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【判例】 国籍又は民族性を理由とする差別による賃貸マンションへの入居拒否 4 裁判所の判断

2008年06月09日 | 民法・借地借家法・裁判・判例

第4 当裁判所の判断
1 争点①(本件入居拒否が生じた時点までに被告が人種差別を禁止する条例を制定しなかった不作為が国家賠償法1条1項の適用上違法であるか)について

(1) 国家賠償法1条1項は,国又は公共団体の公権力の行使に当たる公務員が個別の国民又は住民に対して負担する職務上の法的義務に違背して当該国民又は住民に損害を加えたときに,国又は公共団体がこれを賠償する責任を負うことを規定するものである。国又は地方公共団体の立法行為は公権力の行使に当たる行為であるところ,立法行為又は立法不作為が同項の適用上違法となるかどうかは,当該立法にかかわる議員の立法過程における行動が個別の国民に対して負う職務上の法的義務に違背したかどうかの問題である。以上の観点から,被告が人種差別を禁止する内容の条例を制定していないこと(この事実は,当事者間に争いがない。 )の適否について検討する。

(2) 憲法に基づく義務の主張について
 原告は,まず,国は,憲法14条1項に定める差別の禁止を実効的なものにするために,生まれによる差別を禁止し,終了させるためのあらゆる施策を積極的に展開しなければならず,このことは同項に基づく国の義務であり,公権力の一翼を担う地方公共団体である被告は,国と同様の義務を負う旨主張する(第3の1(1)ア(ア) )。

 しかし,憲法14条1項は,国政の高度の指導原理として法の下の平等の基本原則を宣言したものであり,法的取扱いの不均等の禁止という消極的な意味を持つものにすぎず,社会に存在する様々な事実上の優劣,不均等を是正して実質的平等の実現を目指すというものではないから,同項を直接の根拠として,国の個別の国民に対する生まれによる差別禁止のための具体的な作為義務が導かれるとの解釈は採ることができない。
 したがって,国に上記作為義務があることを前提として,地方公共団体も同様の作為義務を負う旨の原告の上記主張は,採用することができない。

(3) 本件条約に基づく義務の主張について
ア 原告は,本件条約は国内法的効力が認められるものであるところ,本件条約2条1項柱書き及び同項(d)は,国及び地方公共団体に対し,人種差別の禁止につき,単なる政治的責務を定めたものではなく,具体的な作為義務を定めたものであり,同項(d)が規定する義務のうち差別禁止義務は,それぞれの法域で適当とされる方法を通じて即時的に人種差別撤廃のための措置を執るべきことを具体的に義務づけたものであり,本件条約5条と併せみると,住居についての権利を侵害する差別を禁止する義務は,本件条約の下で法的義務とされていることは明らかである旨主張する(第3の1(1)ア(イ)a及びb)。

 本件条約は,平成7年12月1日に国会において本件条約締結に関する承認が得られ,同月15日に加入,平成8年1月14日に発効したものであり(以上は公知の事実である。) ,これにより,本件条約の規定中国内の事柄に関係する条項につ いては,国内法的効力を持つということができる(憲法98条2項 )。ところで,本件条約をみると,各条項に規定する事項を行う主体は「締約国」とされており,原告の上記主張を判断するについて,1 上記条項が定める事項が原告の主張する内容の義務を定めたものかどうかの問題のほかに,2 被告のような地方公共団体がこれらの事項を行う主体となるのかどうかの問題がある。そこで,まず1の点について検討する。

イ 本件条約2条1項柱書きは 「締約国は,人種差別を非難し,また,あらゆる形態の人種差別を撤廃する政策及びあらゆる人種間の理解を促進する政策をすべての適当な方法により遅滞なくとることを約束する。このため 」と規定し,これを受けて,(a)~(e)の5つの事項を定め,そのうち(d)は 「各締約国は,すべて,の適当な方法(状況により必要とされるときは,立法を含む。 )により,いかなる個人,集団又は団体による人種差別も禁止し,終了させる 」と規定している。

 本件条約2条1項に定める上記事項を締約国が行うことについては,本件条約5条において「基本的義務」とされている。しかし,この文言から当然に,本件条約2条1項に定める事項が個別の国民に対する締約国の具体的な義務であると解することはできない。

 同項柱書きは,締約国が差別撤廃政策等を適当な方法により遅滞なく執るということを定めているが,その文言から明らかなとおり,その内容は一般的,抽象的なものであって,締約国が執るべき政策等が一義的に明らかであるということはできない。したがって,同項柱書きをもって,差別撤廃に関して,個別の国民に対する締約国の具体的な作為義務を定めた規定であると解することはできない。

 同項(d)は,同項柱書きに規定する差別撤廃政策等を執るために行うべきことをより具体的に列挙したものの一つであるが,その内容は,締約国が,すべての適当な方法(状況により必要とされるときは,立法も含む )により,私人間の人種差別を禁止し,終了させるというものである。このうち 「禁止し,終了させる」という部分だけに着目すれば,一義的な内容のものであるようにもみえるが,それを「すべての適当な方法(状況により必要とされるときは,立法を含む )により」行うとしているのであり,私人間の人種差別を禁止し,終了させるために執るべき方法の一つとして立法措置を予定しているものの,それを絶対の方法とはしておらず,また,立法措置を執るとしてもいかなる規制内容の立法とするかは明らかでない。したがって,同項(d)は,立法権発動要件や立法の内容をあらかじめ指示するような具体的な命令規範ないし行為規範に当たるものではないし,そもそも,締約国が私人間の人種差別を禁止し,終了させるために立法措置を執ることを一義的に定めたものということはできない。そして,本件条約のその他の規定を併せ検討しても,同項(d)が,私人間の人種差別の禁止及び終了に関して,個別の国民に対する締約国の具体的な作為義務を定めたものであると解することはできない。

ウ 以上の点に関し,原告は,本件条約5条柱書き及び同条(e)(iii)において,「第2条に定める基本的義務に従い,締約国は,特に次の権利の享有に当たり,あらゆる形態の人種差別を禁止し及び撤廃すること並びに人種,皮膚の色又は民族的若しくは種族的出身による差別なしに,すべての者が法律の前に平等であるという権利を保障することを約束する 」として 「住居についての権利」を挙げていることをとらえて,住居についての権利を侵害する差別を禁止する義務は,本件条約の下で法的義務とされていることは明らかであると主張する。

