YS Journal アメリカからの雑感

政治、経済、手当たり次第、そしてゴルフ

Bad Blood

2018-08-13 05:35:06 | 書評
"Bad Blood" は、シリコンバレーのベンチャー企業 Theranos (セラノス)の盛衰を綴ったノンフィクションである。

Theranos (セラノス)は、指先から採取する少量の血液で200種類以上の検査が出来る画期的な機械を提供するという企業理念を唱え、創立者がスタンフォード中退の19歳のカリスマ性に富んだ美しい女性、Elizabeth Holes という事もあり、注目を浴びていた。

結局は、試作機さえもきちんと作動しないのに、開発中であることを言い訳にした企業機密のベールを覆って大手ドラッグチェーン等との契約を取り付け評判、市場価値を高めていたが、内部告発とウォールストリートジャーナルの暴露記事(この本の著者がレポーター)で化けの皮がはがれてしまった。

彼女のカリスマ性、家族の交友関係を通したベンチャーキャピタルへのアクセス、スタンフォード大学有名教授の推薦等々が Theranos (セラノス)にオーラを与え、信憑性と潤沢な資金を獲得する。しかし、肝心の機械の開発が追いつかないので、投資家、契約先、マスコミに misleading な情報を提供するようになる(嘘をつき始める)。段々と内部に軋みが生じ始め、歪んだ内部統制、高い離職率で、崩壊へと突き進んでいった。

エピソードの一つ一つが絡まり重なり合い、彼女のサイコパス的な言動と相まって、ぐんぐんと読ませる。

Theranos (セラノス)が怪しいという報道が始まったころに Elizabeth Holes のテレビインタビューを観たのだが、テレビを通してさえカリスマ性を感じられる程であった。しかし、読み進めながら彼女のカリスマ性に溢れる視覚的イメージは湧くのだが、生身の人間を感じられない奇妙な感覚が付きまとった。

ジェニファー・ローレンス主演で映画化が決定しているので、日本語訳も出版されるだろうが、是非、原本で。

Killing Jesus

2018-06-27 15:34:57 | 書評
"Killing Jesus" は Fox News Channel の人気キャスターだった Bill O'Reilly と Martin Dugard の共著で、史実に基づいた内容が売りの "Killing" series の一冊である。

「史実に基づいた」が、イエスについて歴史的な視点から勉強したい私には殺し文句。

イエスに関しては、基本的には新約聖書の内容と被るのだが、イエスが起こしたとされる奇跡等が間接的にしか記述されていないので(そのような噂があった史実が存在するのだろう)宗教的な臭味が無い。

イエスの事を勉強し始めると、必然的にイエス誕生前のローマとユダヤ人の歴史を学ばざるを得ない。シーザー、クレオパトラ、ブルータスたちが、イエスの登場に陰影を与えていることに、驚きと自分の無知さ加減を思い知らされる。

なぜ磔になったのか、なぜ安息日の一日前の処刑なのか、それらに必然性を知ることで、イエスを身近に感じることが出来、裏切者ユダにさえ親近感を覚える。

さて、キリスト教への帰依は三位一体を信じるかどうかに掛かっているのだが、いまだに理解出来ないのでいる。信仰に理屈っぽさはいらない。どの宗教にもある受け入れがたい戒律と共に、敷居を高くしている。

キリスト教への傾倒に影響はなかったのだが、イエスの生き方には大きな感銘を受けた。

キリスト教の教えが、宗教としてではなく社会規範として、私の価値観に大きな影響を与えていることは否定出来ないが、特定宗教ではなく、神の存在を信じるだけの宗教観で生きていける気がする。シンプルなユダヤ教(具体的に何を言っているのか自分でも不明だが)が性に合っている気がする。

翻訳本は出版されていないようだが、お薦めの一冊。

オリジン - ダン・ブラウン

2018-05-27 09:18:54 | 書評
シンギュラリティをテーマにした小説は難しいだろう。

オリジン」は、シンギュラリティによる宗教の終わりと新たな希望、人類とテクノロジーの融合による未来を描こうとしている。

宗教については、科学的な生命の誕生と進化を示すことで創世を否定している。展開としては悪くない。一方、未来については、テクノロジーを人類進化の延長に位置付けて、融合、新たな進化としている。

