棚からぼた餅--岩淵龍王丸

信州の山郷での暮らしと、絵本と無縁になってしまった大人に向けた創作絵本や、芸術活動をお話します。

8―良秀―地獄絵

2009-02-14 09:25:07 | 大人の童話
 良秀-8 
時を得たある日、良秀は大殿がご注文された[地獄変図」の屏風絵を抱えて参上いたしました。
未完成ながら地獄世界のおぞましさに、見たものは言葉を失ってしまいました。
 ある者は「およそ絵画というものは、我らに安らぎを与えてくれるものでなくてはならない。希望が見えずしてなにが名画だ。」
 またある者は「いやいや、経典に書かれている五道の苦界を目のあたりに示してくれたものだ。さすがに大殿がみこんだ絵師でわないか。」
 当代一の僧都様は「いかに一芸一能に秀でたとはいへ、世間の常識をわきまえなければ、すぐれた作品とはいえないであろう」と、まことに理にかなったことをおっしゃいました
   
                 

  ただし、大殿はいたくおきにいられ
 「たいしたできばえである。望みをとらす。何なりと申せ。」
良秀はすかさず娘の宿下がりを願い出ましたが、大殿の不快を呼んだだけでした。
 さればと、良秀はとんでもないことを申し出たのでございます。
 「地獄図は未だ完成いたしておりません。大殿もご承知のごとく、手前はあらゆる物事をこの目で観察をし、写し取るのを信条としております。
 この地獄変図には、天上より紅蓮の炎に包まれた御所車が飛来してくるのでございます。その車の中には、あでやかな娘が黒髪を乱し、もだえ苦しんでいるのでございます。私をもってしても最後の一点が会得できないのでございます。
 良秀、一生一代のお願いでございます。大殿のご意向をもって実現させていただけないでしょうか ! 。」
 なんとも常軌を逸したお願いに、さしもの大殿も眉をひそめたのでございますが、
「おお・・。万事そのほうの申すことかなえてつかわそう」


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