 しかし,本件条約5条は,人種差別が特に生じやすいと考えられる権利を例示的に列挙し,締約国がそれらの権利に係る人種差別を禁止することなどを規定するものであるところ,その禁止等は「第2条に定める基本的義務に従い」行うとしているのであって,これとは別に執るべき具体的方法等を規定しているものではない。

 したがって,本件条約2条1項柱書き及び同項(d)に定める事項の内容が,本件条約5条と相まって,個別の国民に対する締約国の具体的な作為義務を定めたものと解することはできない。

エ 以上によれば,本件条約2条1項柱書き及び同項(d)は,一義的に明確な法的義務を定めたものとはいえないのであり,このような規定内容に照らすと,上記規定は,人種差別の禁止,終了に関して締約国に対する政治的責務を定めたものと解するのが相当である。以上の次第であるから,上記2の点について判断するまでもなく,原告の上記アの主張は採用することができない。

(4) なお,原告は,I上記(3)アの主張に続けて,本件条約が国及び地方公共団体に対して人種差別を禁止し,終了させるという明確な目的を定めていることから,国及び地方公共団体は当該目的達成のためにいかなる手段を執るかという点に裁量を有するが,何もしないという選択肢を有しているものではないとした上で,国及び地方公共団体は,立法によらないで人種差別禁止のための措置,施策を執ったものの,それによって人種差別を禁止し,終了させることができない場合には,人種差別を禁止する法的義務を課して人種差別を禁止し,終了させる以外に適当な方法はなく,この場合には,その旨の立法措置を執らなければならない旨(第3の1(1)ア(イ)c及びd) ,II被告との関係において,被告が本件条約発効以前に行っていた立法措置以外の方法による施策等では,大阪市内において入居差別を解消できない状況にあったところ,被告は,本件条約の発効により差別禁止条例を制定する法的義務を負ったにもかかわらず,同義務に違反して差別禁止条例を制定していない旨主張する(第3の1(1)イ)。

 しかし,原告の上記各主張は,本件条約2条1項(d)に定める差別禁止義務が具体的な作為義務であることを前提とした主張であるところ,当該前提主張は,上記(3)で説示したとおり採用することができず,したがって,原告の上記各主張は,その前提を欠くものとして採用することができない。また,原告の上記IIの主張は,大阪市内において私人間の人種差別行為を禁止するために立法措置を執ることが最後の手段として必要不可欠な状況に至っていることをいう趣旨のものであるが,そのような状況に至る場合というのは容易に想定し難い事態であり,原告が主張する差別事象に関する事実関係を前提としても,大阪市内において,本件条約が発効した平成8年1月の時点及びそれから本件入居拒否が生じた時点までの間において,上記の状況に至っていたと評価するのは困難である。

2 結語
 以上によれば,原告の請求は,その余の点について判断するまでもなく,理由がないというべきである。よって,原告の請求を棄却することとし,訴訟費用の負担につき民訴法61条を適用して,主文のとおり判決する。

    大阪地方裁判所第20民事部

            裁判長裁判官  青 野  洋 士

                裁判官   武 部  知 子

                裁判官   高 山    慎


 

 

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【判例紹介】 建物賃借権の無断譲渡が信頼関係を破壊しない特段の事情があるとし事例

2008年06月07日 | 借家の諸問題

 判例紹介

 建物賃借権の無断譲渡につき、信頼関係を破壊しない特段の事情があるとして、解除の効力が否定された事例 東京地裁平成4年7月29日判決、判例時報1462号122頁)

 (事実)
 家主は借家人に対し、寿司屋営業の目的で建物を賃貸していたが、借家人が本件建物を無断譲渡したとして本件賃貸借契約を解除し、本件建物の明渡しを求めた。
 これに対し、借家人らは本件建物賃借権の無断譲渡があるとしても、信頼関係を破壊しない特段の事情があると争った。


 (争点)
 本件無断譲渡について、信頼関係を破壊しない特段の事情があるか否か。


 (判決の要旨)
 裁判所は、借家人から本件建物賃借権を譲受けたものが借家人の義理の兄弟であり、両者の交代の前後を通じて本件建物での営業内容に大きな変化がないことまた、右本件賃借権譲渡が無償で行われたものであり、賃料支払につき延滞がなく、家主の不利益がさほど大きいと認められないこと、他方本件の建物明渡が認められた場合には本件建物賃借権を譲受けたものの家族の生活の拠点が奪われることになるので、本件賃借権の譲渡は信頼関係を破壊しない特段の事情があるというべきであるとして、家主の本件建物明渡請求を棄却した。

 なお、この場合、誰が借家人になるのかの点については、賃借権の譲受人ではなく、依然として、本件賃借権の譲渡人であると判示した。


 (短評)
 判例は、賃借人に無断譲渡・転貸があった場合には、それだけで、賃貸借契約をの解除を認めるのではなく、右譲渡・転貸が賃借人に対する信頼関係を破壊するに足りない特段の事情がある場合には、賃貸借契約の解除を認めないとする。(最高裁昭和39年6月30日判決、民集18‐5‐991等)

 これまで右判例理論に基づき、地方裁判所や高等裁判所段階でも多数の判決が存在するが、本判決も、賃借権の無断譲渡に該当するとしながら、判決理由の内容からして契約解除を認めなかったものであり、従来の判例理論に従ったものといえる。

 なお、賃貸借解除が認められない場合の賃借人については、近時の判例理論は、賃借権の譲渡があった場合と同様に賃借権の譲受人がなるというのが通例である。しかし、この点本判決は異例といえる。

(1993.11.)