結果的には、神の存在は否定できておらず、無神論者の狂言回しであるプログラマー、未来学者(そして大金持ち)に、未来に関しては「神のご加護を」と言わしめている。

お馴染みの主人公、宗教象徴学者ラングドンによるバルセロナ舞台の逃走劇はテンポが良い。(バルセロナを知っていれば、格別だろう)帯宣伝通り一気読みしたが、それはテーマではなく、逃走活劇にはまったからだ。

原書を読む気にまではならない。

著者ダン・ブラウンは、宗教的(キリスト教的)タブーに挑戦している作品ばかりだが、キリスト教に対する深い帰依を感じる。取って付けたようなスペイン国王と司教の同性愛の肯定には欺瞞すら感じる。

宗教象徴学者ラングドン一連の作品は映画を観ただけ。ダビンチコードは非常に楽しめた。続編2作品は二番、三番煎じ。初めて本を読んだら四番煎じといった感じ。

大前研一 世界の潮流2018〜19 ―日本と世界の経済・政治・産業

2018-04-29 07:43:01 | 書評
本を読まなくなった。

日本に出張しても購入意欲が湧かないのだが、この本は帰りの成田空港で目に留まった。数年前に彼の同じタイトルの本を読み、相変わらず切れ味の良い解説でスッキリした記憶があった。

しかし、今回はちょっとガッカリ。切れ味は良いのだが、急所を突いていない感じがする。経済、産業の分野はマシなのだが、政治については怪しい。特に、アメリカ政治については一般的な常識の中での憶測しかないので寂しい限りである。

散漫ではあるが、世界の潮流を俯瞰するには手頃かも。

気になった点は以下。

1.トランプ大統領の弾劾訴追の可能性
ロシア疑惑の結末として投げ出す可能性が高いと言っているが、間違っていると思う。トランプ陣営が関係していたという意味でのロシア疑惑は無かったとの結論が、連邦下院調査会で出されつつある。

逆に、オバマ政権が候補者トランプに対する盗聴行為、又、ヒラリーのメールサーバー問題の不起訴への疑惑が燻り続けている。

2.EV, PHV(プラグインハイブリッド)
EVシフトが現在の予想(2030年までに新車販売の全てEV等々)より早く実現するとあるが、根拠が乏しい。一方で、PHVの日本自動車メーカーの戦略ミスについては鋭い。(PHVがエコカーとしては現実的でありシェアも増えつつある。日本自動車メーカーが、究極的な実利をハッキリ意識してやっているなら、素晴らしい)

自動運転がEV化を加速するとあるが、EVでは自動運転に必要な電力が現在のバッテリーでは厳しい事や、EV化による電力需要の拡大については触れていない。


本書の焦点は、このままでは日本が衰退国家になりますよ。それで良しとするのですか、という問題提起である。いろんな提言はあるものの、それも致し方ないという達観が大前研一の結論であろう。

世界の国々の中で衰退したとしても、美しい国のままであって欲しいと思う。

Why We Do What We Do

2018-04-01 16:07:41 | 書評
極東ブログの記事は、過去に何度となく紹介している。国際ニュース分析の素晴らしさに惚れて読み始めたのだが、透明感のある人生観が心地良かった。還暦を迎えられた事で、トピックに関係なく生き方に関する意見が多くなってきている。

[書評] 人を伸ばす力(エドワード・L・デシ、リチャード・フラスト)は、その最たるエントリーであろう。ブログ主 finalvent にとってとても重要な書籍とあり、原書の良さを書かれていたので "Why We Do What We Do" を読んでみた。

人生で何回目かの「自分の人生とは?」という悩みが発現しており、藁をも掴む思いで読み始めたのだが、ピンとこない。

先ず、構成がありがちなアメリカモチベーション本と似通っており、内容を吟味する前に萎えてしまった。肝心の内容も、サブタイトルである "Understanding Self-Motivation" については、目を開かされたが、(当り前だが)答えは無い。

気が抜けた分、気楽になった。読んでよかったとも思う。

finalvent曰、『人生の根源的な問題に気づいていない状態では、つまらない一冊でしかないだろう』と。私は、悩みは多いが、人生の根源的な問題には気付かず死んでいくのであろう。

