してくれるのでした♪ 凄いです!
A-2 Jackie My Little Cat
ドン・バイアスが本領発揮のバラード演奏♪
なんて素敵な曲なんでしょう♪ ということで、スタンダードかと思ったら、ここに参加しているフランス人ベーシストのピエール・ミシェロのオリジナルでした!
あぁ、これで酔わないジャズ者は、いないでしょう……♪ 歌心もさることながら、テナーサックスの音色そのものが、大きな魅力になっています。
バド・パウエルの淡々とした味わいが、また良いんですねぇ♪ 本当にジワジワと暖まってくる名演だと思います。
A-3 Cherokee
スタンダード曲ながら、それはビバップ創成のカギを秘めたコード進行らしいので、モダンジャズでは定番の演目です。
ここでは初っ端からドン・バイアスが過激なブローを聴かせ、快調にテーマを吹奏してくれるだけで、血が騒ぎます。もちろんアドリブでは元祖シーツ・オブ・サウンドという音の洪水ですが、けっしてスケール練習になっていないのは流石です!
そしてバド・パウエル! やや調子が出ていませんが、もがき苦しみつつも自己のペースを掴んでいく様は、良く言えばジャズのスリルでしょう。
見かねたドン・バイアスが、豪快に聴かせてくれるのは、お約束です。
A-4 I Remember Clifford
ベニー・ゴルソン(ts) が書いた説明不要のジャズバラードを、同じスタイルの本家=ドン・バイアスが演奏してくれる、それだけで満足してしまいますが、出来がまた、素晴らしいんですねぇ~♪ ふすすすすす~、というテナーサックスのサブトーンが控えめに効いていますし、情感たっぷりの力強さが嫌味になっていません。あぁ、何度聴いても、シビレます♪
またバド・パウエルが慎重に音を選びながら、情感豊かに曲想を膨らませていくあたりも、実に良いですねぇ~♪
A-5 Good Bait
ジョン・コルトレーンの決定的な名演が残されている曲ですから、ドン・バイアスの元祖シーツ・オブ・サウンドがどう炸裂するか、ワクワクしてしまいますが、おぉ、やっぱり! キャノンボール・アダレイの指示かもしれませんが、それほど聴かせてくれません。まあ、要所で「らしい」フレーズを吹いているだけなのが残念……。
またここではアイドリス・シュリーマンが加わっていますが、無難な演奏に終始しています。しかしバド・パウエルはリラックスしたノリが素晴らしく、そのまんまバンド全体をセカンドリフに導いていくあたりは、モダンジャズの快感♪
B-1 Jeannine
おぉ、これはキャノンボール・アダレイのバンドでも十八番になっているモード系の名曲です♪ もちろん私は大好きで、この曲が入っていれば、そのアルバムは無条件に入手していた時期があったほどです。
で、ここでの演奏は、スバリ、痛快です♪
まず快適なテーマ合奏から、ドン・バイアスが意想外なモダンなノリでブリブリと吹きまくり、アイドリス・シュリーマンはマイルス・デイビス風のクールな展開!
そしてバド・パウエルはモードもコードも関係無しという、全くの自己流を貫き通した快演です♪ 背後で敲きまくるケニー・クラークも良い感じ!
B-2 All The Things You Are
ビバップ時代から定番となっているスタンダード曲で、モダンジャズ的に面白いコード進行なので、なかなかの難曲ですが、このメンツならば何の問題も無く快演が展開されていきます。
まずイントロのアレンジが刺激的! 続いてドン・バイアスがテーマを吹かずにアドリブ一直線ですから、アイドリス・シュリーマンも右ならえの快調さです。う~ん、こういう展開があったのか! もちろんドン・バイアスも元祖シーツ・オブ・サウンドを炸裂させています。
そしてバド・パウエルは、正統派のパウエル節に加えて幻想的なコード付けまで披露する、これも快演だと思います。
さらにクライマックスではケニー・クラークのドラムスが大暴れ!
B-3 Jackie
「A-2」の別テイクで、これもドン・バイアスのテナーサックスがムード満点のキャバレーモード♪ というか、これは日活キャバレーよりは、東宝ナイトクラブの世界ですねっ♪ バド・パウエルの内向的な伴奏も素晴らしいと思います。
B-4 Myth
オーラスはベースのピエール・ミシェロが書いた素敵なハードバップです。ちょっと泣きが入ったデューク・ジョーダンの世界という、変則ブルースなんですねぇ~♪
ですからドン・バイアスもグイノリながら、泣きぬれていく情感を漂わせ、アイドリス・シュリーマンは歌心優先です。
もちろんバド・パウエルも素晴らしく好調で、自分のソロパートが待ちきれずにアドリブを始めてしまうあたりが、微笑ましいところ♪ 例のゲーゲーいう呻き声が逆に安心感に繋がっていくのでした。
う~ん、それにしてもピエール・ミシェロは作曲が上手いですねぇ♪
ということで、これは発売当時から私の愛聴盤になっています。
参加メンバーはフランス人のピエール・ミシェロを除いて、全員が本場アメリカで活躍していた超一流でしたが、時流に押されて欧州に活路を見出していた時期とはいえ、決して落目では無かったことが、このセッションから納得出来ます。
特にドン・バイアスはスイング時代の人ならが、非常にモダンなセンスがあるというか、後輩のベニー・ゴルソンやジョン・コルトレーンのルーツがこの人にあるという証明を楽しんでも許される雰囲気です。
またバド・パウエルを中心としたリズム隊は、当時、スリー・ボイシスというバンド名でレギュラー活動していましたので、コンビネーションは最高! 野太いピエール・ミシェロにビシバシ叩くケニー・クラークという相性もバッチリです。
聴かず嫌いは損をするというアルバムなんで、機会があれば、ぜひとも♪