(東借連常任弁護団)

東京借地借家人新聞より

 

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【判例紹介】 都市再開発事業の区域内の店舗賃貸借契約が、一時使用でないとされた事例

2008年06月06日 | 契約・更新・特約

 判例紹介

 都市再開発事業の区域内の店舗賃貸借契約が、一時使用の目的でなされたものでないとされた事例 (東京地裁平成4年5月29日判決、判例時報1446号67頁)

 (事実)
 家主と借家人等との間で昭和42年から昭和43年にかけて店舗賃貸借契約が結ばれその契約条項中に、「田無駅前都市計画実施に至るまで」と定めていた。なお家主が地主から本件土地を賃借する際、「本件土地は田無駅都市計画実施の際に東京都もしくは田無市に収用されるものであることを確認し、できる限り簡易仮設的な建築をなすもの」としていた。

 (争点)
 都市再開発事業の区域内にある本件建物の賃貸借契約が、右再開発事業の権利変換期日の前日をもって終了することを特約した一時使用のもか否か。

 (判決の要旨)
 裁判所は、本件店舗賃貸借契約書上、賃貸借期間について、「田無駅前都市計画実施に至るまで」となっているが、都市再開発法が施行されたのは、昭和44年6月であるから昭和42年から昭和43年にかけての契約締結において、都市再開発計画の実施までと合意したものでないことは明らかであること、また、右賃貸借期間の定めが、文理上も都市再開発法の規定よる権利変換期日までの意味であると読むことができないこと、さらに本件建物賃貸借契約において、賃料額が当時の相場と比較して格別安いものではなく、その後賃料が4、5年の間隔で値上げされ、昭和62年以降は毎年値上げされていたこと及び敷金として賃料の6か月相当分が交付されていたこと、さらに、100万から1000万単位での保証金が交付されていたことなど通常の長期の賃貸借契約の内容と格別異なることがないこと等の諸事情を考慮して、一時使用目的とはいえないと判示した。

 (短評)
 判例は、一時使用の目的であるか否かの判断に当たっては、賃貸借期間の長短ばかりでなく、賃貸借契約の目的、動機、その他の事情を考慮して、その賃貸借契約が短期期間内に限り存在させる趣旨のものであるか否かを基準としている。

 本件判決は、右判例上確立した基準に基づき契約書の文言にとらわれることなく総合的に判断して、一時使用目的でないと判断したもので参考となるものである。

 なお、新法においては、取壊し予定の建物賃貸借が創設された関係上、この種の事件についての裁判所の判断も分かれることになろう。

(1993.06.)

(東借連常任弁護団)

東京借地借家人新聞より

 

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【判例】 定額補修分担金・更新料返還請求事件 1 (平成20年04月30日 京都地方裁判所)

2008年06月05日 | 敷金(保証金)・原状回復・消費者契約法

 判例紹介

 借主が貸主との間で賃貸マンションの賃貸借契約とともにそれに付随して定額補修分担金特約及び更新料特約を締結し、契約締結時に定額補修分担金16万円、更新料特約に基づいて契約締結2年経過後の更新時に更新料6万3000円を各支払った。

  退去後、貸主に対し、各特約は消費者契約法10条などにより無効であるとして、不当利得返還請求権に基づき22万3000円及び遅延損害金の支払を求める事案。

 京都地裁は、退去時の原状回復費を賃料とは別に賃料の2.5倍を一方的に負担させる定額補修分担金特約は消費者契約法10条に違反し無効とした。

 なお、更新料に関しては貸主が既に全額(6万3000円)と遅延損害金全額1604円の合計6万4604円を借主に支払い、更新料返還請求は解決済みなので、更新料関係は棄却された。(平成20年04月30日京都地方裁判所 第6民事部)


事件番号 :平成19年(ワ)第2242号
事件名 :定額補修分担金・更新料返還請求事件
裁判年月日 :H20.4.30
裁判所名 :京都地方裁判所
:第6民事部
結果 :一部認容一部棄却

 判示事項の要旨定額補修分担金特約が消費者契約法10条に該当し無効であるとして,同特約に基づき支払われた金員の返還請求が全額認容された事例

 


主        文

1 被告は,原告に対し,16万円及びこれに対する平成19年8月5日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。

2 原告のその余の請求を棄却する。

3 訴訟費用はこれを10分しその7を被告の,その余を原告の各負担とする。

4 この判決は第1項に限り仮に執行することができる。


事 実 及 び 理 由

第1 請求
 被告は,原告に対し,金22万3000円及びこれに対する平成19年8月5日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。


第2 事案の概要など
 1 事案の概要
 本件は,原告が,被告との間で賃貸マンションの賃貸借契約とともにそれに付随して定額補修分担金特約(以下「本件補修分担金特約」という。)及び更新料特約(以下「本件更新料特約」という。)を締結し,同補修分担金特約に基づいて同特約締結時に定額補修分担金16万円,同更新料特約に基づいて同契約締結2年経過後の更新時に更新料6万3000円を各支払ったところ,被告に対し,同各特約は消費者契約法10条などにより無効であるとして,不当利得返還請求権に基づき22万3000円及びこれに対する訴状送達の日の翌日である平成19年8月5日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求める事案である。

2  前提事実(ただし,文章の末尾に証拠などを掲げた部分は証拠などによって認定した事実,その余は当事者間に争いのない事実)


(1)  原告は,株式会社長栄の仲介により被告との間で,平成17年3月30日,京都市伏見区京町1丁目250-1所在の京町壱番館212号室(以下,「本件物件」という。)について以下の内容の賃貸借契約を締結した(以下,「本件賃貸借契約」という。)。
 ア 賃 料   月額6万3000円
 イ 共 益 費   月額 6000円
 ウ 契約期間   平成17年3月31日から平成19年3月30日まで
 エ 更 新 料    前家賃の1か月分
 オ 定額補修分担金   16万円

(2)ア  本件賃貸借契約にかかる契約書(以下,「本件賃貸借契約書」という。)には以下の記載がある(甲1。なお,同契約書中「甲」は賃貸人たる被告のことであり,「乙」は賃借人たる原告のことであ。)。

 頭書(抜粋)
 契約更新料   前家賃の1ヶ月分の円
 敷金(保証金)   (空白)
 定額補修分担金   金160,000円
 家賃   金63,000円(月額)
 共益費   金6,000円(月額)
 第1条省略
 第2条[契約期間,更新]

 ①省略

 ② 乙は,契約期間の満了する60日前までに申し出れば,契約更新をすることができる。但し乙に賃料滞納等の契約違反がみられるとき,甲は契約更新を拒めるものとし,乙は契約の更新を主張できないものとする。

 ③ 乙は,契約を更新するときは,契約期間満了までに更新書類(覚書,乙・丙・丁の印鑑証明書等)提出とともに,頭書の更新料の支払いを済ませなければならない。又,法定更新された場合も同様(乙は更新料を甲に支払わなければならない)とする。尚,契約更新後の入居期間に拘わらず更新料の返還(月割り精算等の返還措置)は一切応じない。

