■Ugetsu / Art Blakey's Jazz Messengers (Riverside)
アート・ブレイキーとジャズメッセンジャーズは多くの名盤・傑作盤を残し、それは全てジャズの歴史を作り上げたのですから、中でも「一番」を選ぶのは非常に難しい作業です。
しかし「個人的に好きな、一番」となれば、私は本日ご紹介のアルバムになります。
これはジャケットに記載されたとおり、メッセンジャーズには馴染みのクラブ「バードランド」でのライブセッションから作られた1枚ですが、決してヒットパレードではなく、新曲中心の構成としてリアルタイムの最先端が記録されています。
録音は1963年6月16日、メンバーはフレディ・ハバード(tp)、カーティス・フラー(tb)、ウェイン・ショーター(ts)、シダー・ウォルトン(p)、レジー・ワークマン(b)、アート・ブレイキー(ds) という当時最強の面々が集結しています。
A-1 One By One
バンドの紹介に被さって始まる、最高にファンキーでモード味も強い名曲名演です。アート・ブレイキーの強烈なジャズビート、活きの良い合奏からして、もう最高!
そしてアドリブ先発が作者のウェイン・ショーターですから、短いながらも実にツボを押さえた好演ですし、続くフレディ・ハバードの大ハッスルも眩しいかぎりですねぇ~♪
また悠々自適に吹き流すカーティス・フラーが実に良い雰囲気を醸し出し、シダー・ウォルトンが新しい感覚を披露するコントラストも鮮やかだと思います。
バンドとしての纏まりも、例えば各アドリブ奏者の背後を彩るホーンのリフとか3管ハーモニーの味わい深さ、さらに親分の嗜好を鑑みたファンキーな表現も忘れていない、これぞ最強のバンドとしての矜持が感じられますよ。
A-2 Ugetsu
アルバムタイトル曲はシダー・ウォルトンが書いた素晴らしいモード曲で、アート・ブレイキーが演奏前のMCで語るところによれば、「ウゲツとは日本語の意味でファンタジー」ということです。
実際、この浮遊感が絶妙のテーマメロディは本当に素敵ですし、リズム隊が作りだすヘヴィなジャズビートと渾然一体に盛り上がっていく様は、名演の必要十分条件でしょうねぇ~♪
ですから、テーマメロディをリードして、さらに輝かしいアドリブを紡ぎ出していくフレディ・ハバードにしても、自身の最も「らしい」資質が全開した代表的な名演だと思います。また続くウェイン・ショーターの思慮深く、同時に躍動的な表現も流石の存在感ですし、カーティス・フラーもハスキーな音色で十八番のアドリブを展開しています。
そしてシダー・ウォルトンが全く素晴らしいかぎり! 個人的には小型マッコイ・タイナーだと思い込んでいたピアニストでしたが、この曲と演奏に接してからは、なかなか侮れないと認識させられました。軽やかに浮遊しつつ、実に幻想的にメロディを発展させるアドリブと綺麗な和音構成が強い印象を残します。
ちなみにシダー・ウォルトンにとっては、これがやはり代表的なオリジナルとして、「Fantasy」等々の別曲名としても定番演目なわけですが、ここでの「Ugetsu」は上田秋成の「雨月物語」に因んでいるのは言わずもがなでしょう。もちろん1961年の初来日から日本で大歓迎を受けたアート・ブレイキーの恩返しなんでしょうねぇ~♪
まあ、それはそれとして、これほど素晴らしいモード演奏は聴かずに死ねるか! 皆様には、ぜひともお楽しみいただきたいところです。
ハナからケツまで、シビレますよ♪♪~♪
A-3 Time Off
カーティス・フラーが書いた威勢の良いハードバップですが、その表現には確実にモードの味わいがあるようです。
しかしアップテンポでバリバリに吹きまくる作者のトロンボーンは、逆にそんな思惑を否定しているかのような潔さ! ですからウェイン・ショーターも音符過多な表現をジルジルの音色で放出していますし、こうした展開ならばフレディ・ハバードが俺に任せろっ! 本当に火の出るようなアドリブが連発されます。
そしてリズム隊の重厚にしてイケイケというノリも強烈で、臆することのないシダー・ウォルトンには、スカッとさせられますよ。
B-1 Ping-Pong
ウェイン・ショーターの代表的なオリジナルで、ジャズメッセンジャーズとしても幾つかのバージョンが残されていますが、ここでのヘヴィに突進する演奏は圧巻です。まずはアート・ブレイキーのリムショットをメインに使う、実に怖いドラミングが強烈! ピアノとベースが共謀して作りだすテーマのリフも強靭だと思います。
そして作者本人が激しい心情吐露のテナーサックスは、モード節でありながら、既にジョン・コルトレーンのスタイルを脱した新しさで、多分、曲想自体が全くの新感覚だったんでしょう。
そのあたりはフレディ・ハバードやカーティス・フラーにも伝染しているようで、特にカーティス・フラーは猛烈なアップテンポで激しく咆哮! 思わず熱くなってしまいますよ。
それとリズム隊の纏まりと自己主張が、これまたアブナイほどで、やはりこれがジャズメッセンジャーズ最強時代の証明と、独断致します。
B-2 I Didn't Know What Time It Was
このアルバムでは唯一のスタンダード曲を、ウェンイ・ショーターが中心となった演奏にしています。シダー・ウォルトンの華麗なイントロから深淵な表現に勤しむウェイン・ショーターという、全くこちらが期待するとおりの展開がニクイほどですよ。
こういうスローにしてミステリアスな味わいの追及は、後々までウェイン・ショーターの専売特許になりますが、そこはジャズメッセンジャーズというスタア集団ですから、タダではすみません。フレディ・ハバードが目立ちまくったバンドアンサンブルの盛り上げから、緩急自在に時空を浮遊するウェイン・ショーターのアドリブは、激しく力強いところも披露していますし、最後の無伴奏パートも含めて、本当に間然することのない演奏だと思います。
B-3 On The Ginza
これも日本に因んだ曲でしょう、もちろん「銀座」ですねっ♪♪~♪
力強いビートとカッコ良いテーマリフの融合からは強烈に新鮮な感覚が表出し、これもまた作者のウェイン・ショーターが才能をフル発揮の名曲名演でしょうねぇ~♪ アドリブ先発で繰り出す摩訶不思議なフレーズの洪水が、強い印象を残します。
逆に落ち着いたフレディ・ハバードは、そのクールなアドリブフレーズに熱いジャズ魂が感じられますし、カーティス・フラーの安定感は新しいスタイルにも適合しています。
さらに素晴らしいのが、シダー・ウォルトンのアドリブパートで聞かれるリズム隊の進歩的な姿勢です。一瞬、フリーな感性も滲んでくるところには、ハッとさせられますよ。
ということで、名盤ガイド本には掲載されることもないアルバムですが、全部が名演だと思っています。実際、ここを峠として、以降のバンドは下降線を辿りつつ、翌年秋に頃にはフロント陣が揃って脱退するわけですから、やはり全盛期の記録だったと思われます。ジャケットに使われたステージ写真を見ても、ウェイン・ショーターの楽しげな様子から、それが窺われるんじゃないでしょうか。
それと私にとってはシダー・ウォルトンの素晴らしさに目覚めた記念碑でもあり、名曲名演となった「Ugetsu」を聴いた直後から、シダー、シダーと中毒してしまいました。
リバーサイドのメッセジャーズは、ちょいと盲点になっているようですが、これだけは聴いて後悔の無いアルバムと確信しています。