■The Montmartre Collection Vol.1 / Dexter Gordon (Black Liom)
ジャズとビールは生が良い!
なんて言われますが、確かに生演奏の現場の熱気、それを封じ込めたライブ盤の魅力は、同じ瞬間芸だとしても、スタジオレコーディングとは一味違った魅力があると思います。
ただし、それをあまりにも意識過剰に演じた作品となればイヤミも強くなるわけで、如何に日常的な熱演を記録出来るかが、プロデューサーの腕ということからもしれません。
その意味で本日ご紹介のアルバムは、まさに全盛期のデクスター・ゴードンが極めて自然体を披露した熱演ライブ盤でしょう。
録音は1967年7月20日、コペンハーゲンのクラブ「モンマルトル」でのライブセッションで、メンバーはデクスター・ゴードン(ts)、ケニー・ドリュー(p)、ニールス・ペデルセン(b)、アルバート・ヒース(ds) というお馴染みの面々です。
ちなみにこの時のレコーディングは一応、LP3枚に分散収録されながら、その発売には様々な形態があるらしく、収録曲目がダブったような変則2枚組とか、カタログ番号やジャケットが同じなのに収録曲が異なった欧州各国盤、あるいは我が国だけで発売された「Vol.3」とか、本当にマニア泣かせの名演集!
まあ、それだけ残された各曲が、いずれ劣らぬ快演ということなんでしょうが、それもカルテットの充実を的確にとらえたプロデューサーのアラン・ベイツが企画の冴えだと思います。
A-1 Sonnymoon For Two
ソニー・ロリンズがオリジナルという強烈なリフのブルースですが、かつては自分の影響下にあった作者に敢然と挑戦するデクスター・ゴードンの意気込みが、まずは素晴らしい快演を生み出したと感じます。
現場でのチューニングの様子から、いきなりツッコミ激しいリズム隊のイントロ! そして自然体でありながら、実に熱っぽくテーマリフをリードするデクスター・ゴードンの心意気! あぁ、ここだけで早くも血が騒ぎます。
そしてガンガンに突進するアドリブパートでは、テナーサックスの硬質な音色とギスギスしながら淀みない強烈なフレーズの積み重ねが実に激しく、バックで煽りまくるリズム隊さえも置き去りの瞬間が、どうにもとまらない興奮となるのです。
ちなみにデクスター・ゴードンの特徴としては、ちょいと遅れ気味の出だしからケツはきっちり合っているという独特のアドリブフレーズが連続され、つまり時空があるところで凝縮されたような感覚ですから、自然に演奏密度も高くなるんじゃないでしょうか? このあたりは、あくまでも聴いて感じるものでしょうが、理屈っほいサイケおやじは、そんな事まで考えてしまうほど、ここでの演奏は濃密だとご理解願います。
またリズム隊の熱血は言わずもがなの強烈さで、十八番というハードバップのブルース大会を演じるケニー・ドリューは、途中で痛快なストライド奏法も駆使するほどに激していますし、若気の至りも好ましいニールス・ペデルセンのペースワークは、その強靭なアドリブも含めて、モダンジャズの真髄に迫っているようです。
さらにアルバート・ヒースのドラミングが、幾分繊細な味わいも含めて最高にハードバップしています。ニールス・ペデルセンがペースソロを演じている背後でサワサワと聞かせるブラシも良いですねぇ~~♪ 決して派手じゃないところがニクイのです。
そして演奏は終盤から大団円にかけて、デクスター・ゴードンの再登場からドラムスとのソロチェンジという定番コースながら、その熱気と勢いは本物のハードバップです。
A-2 For All We Know
一転してシンミリ系のバラード演奏は、歌詞を知らない歌物は吹かないとされるデクスター・ゴードンが、全くそのとおりと思わせるハードボイルドな男気を聞かせてくれます。う~ん、このメロディフェイクには、本当に泣けてきますねぇ~♪
テナーサックスの素直な鳴りの良さも特筆物で、これぞ全盛期の証明だと思います。
ケニー・ドリューのホロ苦いようなピアノも素晴らしく、後年の甘々も良いと思いますが、こういうシブイ表現も捨て難いんじゃないでしょうか。
B-1 Devilette
B面に入っては新しい感覚も聞かせようということでしょうか、ラテンビートを使ったモードっぽい部分とグルーヴィな4ビートのパートが交錯した、熱い演奏になっています。それはニールス・ペデルセンという若手の俊英が入っていればこそでしょうねぇ。最初から最後まで、演奏を確実にリードしているようですから、デクスター・ゴードンも安心して好きなように吹いている感じです。
実際、ここでのリズム隊はなかなかにヘヴィな雰囲気が好ましく、さらにデクスター・ゴードンのハードな表現がジャストミート! この野太いテナーサックスの魅力は、同じようなモードを演じても、ジョン・コルトレーンのような煮詰まった表現からは遠く離れて、その度量の大きさに感銘してしまいます。
ミディアムテンポで強烈なウネリを作り出すリズム隊では、アルバート・ヒースの的確なドラミングが流石だと思いますし、既に述べたようなニールス・ペデルセンの活躍に加えてケニー・ドリューが相変わらずの安定感♪♪~♪
まあ、正直に言えば、それゆえにリズム隊だけのパートが幾分、軽くなる感じもするのですが、結果オーライということで、私は嫌いではありません。、
B-2 Doxy
これまたソニー・ロリンズが書いた有名オリジナルですが、原曲に顕著なオトボケよりは
、むしろ実直にメロディをなぞっていくデクスター・ゴードンの生真面目さが、それゆえに可笑しさを誘うようです。バタバタしたアルバート・ヒースのドラミングも良い感じ♪♪~♪
そしてアドリブパートに入ってからの一途なテナーサックスの鳴り響きは、もう最高ですよっ! ユーモア溢れる歌心、任侠な音色とグルーヴィなノリ、これほど自在にハードバップを演じることが出来るミュージシャンは稀でしょうねぇ~。本当に薬籠中の名演だと思います。
またケニー・ドリューの弾みきったピアノが、これまた楽しいかぎり♪♪~♪
ということで、これは1970年代前半のジャズ喫茶では定番の中の人気盤! もちろん残りの演奏も全てが同等の仕上がりですから、アルバム3枚は全てゲットして間違いないコレクションだと思います。確かCD化もされているはずですよ。
そしてこれに勢いづいたデクスター・ゴードンは、この後の1970年代にはケニー・ドリューとのコンビで円熟期とも言える秀作盤を多数残していきますが、思えばこの2人は1950年代から相性は抜群でしたねぇ。あの大名盤「Daddy Plays The Horn (Bethlehem)」の味わいが、見事にこのアルバムで深化拡大しているといって過言ではないと思います。