 ④ 乙は甲に対し,法定更新・合意更新を問わず,契約開始日から2年経過する毎に更新料を支払わなければならない。

第3条[賃料等]
 ① 乙は,頭書の記載に従い賃料等を甲に支払わなければならない。振込みの場合の振込手数料は,乙の負担とする。

 ②  一ヶ月に満たない期間の賃料は,一ヶ月の実数を日割り計算した額(円単位は切り上げとする)とする。但し,退去の月については,退去日が月末以外の日であっても,日割り計算はしないものとする。

 ③ 甲は,次の各号のいずれかに該当するとき,賃料を変更することができる(第2条の更新時にこのような事情がみられるときも同様とする)。この場合,甲から乙に通知することによって,変更の効力を生
ずる。
 a 土地建物に対する租税その他の負担の増加が生じた場合。
 b 物価又は土地建物の価格上昇・その他,経済事情の変動により,家賃が不相当となったとき。
 c 近隣の建物の家賃に変動が生じた場合。
 d 建物に改良を施したとき(リフォーム・設備投資等)。

 ④ 乙が,頭書の賃料等の支払いを怠ったときは,納付期日の翌日から一日につき年(365日当たり)14.6%の割合で遅延損害金を甲に支払わなければならない。

 ⑤ 乙は,電気・ガス・水道・その他の専用設備にかかる使用料を負担するものとする。

第4条省略

 第5条[定額補修分担金]
 本物件は,快適な住生活を送る上で必要と思われる室内改装をしております。そのために掛かる費用を分担し(頭書記載の定額補修分担金)賃借人に負担して頂いております。尚,乙の故意又は重過失による損傷の補修・改造の場合を除き,退去時に追加費用を頂くことはありません。

 ① 乙は,本契約締結時に本件退去後の賃貸借開始時の新装状態への回復費用の一部負担金として,頭書に記載する定額補修分担金を甲に支払うものとする。

 ② 乙は,定額補修分担金は敷金ではないということを理解し,その返還を求めることができないものとする。

 ③ 乙は,定額補修分担金を入居期間の長短に関わらず,返還を求めることはできないものとする。

 ④ 甲は乙に対して,定額補修分担金以外に本物件の修理・回復費用の負担を求めることはできないものとする。但し,乙の故意又は重過失による本物件の損傷・改造は除く。

 ⑤ 乙は,定額補修分担金をもって,賃料等の債務を相殺することはできない。


第6条ないし第9条省略

第10条[退去時の回復・修繕]

 ① 乙は甲に対し,入居時に頭書の定額補修分担金を支払っているため,退去時においては次の場合のみ,本物件の回復・修繕をするものとする。

  a  乙または使用者により,本物件または付属設備に造作・加工・模様替え・その他変更がある場合。
  b  検査の結果,乙の故意又は重過失(軽過失を除く)により内装設備の修繕が必要と判断し,甲が乙に通知した時。

 ② 本契約が終了した時は,乙は前項の回復・修繕箇所について甲の検査を受けるものとする。

 ③ 乙が本条第1項・2項に定める原状回復をしないときは,甲が乙に代わってこれを実施し,その費用は乙の負担とする。この場合,頭書の敷金(保証金)より精算するものとするが,原状回復費用が敷金(保証金)より不足する場合には,乙は直ちにその支払いに当たるものとする。


第11条ないし第14条省略


第15条[紛争その他]
 ① 本契約に関する紛争に関し訴訟を提起する必要が生じたときは,京都地方裁判所に提起するものとする。

 ② 以下省略

 イ  本件賃貸借契約書の第5条は,他の条項と異なり,ゴチック体で印字されており,その下部には「私は,本契約締結にあたり以上の説明を受け,上記事項を熟読の上,ここに定額補修分担金の支払いを了承し,その支払いに合意致します。」との記載があり,同記載の下のところに平成17年3月17日の日付及び原告の署名押印がある(甲1)。

 (3) 原告は,被告に対し,本件賃貸借契約を締結した際,本件補修分担金特約に基づいて定額補修分担金16万円を支払った。

 (4) 原告は,被告に対し,平成19年2月ころ,本件更新料特約に基づき1か月分の賃料に相当する更新料6万3000円を支払った。

 (5) 原告は,平成19年4月2日,本件物件を退去した。

 (6) 本件訴訟にかかる訴状は,平成19年8月4日,被告に送達された(顕著な事実)。

 (7) 被告は,原告に対し,平成20年2月6日の本件口頭弁論期日において,更新料6万3000円及びこれに対する訴状送達の日の翌日である平成19年8月5日から同弁論期日までの遅延損害金全額1604円の合計6万4604円を支払い,原告は同日同金員を受領した(顕著な事実)。


 (定額補修分担金・更新料返還請求事件 2 )へ続く


【判例】 定額補修分担金・更新料返還請求事件 2 (平成20年04月30日 京都地方裁判所)

2008年06月05日 | 敷金・保証金・原状回復に関する判例等

3 争点及び争点に対する当事者の主張

(1) 本件補修分担金特約は消費者契約法10条に該当して無効か(争点(1))

(原告)
ア (ア)  賃借人は,賃借物の使用の対価として賃料の支払をしているところ(民法601条),賃料の他に通常の使用によって生じる賃借物件の損耗・経年変化に伴う回復費用を負担する義務がないが,本件補修分担金特約は同通常の使用によって生じる損耗・経年変化に伴う回復費用を賃借人に負担させる内容を含んでいる。ところで,同分担金特約による分担金によって補修の対象とされる部分には形式上は賃借人の過失による損耗部分の回復費用分も含むものであるが,同分担金の額は従来の敷金として授受されていた程度の金額が定められているうえ,賃借人の過失による損耗部分の回復費用が生じる可能性も一般的に多くはなく,また,賃借人が敷金相当額程度の原状回復義務を負うことは極度に汚く使用しない限りありえないことである。したがって,同分担金特約ないし同分担金は,賃借人に過失損耗部分のみならず通常損耗部分の回復費用を負担させようとするものである。

 同分担金特約は,「敷金」を「定額補修分担金」と言い換えているにすぎない。

 (イ)  また,同分担金特約は,賃借人の故意・重過失による損傷の回復費用について,賃貸人が賃借人に対して同分担金とは別途請求できることになっており補修費用の二重取りの可能性がある。