火定(かじょう)-澤田瞳子

2018-01-07 11:09:27 | 書評
奈良時代の天然痘を巡る話。(アマゾンのリンク

時代背景に馴染みは無いが、ストーリーに沿って分かり易く説明してあるので苦にならない。惜しむらくは、三人いる主要登場人物が誰一人として主人公の域に達しておらず、情念の深さが足りない感じ。

メインテーマである天然痘の大流行は、人類が唯一撲滅させた感染症だからこそ読んでいて恐怖心が煽られる。

恥ずかしながら、平城、平安時代の歴史小説は殆ど読んでいないが、題材によっては面白いかも。

超一極集中社会アメリカの暴走: 小林 由美

2017-07-19 14:58:12 | 書評
玉石混淆。

経済に関しては専門家だけに鋭い考察が多いが、政治、特にトランプ政権に関してはアメリカタブロイド紙レベル。

アメリカ超上流階級の分析についてはそうなんですかとしか言えないが、中流階級は層が厚く多様なので凡庸なイメージが示されているだけだ。全てが超一極集中と言うのは実感があり、暴走しているのも事実であるが、層の厚い中流は取り残されているだけでは無いと思う。(アメリカ本にありがちなのだが、下流階級に属するエピソードを中流階級にハメ込み、煽っている所もある)

数学(アルゴリズム)、プログラミングの習得の重要性は、大納得。一方で、人間の様なアンドロイドが登場するとは思えないので(少なくとも私が生きている間は)、複雑な作業、作業の複雑な組み合わせを伴う肉体労働に人間の活躍場所があるような気がする。どこまで進化してもコンピューターは道具でしかないと思うのだが、作業を伴わない経験則(知識)は AI に敵わない。いつか wisdom も凌駕される日が来るのだろうか?

最後には「流動性を恐れるな」と、中流階級への有難いアドバイスで締めくくられている。

立ち読み15分程度で大まかに把握出来る。一方で、断面的だが、情報革命、ビッグデータのビジネス最前線の情報が入っているので、参考資料として購入しても損は無い。

もっとボリュームがあり、構成がしっかりしていれば名著かも。

2016年4月 日本出張で購入した本リスト

2016-04-22 06:06:47 | 書評
明日帰米するのだが、今回の二週間の日本出張は熊本地震ばっかりだった気がする。仕事が中心であったが、墓じまいも無事に終わりホッとしている。(墓じまいは別エントリーの予定)

いつになく真面目に本を購入したので備忘録的にエントリー。八重洲ブックセンターと紀伊国屋に行ったのだが、結局購入したものは、インターネットの書評や新聞広告などで知っていたものがほとんど。歴史物が多かったので、手が伸びて買った本もある。

1. 日本国勢図絵 2015/16
2. 世界国勢図絵 2015/16 (持っている最新版が5年前のものなので)
3. 日本史 古代・中世・近世(教養編)近代・現代(実用編) 安達達朗 東洋経済新報社 (佐藤優の座右の書だそうだ。本人の著作でないのでOKか?)
4. 世界史 上・下 ウィリアム・H・マクニール 中公文庫
5. 世界史年表・地図 吉川弘文館 (世界史を買った勢いで)
6. 昭和史 上・下 中村隆英 東洋経済新報社 (半藤一利と迷ったが、著者が経済学者なので選択)
7. 明治維新という過ち 原田伊織 毎日ワンズ
8. 官賊と幕臣たち 原田伊織 毎日ワンズ (幕末漂流物で幕臣の優秀さを感じていたのでフラッと二冊)
9. 日本軍はなぜ満州大油田を発見できなかったのか 岩瀬昇 文芸春秋
10. 石油の「埋蔵量」は誰がきめるのか? 岩瀬昇 文芸春秋 (石油物なので取りあえず二冊。但し、読み始めたら英語で読んだ事のある情報ばかりなので少しがっかり。が、「満州」には歴史的な意味で期待)
11. 江戸の糞尿学 永井義男 作品社 (江戸だし糞尿だし、ツボにズッポリ)

