徒然草

つれづれなるままに、日々の見聞など、あれこれと書き綴って・・・。

映画「カラヴァッジョ 天才画家の光と影」―凄絶な流転の生涯―

2010-06-26 10:00:00 | 映画

少し前に公開され、現在も全国縦断公開中の作品だ。
16世紀のイタリアを代表する、バロック絵画の巨匠カラヴァッジョの生涯を描く、アンジェロ・ロンゴーニ監督の、イタリア・ドイツ・フランス・スペイン合作映画だ。
天才画家の破天荒な半生を綴って、美しくも罪深いドラマである。

名撮影監督ヴィットリオ・ストラーロによる、カラヴァッジョの絵画そのものの陰影の濃い映像は、見事につきる。
天才画家のゆがんだ人生に、美しさがだぶって、物語はなかなかドラマティックで面白い。

あるときは時代の寵児に、あるときは反逆者の烙印を押された画家カラヴァッジョは、華やかなルネッサンスが終焉を告げた時代に、徹底した写実描写、劇的な感情表現で、数々の傑作を遺したといわれる。

映画なのに、さながら動く名画(絵画)を観ている趣きが溢れている。
作品も非常に芸術的な作りで、この点は納得だ。
決して安っぽい作りではなく、衣裳から風景、小物にいたるまで、描写も緻密である。
芸術(アート)好みには、これくらい徹底しないと楽しめないし、よく出来ている。



16世紀のイタリア・・・。
ミラノで絵の修行をしていたカラヴァッジョ(アレッシオ・ボーニ)が、芸術の都ローマに出るために援助を依頼した相手は、コロンナ侯爵夫人(エレナ・ソフィア・リッチ)であった。
幼い頃から恋い焦がれてきた美しき夫人は、彼のために何でもすると約束してくれた。

・・・やがて絵の評判をききつけた、デルモンテ枢機卿(ジョルディ・モリヤ)の援助まで受けて、カラヴァッジョは教会の絵に着手することになる。
完成した聖堂の絵は、多くの人々の賞賛を浴び、彼の名声は一段と高まる。
その一方で、無名時代の友人たちとの、放蕩三昧、喧嘩、娼婦たちとの付き合いに、眉をひそめる者たちもいた。
そうして権力者の庇護を失い、決闘で相手を殺してしまったカラヴァッジョは、死刑の判決を受け、ローマから逃亡することになる。

カラヴァッジョの作品は、観るものに強烈な印象を与える。
本作は、女性との恋愛も絡め、ほぼ順を追って年代記風に彼の生涯を追う。
光と影のコントラストが強く、彼の絵を再現した映像は見応えがある。
当時の人たちの生活ぶりも、カラヴァッジョの色彩にアレンジした。

映像が絵画そのもので、構図が見事に決まっている。
さすがに、イタリア・バロック芸術の巨匠カラヴァッジョの絵画そのままである。
天才画家カラヴァッジョの、数奇で変転極まりない人生は、こんなにもドラマティックだったのか。
作品は、美術映画としても十分楽しめる。
リアリズムに徹底した独創的な表現は、当時はもちろん現代でも根強い人気を保っている。

才能を信じ、情熱的に愛し、友を愛し、権力や金よりも自己の信念を貫き通した、カラヴァッジョの生涯は短かった。
そして彼は、やがて破滅への道をたどることになる。
カラヴァッジョは、その破天荒な人生を急ぎ足で駆け抜け、逃亡の果てに38歳の若さで野垂れ死にする。
残酷なエンディングだ。
命までも削って描かれた彼の絵画に宿る、光と影、美しさと醜さ、痛苦と快楽、それらはすべて彼自身ではなかったのだろうか。

アンジェロ・ロンゴーニ監督伝記映画「カラヴァッジョ 天才画家の光と影」は、ドラマのはじめの部分で、ややかったるいところもあるが、中盤からラストにかけて一気にひきつけられる展開だ。
この作品、結構残虐なカットも容赦なく含まれているので、気の弱い人は要注意だ。