希望もない。救いもない。
それでも、この地に、この国に、とどまるしかないのか。
過激で、生々しい青春映画の登場だ。
大森立嗣監督が、閉塞の人生を生きている若者たちの姿を果敢に描いた、注目作だ。
彼の描く、破壊と生、死と希望の向こうに一体何が見えるのか。
現代という時代が、だらりと弛緩しているような時代だとすれば、その表皮を引き剥がすような、反時代的な作品といえる。
反時代的・・・、それはそれでよいではないか。
強烈な作品である。
青春というのは、本来強烈なものだし、だから面白い。
ゼロ時代の若者たちの叫びは、もはや怒りを忘れてしまった日本という社会への、大きな問いを投げかける。
そうなのだ。
このままでは、若者たちには生きる場所すらなくて、生きようにも生きられないのだ。
ケンタ(松田翔太)とジュン(高良健吾)は、同じ施設で兄弟のように育った。
工事現場で、ひたすら壁を壊す“はつり”と呼ばれる仕事をしている。
低賃金で、働く環境は劣悪であった。
職場では、先輩格の裕也(新井浩文)による、理不尽で執拗ないじめがあった。
ある日、二人はナンパに出かけ、ブスな女の子カヨちゃん(安藤サクラ)に出会った。
それ以来、ジュンはカヨちゃんの部屋に転がり込んでいた・・・。
裕也の腹には、消えずに残る何本もの傷痕がある。
その傷は、ケンタの兄カズ(宮崎将)によるものだった。
ケンタが13歳の時、カズは幼女誘拐事件を起こしていた。
事件のことを馬鹿にした裕也の腹を、カッターナイフで幾度も切りつけたのだ。
その賠償金として、裕也はケンタの給料を天引きし続けている。
ある夜、ケンタとジュンは仕事場へ向かった。
カヨちゃんは、そんな二人に付いていった。
今夜、二人はある計画を実行するのだ。
それは、裕也の愛車をハンマーで破壊し逃げることだった。
二人は裕也の車の上にとび乗り、力いっぱいハンマーを振り下ろした。
その光景に、カヨちゃんは歓声を上げて喜んだ。
二人は、カズのいる網走に行くことを決めた。
仲間は、ケンタとジュンとカヨちゃんだ。
彼らには、お金も知恵もない。
車はひたすら北を目指した。
すでに、後戻りの出来ない旅が始まっていた。
いまもっとも輝いているといわれる、三人の俳優陣のぶつかり合いは、それぞれが強烈な印象で青春のドラマを繰り広げるのだ。
ケンタとジュンは、誰からの愛情も感じることなく育った二人だ。
二人は友情を持つでもなく、家族でいるのでもなく、二人の間には独特の距離感があった。
カヨちゃんは、「ブス」なところが可愛い女だ。
彼女は、誰でもいい、ひたすら誰かから「愛されたい」という願望を、本能的に抱いていた。
女とは、そんなものなのだろうか。
苛酷な労働現場から脱け出した彼らは、ロードムービーの旅を続けるのだが、それはあくまでも見せかけでしかない。
行き場を失ってしまった三人の若者が、そこへ行けば何かがあるかも知れないと思うだけだ。
彼らの言うセリフの中に、<地の果て>という言葉が出てくる。
そことは、<地の果て>を目指す逃避行か。
男二人が、虫けらのようにカヨを捨てる場面は、まがまがしく実に悲しい。
社会の底辺を漂流する者同志が、意識しないままに、お互いに傷つけあう無残さは、逆にこのドラマを重々しく締めている。
主要登場人物三人が、生き生きとし、生々しく素晴らしいのだ。
男たちの悲しさも伝わってくるし、男にまとわりつく女の強さも画面を引き締めている。
登場人物たちは犯罪に手を染めており、どうにも生き方を選択できない。
あるいは、どこにも行くあてのない人々なのだ。
そんな、出口の見えない閉塞状況の中に、どんなリアリティがあるだろうか。
衝撃的なラストシーンで、ケンタとジュンは水平線の彼方を目指して消えてゆき、カヨちゃんはこの国の地平にとどまって、虫のようにはいずりまわっている。
この地から、それぞれの<地の果て>まで脱け出していこうとする二人と、とどまることしか出来ない一人・・・。
現代に生きる彼らを描くリアリティに、若者たちのおかれた今の日本の社会の縮図を見る思いもする。
ドラマのなかで、裕也が二人を追いかけてくる過程が省略されているのは、少し不満だ。
それから、バイクで突っ込むケンタが裕也と正面からぶつかるが、ケンタが撃たれたのか、裕也が撃たれたのか分からぬまま、画面が真っ白になる。
撃ったが当たらなかったということか。
よく分かりにくい場面だ。
いかにも切れ味のシャープな、これも日本映画のヌーベルバーグか。
どこかに希望を求めようとしても、ままならぬどん詰まりの人生を生きている若者たちの、反社会的で、ずっしりと重いテーマを扱っているが、ドラマの見応えは十分である。
大森立嗣監督の映画「ケンタとジュンとカヨちゃんの国」は、かなり粗削りな部分は気になるところだが、最近の日本の青春映画としてはよく出来ており、高い評価が与えられていい。
男たちはよく描かれていて、松田翔太、高良健吾、宮崎将らの個性的な演技が光っている。
俳優奥田瑛二を父に持つ、ブス女役の安藤サクラも好演だが、作品の中での女の描かれ方には、もう一押し突っ込んだ工夫があってもよかったと思われる。