鋭いニュース解説の「極東ブログ」の finalvent 「考える生き方」は立ち読みで読了。彼のブログでこの本に言及することが都度あるが、ニュース解説のレベルの高さは、私では到底達成出来ない頭の良さにあるというのが正直な感想。この年になると、自分を委ねるような考え方や生き方は不可能という結論に達した。

この立ち読みが最初だったので、選択が情報収集に傾いた気がする。良くも悪くも、自分の考え方は自分で生み出したり、変化さすしかないのだ。随分と当たり前の境地。もう少し若ければ違った受け取り方が出来たような気がする。

教育、訓練は必要であるが、もって生まれたものや幼少の人格形成期が決定的にその人を定義する様な気がする。「考える事」は、後天的に伸ばせるだけだと思う。

英語の本は積読になっているけど、日本語は順調に読みたい。

資本主義の終焉と歴史の危機:水野和夫

2014-08-30 22:06:56 | 書評
ゼロ金利についてはずっと考えている。

アメリカでは、連銀の量的緩和の手仕舞と利上げがずっと注目されている。一月程前、CNBC で50歳位のゲスト金融アナリストが、働き出してから金利が上昇した経験がないので、金利が上がる事が想像出来ないと自嘲気味なコメントが強く印象的に残った。彼のキャリアは。1981年以来下がり続けている期間にすっぽり嵌まっているのだ。

日本で本屋にふらっと立ち寄った時に手にしたのがこの本。

やや荒っぽいものの、金利の歴史的視点からの現状の把握、未来の予測は、刺激的である。

まず、金利は資本利潤率であると定義する。時々の覇権国家が成熟すると直接投資機会が減り資本利潤率(つまり金利)が下がる。代わりに金融サービスが発達し新興国への投資が増える。

よって、新興国は常に過剰設備状態になり、安い人件費と併せてデフレ圧力となる。

この循環は、多くの発展途上国が存在する限り続くが、筆者は、1994年に終わっていると考えている。アメリカのベトナム戦争敗戦と石油危機をその象徴として挙げている。(この辺が荒っぽい所)

石油危機が唐突に出てくるが、投資を受け入れた新興国が発展する為には安いエネルギーが必要であるが、石油危機以来その前提が崩れた言うのだ。

資本主義は搾取モデルではあったが、1974年までは搾取される新興国も国民全体の生活向上と先進国への変貌を遂げる事が出来たのだが、その後は国民全体への波及効果が無くなり、デフレ圧力が常に存在する事で、先進国の中産階級を破壊する様相を呈している。

俎上スパンが長いので、特に将来予想については何とも言えないが、中国やインドが日本の様に総中流になるとは想像出来ないし、アメリカ、日本での中産階級の衰退は現実であるので説得力はある。

よって、タイトルの通り、資本主義は終焉に向かっているので新しい社会制度が必要が結論である。直接は言ってないけど、社会主義、共産主義への移行を暗示する陳腐な最後となっている。

刺激的で示唆に富む良書であるが、私の金利ゼロへの直接的な回答はない。単純に、金利政策へ注目し過ぎて、歴史的な視点を受け入れられないだけなのだろうか?

長いスパンで考えるなら、量的緩和とゼロ金利を即刻廃止して、規律のある財政と一時的な縮小均衡を目指した方が、社会主義とかに移行するよりマシな気がする。

筆者も指摘するバブルと崩壊のサイクルが続く事には激しく同意する。その根源には、マネーサプライと金利を政治家がオモチャにしている事実を正しく理解する必要がある。

現代のゼロ金利が、歴史の必然なのか、政策失敗の帰結なのかを見極めていく必要がある。

是非、一読を。

THE NEW DIGITAL AGE: Eric Schmidt & Jared Cohen

2014-05-02 22:38:35 | 書評
つまらない本であった。

斜め読みした後で結論を読み、興味のある所は精読するつもりだったのだが、結論がないので戻り様が無い。面白そうな箇所を拾い読みしようとパラパラやってみたが、小ネタが散見されるだけでインパクトが無い。

自分なりの解釈としては、インターネットの発達で世界中の皆が繋がれば、時代が逆戻りして直接経験の大切さが見直されるのではないかと言う事だ。技術が人間に近づく程、人間として人間らしさが重要になるのだ。

