読書日記

いろいろな本のレビュー

日本近代文学と戦争 山口俊雄 編  三弥井書店

2012-09-11 08:23:59 | Weblog
 本書は、冒頭の説明にある通り、2010年11月14日に愛知県立大学長久手キャンパスで行なわれた公開研究集会「日本近代文学と戦争ー「十五年戦争」期の文学を通じて」の内容を書籍化したもので、今回、編著者の山口俊雄氏から御恵贈にあずかったものである。どうもありがとうございました。
 中身は第一部①戦中小説における混血表象ー石川淳「白猫」・金史良「光の中に」を中心に(山口俊雄) ②詩にあらわれた<神>たちー戦時下、そして戦後(宮崎真素美)③戦争短歌における前線と銃後ー『支那事変歌集』その他 ④女性、軍需産業、そして≪私≫ ノーマ・フイールド  ⑤日中戦争期の文化抗争 米谷匡史、そして第二部は山口氏の司会による全体討論会となっている。
 一読してこのような研究集会を開催された愛知県立大の力量に感心した。ノーマ・フイールド氏を招聘されたことは大変素晴らしい。戦争文学というと自己の戦争体験を戦後、生還してから書いたものを読むことが多い(大岡昇平など)が、戦時下に同時進行で書かれたものを時代の中で読むことが本書のテーマであり、大変重要なことと考える。
 全体会の冒頭で米谷氏が「十五年戦争」というくくり方は雑駁ではないかという疑問を表明されているが、私はこれでいいと思う。日本史では40年前から「十五年戦争」という言葉が家永三郎氏などによって使われており、定着していると思うからだ。日中戦争・太平洋戦争、それぞれ違いはあるが、細かく分けるよりザックリひとまとめにした方がいろんな議論がしやすいのではないか。
 本書を読んで、新しく得た知見がいろいろある。①の「混血文学」④の「ハウスキーパー」問題などである。民族・血統問題は普遍的な文学のテーマだが、とりわけ戦争・植民地問題では重要なテーマであることがわかった。④は小林多喜二の『党生活者』をもとに革命運動と女性の問題を論じている。
 それぞれの発表は戦争という極限状況の中の人間という厳しいテーマだが、このような文学研究を通じて戦争の実相に迫り、反戦の気運を持続させ盛り上げていくことが重要だと思う。日本を取り巻く状況は厳しくなってきたが、戦争は二度とご免だというのが私の願いである。研究者諸氏にはこのスタンスでメッセージを発信していただきたい。

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