徒然草

つれづれなるままに、日々の見聞など、あれこれと書き綴って・・・。

映画「モリエール 恋こそ喜劇」―伝記的なロマンティック・フィクション―

2010-06-11 19:15:00 | 映画

イギリスにシェイクスピア、フランスには喜劇の天才モリエールがいた。
・・・笑いの中に、人生がある。
おっとりした、少しおかしなロマンスである。
ローラン・ティラール監督の、フランス映画だ。

ルイ14世の信頼厚かった、17世紀のフランスの偉大な喜劇作家・モリエールが、まだ売れない一座を引き連れて、芝居をやっていた頃の、風変わり(?)なロマンスだ。
笑いのうちに、人間の本質だけを描き出した彼の名作は、どんな経験から生まれてきたのだろうか。

貧乏劇団の情熱的な俳優であり、劇作家だった若き日のモリエールが身を投じた奇妙な冒険と、美しきマダムとの秘められた恋・・・。
この作品「モリエール 恋こそ喜劇」は、めくるめくような体験に、モリエールの作品のエッセンスを散りばめて、笑いと涙で綴るエンターテインメントだ。
「恋に落ちたシェイクスピア」という作品があるが、これはそれに並ぶモリエール(フランス)版だ。

1644年のパリ・・・。
22歳のジャン=バチスト・ポクランのちのモリエール(ロマン・デュリス)は、売れない役者だった。
仲間たちと旗揚げした劇団は、破産の危機におちいり、債権者に訴えられ、投獄されてしまう。
それを救ったのが、金持ちの商人ジュルダン(ファブリス・ルキーニ)だった。

ジュルダンは、貴婦人のセリメーヌ(リュディヴィーヌ・サニエ)の歓心を買おうとして、モリエールに演劇の指南役になってほしいと頼みこむ。
カモフラージュのため、聖職者のふりをして、彼の屋敷に住み込んだモリエールは、次第に、聡明で美しいジュルダンの妻エルミール(ラウラ・モランテ)に、心ひかれるようになる――。
(伝記でも空白となっている謎の数ヶ月があり、この作品は、その空白の時期に起きたことを創作したものだ。)

モリエールは、いやいやながら金持ちの道楽に付き合う日々の中で、ジュルダンの財力にすがる貧乏貴族、その息子とムリヤリ結婚させられそうになるジュルダンの娘、そして彼女の恋人とも出会う・・・。
そして、何より、彼の心に忍び込んだのが、侯爵夫人エルミールであった。
喜劇の王様モリエールは、世にいうところの、身を焦がすような恋に捕われてしまったのだが――。

この映画の脚本はなかなか上質だし、キャスティングも豪華だ。
時代を反映して、美術も絢爛だし、衣裳やジュエリー、フィルハーモニー管弦楽団による演奏も見事だ。
モリエール作品を少しでも知っている人なら、思わずニヤリとするような仕掛け満載の小気味よいストーリーだ。
人生とは何かを問いかけるこの作品「モリエール 恋こそ喜劇」は、笑いのうちに涙を誘う、フラン映画らしい小品だ。

ドラマは、キャラクターの扱いやひねりの利かせかたが、フランス流でとても上手い。
俳優たちの演技も大いに楽しい。
若き日の、少々調子のよすぎるモリエールを演じる、ロマン・デュリスの馬の身振りの物まねなど、なかなかのコメディアンぶりで吹き出してしまう。
おとぼけ演技の味わいで、金持ち役のファブリス・ルキーニも圧巻だし、ずるがしこい貧乏貴族のエドゥアール・ベールの小面憎さといったらない。
ラウラ・モランテの、身を引くと見せかけつつも、これまたモリエールに恋焦がれる侯爵夫人ぶりも、明るくしゃきっとしていて、全然嫌味がない。

ローラン・ティラール監督モリエール 恋こそ喜劇は、適度のスピード感もあるし、ロマンティックでほろりとさせ、モリエールの現代化に成功している。
古典劇の持つ、おっとりとした芝居気分が横溢していて、いうなれば<気分>を楽しむフランス映画である。