労力、知識、知能、ここまでは進化してきたが、その後にある wisdom に到達するのだろうか。極論すれば『アンドロイドは電気羊の夢を見るか」という問いになってしまう。

それよりもマシーンをインターネットで繋ぎ、全てをモニター、コントロール出来る事の方が実利がありそうだ。

デジタル世代を勉強しようと思ったのだが、便利を超えた概念の理解がどうしても出来ない。


日本では「第五の権力」のタイトルで翻訳本が出ている。

Duty: Memoirs of a Secretary at War

2014-01-14 22:22:55 | 書評
"Duty: Memoirs of a Secretary at War" は、ブッシュ政権終盤の2年及びオバマ政権発足から2年半、国防長官を務めた Robert M. Gates の回顧録である。

今日が発売初日であるが、1,2週間前から内容が細切れに報道され話題になっていた。

オバマ大統領の軍に対する不信感、アフガン戦争に対する責任感の無さを究極のインサイダーとして赤裸々に回顧していることに尽きる。

矛盾するようだが、オバマの決断、特にアフガン増兵については尊敬の念を示しているが、戦略遂行への熱意と負傷、戦死した軍人に対する真摯な気持ちの欠如には厳しい。

オバマ政権の外交政策、特にイラク、アフガン戦争に関しては、誰もが薄々と気づいていた事がハッキリしただけというのが、正直な感想である。

アフガン増兵については追っかけていただけに、この本を読みながら振り返ってみようと思う。(まだ購入していない)

今の所、ホワイトハウスから目立った反応はない。スキャンダラスでは無いが、既にレイムダックになりかけているオバマ政権にボディーブローの様に効いてくる気がする。

イラクからの撤兵の悪影響が出ているので、アフガン戦争の動向には注目が集まるだろう。今後戦死者が出るたびに、オバマのリーダーシップへの不信感が高まるであろう。オバマが大統領になって5年、やっとオバマの戦争でもあると言うことに人々は気づくのだ。


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オバマ大統領 アフガン戦略 発表 (12-2-09)
オバマ大統領 アフガン増兵来週発表 フォトオプ (11-27-09)

積読の効用

2013-12-01 17:23:29 | 書評
今年の目標に1つは、本を毎月2冊づつ読む事であったが、ここまでに購入した冊数が両手を超えない体たらくである。

本を読み始めても気力が続かず、内容の良し悪しに関係無く数ピージでギブアップする事が多かった。海外出張が多かったので、始終疲労が抜けきらず体力の衰え、つまり老いを強く意識する事が多かった。

だが最近になって、仕事でチャレンジな展開が出てきたのと、今年になって迷い続けてきたゴルフスイングが良くなってきたので、厚さ2インチの英語の本を読み始めている。爺臭い言い訳を考える前に、鍛え直そうと思っている。

さて読書だが、未だに電子書籍とどうやって折り合いをつけるか迷っている。キンドルを2年前に買ったのだが、ほとんど使っていなかった。キンドルファイアーに色気が出たり、ホワイトに興味が湧いりするのだが、どうしても体が拒絶しまう。

自分にとっては物理的な本の存在が絶対に必要だ。

昨年家の改修をした時に蔵書、といってもたいした数ではないが、を全て地下に持っていった。現在書斎エリアにある本棚は3分の2がガランドウである。何だか自分の知性に風穴が空いている様な感覚がある。埋まっている所も辞書とか、昔の教科書とか、未読の本ばかりで、何だか無機質で語りかけて来ない。

引越す度に本棚に本を並べ直す時はいつも幸せな気分であった。アメリカに来る時に全ての本を整理したのだが、今でも公開している。読書好きという自負はあるのだが、これまでに買った本、これから購入する本の数なんて高が知れている。

クリスマス休みには地下室の整理を兼ねて、処分も含めて蔵書の整理をするつもりだ。

読んだ事のある本も、未読の本も常に身の回りにあれば、自分の中に沁み入ってくる気がする。

「本を買い積んでおくだけで内容の八割は読んだ事になる」電子書籍が無い時代の言葉ではあるが、芯を突いている。特にノンフィクションや実用書等では、ある事柄が気になるからその本を買ったのであり、積読になっている本がその事柄について刺激を与えてくれる。他の媒体で取り上げられてもアンテナに引っかかる様になり、どんどん取り込む情報が増えてくる。

