松美の言絵(いえ)

私は誤解されるのが好きだ。言い訳する手間が省けるから。

サヴァン症候群、その2

2015-04-15 15:59:03 | 日記・エッセイ・コラム

 スティーブンに関して言えば、彼は目から入った情報を整理しないから、あれだけ細部の情報まで描ける。普通の人間は例えば運転していて、歩行者がいる、交差点だ、信号は何色、対向車、今のスピードは、様々な目と耳から入る情報を整理して、次の行動を決定している。その時建物の細部の模様なんかに見とれてはいませんよね。これを単純化の処理と言っています。つまり情報を整理、分類するから反応できる。ところがサバンの人たちはこれをしない。見たままを記憶し、そのかすかな知覚情報が蓄積されている場所(脳の特定部位)にアクセスし読みとることができるのだ、と。しかもこの能力は本来誰でも持っている能力なのだ、とまで言っています。ただ我々の場合はその潜在意識を引き出すことができないだけだと。

  さて、場所は変わってアメリカはカリフォルニア大学サンフランシスコ校で、脳の障害患者を専門に見ているブルース・ミラー博士。彼の患者で、株のブローカーとして第一線で活躍するビルという人は50代で痴呆症の症状を発病しました。その時息子が言うには、「自分は芸術家になった」と言って絵を描き始めたそうです。先生曰く、「彼は数字に没頭する生活から、視覚的なイメージの中に生きる人間になった」というわけです。そこで気になった先生は外にそういう患者がいないか探しました。すると驚くことに11もの症例が見つかったのです。中には50代の主婦で一度も絵筆なるものを握ったことのない人が子供の頃の記憶をもとに風景画や静物、帆船の絵、そして集団で駆ける馬の絵など描き始めたのです。この馬の絵は素人が見てもたいしたもんです。躍動感ある均整のとれた走る馬を描くには相当な技術が必要でしょう。ほかにも作曲に目覚めて美しい曲を何曲も作った人など、いるそうです。これらの患者のCTスキャン画像からは脳の同じ部分に損傷が認められました。「痴呆が眠っていた才能を解き放つなんて、まるでおとぎ話を見ているようです。」そして博士は同じような才能を発揮するサバンのことを連想したのです。「これら痴呆患者とサバンの間に共通点がないか、知りたいと思いました。」

 

 そこでアメリカにいるサバン症候群の少年の脳のCTスキャンを撮ってみることになりました。すると、痴呆患者の脳とサバンの脳は想像していた以上に良く似ていました。両者とも側頭葉の左前部に損傷が見られました。ここは分析や言語や概念をつかさどる部分です。
 私と同じように最近、歳と共に物忘れがひどくなったと感じている皆さん。もう心配いりません。痴呆は恐いどころか、ひょっとすると、ゲージツ家になれるかも知れません。

 ミラー博士は割合慎重派で、まだ研究は始まったばかりで分からないことはいっぱいあって結論づけるのはまだ早い、と言っています。しかし、ボケと正気の境界線上のアリアを行ったり来たりしている私なら多少の危険を犯しても芸術家や音楽家になりたい。数学家はなりたくない。そのためなら周囲からボケと言われてもいい。ただし脳の、分析や言語や概念をつかさどる部分は絶対残しておきたい。でないと人間じゃないもんね。

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

キムタクの脳は、宮本武蔵級。

2015-04-15 09:01:51 | 日記・エッセイ・コラム

 脳科学者の茂木健一郎氏が天才クラスと評価するのが、キムタクだった。絵が少しずつ変化していく箇所を当てる問題で、3問全問正解だった。この設問が一番、私も苦手だ。どこが変わったのか、さっぱり分からない。林先生はヤマ掛けて、そこだけ見ていたらしい。それでも外れた。キムタクは、そうではなく、ぼやっと全体を眺めているらしい。曰く「木を見て、森を見ないが如し」みたいな事を言った。そう指摘された林先生の切り替えしも見事だった。「木も、森も、林も、見ないんですね。」 この全体像把握みたいなやり方が宮本武蔵級だそうだ。剣の切っ先に集中していては、相手の動きが見えない。力を抜いて、全体を見る。完敗した林先生のコメント。「顔で負けて、頭で負けて、・・・」オレの存在感はどこにあるんだ、と打ちのめされていた。

 人間の脳の記憶力は計り知れない。サヴァン症候群の人たちを見れば、それが分かる。一度聴いた曲を、完璧にピアノで再現できる能力。カレンダーの曜日を言い当てる能力。この人は、カレンダーを見ている、と考えられるそうだ。過去200年のカレンダーが、絵として頭の中にある。しかもこういった能力は、誰にもあるのだ、と茂木先生は言う。日常生活に支障をきたすから、封印しているだけだ、という。

 

 そこで14年前のBBC放送を再掲する。長いので、途中までです。

              サバン症候群・自閉症の天才たち

 これはNHKドキュメント地球時間という番組のお話です。制作はイギリスBBCです。
スティーブン・ウイルトシャーという人がいます。彼は建築物に大変興味を持っていて、イギリス国内の有名な建築物を寸分違わぬ正確さを持って描写する才能を持っています。これだけなら、ただの画家ですね。しかし彼は描く対象物をひとめ見ただけでそれを記憶し、記憶だけをもとに正確に細部まで再現する能力を持っているのです。例えばその建物に窓が145個あるとすると、正確に145個描きます。しかし彼は自閉症患者であり、重度の知的障害を持っており、簡単な足し算も引き算も出来ないのです。
 その能力の秘密を探ろうとヘリコプターでロンドン上空を一回りしてきます。降り立った彼はスケッチブックに向かい、まず大まかな構図を鉛筆描きで決め、それから一心不乱にペンを走らせます。ためらうことも、修正することもありません。3時間の間に12の名所、200の建物を書き上げました。それはまさしく、ロンドンを上空から見た鳥瞰図そのものです。作品を見ながらこれはセントポール大聖堂、、これはロンドン・アイ、これはテート・モダンとミレニアム・ブリッジという風に建物の名前を説明していきます。

 ディレク・パラビチーニさん。ジャズクラブで働く20才。この人は一度聞いた音楽は即座にピアノで再現することができます。しかし彼も自閉症患者であり、重度の知的障害を持ち、数を数えることも出来ないし、左右の区別さえ出来ません。右手を上げてと言えば左手を上げます。その上彼は未熟児網膜症のため盲目なのです。その彼が一旦ピアノの前に立つと(座ると)ジャズバンドのピアニストとして自在に両手を鍵盤上で踊らせ、時にバンドリーダーとの即興的な連弾までこなすのです。おそらく今の彼は数千曲を記憶していて即座に演奏できるだろうと言われています。その能力は一度聞いたオーケストラをパートごとに再現できるほどです。アダム・オッケルフォード博士(音楽学)によると、彼の頭の中では常に編集用のプログラムが動いていて、だから即座に鍵盤上で音を探し当て、曲を再現できるのだ、そうです。これはプロの音楽家でもなかなか出来ない芸当です

 

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする