タマルさんはナツメヤシ

タマルは女性の名。ナツメヤシの意味で多産を象徴。聖書には約束の地カナンは、蜜(ナツメヤシ)と乳(ヤギ)の流れる地とある。

プロゲステロンの膣錠は昔はお手製でした

2018-03-14 21:09:27 | 不妊症
写真は、丹波市春日町の滉一朗(こういちろう)くん、2月11日生まれ。
「物事を広く深く考えて、人に優しく穏やかな子に育ってください。
お産は大変でしたが、とてもかけがえのない時間でした。
とても親切にしていただき、安心して過ごせました。」

次はもう少し冷静に産んであげたいそうですよ。
いえいえ十分に、辛かったお産も肯定的に捉えられているのは立派ですね。

それでは今日は、不妊症の話題を1つ。
以前はタマル産でも体外受精をしていました。
開業当初からしていたので、お産もすれば体外受精もする、という多忙な日々を過ごしていたわけです。
まだその頃は体外受精をできる施設は少なかったのです。
今では日本は世界一人口当たりの施設数が多い国になりましたけれどね。

卵子を膣から針で採取して、これに精子を混ぜて2日から5日ほど培養してから、
子宮に戻すだけなのです。
だから手技的には簡単なものに分類されるかもしれません。
顕微授精ともなると、マイクロマニュピレーターという、ロボットの手みたいなのを使いますから、熟練が要るのですが。

余った受精卵は凍らせておきます。
冷蔵庫に入れるのではないのですよ。
受精卵の細胞質の液体を、凍結保護剤という液体に段階的な濃度で置換していきます。
これを細いガラスの管に吸って、ドボンと冷たいエタノールに浸けます。
これをプログラムフリーザーを使って、さらに温度を下げていき、
最終的には液体窒素にドボンと漬けるのですよ。
あとは蒸発する液体窒素を定期的に補充するだけです。

溶かす時は一気に常温に戻すのですよね。
けっこう生き返るのです。
新鮮な受精卵より、この融解した受精卵の方が、着床率は高いのですから。

むしろ成功率が低いのは、この着床なのです。
子宮内膜が分厚くなっていないといけません。
薄いと着床しにくいのですが、これを分厚くしているのは主にプロゲステロンというホルモンです。
あとはエストロゲンというホルモンも必要です。
さらにはテストステロンという男性ホルモンも少し必要です。
実は私の研究テーマの1つが、この子宮内膜の分化を促す、基礎ホルモンとしてのテストステロンの役割だったのですよ。
もう25年ほど前の研究ですが。

新鮮な胚では、ホルモンを調節しにくいので、
むしろ胚を凍結しておいて、子宮内膜をこれらホルモンで調節しておいてから、
胚を子宮に返すと、着床率が上がるのですよね。
ここが凍結胚の着床率の方が高い理由なのでしょう。

このプロゲステロンという錠剤は、高濃度にするために、
市販の薬を溶かしてロウで固めて、膣に入れてもらっていたのです。
そういう時代でしたが、今では自由診療ですが、製剤として売られはじめましたから、
体外受精も簡単になりましたよ。
以前はすべての操作を私1人でやっていたのですから。
今では1人でやっている施設は無いでしょう?
チーム医療になってきましたからね。
私が分娩と一般不妊治療だけのスタイルに変えたのも、このへんが理由です。

それで今日のお話の本題は何かと言うと、
このプロゲステロンというホルモンです。
子宮内膜には影響するのですが、受精卵、すなわち胚には影響しないのです。
ここがおもしろいところなのです。
プロゲステロンのレセプターを欠損させたマウスの実験では、
胚は正常に大きくなることから分かったのですね。

この話は長くなるので、次回に続きとします。
タマル産では、不妊症の患者さんに、よく排卵後にプロゲステロンの薬を処方するでしょう?
それは子宮内膜を分厚くさせて、妊娠率を高めるためなのですね。
プロゲステロンとエストロゲンの合剤を処方することも有ります。
これらは保険診療です。
プロゲステロンの膣錠は自由診療ですが、高濃度にできるので、
今度処方してみても良いかもしれませんね。
1日に3度、膣に入れるのは、ちょっと苦痛かもしれませんが。

今日の外来では、また1人、初めての人工授精で妊娠された方が居られましたよ。