ハリウッドで異才を放つ、ウェス・アンダーソン監督のアメリカ映画だ。
セレブな家庭に育ちながらも、いまいちぱっとしない三人の兄弟が、“ダージリン急行”に乗って、魅惑のインドを旅するロード・ムービーだ。
コメディドラマと言ったらいいか。
父の死をきっかけに、長い間疎遠になっていたホイットマン三兄弟・・・。
長男の呼びかけで、彼らは一年ぶりに再会し、失われた日々を取り戻すため、インド北西部を横断する列車の旅に出る。
彼らを待ち受けるのは、官能と混沌の国(?)ならではの、可笑しな出来事ばかりだ。
コミック漫画をみているようだ。
三人は、車窓を流れるスピリチュアルな景色を眺めながら、それぞれが抱えた心の傷をゆっくりと癒していく・・・。
三兄弟を演じるのは、オーウェン・ウィルソン、エイドリアン・ブロディ、ジェイソン・シュワルツマンの面々だ。
一緒に食事をすれば、やれツバが飛んだ、やれ義歯を外すなど、口論し、つかみ合い、いがみ合う三兄弟たち・・・。
それでも、目の前に広がるインドの絶景が、彼らの心を潤していく。
列車のアテンダントや、通り過ぎる村の聖職者らがドラマに絡み、奇妙で可笑しな旅を演出する。
観客は、まるでインドを旅しているような錯覚にとらわれる。
列車は、何とインドの鉄道会社から借り切って、撮影は行われたのだが、青いツートンカラーといい、三人の服装やいでたちといい、アンダーソンという監督は、一風変わったセンスと、エネルギッシュな質感を持った人のようだ。
この映画の冒頭には、13分間の短編「ホテル・シュバリエ」がついていて、ジェイソン演じる三男が、インドへ旅立つ前に、パリのホテルで別れた恋人と再会する話がある。
このプロローグは、本編を観ることによって、何となく心に沁みてくるシーンだ。
とにかく、本物の列車を借り切って、実際にインド北西部の砂漠地帯を走らせながら撮影した、今回のロケーションも前代未聞ではないか。
スタッフ、キャストが一台の列車に乗り込み、まるで旅をするように行われた撮影は、彼ら同士の信頼関係を深め、ドキュメンタリーのようなリアルさをかもし出している。
そして、ローリング・ストーンズなど、60~70年代のロック・ミュージックが、エモーショナルに響き渡る・・・。
「心の旅」と言ったらいいのか。
線路を走るはずの列車が、何故か迷子になる(!)シーンがあるが、可笑しい。
駱駝が歩いている砂漠めいた場所で、列車が立ち往生し、乗務員たちは自分たちの居場所すら分からず、躍起になっているのだ。
始発駅も終着駅もない。不明のままだ。
起こっていることはあり得ないし、そのあり得ないことが起こっている。
映画って、何でもあり~か。(?)
「列車」「インド」「兄弟」の三つの対象から、ウェス・アンダースン監督はこの物語を誕生させた。
三兄弟の心の旅は、どうやら唯物論的な偶然に翻弄されながら、展開されているみたいだ。
このアメリカ映画 「 ダージリン急行 」 は、生と死が交錯するインドを舞台に、三兄弟の愛と絆を綴っていく。
ちょっと、いやそれどころか大いに風変わりな、ユーモラスで、ほんわかとした笑いの映画だ。
真面目に観ていると、馬鹿馬鹿しさが、あきれるほどの奇妙な可笑しさとなって・・・。