YS Journal アメリカからの雑感

政治、経済、手当たり次第、そしてゴルフ

The Big Short: Michael Lewis

2011-08-15 11:59:43 | 書評
"The Big Short" は、「世紀の空売り」 という題名で翻訳され、日本でも出版されている。

アメリカに来たばかりの頃、ベストセラーになっていたマイケル・ルイスの "Liar’s Poker" (邦題も、ライアーズ・ポーカー)を買ったのだが、 全く歯が立たなかった。(結局読んでいない)一方で、今年9月にブラピ主演で公開される映画の原作 "Moneyball" は、 メジャーリークが題材だったので楽しく読んだ。

"The Big Short" は、2008年のリーマンショックによる金融界の『大崩壊』ではなく、その前年に崩壊したサブプライムローンの『崩壊』を予感しショートに掛けた人々の話である。極々限られたこの人達は、普通にサブプライムローンのデータを分析し、その派生のデリバディブのいかがわしさを理解した結果として、崩壊を予言した形になった。極論すれば金融業界全体を敵にしたため、成功までに大変な辛い思いをし、大成功後も、自分たちが生きている金融業界自体が崩壊するかもしれない虚脱感に苛まれたりしている。

2005年から2008年に掛けての背景については、全く部外者である私も、住宅ローンの借り換えをしようとして住宅価格の下落で出来なかったり、2007年に、当時の勤め先の 401K の一番安全な選択肢(!)である資産の裏付けのある債券ミューチュアルファンドが、いきなり10%も下落したりして、自分の経験としての鮮やかな記憶がある。

金融業界のまるっきり外側で、ボンヤリと何か起きているのではないかと言う思いがあっただけに、真っ直中で主流に対抗する形で、ハッキリと意識していた人がいたことに救われる気持がある。サブプライム崩壊で一番儲けた John Paulson も出ては来るが、アメリカ金融業界で無名に近い人々が、どのようにしてサブプライムをショートする事になったかという経緯を通じて、理解し難い金融商品自体も自然に分かってくる。(ショートで儲けた人々にしても、最初はサブプライムやデリバティブについては良く分かっていなかったのだ)

何事も複雑怪奇になった為に、金融業界では、エリートされる人々が、普通の人々とかけ離れた所で、超真面目に変な事をしているのが目立つ様な気がする。マイケル・ルイスは、20年前にアメリカの投資銀行が、パートナーシップ制から株式会社になった時に、金融業界はコントロールを失った事をハッキリ意識していたのである。金融業界は、その時の教訓を活かせてないのだ。行政は理解も出来ず、間違った規制を行ったり、これかもやろうとしている体たらくである。

そしてまた波乱の種がまかれていく。

さて、次の "The Big Short" は何であろうか?私は、明らかに金(Gold)だと思う。イタズラ心で、2年後の Future Put Option を調べてみたが、素人の悲しさで、数字の意味がイマイチ理解出来ず。John Paulson は、金についてはロング(値上がり)に掛けているが、往復ビンタは出来るのだろうか?

価値と価格、自分の価値観を信じる事の難しさと尊さという人間ドラマとして、抜群の読み物だと思う。お勧めします。ついでに、サブプライムローンの事も学べます。