歌番号 192
詞書 題しらす
詠人 よみ人しらす
原文 安幾可世遠 曽武久毛乃可良 者奈寸々幾 由久可多遠奈止 万祢久奈留良无
和歌 あきかせを そむくものから はなすすき ゆくかたをなと まねくなるらむ
読下 あきかせをそむくものから花すすきゆく方をなとまねくなるらん
解釈 秋風が吹くと顔を背ける姿を見せる花薄、それなのに風の行方をどうして揺れて指し招く風情をするのでしょうか。
歌番号 193
詞書 はつせへまうて侍りけるみちに、佐保山のもとにまかりやとりて、あしたにきりのたちわたりて侍りけれは
詠人 恵慶法師
原文 毛美知美尓 也止礼留和礼止 志良祢者也 左本乃可者幾利 多知可久寸良无
和歌 もみちみに やとれるわれと しらねはや さほのかはきり たちかくすらむ
読下 もみち見にやとれる我としらねはやさほの河きりたちかくすらん
解釈 紅葉を眺めにやって来て宿りをした私と判っていないためなのか、佐保川に景色を隠す霧が立ち、紅葉の山を隠しています。
歌番号 194
詞書 題しらす
詠人 よみ人しらす
原文 毛美知美尓 也止礼留和礼止 志良祢者也 左本乃可者幾利 多知可久寸良无
和歌 もみちはの いろをしそへて なかるれは あさくもみえす やまかはのみつ
読下 もみちはの色をしそへてなかるれはあさくも見えす山河の水
解釈 紅葉した葉の色を添えて流れて行けば、葉で覆い隠されて浅くも見えない、山河の水の流れよ。
歌番号 195
詞書 大井河に人人まかりて歌よみ侍りけるに
詠人 よしのふ
原文 毛美地者遠 遣不者奈本美武 久礼奴止毛 遠久良乃也万乃 名尓者左者良之
和歌 もみちはを けふはなほみむ くれぬとも をくらのやまの なにはさはらし
読下 もみち葉をけふは猶見むくれぬともをくらの山の名にはさはらし
解釈 紅葉した葉を今日はなお一層に眺めると、それで日が暮れたとしても、小暗いとの名の響きを持つ小倉の山には、差し障りがないと思いますので。
歌番号 196 拾遺抄記載
詞書 題しらす
詠人 読人しらす
原文 安幾幾利乃 堂々末久於之幾 也万地可奈 毛美知乃尓之幾 於利川毛利川々
和歌 あききりの たたまくをしき やまちかな もみちのにしき おりつもりつつ
読下 秋きりのたたまくをしき山ちかなもみちの錦おりつもりつつ
解釈 秋霧が立ち広がるのが残念な山路です、きっと、晴れていれば、山並みは紅葉で錦模様が織り積もって続いていたでしょうに。