私のとっての読書とは、体感を切り離せない行為なのである。

先週、どうしても必要な実用本がありキンドルで購入した。注文した次の瞬間には読んでいたのだが、ページを行ったり来りが一瞬で出来ないのでイライラしてしまった。安くもあり便利なのだが、どうしても馴染まない。

半端な共存にするつもりは無いのだが、今後タブレットを持ったりすると、致し方ないのかもしれない。

積み上がっている未読の本のご利益を信じて、飽くまでも物理的な書籍派を貫く一存です。


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代わり映えしない一年になりそうな予感 (1-30-13)

冬の鷹:吉村 昭

2012-12-02 02:05:54 | 書評
四十代後半からオランダ語の研究を始め、医学書『ターヘル・アナトミア』の翻訳書『解体新書』の中心人物、前野良沢を描いた本である。

良沢は学究肌だっただけに、『解体新書』の訳者として世間に名が売れ経済的にも恵まれた杉田玄白、大山師であった平賀源内との対比が鮮やかで、真摯であるが息苦しい人生が描かれている。

伯父である養父の「人の顧みぬこと」をオランダ語の研究と信じて、辞書の編纂から始め医学書を翻訳する作業は凄まじい。その上『解体新書』の完成度に満足せず、訳者として記されることを拒んでいる。オランダ語の第一人者になったにもかかわらず、弟子も取らずひたすらに研鑽を深めていく。

晩年は子供の死、経済的な貧窮があり、目が衰えた事で研究もままならなくなって人知れず亡くなっている。

一方玄白は、『解体新書』の翻訳作業、出版準備、その成功の取り込みに類い稀なマネイジメントの才能を発揮し、隆盛、栄華の中で人生を終えている。

脇役として登場する平賀源内は、才能、湧きこぼれる好奇心に自らを御せず、最後は詰まらない事で殺人を犯し獄死する。

年をとっても全霊を傾け第一人者になれるものに出会えるチャンスがある。自分に訪れた偶然の社会的な意義を正しく理解する事で成功する可能性がある。自分の才に囚われたままの人生もある。

最近本を読む意欲が萎えており、日本に行っても特に購入をする事も無くなっていたが、好きな作家とは言え、偶然空港で手にした吉村昭の著作は、題材も内容も素晴しいものであった。それよりも読書意欲が蘇ったのがうれしい。


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NHK テレビ時代劇 『天下御免』 (11-25-12)
プリズンの満月:吉村 昭 (1-29-11)
大黒屋光太夫:吉村 昭 (11-29-10)
アメリカ彦蔵:吉村 昭 (1-2-10)

The Communist

2012-08-05 21:46:26 | 書評
この本("The Communist - Frank Marshall Davis: The untold story of Barack Obama's mentor")を買おうか迷っている。

著者は歴史学者、それも冷戦が専門であり、アメリカでの共産主義運動のついても造詣が深い。

本の内容については、この記事("COMMUNIST MENTOR OBAMA BACKERS TRYING TO HIDE")が上手くまとまっている。

オバマの著作である "Dreams from My Father" の中に、彼が Frank とファーストネームだけで22回も言及する大きく影響された人物が登場するのだが、フルネームは登場しないし、人物索引にも出て来ない。これは明らかに著者、つまりオバマが意図的に隠している。(普通の編集者だったら、こんな間抜けはしない。その上、オーディオ版では Frank が登場する所は全てカットされているとの事)

Frank とは Frank Marshall Davis であり、社会活動家とされているがアメリカ共産党の歴としたメンバーであった。因に彼も黒人である。初めて知ったのだが、スターリンはアメリカ撹乱を企てていて、当時の人種差別を利用して南部の黒人を共産主義者に仕立てようとし、資金援助などもていたらしい。

現在、ホワイトハウスで一番オバマに対して影響力があるのが Valerie Jarrett であり、2008年の大統領選そして今回の再選キャンペーンを仕切っているのは David Axelrod である。この2人は、Frank Marshall Davis を中心として強く結びついているのだ。(Valerie Jarrett に至っては、祖父の時代まで遡れる)Frank Marshall Davis はシカゴで活動したあとハワイに引っ越しており、オバマが出会ったのはハワイである。白人リベラルであるオバマの祖父が、父親代わりとしてオバマ少年に引き合わせている。オバマが最終的にシカゴに落ち着いたのは偶然ではないのである。

