私の好きなアルバム#01 "Songs In The Key of Life"

クルマでの出張でした。音楽はスティービー・ワンダーの"Songs In The Key of Life"。

1976年にリリースされた、LP2枚組＋EPのこのアルバムを初めて聴いたのは大学生の頃でした。アパートの向いの部屋に住んでいたサイトウ君がテープにダビングしてくれたのです。朝に夜に、何度聴いたことでしょうか。ファンキーな曲もスローバラードも、特にこの曲を聴きたい、ということではなく、全体を通して聴かないと気が済まないアルバムでした。スティーヴィーのほかのアルバムにも言えることですが、曲と曲の「間(ま)」がほとんどなく、前の曲のエンディングと次の曲のイントロがほとんど連続しているものだから、LP盤の場合、片面3～5曲がまるで一つの物語のように流れていきます（「歌詞」が作る物語ということではなく）。今、その壮大なストリームを楽しめるのはせいぜいクルマの中だけになってしまいました。

今日はCD盤2枚組のうちDisc2を聴きました。

軽快な「ISN'T SHE LOVELY(可愛いアイシャ)」から始まります。ハーモニカの軽やかな音が心地よく、うきうきした気分にさせてくれます。2曲目は一転してミディアム・スローの「JOY INSIDE MY TEARS(涙のかたすみで)」。ゆったりとしたその曲が終わった途端、3曲目、問題の「BLACK MAN」の何かを予感させるようなイントロが…。LP盤ではここまでがC面でした。

D面の1曲目「NGICULELA-ES UNA HISTORIA-I AM SINGING(歌を唄えば)」は、タイトルにも表されているように、最初がズールー語、次にスペイン語、最後に英語で歌われるラブソング。この曲にはとっても思い出があるのです…。2曲目の「IF IT'S MAGIC」で一息ついたところで、3曲目「AS(永遠の世界)」というちょっと気合いの入る曲が続きます。D面最後は「ラララ～」というバックコーラスが印象的な「ANOTHER STAR」。CD盤にはこのあとEP盤のB面に入っていた2曲が続きますが、私としては「ANOTHER STAR」の余韻でおしまいにしてほしいところですね。

さて、「BLACK MAN」。タイトルからすぐに想像がつくように、この曲は人種差別に対するスティービーの強烈なメッセージソングです。（以下訳詞はCD盤の小倉ゆう子による）

－今、僕らが高く掲げる旗のために
－最初に死んだ男は
－黒人だった　（クリスパス・アタックス）

－旗を手に
－僕らが立つこの地は
－初めインディアンのものだった

－コロンブスの最初の旅で
－ガイド役を務めたのは
－浅黒い男だった　（ペドロ・アロンゾ・ニーノ）

－初めて
－心臓手術を成功させたのは
－黒人だった　（ダニエル・ヘイル・ウィリアムス博士）

つまり、アメリカ合衆国という国を作ってきたのは、「白人」だけではない。原住民であるインディアンや、もともと奴隷としてアフリカから連れてこられた黒人や、移民として米国にやってきた黄色人も、たくさんの業績を残しているんだ、ということを何十人もの具体的な人名を挙げながら切々と訴えているのです。その中には、「白熱灯を発明して視界を広げた」トマス・エディソンや「全員を解放すべく署名した」エイブラハム・リンカーンのような白人も登場します。

エンディングに向かっては、スティービーは歌うのをやめ、まるで気勢をあげるかのような黒人たちによる問いかけが始まります。
「人類初めて北極点に足跡を残したのは？」
子どもたちが声をそろえる。「マシュー・ヘンソン─黒人！」

映画「マルコムX」を見たとき、私はこの歌のこの「問答」部分を思い出したものです。

スティービーは歌います。
－僕らは忠誠を誓う
－一生　赤、青、白の魔法の色に向かって
－僕らが支持する自由は
－全員に与えられなければならない

－この世界は万人のために作られた！

「赤、青、白の魔法の色」というのは、もちろんフランス国旗のトリコロールを指します。自由、平等、博愛を象徴するこの3色は、しかし「自由の国アメリカ」では建国当初から国民全員に与えられていたわけではなかったのです。

スティービー・ワンダーといえば「愛」を歌うシンガーというイメージも強いのですが、"BLACK MAN"のような直截的なメッセージソングが投げかけてくるものもしっかり受け止めなければと思っています。

"Songs In The Key of Life"。いまだに私にとってはスティービー・ワンダーのベスト・アルバムです。

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