■ハッスル / Van McCoy & The Soul City Symphony (Avco / 日本ビクター)
ここ数日、有名芸能人の訃報が続きますねぇ……。
それも伊藤エミ、地井武夫、小野やすし……、故人が押し並べて七十代になったばかりとあっては、現代我国の長寿社会を鑑みて、やはり早すぎるという思いを禁じ得ません。
もちろん、この世には、そこまでも生きられなかった命が夥しく、何が天寿なのかの答えを出せるはずもありません。
さて、そこで本日の1枚は、何故か最近、またまた耳にする事が多くなった掲載シングル曲「ハッスル / The Hstle」で、この名曲を世に送り出したヴァン・マッコイという早世の天才を偲びたいと思います。
で、故人の偉大なる業績としては、今では普通になっているディスコミュージックの基盤を築いたというか、昔っからダンス音楽の需要が高かったアメリカ東海岸地区における1950年代からの活動の中、一応はキーボード奏者としてよりも、どちらかと言えば作編曲家やプロデューサーとしての立場が明確であり、グラディス・ナイトやスタイリスティックス等々への縁の下の力持ちとして、熱心なファンや業界からは高い評価を得ていたようです。
しかし、一般的な我国の洋楽リスナーがヴァン・マッコイを痛烈に意識したのは、この「ハッスル / The Hstle」が極みでしょう。
それはスバリ! 聴いているだけで腰が浮いてしまうほどの快楽性が大変な魅力であり、同時に調子良く踊れてしまう事は言うまでもありません。
本国アメリカでは1975年に発売され、忽ちの大ヒットになった流れに沿うように、日本でもディスコはもちろん、街角の商店街やパチンコ屋、夜の居酒屋やストリップ劇場でも流行りまくっていた事は、今も刷り込まれた記憶になっていますから、今日まで様々なCMに同曲が使われてきたのも納得して当然!
これほどウケてしまう要因のひとつとして、ヴァン・マッコイは決してジャズやソウルといった黒人音楽保守本流に拘る事なく、ロックもラテンもエスニックも、とにかく世界中の素敵なリズムやメロディを偏見無しに融合させるテクニックに長けていた、とサイケおやじは思います。
そして、それを具象化する為のバンドが、掲載した日本盤シングルのピクチャースリーヴには「スタイリスティックス・オーケストラ」と記載されていますが、実際は「The Soul City Symphony」という覆面演奏集団で、メンバーはスティーヴ・ガッド(ds)、ゴードン・エドワーズ(b)、リチャード・ティー(key)、エリック・ゲイル(g) といった、後のスタッフの面々に加えて、リック・マロッタ(ds)、ジョン・トロペイ(g) 等々の凄腕セッションミュージシャンが大集合♪♪~♪
う~ん、件のスタッフの結成デビューアルバムがヴァン・マッコイのプロデュースだった事も、これで頷けるのではないでしょうか。
ちなみに日本盤のクレジットを「スタイリスティックス・オーケストラ」としたのは、おそらく本家のスタイリスティックス人気にあやかったと想像しておりますが、これまた肯定は易いのでは?
ということで、こういうイージーリスニング系のソウルインストがディスコでウケまくり、時を同じくして所謂クロスオーバーからフュージョンと呼ばれ始めたジャズ系快楽音楽が、なかなか共通のメンツで制作されていたというあたりは、時代の要請だったように思います。
そこではヴァン・マッコイが文字通りハッスルしまくった活躍をした事が、今は懐かし思い出になってしまった現実があり、ディスコミュージックが下火になりつつあった1979年、39歳の若さで天に召された事は非常なる運命のいたずらなのでしょうか……。
しかし少なくとも、この「ハッスル / The Hstle」が今も各方面で愛されている事は不滅の証であって、こんな停滞を通り越して消耗に向かいつつある現代にこそ、腰が浮いてしまう音楽の必要性を訴えているわけです。
個人的信条としては、矢鱈にアッパーな行動は慎む事を是としておりますが、たまには空っぽの徳利のように浮きあがってみるのも必要かと思う次第です。