透明タペストリー

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川上弘美の「風花」を読む

2008-04-13 | A 読書日記

なんだかここは、とってもうすみどり。



■ 川上弘美の夫婦小説、こんなジャンルがあるのかどうか・・・『風花』を読み終えた。

**なんだか。のゆりは思う。
  なんだかここは、とってもうすみどり。
  いろいろ嫌なこともあるけど、こんなにうすみどりだと、どうでもよくな
  っちゃう。**
**間近で波が打ち寄せるのを聞くときの、輪郭のはっきりとした音ではない
  のだけれど、海ぜんたいがたなびいているような、たおやかな擦過音を、
  たしかにのゆりの耳はとらえたのだった。**    

そう、この文体、この表現こそ川上弘美。

結婚して7年の夫婦、のゆりと卓哉。夫の浮気相手が妊娠。かなり危機的な状況にあっても川上弘美が描くこの小説ではどことなく春霞のように輪郭がはっきりしない。この作家の小説に共通するふんわりとした雰囲気が漂う(「真鶴」はそうでもなかったけれど)。主人公ののゆりは夫と別れようか、どうしようか、決心がつかない。のゆりの気持ちも春霞。

季節は巡る。ゆるやかに変化していくふたりの会話・・・。その微妙な変化に気がつかなければこの小説は味わえない。

結局最後までのゆりは夫と別れることなく過ごすが、ラストシーンは暗示的。**のゆりは自分が赤信号を渡っていることに気づいた。止まらずに、このまま渡っちゃえばいいんだ。思いながらのゆりは駆け出した。振り向くと、卓哉は歩道に立ってのゆりを見ていた。**(以下略)

『風花』川上弘美/集英社
        


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