人生に後悔はつきものなんじゃないかしら・・・
■ 寅さんシリーズ第17作「寅次郎夕焼け小焼け」を観た。この作品はシリーズの中でも評価が高い。
マドンナは播州龍野(*1)の芸者・ぼたん(大地喜和子)。寅さんとぼたんとの距離感は寅さんとリリー(浅丘ルリ子)のそれに負けず劣らず近い。ふたりとも寅さんと境遇が似ている。それからふたりとも役を演じているというより、役になりきっている。
この作品で印象に残るのは画家・池之内青観(宇野重吉)が龍野で、昔恋仲だった志乃(岡田嘉子)を訪ね、静かに語り合うシーン。
志乃は華道を教えながらひとりで暮らしている。
ふたりが対面している部屋は落ち着いた和室。
「僕はあなたの人生に責任がある」「僕は後悔してるんだ」と青観。
志乃は青観に言う。
「じゃあ、仮にですよ、あなたがもう一つの生き方をなすっとたら、ちっとも後悔しないですんだと言い切れますか?」
「私、このごろよく思うの、人生に後悔はつきものなんじゃないかしら、って。あ~すりゃよかったなあ、という後悔と、もう一つは、どうしてあんなことして(*2)しまったんだろう、という後悔」
志乃は昔の想い出を胸に秘め、想い出を糧に龍野でひっそりとひとりで生きてきたのだろう。
翌朝、青観が乗ったタクシーが志乃の家の前を通りかかる。道に出ていて静かに見送る志乃、それに気がつく青観・・・。後部座席から振り返り志乃を見つめる青観。遠ざかるタクシーにそっと手を振る志乃。名場面だ。
*****
ある日、ぼたんがとらやを訪ねてくる。200万円もの大金をお客に騙し取られていたぼたん。その男が東京にいることが分かって少しでも取り戻そうと、上京してきたのだった。事情を知った寅さん、親身になってぼたんのために奔走。
お金をとり戻すことはできなかった・・・。だが、ぼたんは「私、幸せや」「私、生まれてはじめてや、男のあんな気持ち知ったん」と泣きじゃくる。この場面に涙。
映画のラスト、上野駅まで見送りに来ていたさくらが「ぼたんさんね・・・、好きなんじゃないかしら、お兄ちゃんのこと」と言う。寅さん例によってそれを冗談と断じてしまう・・・。
龍野にぼたんを訪ねた寅さん、驚きのラスト・・・。
人を想う心の大切さがこの作品の、いや、このシリーズに共通するテーマ。
*1 童謡「赤とんぼ」の作者・三木露風の出身地、風情があって良いところ。どの作品も、ザ・ふるさとなところが舞台になっている。
*2 「どうしてあんなこと言って」と聞き取れるが、話しの流れから。
1 5 6 7 8 10 11 12 14 15 16 17 18 21 22 23 27 36 50