徒然草

つれづれなるままに、日々の見聞など、あれこれと書き綴って・・・。

映画「ノン子36歳(家事手伝い)」―ダメ女のせつなさ―

2009-03-14 22:00:00 | 映画

熊切和嘉監督による、初の女性映画だ。
夫なし、男なし、三十路半ばの女性のせつない日々・・・。
少し痛くて、少し甘くて、どうにもならない女心のせつなさが伝わってくる。
三十代も、まんざら捨てたもんじゃないという女の、青春恋愛映画だ。

東京で、芸能人をやってみたけれど、鳴かず飛ばずであきらめた。
マネージャーと結婚したが、即離婚のバツイチ出戻り・・・。
気がつけば、三十路半ば、実家の神社で家事手伝いのノブ子(通称ノン子・坂井真紀)は、やる気なし・・・。
頭ごなしに怒鳴りつける父親(斉木しげる) 、腫れ物に触るように彼女を扱う母親(宇津宮雅代)らに、結婚もして娘もいる妹(佐藤仁美)は、「このヒト終わってる」と痛烈だ。

逃げる場所も、飛び立つ場所もない。
狭くて、古ぼけた田舎町である。
ママチャリに乗って、バツイチ女友達が経営するスナックで酒を呑むのが、せめてものお出かけだ。
お洒落も、恋も、いつしたかもうわからない。

そんなやる気なしのノン子の前に、神社の祭りで、ひよこを売って一山あてようという男が現われた。
若者マサル(星野源)
ノン子は、露店商を仕切る安川の家に、マサルを連れていくはめになる。
世間知らずで情けないけど、ひたすら一途で真直ぐな年下クンに、すっかり笑顔を忘れたオンナが、頑なに閉ざした心を少しずつ開いていく。
そこへ、別れた前夫、宇田川(鶴見辰吾)が現われた。
ノン子の心がゆれ始める・・・。

ダメダメ女の生態をリアルに描いて、ほろ苦いオリジナル・ストーリーだ。
ダメ女といえども、憎みきれない。
何だか、妙にせつないのだ。
のどかで、みずみずしく、どこか昭和の雰囲気の残る、日本の原風景が印象的で、不思議な空間を見せている。
撮影はリリカルで、なかなかよろしい。

ときに冷えきった、人の心と身体をやさしく潤して、自分らしさを実感させてくれる恋愛映画というのも面白い。
熊切和嘉監督の映画ノン子36歳(家事手伝い)は、「人生なんて捨てたもんじゃない」という前向きな余韻の残る「大吉映画」で、ちょっぴり明日の元気も見えてくる。

主人公の坂井真紀は、大胆で過激なシーンも体当たりで熱演し、陰翳に富んだ演技は自然で無駄がなく映る。
自分の心身の痛みを持つ過去や、それに伴う哀しみを滲ませていてよい。
飛びぬけた傑作とまでは言いがたいが、観てああ損したとはまず思わない、楽しめる一作である。
いささかの‘元気’をもらえそうな感じも手伝って、味わいは格別だ。