OLD WAVE

サイケおやじの生活と音楽

ピアノトリオのハリウッド的名盤

2009-03-26 11:30:01 | Jazz

My Fair Lady / Shelly Manne (Contempoaray)

オードリー・ヘプバーン主演の同名映画が好きだったので、中学時代のサイケおやじにしても、このアルバムは親しみを抱いて聴けました。私的にはジャズ入門アルバムのひとつで、それは当時、我が家に下宿していた叔父さんのコレクションでした。

題材となったミュージカル「マイ・フェア・レディ」はジュリー・アンドリュースをヒロインに、1958年3月が初舞台と言われていますし、このアルバムの録音は同年8月17日ですから、収録された演目の全てがピカビアの新曲だったというのも、今となっては驚異的ですね。つまりリアルタイムではほとんど知られていなかったメロディを魅力的なモダンジャズに変換しつつ、さらに本来の魅力を存分に引き出したというわけですから、ベストセラーは当然でしょう。逆に言えば、このアルバムによって知られた曲もあるほどです。

ちなみにメンバーはアンドレ・ブレヴィン(p)、リロイ・ヴィネガー(b)、シェリー・マン(ds) という強力なピアノトリオですが、アンドレ・プレヴィンは前述した映画版にも関わっていますし、このセッションでも細かいアレンジを担当したのではないかと推察しています。

A-1 Get Me To The Church On Time
 静々と最初のテーマメロディを導くピアノ、そこにガッツ~ンと被ってくるペースとドラムスの衝撃が、いきなりの快感です。そしてそれを合図に、アップテンポの激演が展開されますが、アドリブに入った部分では、アンドレ・プレヴィンが明らかに不調というか、インスピレーションが低迷した雰囲気です。
 しかしそこから少しずつ調子を上げ、終いには狂ったようにドライヴするというのは、見事な演出なんでしょうねぇ~。カウント・ベイシー調のキメにメリハリの効いた硬質なピアノタッチ、直截的なスイング感は両手をフル稼働させた、所謂バカテク派の典型! それがロイ・デュナンの素晴らしい録音で見事に楽しめます。
 そのあたりはシェリー・マンのスカっとするドラミングや実直なリロイ・ヴィネガーのペースワークにも同様に適用され、まさにツカミはOK♪♪~♪

A-2 On The Street Where You Live
 良いムードの求愛の歌が、ここではシンミリとして小粋なスイングで演じられています。とにかくアンドレ・プレヴィンのメロディフェイクが抜群♪♪~♪ 緩急自在のテンポ設定を巧みに作り上げるトリオの纏まりも最高だと思います。
 それはグイノリでグルーヴィなノリ、自意識過剰なファンキーフレーズを弾いてしまうアンドレ・プレヴィンの微笑ましさ、中盤のアップテンポのパートからスローダウンしていくところのキメのフレーズのカッコ良さ♪♪~♪ 何度聴いてもシビレます。

A-3 I've Grown Accustomed To Her Facce
 これはヒギンズ教授のネクラな独白の歌ですから、なおさらにシンミリと胸キュンのメロディが活かされた仕上がりになっています。そして流石はアンドレ・プレヴィンのピアノタッチの素晴らしさが感動的でしょう。
 彩豊かなシェリー・マンのドラミングも芸が細かく、骨太のジャズビートを維持するリロイ・ヴィネガーのペースも地味な良さに溢れています。
 全く歌心を大切した仕上がりですねぇ~♪

A-4 Wouldn't It Be Loverly
 相当にゴスペルファンキーな導入部から、このメンバーでは珍しいほどのハードバップなムードが横溢しますが、原曲は育ちの良くないイライザが本性丸出しで歌う場面でしたから、これがジャストミートなアレンジでしょうねぇ~♪
 しかしそれを知らなくとも、このゴツゴツとしたファンキーさはピアノトリオのひとつの醍醐味だと思いますし、それを可能にしているが、両手を使いきって尚更に強靭なタッチを披露するアンドレ・プレヴィンの物凄さ! 幾分、様式美に陥っているようなところもありますが、それも許せる範疇だと思います。

B-1 Ascot Gavotte
 これが初っ端から豪快にブッ飛ばした名演! オスカー・ピーターソンの黄金のトリオに一脈通じるようなアレンジと演奏のキメは、トリオの一体感も見事です。
 特にシェリー・マンのブラシが痛快ですねぇ~♪ 終盤のソロチェンジは手に汗ですよ、本当に! そして締め括りが「粋」です。

B-2 Show Me
 これまたイライザのオトボケが、このピアノトリオの洒脱な演奏で表現された快演です。 相当に凝ったアレンジが使われていますが、それを全くの自然体で演じてしまう3人の力量には、聴くほどに圧倒されるでしょう。
 あまりにもジャストにスイングするアンドレ・プレヴィンのピアノスタイルは、スイングしていないなようにも聞こえるので、例えばウイントン・ケリーあたりとは対極の違和感も否定出来ませんが、このタイプの演奏では結果オーライだと思います。
 そういう部分を上手くサポートしているペースとドラムスの存在も侮れませんね。

B-3 With A Little Bit Of Luck
 原曲はオトボケ調の楽しい歌でしたが、ここでは思いきったスローなテンポでロマンチックにメロディをフェイクしたトリオの解釈が見事すぎます。実際、この綺麗な旋律を抽出して膨らませたセンスは、最高ですよっ♪♪~♪
 アンドレ・プレヴィンのピアノは歌心の真髄、素敵なピアノタッチを存分に活かした畢生の名演だと思いますし、このアルバムの中でも、特に印象的な仕上がりでしょうねっ♪

B-4 I Could Have Dance All Night
 これはご存じ、このミュージカルの中では最も知られたメロディだと思いますから、トリオの演奏も油断は禁物! 豪快でエグイ表現ギリギリの導入部からテーマアンサンブルの凝った展開、さらにアドリブパートの溌剌としたドライヴ感が決定的です。
 しかしアンドレ・プレヴィンのピアノは、それゆえに硬直した感じがしないでもありません。タテノリ系のスイング感とでも申しましょうか、ガツンガツンと迫ってくるんですが、グルーヴィなムードが無いのです。
 まあ、このあたりは如何にも白人、西海岸派ということなんでしょうが、それゆえに大ヒットだとしたら、さもありなんでしょうか……。

ということで、アレンジと演奏のバランスも秀逸な傑作だと思います。

ただし既に述べたようにアンドレ・プレヴィンのピアノには、同じバカテク派でもオスカー・ピーターソンのようなグルーヴィな雰囲気も無く、またフィニアス・ニューボーンのような強引なドライヴ感も足りていません。

このあたりが黒人系ピアノに親しんだ後には、物足りないと感じるでしょう。

しかし全体のスカっとした雰囲気の良さやきちんとしたアレンジ、さらにキメがきっちり定められた起承転結は、やはり痛快ですし、それを完璧に演じきったトリオの潔さは魅力だと思います。

それがコンテンポラリーだけの明快な録音で作られているのも、まさに大ヒットの条件として、企画から演奏まで一貫したシステムの成功例じゃないでしょうか。

このトリオには他にも、さらにジャズっぽいアルバムが幾枚も残されていますが、やはり当時、世界で一番進んでいたハリウッド芸能界の底力を鑑みれば、これが決定的な名盤と断言致します。

本日も独断と偏見で失礼致しました。

コメント (4)
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