カクレマショウ

やっぴBLOG

「教育現場にもっと自由を」!?─教育の現実と建前

2006-11-13 | ■教育
メールマガジンで届いた記事の中に、元・大手学習塾の教務本部長を務め、現在は教育コンサルタントだという方のインタビュー記事が載っていました。テーマは「教育現場にもっと自由を!」というわけで、今回の高校必修科目の履修漏れ問題に関連して、学習指導要領を「現実」に合わせてもっと自由にするべきだ、という論調です。

入試が多様化する中で、「東大を受ける子も、私立文系を受ける子も、一律に同じように」学習指導要領に基づいて学ぶということが、「非現実的」だと言います。必修教科「情報」についても言及し、「高校生くらいになるとコンピューターの扱いは雲泥の差がついています。使える生徒はハッカー並みですが、使えない生徒は全くできない、そんな生徒を1つの教室に押し込んで同じ指導要領で学びなさいと言う方が、よっぽどどうかしていますよ」と言う。家庭科の必修については、「東大に受かるために必死になって勉強している生徒に、家庭科が必修になっている。教育現場は矛盾でいっぱいなんです」…。ふ~ん。東大受験生が家庭科を学ぶことは「矛盾」なのか。家庭科って、料理と裁縫だけを習う時間だとでも考えているのでしょうか。身近な環境問題とか消費者問題とか食の安全とかユニバーサルデザインとか、生活者として必要な知識を学ぶとても大切な教科だと思うのですが。

要するに、彼が言いたいのは、高校では目指す進学先に合わせた授業を多様にできるようにするべきだということです。東大を目指す子には、家庭科も芸術も情報もいらない。世界史も受験科目として選択しないのなら不要。私立の文学部を受けるなら数学なんてやる必要はないし。

なぜそんなことが必要か? 「世界水準の人材を育てる」ためなんだそうです。世界レベルで活躍する優秀な人材に育てるために、高校時代はがんがん受験勉強して優秀な人はどんどん東大に入ってもらいたいわけですな。

しかし、「世界水準の人材」って、確かに「その道のプロ」なんだろうけど、「その道」しか知らないんじゃ本当の意味の「世界水準」にはなれないんじゃないの?と思います。かつて日本が輩出してきた「世界水準の人材」は、いずれも、人間的にも幅の広い人物だったように思います。少なくともそれは「受験勉強」一辺倒で培われたものではなかったはず。

彼はさらに、「建前の議論はやめて現実を直視すべき」として、こんなことを言っています。「建前というのは、「受験勉強というものは良くないものであって、それを助長することは悪だ」という大認識です」。そんな議論にいつまでもしがみついていないで、「現実」を直視しろと言う。英語のオーラル・コミュニケーションを例に出し、この科目を高校が一生懸命やるようになったのは、必修にしたからではなく、センター試験に出るからだと断じる。それが現実だと。「どんなに指導要領を厳密にやれと言っても、生徒を大学に合格させるために学校側は指導要領の単位数の通りなんかやりません」。それが現実。

「だって現実はそうなんだから!」と開き直られているようで、どうにもこの主張にはついていけません。高校現場の現実、受験の現実に合わせていたのでは、逆に、何も変わっていかないのではないでしょうか。現実というのは、しばしば、都合のいい方、楽な方へと流れてしまうのがオチです。その方が都合がいいから、必修はやらずに済ます。その方がラクだから、学校の実態に合わせて好きなように履修させたらいい。そんな現実に合わせていくだけでいいのでしょうか。

理想論だ、建前だと言われるかもしれませんが、私は高校教育は、「大学」の向こうにある「社会」にもっと目を向けるべきだと思っています。どういう「社会人」を育てるのか、それがまず根本になければ「世界水準の人材」など遠く及ばない。学習指導要領も、大学入試制度も、その観点からこそ見直されるべきです。


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2 コメント

コメント日が  古い順  |   新しい順
世界水準の教育 (大学生の母)
2006-11-14 00:34:15
アメリカ駐在中のため、娘が語学留学中です。
先日、娘が韓国人の友人と一緒に、中国についてプレゼンテーションするために、準備をしていた時の事です。
「文化大革命」について、どうも話がかみ合わないのですが、根本において友人が、文化大革命は良い方向に中国を持っていったと、考えていることに気づいたそうです。
その原因は「革命」は相対的には、国を良くする事だと言う固定観念があり、友人は世界史を、多分全く知らないと言うことに気づいたそうです。
学校で、受験に関係なく浅く多くのことを教えることは、将来のためには大事なことであると感じます。
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なるほど。 (やっぴ)
2006-11-15 00:17:35
大学生の母 さん

こんばんは。
「受験に関係のない」世界史を学ぶことほど将来役に立つことはないと思っています。
娘さんのように、外国に行った時に特に役に立つでしょう。本当の意味の国際理解ですね。
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