徒然草

つれづれなるままに、日々の見聞など、あれこれと書き綴って・・・。

映画「ポチの告白」―警察犯罪の恐怖―

2009-03-22 22:00:00 | 映画

この国は、イヌだらけだ。
日本映画の大作である。文句なしの面白さだ。
良心に従う警官の、悪徳への漂流・・・、無常観に満ちた演技が冴える。
高橋玄監督の作品だ。製作、脚本、編集までこの人だ。
警察犯罪というタブーに、果敢に挑戦した、重厚な社会派エンターテインメントドラマだ。

日本で多発する、警察犯罪の数々の実例をもとに、良識ある巡査が警察の犯罪機構に巻き込まれながら、悪徳に染まり、やがて自滅するまでを描いた、3時間15分の大作だ。
警察ジャーナリスト、寺澤有の資料と原案協力を得て、実際に起きた警察犯罪事件に正面から切り込むストーリーだ。
それは、警察犯罪を報道できない、日本の記者クラブのあり方をも照射しながら、同時に、日本の警察、検察、裁判所、報道の癒着による、国家ぐるみの犯罪が現実に存在するという、警察支配社会の恐怖を描いている・・・。

交番勤務の巡査・竹田八生(菅田俊)は、タケハチと呼ばれ、市民と上司に信頼されている、実直な警察官だった。
タケハチは、妻・千代子(井上晴美)との間に、待望の娘も生まれ、幸せに満たされた生活を送っていた。
しかし、刑事課長・三枝(出光元)に認められ、刑事に昇任したタケハチは、実直のゆえに三枝の不透明な命令に盲従し、後輩刑事の山崎(野村宏伸)とともに、やがて、気がつかないうちに、警察犯罪の主犯となっていく。

5年が過ぎた日、タケハチは組織犯罪対策課長に昇任し、三枝に代わって、暴力団と共犯で巨額の裏ガネ作りに暗躍していた。
その矢先、タケハチの所轄で、警視庁の現職刑事が殺害されるという事件が起きる。
殺された刑事は、三枝が指揮したかつての麻薬事件の黒幕であった。
同じ頃、5年前にタケハチらに痛い目に遭わされた草間(川本淳市)が、フリージャーナリストとして舞い戻る。
草間は、新聞記者の三枝とタケハチたちの警察犯罪を掴み、インターネットでゲリラ的な報道を開始するのだった。

・・・ここに、組織的な警察犯罪が、大きく社会問題化する。
山崎は検察、裁判所と共謀し、タケハチをすべての首謀者にデッチ上げ、彼の人生を抹殺していくのだ。
裁判所に被告として立ったタケハチは、果たしてその全貌を告発できるのだろうか。
冷たい鉄格子の向こうから、タケハチの叫びが、いつまでも空しく響いてくる・・・。
この物語のすべては、彼のうめくような叫びに凝縮されている。
衝撃的なラストである。

国家警察といえども、暴力団と変わりない姿に驚かされる。
恫喝あり、暴行あり、捏造あり、何でもありのやりたい放題だ。
恐怖の実体を、ここまで見せつけるとは・・・!
映画完成からすでに三年、封印されていた衝撃の真実が明らかにされるのを観ていると、カネのためには事件まで捏造する、‘日本警察機構’の巨大な組織の信じがたい事実を見せつけられて慄然とする。

よくここまで描ききったものだ。
3時間15分に耐えられるかと思ったが、導入部分はゆるやかだが、後半たたみこむような演出の冴えは、時間の長さなど忘れさせてしまった。
警察官らの不正や汚職を曝したテーマだけに、一般公開まで長い時間がかかったようだ。
この映画の配給元は、あの「靖国 YASUKUNI」を配給したアルゴ・ピクチャーズというところで、内容も現実の資料をもとに構成されただけに、リアリティが強く迫ってくる。
上映館も、さぞかし腰が引けて、この作品を取り上げることに大きな躊躇があったに違いない。
主演の、菅田俊の強烈ないぶし銀の演技がひときわ光る。
また、徹底した反警察ジャーナリズムで知られる、作家・宮崎学が、警察犯罪を隠蔽する裁判長役でも出演している。
この作品、映画賞を受賞しても、おかしくはない。
高橋玄監督作品「ポチの告白」は、現職の警察官、裁判官はもちろん、日本人に観てほしい社会派映画の傑作だ。