 (ウ) 以上のとおり同分担金特約は,民法の規定の適用による場合に比し賃借人である原告(消費者)の義務を加重している。

イ  本件補修分担金特約は上記アで記載したとおり通常の使用によって生じる損耗に伴う回復費用を賃借人に負担させるもので,故意・重過失による損傷の回復費用について二重取りの可能性もある(不当性)。また,賃貸人は,事業者であり,コスト計算もできる(情報力の格差)。そして,賃借人(消費者)は,通常,賃貸借契約の際,同分担金特約の成否について賃貸人と間で対等の立場で修正削除をめぐって交渉することは期待しがたい(交渉力の格差)。

 以上のとおり本件補修分担金特約は民法第1条第2項に規定する基本原則に反して消費者の利益を一方的に害するものである。

ウ  したがって,本件補修分担金特約は,消費者契約法10条に該当し無効である。

(被告)
ア  賃貸借契約の賃借人は,賃借物件について善管注意義務を負っている(民法400条)。したがって,賃借人は,軽過失であっても同過失によって賃借物件を損傷などした場合には原状回復義務を負担している。

 本件補修分担金特約は,いわゆる自然損耗・通常使用の範囲を超える賃借人の軽過失による汚損・破損について,その原状回復費用を賃借人の負担とせず,故意・重過失による特に著しい汚損・破損が生じた場合のみ,賃借人にその費用を負担させる内容となっている。

 以上のとおり,同分担金特約は民法の任意規定の適用による場合に比し,賃借人の義務を軽減しているというべきである。

 したがって,本件補修分担金特約は,消費者契約法10条前段に該当しない。

イ (ア)  本件補修分担金特約は,原状回復費用を賃貸人,賃借人の双方がそれぞれ負担することとし,賃貸借契約締結時においては,原状回復費用が確定していないので賃借人負担部分を定額で確定させ,同額を超えて原状回復費用が発生しても賃貸人は,賃借人に費用を請求せず,原状回復費用が同額以下であっても賃借人は賃貸人に異議を述べないこととして,双方がリスクと利益を分け合う交換条件的内容を定めたものである。

  なお,原告は,賃借人が16万円相当額の原状回復義務を負うことは極度に汚く使用しない限りあり得ないと主張するが,同主張は経験則に反する。

  また,原告は,故意・重過失による汚損・破損の場合は二重取りとなる可能性を指摘するが,同分担金特約によれば,故意・重過失による損耗でも同分担金の額を超えない限り,追加請求をしない内容となっている。

 (イ)  仮に定額補修分担金特約の定めのない賃貸借契約の場合,賃借人は,退去時において,自らの過失による破損部分について原状回復費用を負担しなければならないこととなるため,気を遣って居住しなければならない。また,退去時において,賃借人と賃貸人との間でどのような汚損・破損が自然損耗・通常使用の範囲なのかが争われることも多々ある。

  しかし,同分担金特約が,賃貸借契約締結時になされていれば,賃借人は,退去時における同紛争リスクを回避することがことができるし,また,通常であれば原状回復費用のことを気にかけることなく,安心して居住することができるなど紛争のリスク減少というメリットを享受できる。

 (ウ)  本件補修分担金特約は,上記のとおり賃借人の義務を民法の原則よりも軽減したうえで,賃借人・賃貸人の双方がそれぞれのリスクと利益を分け合う交換条件的な内容を定めたものである。したがって,本件補修分担金特約は,消費者の利益を一方的に害するものでもないから,消費者契約法10条後段にも該当しない。

ウ  そうすると,本件補修分担金特約は,消費者契約法10条に該当せず有効である。

 (2) 本件更新料特約は消費者契約法10条もしくは借地借家法により無効か(争点(2))

(原告)
ア (ア)  更新料が賃料の補充であるとの説明があるが,以下の事情からすると,そのような説明には合理性がない。

  すなわち,賃料補充という考えの合理性を裏付ける事由として不動産価格の上昇があるが,同前提事実が存在しないこと,1年ないし2年の賃貸借契約期間中に賃料について不足分が生じるとは考えにくいこと,賃料増額請求による補充が可能であること。

 (イ)  更新料が異議権の放棄や異議権行使に伴う紛争回避の対価という説明があるが,以下の事情からすると,そのような説明にも合理性がない。

  賃貸人は,期間満了の6か月前まで異議権を行使しなければならない(借地借家法26条1項)ところ,通常,更新料は期間満了のころに支払われており同時期には異議権が発生しないことが確定している。また,異議権の行使の有無にかかわらず,合意更新時に一律に更新料が支払われている。

 (ウ)  また,更新料特約が賃借権強化の対価という説明があるが,以下の事情からすると,そのような説明にも合理性がない。

  合意更新がされず法定更新がなされ期間の定めのない賃貸借契約となった場合であっても,通常,賃貸人の正当事由に基づく解約が認められる場合はほとんどない。さらに,更新期間が1年間もしくは2年間の契約であれば,更新後6か月間もしくは1年6か月間の間に賃貸人に解約申入れの正当事由が発生しなければ合意更新した場合と賃貸借継続の期間の違いが生じないところ,同期間内に同正当事由が発生することは現実的にはほとんどありえない。また,仮に賃貸人の正当事由に基づく解約が認められたとしても合意更新した場合と賃貸借継続の期間の違いは6か月間ないし1年6か月間に過ぎない。以上のとおり,更新期間が1年ないし2年といった短期の賃貸借契約の場合には,法定更新の場合と比べ,合意更新によって賃借権を確保するという実質的な意味は認められず,更新料に賃借権強化の対価という性質が含まれると考えることは契約当事者の合理的意思に反する。

 (エ)  以上のとおり更新料は,①賃料の補充,②異議権放棄の対価及び③賃借権強化の対価という複合的な性質を有するものではなく,何ら対価としての合理性はない。

イ(ア)  消費者契約法10条前段の要件は必須要件ではないと解するべきである。仮にそれが必須要件であるとしても,民法上,賃貸借契約における使用の対価としては賃料のみが予定され(同法601条),権利金,礼金,更新料については何ら規定していない。そのような法的根拠のない名目金員を考慮して賃料額の設定を行うことは,民法上,全く予定していないところで,本件更新料特約は同法601条の賃料支払義務に加えて賃借人の義務を加重するものである。したがって,同要件に該当する。

