「こんにちは、お久ぶりです」
「やあ、元気?」
「あ、はい。このカフェ、私も知ってました。前に一度お友達と来たことがことがあります。いいですよね、ここ。テラスの席だと涼しいですね」
「そうだね」
「桜の花見ができたカフェも素敵でしたけど」
「チーズケーキおいしそう。私、コーヒーとチーズケーキにしようかな。U1さん東京に行ってきたんですね、ルーシー・リー展観てきたんですか、いいなぁ」
「ブログ読んだね。ルーシー・リー展は良かった・・・、とにかくきれいなんだよ。特に細かな線文を入れた小ぶりの作品がよかったな」
「陶芸って私も好きなんです。行きたかったな。昨日、書店で「芸術新潮」を見ました」
「ルーシー・リーの特集号が出てるね。非常に繊細な感性の持ち主という感じだった」
「やはりそうでした? 小柄な女性ですね。優しそうな雰囲気」
「作品には人柄が出るね」
「文は人なり、っていうけど、芸術作品すべてに当て嵌まる?」
「そう思うよ。人はみんな自分がかわいいから、作品に自分を投影しようとしてる。もうひとりの自分を探しているなんて言えば大げさだけど」
「自分探しですか・・・」
「そう、恋愛ももうひとりの自分探し」
「え~、そうなんですか。ところでU1さん火の見櫓に恋しちゃってますね」
「いや、火の見に恋しても、ね。でも火の見ってみんなちがって、みんないいんだよね」
「みんなちがって、みんないいって、金子みすゞでしたっけ」
「? あ、そう。「わたしと小鳥とすずと」だっけ?」
「ええ。私好きですよ、金子みすゞの詩。ところで、火の見櫓っておもしろいですか? 私には分からないな・・・」
「そう? 消えつつあるものの、何だろう・・・、哀愁かな」
「新しくつくられることってもうないんですか?」
「ないだろうね、もう役目を終わっているからね、消えていくだけ」
「なんだか寂しい・・・」
「そこに惹かれているのかも。それに火の見にも人柄が出ているからね」
「人柄が、ですか? 私にはわからないな。あ、風が涼しい」
「水を張った田んぼを渡ってくるから」
「有明山がシルエットになって田んぼに写ってきれい」
「昔ばなしの絵本に出てきそうな形してるね。朝は常念、日暮れは有明山」
「あ、それいいですね、なるほど、です」
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「これから、どうする?」
「私、今日は買い物してから帰ります。また誘ってください」
「そう、じゃ今度は暑気払いしよう」