透明タペストリー

本や建築、火の見櫓、マンホール蓋など様々なものを素材に織り上げるタペストリー

「24 男はつらいよ 寅次郎春の夢」

2021-12-22 | E 週末には映画を観よう

 寅さんシリーズ第24作「寅次郎春の夢」を観た。これで第49作「寅次郎ハイビスカスの花特別篇」を除く全ての作品を観たことになる。寅さんを演じていた渥美清さん亡き後制作された第49作、第50作をシリーズに含めないで全48作品とするなら、全作品を観たことになる。

「寅次郎春の夢」のマドンナは満男君が通う英語教室の先生・めぐみ(林寛子)さんの母・圭子(香川京子)さん。圭子さんが夫と死別していることを知り、張り切り出す寅さん。圭子さんの家に押しかけて(マドンナと知り合うと寅さんはいつも積極的に行動する)、昔からの知り合いの棟梁に遅れている英語教室の増築工事の完成を急がせたりする。

ある日圭子さんのところにタンカーの船長だという二枚目が訪ねてくる(あれ? 見たことがある俳優だなと思って調べると、梅野泰靖さんで博の長兄を演じていた。博の葬儀で会っている、って本作とは関係ないが)。その日寅さんも圭子さんを訪ねていて、ふたりは顔を合わせる。

「港からまっすぐここに?」と圭子さん。「そうですよ」「だったら、お茶の前にシャワーでも浴びたら?」という会話を聞けばふたりの関係は察しがつく。めぐみさんから、「お父さんになるのかな」と聞いた寅さん。先日観た第9作「柴又慕情」でも吉永小百合が演じたマドンナに恋人がいることが分かって、寅さんガックリだったけれど、これはシリーズでお馴染みのパターン。

この作品ではもう一つの恋物語が描かれている。帝釈天で安宿を探していて、とらやに連泊することになったアメリカ人・マイケルさんがさくらに恋をして、大胆にも告白・・・。

アメリカ嫌いを公言する寅さんとマイケルはうまくいくはずもなく、とらやで大喧嘩になりそうになり、居合わせためぐみさんの通訳で事なきを得たということも。

寅さんが失恋して、マイケルの恋ももちろん「impossible」。失恋してマイケルは帰国、寅さんはいつものように旅に出る。連れ立って上野へ向かうふたり。上野で飲み明かし、別れ際に寅さんはお守りをマイケルの首のかけてやる。「おまえにこれやるよ。お守りだ。な。これ持ってるとな、そのうちきっといい嫁さんが来るから、きっといい嫁さん」 お互いがっちり握手。寅さんは女性にも優しいけれど、男性にも優しい。

江戸川の土手に座り、空を見上げるさくら。飛行機が去っていく。機内から江戸川を見るマイケル・・・。マイケルの恋の方がウェイトが大きい作品だった。


既に書いたこのシリーズの総括的な記事を以下に再掲する。

山田洋次監督は寅さんシリーズを通じて家族愛、家族の絆の尊さを観る者に伝えたかったのだろう。このことで印象的なのは第11作「寅次郎忘れな草」、リリーが夜遅くに酔っぱらってとらやに寅さんを訪ねてきて一緒に旅に出ようと誘うと、寅さんがやんわり断る。すると、リリーが「そうか・・・、寅さんにはこんないいうちがあるんだもんね。あたしとちがうもんね、幸せでしょ」という場面。リリーは根無し草の寂しさに泣く。

この作品で寅さんはリリーと出会うが、「兄さん、何て名前?」と問われて「おれは葛飾柴又の車寅次郎って言うんだよ」と名前だけでなく、居所まで答えているのに対し、リリーは「故郷(くに)はどこなんだい?」と問われて、「故郷(くに)? そうねえ、ないね、あたし」と答える。このようにふたりが対比的に描かれていることも、家族の絆というテーマにおいて見逃せない。

また、満男君が寅さんを「伯父さんは他人の悲しみや寂しさが理解できる人間なんだ」と言うが、確かに寅さんは旅先で知り合う人に優しい。第15作「寅次郎相合い傘」では家出した中年サラリーマン(船越英二)と一緒に旅をするし(この作品で寅さんはリリーと再会する)、第41作「寅次郎心の旅路」では自殺未遂したサラリーマン(柄本 明)に優しく接し、その後一緒にウイーンまで行くことになる。マドンナは観光ガイドをしている久美子(竹下景子)。

他人の悲しみや寂しさを理解して優しく接すること、これも監督が観る者に訴えたいことだろう。

寅さんが全国を旅するのは山田監督の故郷さがしの旅でもある。このことはだいぶ前にラジオで聞いた(過去ログ)。


寅さんシリーズに何回もちょい役で出演していた谷よしのさん。調べると36作品に出演している(内、28作品はクレジットされている)。寅さんシリーズには欠かせない女優だったと思う。


印象に残るマドンナ 4人とも寅さんの優しさに惹かれて好意を抱く
第10作「寅次郎夢枕」千代(八千草薫)幼なじみ 柴又で美容院経営 二年前に離婚
第28作「寅次郎紙風船」光枝(音無美紀子)テキヤ仲間の常三郎の妻 常三郎亡き後上京、本郷の旅館で働く
第29作「寅次郎あじさいの恋」かがり(いしだあゆみ)夫とは死別 京都に出て陶芸家の許で働く 失恋後丹後に戻り娘と暮らす
第32作「口笛を吹く寅次郎」朋子(竹下景子)岡山県高梁にある諏訪家の菩提寺・蓮台寺住職の娘 離婚後寺に戻り父親と暮らす