 (イ)① 上記のとおり更新料は何ら対価としての合理性を有していない。更新料は賃借人から賃貸人に対して,単に慣行的に支払われてきた贈与としか説明できず,現代の住宅事情のもとで賃借人が賃貸人に一方的に贈与(謝礼)を行う根拠はない。

  ② また,現在使われている更新料特約は賃借人が賃借物件を選定する際に主に賃料の額に着目する点を利用して,賃借人に対し,賃料については割安な印象を与えて契約を誘引し,結局は割高な賃料を取るのと同じ結果を得ようとする欺瞞的な目的で使用されている。

  ③ そして,更新料はその賃貸借契約の際,賃借人に対してその意味内容について実質的な説明がなされておらず,賃貸人と賃借人の間には情報格差が存在し,また,賃貸借契約は一般に賃貸人が準備した個別の契約条項に従うか否かであって,そこには契約条項の変更を交渉するという対等性がなく,交渉力の格差があることが明らかである。

  ④ なお,被告は,借地借家法の制定,改正時に更新料が規制されなかったことをもって立法者の意思は更新料については私的自治に委ねる意思である旨主張する。しかし,借地借家法は更新や賃貸人からの解約において徹底して賃借人の保護を図っているのであり,また,更新にあたって賃借人に対価の支払を要求しておらず,さらに,立退料が明文化されて賃貸人が更新拒絶するためには賃貸人に出捐を求めていることなどからすると,借地借家法の趣旨は更新料の支払については消極であると解するのが相当である。

 ⑤ 以上のとおり本件更新料特約は民法第1条第2項に規定する基本原則に反して消費者の利益を一方的に害する条項である。

 (ウ)  したがって,本件更新料特約は消費者契約法10条により無効である。

ウ 本件更新料特約は法定更新時にも支払義務があるとされている。借地借家法は法定更新について事前の更新拒否の通知のないこと(26条1項),期間満了後の異議がないこと(同条2項),正当事由のないこと(28条)など,法定更新が認められない場合について厳格な要件を定め,これに反する特約で賃借人に不利なものを無効としている(30条)。

 法定更新にも更新料支払条項の適用があるとする本件更新料特約は,借地借家法の法定更新の要件に反して賃借人に不利なものであるから,借地借家法上無効である。

(被告)
ア(ア) 賃貸人は,権利金,礼金,更新料なども含めた全体の収支計算を行ったうえで,毎月の賃料額を設定しており,その結果生じる設定賃料と本来受けるべき経済賃料との差額について更新料によって補充することは十分合理性を有する。したがって,更新料は賃料の補充としての性質を有する。

 (イ) 更新料は,異議権の発生が不確定である時点においてなされるものであり,更新料の支払によって画一的に当該契約期間内の異議権行使に伴う紛争を回避することを目的とするものである。また,近時の裁判例では不動産の有効利用の必要性がある場合に賃貸人に異議権が認められる場合がある。したがって,更新料は異議権放棄の対価としての性質を有する。

 (ウ) また,更新料は賃借権強化の対価としての性質を有する。

 (エ) 以上のとおり更新料は,①賃料の補充,②異議権放棄の対価及び③賃借権強化の対価という複合的な性質を有すると解するべきであり,対価性を有する相当なものである。

イ(ア) 更新料は,上記アで記載したとおり①賃料(民法601条)の補充,②異議権放棄の対価及び③賃借権強化の対価という複合的な性質を有している。

 また,更新料併用方式の賃借物件は月払賃料一本方式の物件よりも,月額賃料が低くなるので,更新前に退去予定の者,更新時には収入が見込める者,更新料補助を受けることができる者にとっては,メリットがある。

 したがって,更新料特約は民法の規定に根拠を有し,対価性もあり,民法の規定の適用による場合に比して消費者の権利の制限又は義務の加重をするものではなく,消費者契約法10条の前段要件に該当しない。

(イ)① 消費者契約法10条後段の要件は当該契約条項によって消費者が受ける不利益と,その条項を無効とすることによって事業者が受ける不利益を衡量し,両者が均衡を失していると認められる場合を意味すると解される。

 また,消費者契約法の立法目的は消費者と事業者との間の情報の質ならびに交渉力の格差を是正し,消費者の利益を擁護することにある(同法1条)。そこで,同法10条後段の「民法第1条第2項…消費者の利益を一方的に害する」場合であるが,事業者の反対利益を考慮してもなお,消費者と事業者との間の情報格差・交渉力格差の是正を図ることが必要な場合を意味するとするのが相当である。

  ②a  本件更新料特約が無効となると,被告は,更新料という賃料の補充部分を失うことになるところ,契約は守られるという合理的期待に反して計算した収入を得られず,賃貸借の収支関係を覆滅せしめられることになり不測かつ重大な不利益を被る。また,被告は,地震,火災,有害物質,犯罪,自殺,債務不履行などの様々なリスクを抱えている。

 他方,原告は,本件更新料特約を承諾して本件賃貸借契約を締結し,本件物件を使用したもので,賃料及び更新料の支払と本件物件の使用との間には対価性がある。原告は,本件更新料特約を有効とされたとしても,本来支払わなければならない月額賃料の補充部分を更新料として支払うだけであるため,特段不利益を被ることがない。また,更新料が設定されていることにより,月額賃料は月払賃料一本方式の賃料よりも低く設定されているため,本件更新料特約が無効とされると,原告は,予期していなかった利益を得ることになり不当な利益を得る。そして,原告は,更新料を支払うことにより更新後の期間において被告から解約申入れを受けることがない地位を獲得しており,更新による地位強化のメリットも享受している。

 以上のとおり両者の不利益を比較すれば,本件更新料特約は消費者の利益を一方的に害しているとはいえない。

 b  賃借人は,インターネットや情報誌により膨大な賃借物件の情報を入手することができ,同情報をもとに当該賃貸借契約における経済的負担を勘案して賃借物件を選択し,自ら申込を行っている。

