透明タペストリー

本や建築、火の見櫓、マンホール蓋など様々なものを素材に織り上げるタペストリー

「名画を見る眼Ⅰ」

2023-06-08 | A あれこれ

 高階秀爾さんの『名画を見る眼』(岩波新書)が刊行されたのは1969年。それから50年以上も読み継がれて、帯によると累計82万部。このことだけでも本書が名著であることを示すに十分だろう。

本書に取り上げられているのは15点で、どれも名画と評されている。掲載されている図版が参考図版も含めてすべてカラーに刷新されたと知り、買い求めた。学生時代に読んで以来、何十年ぶりかの再読。やはり絵画の解説本の図版はカラーがよい。


高階さんは取り上げた絵画を分析的に細部まで読み解く。絵画に隠されている謎を解くかのように。で、ぼくはその都度、「なるほど、こういうことなのか」となり、付箋を貼る。読み終えたら付箋は何枚にもなっていた。他の画家が描いた同じモチーフの表現と比較して論じたりもし、更に歴史的背景にまで言及している。これ以上の解説はないのではないか、と思ってしまう。

 
ここに載せたシャンデリア、左は本の帯に使われたファン・アイクの「アルノルフィニ夫妻の肖像」に描かれているもので、右はフェルメールの「絵画芸術」のもの。高階さんは二つのシャンデリアを比較して次のように書いている。**ファン・アイクがあくまでも真鍮の持つ金属的な硬さと冷たさを、つまり対象の質感を重んじているのに対して、フェルメールは何よりも視覚的効果に執着しているのである。**(125頁)なるほど、二つのシャンデリアを見比べると、どちらも写実的に描かれているけれど、表現していることが違うということがよく分かる。高階さんの絵画を見る眼はやはり鋭い。

高階さんは続ける。**対象そのよりもその対象の上の光の効果を体系的に追及したのは、言うまでもなく印象派の画家たちであり、その点にこそ印象派の「近代性」があったのだが、とすればフェルメールは、二百年も早く、印象派の問題を先取りしていたわけである。**(125頁) 西洋絵画の数多くの作品を丁寧に読み解き、さらにその歴史的な流れを細部まで把握していないとこのような説明はできないだろう。

**絵というものは、別に何の理屈をつけなくても、ただ眺めて楽しければそれでよいという見方もある。それはそれで大変結構なことに違いないが、しかし私は自分の経験から言って、先輩の導きや先人たちの研究に教えられて、同じ絵を見てもそれまで見えなかったものが忽然として見えてくるようになり、眼を洗われる思いをしたことが何度もある。**(あとがき 229頁)

ファン・アイクのシャンデリア(左)に灯された一本の蝋燭は「婚礼の燭台」と呼ばれ、結婚のシンボルという説明を読んでシャンデリアに描かれた一本の蝋燭の意味が分かった。

最後にもう一度、これは名著だ。


今月(6月)の確か20日、『カラー版 名画を見る眼Ⅱ 印象派からピカソまで』が発売になる。こちらも読なまければ。


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