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幕内秀夫『変な給食』

2010-05-17 | ■教育
学校給食って、大人にとっては、ノスタルジーをもって語られることが多いですよね。牛乳一気飲み競争とか、好きだった献立とか、「ミルメーク」とか、「先割れスプーン」とか、給食当番とか、残されて完食させられたとか、休んでいる子の給食を届けてあげたとか…。給食の思い出は、年代によっても違うし、それより何より、個人によってずいぶん思い入れが違うなあといつも思います。かくして、給食の話はいつまでも尽きることはない。

読売新聞連載の「教育ルネサンス」の「当世給食事情」シリーズ第1回(2010年5月12日付け)で紹介されていた『変な給食』、すぐAmazonで注文してみました。

文字通り、全国から集めた「変な給食」の献立が写真入り(再現したもの)で紹介されています。著者の幕内(まくうち)さんの「変な給食」の分類の仕方は次のとおりです。

1 超ミスマッチ献立(例:ドーナツとラーメン)
2 お菓子給食(例:チョコペストリー、シュガートーストなどの菓子パンやスイートポテトなど)
3 居酒屋メニュー(例:焼き鳥と焼きそば、たこ焼きと空豆)
4 貧乏給食(とにかく量や品数が少ない)

すべて、実名の地名入り(しかも何回も登場する市もある…)。献立を考えた人には申し訳ないが、笑ってしまうようなメニュー、あきれてしまうような食材が確かに多い。冒頭で出てくる「ひどい献立ベスト6」なんて、確かにどうかと思う。付せられたコメントが泣かせる(「笑わせる」か?!)。

○きつねうどん、いちごむしパン、牛乳─「先生、いちご味とうどんだしは合いません!」
○エクレアパン、白菜のクリーム煮、黄桃ヨーグルトがけ、牛乳─「先生、これ、昼メシっすよね?」
○黒糖パン、桜エビのかきあげ、みそ汁、牛乳─「みそ汁と天ぷらを、黒糖パンで食べなければいけない……なぜ?の嵐」



どれもこれも、いったいどういう取り合わせだ。「アイス型パン」というのも笑える。要するに、ソフトクリームのコーンにパンをくっつけたもの。子どもには人気かもしれないが、そこまで凝る必要があるのか?と幕内さんは疑問を投げかける。

幕内さんは、『粗食のすすめ』でも知られる管理栄養士なのだとか。「変な給食」に気づいたのは、娘さんが学校から持ってきた献立表を見てからだという。さすがにプロだけあって、献立表を見ただけで栄養の偏りとか「力を入れるところ」の違いを読み取ることができるのですね。

「力を入れるところ」の違いというのは、例えば、先ほどの「アイス型パン」。そういうものを加工する時間があったら、別のところに力を入れるべきではないかということ。あるいは、「エクレアパン」については、「…ちなみにこのエクレアパン、大鍋でチョコを溶かし、1個1個手作業でコーティングしていることを担当の栄養士がアピールしているとか。頑張るところを間違えています」とばっさり。「手作りアンドーナッツ」についても、「だいたい、手作りって、どの工程を指しているのでしょう。あんから? 生地から? そんなところに労力をかけるから、ラーメンの具とスープしか作れなくなってしまうのです。作るなら他のものを作ってください」。

たぶん、献立を考える栄養士さんも一生懸命なのだと思います。子どもたちに、できるだけ楽しく、おいしく給食を食べてもらいたいという気持ちを持っていない栄養士さんはいないでしょう。子どもたちにとって、給食の時間ほど待ち遠しく、楽しい時間はないでしょうから。だからこそ、子どもたちの多くが喜ぶ焼きそば、ラーメン、菓子パン、ハンバーガーといった献立が増える。「食べ残し」の問題も背景に横たわっているかもしれません。できるだけ残飯をださなくていいようなメニューにしようとするのは当たり前の感覚です。

ただ、「子どもウケ」するだけのメニューは、結局は砂糖と油の固まりになってしまうことも事実。脂質やエネルギーばかり過剰で、食物繊維やビタミンが不足することを幕内さんは憂える。このままでは、生活習慣病の予備軍を生み出すだけではないか…。

で、幕内さんが唱えるのは、米飯給食。パン給食に比べて、糖分や脂肪が少なく、健康にいい。また、国産のものが使えるから食糧自給率のアップにもつながるというメリットも生む。実際に、完全米飯給食に切り替えた長野県のある町の事例も紹介されていますが、非行や問題行動が減り、不登校の子どもも激減したという。それは、米飯給食を通して、「子どもの身体と心という土台をはぐくんだ」からだという。反対の声もあったそうですが、根気よく給食改革を進めたことが、確実に実を結んでいる。

この本には、最後に、「こんな給食が食べたい」として、新潟県三条市の献立が紹介されています。こちらも、完全米飯給食です。

○ごはん、ほっけのしおやき、ピーナッツなます、ぶたにくとさつまいものうまに、牛乳
○ごはん、たまごみそ、さばのしょうがやき、こんさいのにもの、すましじる、牛乳

うん。確かにおいしそうだし、体に良さそうだ。これなら、自分でも食べてみたいと思う。だけど、こういうメニューを見ると、なんか病院の食事みたいだなあ…と思ってしまうことにも気づいたりする。そのこと自体が、もはや「学校給食病」に犯されている証拠なのかもしれません。子どもウケはしないだろうなあとも思う。

でも、本来、日本人の食事って、こういうメニューだったんじゃないか。ごはんに合うおかずって、自然と栄養バランスも取れていたのではないか。こういう献立、せめて給食ぐらいは食べさせるべきなのかもしれない。「何が食べたいかなんて、子どもに聞く方がおかしい」と幕内さんは言う。確かにそうだ。学校給食も教育の一環なのです。大人が子どもにいいものを食べさせるのが給食。その時に大切なのは、無理矢理食べさせるのではなくて、なぜこういう食事が体にいいのかをちゃんと子どもたちに伝えることですね。

『変な給食』≫Amazon.co.jp


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2 コメント

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Unknown (ナイルの風)
2010-05-18 23:37:57
仕事柄「給食」には毎日お世話になっております。確かに「変な給食」は時々食べることもありますが,何より驚くのは給食センターへ見学へ行った時に目にする「残飯の量」です。1食平均二百円の給食費を多少値上げすると良くなるのか,メニューを変えると良くなるのかと議論されますが,現場で残飯を見せた次の日から子どもたちは残さず食べるようになった思い出があります。
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給食教育 (やっぴ)
2010-05-19 08:41:48
ナイルの風さん

『変な給食』には、青森県の給食は掲載されていませんでした。センセーショナルに取り上げられていますが、「変な給食」ばかりではないということですね。

残飯の多さを見て、子どもたちが残さず食べるようになった…というお話は大変興味深いです。自分たちの食べ残したものがどのように処理されるのか。目の前の給食がどうやって作られたのかということも含めて、「給食の前後」教育も大切かもしれません。
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