 したがって,現在の賃貸借契約市場において消費者と事業者の間に情報の格差はなく,また,いわゆる借り手市場であるから,消費者契約法が予定している「交渉力などの格差」の前提が存在しない。

 c  建物賃貸借契約は一般的な契約であって,借家契約における「更新料」は約定の契約期間満了後も契約継続する場合にその対価として支払うものであるという意味においては一般に広く理解されている。また,契約締結時の重要事項説明において賃借人に説明されていて,本件においても,原告には重要事項説明書が交付され,更新料の金額について説明を受けたうえで契約締結に至っている。

 更新料特約は,消費者の立場からも賃貸借契約の基本的な内容であるといえ,その点においても消費者契約法8条及び9条に具体的に列挙される不利益条項などとは全く性質を異にする。

 d  借家契約における更新料の授受はこれまで約40年間以上行われ,更新料の支払を内容とする和解や調停成立が相当数あり,また,生活保護法14条,33条の住宅扶助が規定されその実施要領により京都市の場合,平成19年4月1日現在,1世帯6人まで1回あたり5万5000円,7人以上1回あたり6万6000円の更新料扶助が支給されている。

 以上のとおり更新料特約はわが国における借家契約において長年慣行として行われてきたものであり,裁判実務,行政においてもその合意の相当性は確認され,広く社会で承認されてきた。

 e  借地法,借家法の改正の際,更新料の法的規制が問題提起されたが,「借地・借家法改正要綱試案」,平成3年制定の借地借家法,同法の平成8年改正,同11年改正においても更新料に関する規制はなされていないことからすれば,立法者の意思としては更新料の合意そのものが不合理なものであるとして法的規制を及ぼすのではなく,専ら私的自治に委ねるべきとの判断が示されていると考えるべきである。

  ③ 以上によれば,本件更新料条項は,民法第1条第2項に規定する基本原則に反して消費者の利益を一方的に害する条項であるとはいえない。

 (ウ)  したがって,本件更新料特約は消費者契約法10条に該当せず有効である。

ウ  更新料は,賃料の補充の性質を有するものであるから,合意更新の場合だけでなく,法定更新の場合も支払われるべきものである。更新料特約の文言上,法定更新についても更新料支払義務が明確に規定されている場合,更新料支払義務が発生する。

 したがって,本件更新料特約が借地借家法により無効となることはない。


(定額補修分担金・更新料返還請求事件 3) へ続く


【判例】 定額補修分担金・更新料返還請求事件 3 (平成20年04月30日 京都地方裁判所)

2008年06月05日 | 敷金・保証金・原状回復に関する判例等

第3 当裁判所の判断

 1 前提事項

 前提事実並びに証拠(甲1)及び弁論の全趣旨によれば,原告は,平成17年3月30日,株式会社長栄の宅地建物取引主任者から本件補修分担金特約を含めた本件賃貸借契約の重要事項について説明を受けたうえで,被告との間で本件補修分担金特約も含めて本件賃貸借契約を締結したことが認められる。

2 本件補修分担金特約が消費者契約法10条により無効となるか(争点(1))

 (1)  前提事実によれば,原告は,消費者契約法2条1項の「消費者」に,被告は,同条2項の「事業者」に該当する。

 (2)  賃貸借契約は賃借人による賃借物件の使用とその対価としての賃料の支払を内容とするところ,賃借物件が建物の場合,その使用に伴う賃借物件の損耗は賃貸借契約の中で当然に予定されているものである。そのため,建物の賃貸借においては賃借人が社会通念上通常の使用をした場合に生ずる賃借物件の劣化又は価値の減少という投下資本(賃借物件)の通常損耗の回収は通常,賃貸人が減価償却費や修繕費等の必要経費分を賃料の中に含ませ,その支払を受けることで行われる。

 そうすると,賃借人は,賃貸借契約が終了した場合には賃借物件を原状に回復して賃貸人に返還する義務を負うものの(民法616条,598条),原則として,賃借人に通常損耗についての原状回復義務を負わせることはできないものと解するのが相当である。

 もっとも,賃借人は,故意や善管注意義務違反などの過失によって生じた賃借物件の汚損ないし損耗部分については修繕費相当の損害賠償義務を負う。

 そうすると,賃借人は,民法上,原則として,故意過失による同汚損ないし損耗部分の回復費用を負担すれば足り,通常損耗の回復費用については賃料以外の負担をすることは要しないといわなければならない。

 (3)  本件補修分担金特約は,それに基づいて支払われた分担金を上回る回復費用が生じた場合に故意又は重過失による本件物件の損傷・改造を除き回復費用の負担を賃借人に求めることができない旨規定しているところ,回復費用が分担金を下回る場合や,回復費用から通常損耗についての原状回復費用を控除した金額が分担金を下回る場合に賃借人にその返還をする旨規定していないが,同規定していない趣旨からすると,被告も主張するとおりそのような場合,賃借人は,差額の定額補修分担金の返還を求めることができない旨を規定しているといわざるをえない。

 そうすると,同分担金特約は消費者たる原告が賃料の支払という態様の中で負担する通常損耗部分の回復費用以外に本来負担しなくてもいい通常損耗部分の回復費用の負担を強いるものであり,民法が規定する場合に比して消費者の義務を加重している特約といえる。

 (4)ア  前記のとおり賃借人が本件補修分担金特約に基づいて賃料と別個に負担すべき分担金額は一般的に生じる軽過失損耗部分に要する回復費用を踏まえたうえで算定されるべきところ,賃貸人は,当該物件もしくは同種物件の修繕経験を有するのが通常であり,その経験の蓄積により通常修繕費用にどの程度要するかの情報を持ち,計算をすることが可能である。他方,消費者である賃借人は,通常,自ら賃借物件の修繕をするなどの経験はなく,したがって,一般的に賃貸人が有するような上記情報を有するとは考え難い。本件においても,消費者である被告が同情報を有していたと認めるに足りる証拠はない。

 賃借人が負担する同分担金額は賃貸人が有している上記情報を基に設定するのが一般的であると考えられるところ,賃借人となろうとする者が同情報を持ち合わせないままで賃貸人との間で分担金額の程度・内容について交渉することは難しく,仮に交渉できたとしてもその実効性が担保されているとは考え難い。以上の事実を踏まえると,賃貸人が賃借人に負担させるべき分担金額を一方的に決定しているというべきである。

