棚からぼた餅--岩淵龍王丸

信州の山郷での暮らしと、絵本と無縁になってしまった大人に向けた創作絵本や、芸術活動をお話します。

浮気者のしっぱい

2009-02-24 08:08:21 | 大人の童話
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花の盛り、好機とばかり名所に、女好き仲間とくりだす。
境内は花の艶やかさもさることながら、見物客の晴れやかな衣装に満ち、目を奪われるほどの、みごとな紅梅・萌黄色と色とりどり。
中でも、上等な被衣(かつぎ)を深く被って顔は見えないが、金襴緞子の贅沢な衣や、なんとも様子のいい美しい女を認める。
「どうだ、あの女を口説き落とす競争をしまいか」
いずれも、女にかけてはと、うぬぼれた面々。
女にまとわりつき、たらたらとお世辞をいうが、女はますます身を小さくする愛らしさ。
いくら言い寄っても、かたく顔を隠し、付け入る暇もない。

つれづれ草-1-浮気者の失敗

2009-02-23 08:47:21 | 大人の童話

今は昔 と始まる徒然草 小難しくなくって市井のお茶飲み話・小話のオンパレード。
狂言や江戸小話の元ネタになっている物語も多い。といっても原作を読んでいっているのではありません。小生の愛読書-こども向け日本の古典名作選書です。
私もオチョンコズイテ、徒然草風に書いてみました。
最初は本家の徒然草より「浮気者の失敗」
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今は昔、官吏の中でも色事にかけては、一番だと自負している者がおった。
好衛門と称するこの男、女房がいながら女子に目がなく、部下や町衆の女の区別がない。
地位を傘にするばかりか「女子を口説き落とすには、チョット甘い言葉と、最後は根気でおます。わてにかかったらどないなオナゴとて・・・」と、其の口説きようも、大したねばりのよさであった。

15―絵師良秀―最終回

2009-02-21 08:13:47 | 大人の童話
良秀-15
時はながれあれほど栄誉栄華を誇った大殿も、権力の座を追われ、寂しくこの世を去ってしまったのでございます。 絵師良秀も去り、すべての人が時の流れに飲み込まれてしまった中で、あの、「地獄変図」の名画は残っていくのでしょう。
ご愛読ありがとうございました。私のHP(ブックマーク=りゅうさんわーるど)に編集してあります

14―絵師良秀-首をくくった

2009-02-20 08:50:51 | 大人の童話
14-良秀
忌まわしき事件があった数ヵ月後「地獄変図」の大屏風が完成し、大殿に届けられたのでございます。 
 弟子どもが首をくくった良秀を発見したのはそれから間もないことでした。
そのときの状況を弟子の一人が語ってくれたのは、しわくちゃだった肌はつややかに輝き、着替えなどしなかった衣類は悪臭どころか、高貴な香りがしたといいます。なによりも、醜くゆがんだ良秀の顔は、観音菩薩像のごとく至福に満ち、思わず師の尊顔に手をあわせたと申しました。
 そして、師がつねづね申していた「醜いものや、奇態なものに美の極致を観いだせ」
の教えが会得できたと、感涙にむせびながら話してくれました。

13―良秀

2009-02-19 08:35:12 | 大人の童話
良秀-13
 神仏の加護があってこそ名画ができる、などと申す者たちをせせら笑ってきた良秀でしたが、「地獄変図」の製作の日々は、それまでと違っておりました。
 未だ明けやらぬうちから、瀧に打たれ、神仏に憑かれたごとく祈っていたと申します。
娘の菩提を弔い、阿弥陀如来像をいただき描いていたと申します。
 お経とも狂人の戯言とも・・・。なんとも意味不明なことをつぶやきながらの製作は、さすがの弟子たちも、あまりにもの異様さに画室にちかづかなかったと聞きました。
 心配の余り、弟子たちがおそるおそる画室をのぞくと、阿修羅か明王のごとく観え、不思議な光を放っていたと申しました。

12―絵師良秀―芥川龍之介・地獄変より

2009-02-18 09:09:59 | 大人の童話
良秀-12
世情では、大殿がなされたことは良秀のおごりを戒めた当然の成りゆきだ、と称する者や、あれは、良秀の娘が思うようにならなかった腹いせだなどと、下卑たものいいを密かに語っておりました。
 あの時以来でしょうか・・・、豪放快楽な大殿がお体が健やかでない日々を、お過ごされるようになってしまいました.

11―絵師良秀-恍惚の奥は

2009-02-17 08:38:06 | 大人の童話
良秀-11
大殿は固く唇をかんでおりましたが、時々気味悪くお笑いになって、燃え盛る車と、良秀を見ていたのでございます。
大殿の端麗なお顔が鬼・夜叉のごとく見えたのは、きっと燃え盛る炎のせいだったのでしょう。
 自分が望んだ常軌を逸した光景だとはいへ、良秀の醜い顔は一層、ひずみ・ゆがみ地獄の悪鬼そのものでした。
しかし、車が最後の大火を上げるころは、最前なの苦しみは嘘のようになり、カッ!と観さだめた良秀の顔は、恍惚とした喜びに満ち、輝きすら発してきたのでございます。

9―絵師良秀-事件の夜

2009-02-15 08:42:00 | 大人の童話
良秀-9 
それから3日のちの、夜のことでございます。
「 良秀  ! 今宵はそのほうの望みのとおり、車に火をかけてみせてつかわそう 」
大殿はいつもの凛々しいお声とは異なり、どこか異様な響きがございました。
「 車の中に女がおる。余もここで見物をしょう。それ ! 簾をあげい !

8―良秀―地獄絵

2009-02-14 09:25:07 | 大人の童話
 良秀-8 
時を得たある日、良秀は大殿がご注文された[地獄変図」の屏風絵を抱えて参上いたしました。
未完成ながら地獄世界のおぞましさに、見たものは言葉を失ってしまいました。
 ある者は「およそ絵画というものは、我らに安らぎを与えてくれるものでなくてはならない。希望が見えずしてなにが名画だ。」
 またある者は「いやいや、経典に書かれている五道の苦界を目のあたりに示してくれたものだ。さすがに大殿がみこんだ絵師でわないか。」
 当代一の僧都様は「いかに一芸一能に秀でたとはいへ、世間の常識をわきまえなければ、すぐれた作品とはいえないであろう」と、まことに理にかなったことをおっしゃいました
   
                 

  ただし、大殿はいたくおきにいられ
 「たいしたできばえである。望みをとらす。何なりと申せ。」
良秀はすかさず娘の宿下がりを願い出ましたが、大殿の不快を呼んだだけでした。
 さればと、良秀はとんでもないことを申し出たのでございます。
 「地獄図は未だ完成いたしておりません。大殿もご承知のごとく、手前はあらゆる物事をこの目で観察をし、写し取るのを信条としております。
 この地獄変図には、天上より紅蓮の炎に包まれた御所車が飛来してくるのでございます。その車の中には、あでやかな娘が黒髪を乱し、もだえ苦しんでいるのでございます。私をもってしても最後の一点が会得できないのでございます。
 良秀、一生一代のお願いでございます。大殿のご意向をもって実現させていただけないでしょうか ! 。」
 なんとも常軌を逸したお願いに、さしもの大殿も眉をひそめたのでございますが、
「おお・・。万事そのほうの申すことかなえてつかわそう」

ryusun

つぶやき

絵本と無縁になった大人に

子供たちに向けたというより、内なるものを呼び覚ます大人への絵本