面白いのは、共産主義は常にキャンペーンを行う。(例えば、人種差別反対、同性婚賛成、金持ちへの増税、福祉政策の拡大)そのプリズムを通してみれば、オバマの選挙活動、政権運営は、正に王道を行っている。オバマが繰り出す選挙キャンペーンのスローガンは、Frank Marshall Davis が執筆、発行していた共産系新聞 "The Chicago Star" の見出しのコピーそのものだそうだ。

上の記事で著者の Paul Kengor が図らずも言っている様に " Do the American people know what they elected in November 2008?” という自問がなされなくてはならないのだ。彼は、Americans ultimately elected the culmination of Chicago’s communist past in the 1930s, 40s and 50s.”(『アメリカは、1900年代前半のシカゴ共産主義者の亡霊達の極致を選んだのだ』)と結論付けている。

本を買うのは迷っているが、オバマが共産主義者であると言う考えに迷いはない。(著者は、オバマが大学時代に共産主義者であった強固な証拠はある。その後転向した形跡はないとしている)

政治部門でベストセラーになっきているのだが、余りに衝撃的でどう扱って良いのか分からないのだろう、現時点ではメディアでも大きな話題になっていない。


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"If you’ve got a business, you didn’t build that." (7-16-12)

The Amateur

2012-06-07 20:39:40 | 書評
久しぶりに読んだのがオバマの批判本というのも情けないが、"The Amateur" と "The Roots of Obama's Rage" を Kindle で続けざまに読んだ。(kindle にしたのは、所有するような本でもないし、何より安いのが要因)

オバマの事を "The Amateur" と言い放ったのはクリントン元大統領。ヒラリーを今年の大統領戦に出馬させようと説得するなかで、飛び出した彼の総括である。チェイニー元副大統領も "Amatuer Hour at Whitehouse" という表現でオバマ政権のやり方を批判した事がある。

著者の Edward Klein は、どちらかというとリベラル系なので、ちょっと意外な感じがある。

オバマは大きな組織を動かした経験が皆無で、ワシントン政界の経験がほとんど無い。シガゴ時代からの知り合いで、こちらも中央政界の経験が皆無の限られた取り巻きに頼るしか無い。議会対応、外交、広報、どれをとってもチグハグな事しか出来ない。

クリントン政権でも活躍した豪腕でオバマ政権初代の首席補佐官 Rahm Emanuel 等はとっとと辞任して、シカゴ市長におさまった。(彼もシカゴ出身なので、親密だと思われていたが、政界での経験と格が違った様だ)

以前、どんな下手を打っても閣僚が変わらないと書いた事があるが、オバマの知り合いだけで閣僚になった人が多く、実力もないので(ヒラリー国務長官だけが唯一の例外)、自分で辞める事がない。この期に及んでは、なり手もアドバイスをする人もいないのであろう。

オバマ本人、ミッシェル、取り巻きについて、書いてある事を多少割引しても、卑しい人ばかりがホワイトハウスに集まっている様だ。

この手の暴露本がこの時期に出る事自体が、オバマの凋落を暗示している。

"The Roots of Obama's Rage" の方は、以前のエントリー "America today is governed by a ghost" (9-28-10)を超える内容は無いが、より詳細に掘り下げてある。

オバマが大統領になった奇跡は、正に『一将功成りて万骨枯る』状態である。民主党は、昨年の中間選挙や今週のウインスコンシン州の共和党州知事リコール失敗等、オバマ大統領就任以来負け続けている。2008年の民主党大統領予備選でも、党員得票数ではヒラリーが上回っていたという状況もある。オバマ陣営も再選しか眼中に無く、民主党を積極的に手伝う雰囲気もない。(応援に来て欲しくない民主党候補もいる)

民主党内の不協和音が大きくなっている。クリントン元大統領の発言は的確なのだ。でも、ヒラリーは今年の大統領選に出馬しないし、副大統領候補になる事も無いだろう。