読書日記

いろいろな本のレビュー

狼の群れはなぜ真剣に遊ぶのか エリ・Hラディンガー 築地書館

2019-04-23 19:28:24 | Weblog
 原題は「Die Weisheit Der Wolfe」で「オオカミの智恵」である。こちらの方がいいと思うのだが、表紙の写真がオオカミが牙を剥いて遊んでいるショットなのでこのようにしたのだろう。最近オオカミ関係の本が多いと感じる。昨年の9月に発売された『オオカミと野生のイヌ』(菊水健史など エクスナレッジ)は3000円もする高価なものだが、先日3万部突破と新聞に広告が出ていた。オオカミがイヌに進化して人間のペットになるプロセスをきれいな写真と共に描いていた。それによるとオオカミの中で性格のおとなしいものを飼育してそれを交配させていくと、そのおとなしい形質が遺伝しイヌになったというものだった。だからイヌの先祖はオオカミだということになる。
 オオカミは古来、残忍で貪欲な動物として認識されてきた。「虎狼の心」という言い方が、中国の古典によく出てきたり、「赤ずきんちゃん」でも悪役として出てきたりすることでもよくわかる。しかし、最近ではは非常に智恵があり家族思いの素晴らしい生き物だという風に認識が変わってきた。そのオオカミの生態を称賛したのが本書である。
 著者は1951年生まれのドイツ人の女性で、大学で法学を学んだのち弁護士を務めていたが、オオカミに魅せられてそれをやめて1991年にドイツオオカミ保護協会を設立し、『オオカミマガジン』を創刊。1995年からイエローストーン国立公園におけるオオカミ再導入に参画した。本書はそこでオオカミの群れを観察した記録である。
 全編オオカミに対する慈愛がほとばしり出ており、いかにも女性が書いたなあという感じ。掲載されている写真も子どものオオカミのものが多く、家族を大事にするイメージを強調している。オオカミの群れは普通リーダーの番いを中心に構成されるが、トップになるのは雌であったり雄であったりするようだ。著者によると、オオカミたちは家族の中で調和を求める気持ちが強く、リーダーの基本方針は家族を一つにまとめ、ばらばらにならないようにすることらしい。これは人間にとっても耳が痛い話だ。そして独裁者を嫌う。専制的リーダーに支配された群れは悲惨な状況に陥り、クーデターが起こるという。まるで人間社会ではないか。またオオカミで最も多い死因はライバルとの縄張り争いで、イエローストーンではオオカミ総数の20%がそのために命を落とすという。これも家族を守るための命をかけた戦いなのだ。
 オオカミは遊びの中でルールを覚え、群れのメンバーとして認められていくが、一緒に遊ぼうとしないものは他のメンバーから避けられ、群れから離れていくことになり、結局自然淘汰される。社会的動物であるオオカミは単体では生きにくいのだ。本書はオオカミの智恵をさまざま紹介して、オオカミに対する偏見を払拭してくれている。ただ以前読んだ本では、グループ内の最下層のランキングのものをかませオオカミとしてみんなで苛め、何年か我慢出来たら次のかませオオカミを決めてにバトンタッチするということが書かれていたが、そのことについての言及がなかったのは残念だった。そういうことはないのだろうか。オオカミ賛美の内容と合わないのでオミットしたのだろうか。気になるところだ。最後にこう書かれている。オオカミの智恵: 家族を愛し、託されたものたちの世話をすること。遊びをけっして忘れないこと。これをニンゲンの標語にしたらどうだろうか。

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