竹取翁と万葉集のお勉強

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万葉雑記 色眼鏡 二三三 今週のみそひと歌を振り返る その五三

2017年09月23日 | 万葉集 雑記
万葉雑記 色眼鏡 二三三 今週のみそひと歌を振り返る その五三

 万葉集巻七において、集歌1404の歌から挽歌の部立となります。それまでは各種の歌を歌のテーマ毎に集めた雑歌、それも比喩を含む歌です。従いまして、弊ブログでも歌の鑑賞態度が、多少、変化しています。このように案内はしておりますが、今回は妄想と酔論が根拠の鑑賞ですので、今まで以上に眉に唾を付けてご笑納下さい。

 さて、今週の鑑賞に次のような歌二首があります。表記は「蜻野」と「秋津野」と違いますますが、共に吉野秋津野での野辺送りの情景を歌います。二首が同じ葬送の場面を詠うものですと、「前裳今裳」での選字から想像して死亡した人は若い女性です。また、「嗟齒不病」の表現に選字があるのですと、死亡の原因は不慮の事故です。病ではありません。

集歌1405 蜻野叨 人之懸者 朝蒔 君之所思而 嗟齒不病
訓読 蜻蛉野(あきつの)と人し懸(か)くれば朝(あさ)蒔(ま)きし君しそ思(も)ふに嘆(なげ)きはやまず
私訳 「あの秋津野」と人が口に出すと、朝、野に遺骨を撒いた貴女のことが思い出されて、悲しみは尽きない。

集歌1406 秋津野尓 朝居雲之 失去者 前裳今裳 無人所念
訓読 秋津野(あきつの)に朝居(あさゐ)し雲し失(う)せゆけば昨日(きのふ)も今日(けふ)も亡(な)き人念(おも)ほゆ
私訳 秋津野に朝棚引く雲が消え失せていくと、昨日も今日も亡くなった人が思い出します。

 表面的にはこのような鑑賞態度から集歌1405の歌の「君」を若い女性と決めてかかっています。一般には「君」と云う表現から男性、それもある程度の身分ある人を想像するようです。それにより、不慮の事故で死亡した若い女性への歌か、吉野秋津野で火葬された身分ある男性への思い出の歌かにより、その鑑賞態度は変わります。秋津野で火葬された男性と云う解釈から、秋津野に常設の火葬を行う場(又は窯)があったのではないかとします。
 一方、奈良の都に住む和歌人が吉野で不慮の死を遂げ、そこで当時としては最先端の葬儀方法である火葬と云う方法で野辺送りされた若い女性を詠うものですと、その女性は吉野地方の下級階層の住民ではありません。宮中や朝廷に勤めるような貴族階級の娘であろうと推定されます。つまり、吉野御幸に随伴するような官女と云うことになります。
 すると、万葉集がお好きなお方には、ピンと来るような挽歌が巻三にあります。それが柿本人麻呂が歌う出雲娘子への挽歌です。

溺死出雲娘子葬吉野時、柿本朝臣人麿作歌二首
標訓 溺れ死(みまか)りし出雲娘子を吉野に火葬(ほうむ)りし時に、柿本朝臣人麿の作れる歌二首
集歌429 山際従 出雲兒等者 霧有哉 吉野山 嶺霏微
訓読 山し際(ま)ゆ出雲し子らは霧なれや吉野し山し嶺(みね)にたなびく
私訳 山際から、出雲の貴女は霧なのでしょうか、吉野の山の峰に棚引いている。

集歌430 八雲刺 出雲子等 黒髪者 吉野川 奥名豆風
訓読 八雲(やくも)さす出雲(いづも)し子らよ黒髪は吉野し川し沖になづさふ
私訳 多くの雲が立ち上る出雲の貴女、貴女の自慢の黒髪は吉野の川に中ほどに揺らめいている。

 この出雲娘子は壬申の乱で活躍した出雲狗一族関係者ですと、山背国を本拠とした大春日に関係する出雲一族の娘であり、官女です。その出雲娘子は水死と云う不慮の事故で亡くなり、吉野で火葬されています。推定するように出雲娘子が大春日に関係する出雲一族の娘でしたら、柿本人麻呂とは同族関係となります。
 また、集歌1405の歌や集歌1406の歌には人麻呂の臭いがすると評論する人もいます。可能性として、集歌429の歌と集歌430の歌は、吉野御幸の中で水死と云う不慮の事故で死亡した直後の葬儀の場面の歌で、集歌1405の歌や集歌1406の歌は、この事件以降の別の吉野御幸での回顧の歌となるでしょうか。
 参考として、弊ブログでは出雲娘子の事件が起きたのを文武天皇の大宝二年(702)七月の吉野御幸の時としています。ただ、弊ブログで推定する人麻呂の生涯では大宝二年(702)暮以降に大神朝臣高市麻呂の病気交代として長門国守に就任・赴任した可能性を考えていますので、それ以降の吉野御幸に随行した可能性はありません。歌がすべて人麻呂に関係するとしますと、出雲娘子の事件が起きたのが持統太上天皇の最後の吉野御幸である大宝元年(701)六月であり、回想の歌は翌年の文武天皇の吉野御幸と云う可能性が見出せます。

 挽歌は人の死と云う事件を詠います。そのため、その人の死と云うものを考えますと、ここで紹介しましたような色々な妄想と酔論が出来ます。ただし、あくまで妄想であり、酔論です。まともな鑑賞ではありません。

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