 イ(ア)  本件補修分担金特約は軽過失損耗部分の回復費用を定額に設定しているところ,形式的に見ると,軽過失損耗部分が同定額を超えた場合には賃借人に利益となる余地がある。しかし,実質的に賃借人に利益があるというためには結果的に発生した軽過失損耗部分の回復費用が設定額より多額であったという特段の事情のない限り難しく,少なくとも定められた分担金額が一般的に生じる軽過失損耗部分の回復費用額と同額程度であることが必要である。

 (イ)  本件補修分担金特約に基づく同分担金額は月額賃料の約2.5倍程度に定められているところ,賃借人に軽過失があって,軽過失損耗が発生することは通常それほど多くなく,一般的にその回復費用が月額賃料の2.5倍であると考えることはできない。そうすると,同分担金特約に基づく分担金額は一般的に生じる軽過失損耗部分の回復費用と同額程度とはいえず,また,本件物件について軽過失損耗部分の回復費用が設定額である16万円を超えたと認めるに足りる証拠もない。

 (ウ)  以上によれば,本件補修分担金特約は賃借人である原告にとって有利であるとまではいえず,かえって,賃借人に月額賃料の約2.5倍の回復費用を一方的に支払わせるもので,しかもその額の妥当性について消費者である原告に判断する情報がないこと,以上の事実にあわせて通常損耗にともなう回復費用について賃料とは別個に賃借人に負担させるものであることを総合すると,消費者である原告に不利益を負わせるものと評価せざるを得ない。

 ウ  そうすると,本件補修分担金特約に基づいて原告に対し,分担金の負担をさせることは民法第1条第2項に規定する基本原則に反し消費者の利益を一方的に害するものといえる。

 エ(ア)  この点,被告は,本件補修分担金特約は原状回復費用が定額に抑えられていて原告に有利である旨主張する。しかし,上記イ,ウで説示したとおり本件補修分担金特約は実質的にみて賃借人である原告に有利とまではいえない。したがって,被告の同主張は採用できない。

 (イ)  また,被告は,定額補修分担金特約の定めがある賃借物件では,賃借人が退去時における原状回復費用をめぐる紛争リスクの減少というメリットを享受することができる旨主張する。しかし,かかる紛争リスク減少のメリットは賃借人だけではなく,賃貸人も同様に享受しているのであり,賃貸人も享受するメリットを発生させるために賃借人のみが通常損耗部分の回復費用を含む分担金を負担することは不当であるといわざるをえない。

 (ウ) また,被告は,定額補修分担金特約のある賃借物件では賃借人は軽過失は免責されるので原状回復費用のことを気にかけることなく安心して居住することができる旨主張する。しかし,善管注意義務を尽くそうとする賃借人にとって,同分担金特約の定めをした場合であっても賃借物件を損壊しないように注意しながら生活をすることになるし,善管注意義務を尽くそうとしないような賃借人についてはそのような生活態度からして重過失が認定される蓋然性が高くなり,被告が主張するように軽過失にすぎないとして免責される余地は少ないことになる。したがって,被告が主張するように同分担金特約の存在によって一般的に賃借人が安心して居住することになるわけではない。

 (5)  以上によれば,本件補修分担金特約は民法の任意規定の適用による場合に比して賃借人の義務を加重するものというべきで,信義則に反して賃借人の利益を一方的に害するもので,消費者契約法10条に該当し,無効である。

3 更新料について(争点(2))

 前提事実記載のとおり原告は,本件口頭弁論期日において,被告から更新料6万3000円及びこれに対する訴状送達の日の翌日である平成19年8月5日からの遅延損害金全額1604円の合計6万4604円を受領している。そうすると,本件更新料特約が消費者契約法10条に該当して無効か否かを判断するまでもなく,更新料にかかる請求は理由がないことが明らかである。

4 結論
 以上の次第であるから,原告の本件請求は主文1項の限度で理由があるからその限度で認容し,その余は理由がないから棄却することとし,訴訟費用の負担につき民事訴訟法61条,64条を,仮執行宣言につき同法259条をそれぞれ適用して主文のとおり判決する。

          京都地方裁判所第6民事部

               裁判長裁判官  中    村       哲

                   裁判官 和 久 田     斉

                   裁判官 波 多 野  紀 夫

 

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【判例紹介】 借地条件変更の裁判を得ても予定建物と大幅に違う建築は許されない

2008年06月04日 | 増改築・改修・修繕(借地)

 判例紹介


 借地条件変更の裁判を得た賃借人が当初の建築予定建物と規模、構造用途の異なる建物を建築することは認められないとされた事例 東京地裁平成5年1月25日判決、判例タイムズ814号)


(事件の内容)
 木造建物所有の目的で賃借していた借地人が、鉄筋又は鉄骨造3階建の工場を建築しようとして、昭和57年裁判所に借地条件変更の申立をしたところ、850万円の支払を条件に本件借地の目的を堅固建物の所有を目的とするものに変更するという決定がなされた。

 借地人は、右850万円を支払ったが建物を建築しないでいた。9年後に、借地と自己所有地に跨って、当初の予定建物とは異なる鉄骨(一部鉄筋コンクリート)造7階建の貸事務所・駐車場・住宅を建築しようとして、増改築許可の申立を行った。

 本件では、増改築禁止の特約は存在しなかったから、この申立は却下されたが、昭和57年に得た借地条件変更の決定により7階建の建物を建築できるか、借地と自己所有地に跨って建築することができるのか、という問題について詳しく判断を示している。


 (決定の要旨)
 「57年決定においては、堅固建物の規模、構造、用途を明示的に制限はしていないが、申立人が建築予定建物として提示した鉄筋3階建工場が財産上の給付額を算定する資料の一つとして斟酌され、それが条件変更と不可分一体の内容となっているのであって、条件変更を認められた部分と切り離すことはできないから、申立人は57年決定に基づいては、自ら提示した建築予定建物と規模、構造、用途の大きく異なる本件建物を建築することは認められない。

 条件変更の裁判を得た後に当初の予定建物とは異なる建物を建築しようとする場合には、申立人が当初呈示した建築予定建物の規模、構造、用途を借地条件の制限に準ずるものと見て、新借地借家法17条を類推適用することによって相手方との利益調整を図るのが実際的であり、法律の趣旨に合致するのではないかと解される。

 跨り建物は、賃貸借契約の終了に伴う地上建物の収去や買取請求あるいは賃借権譲渡の場合における介入権行使との関係で困難な問題を生じ、賃貸人に対して著しい不利益を与える可能性がある。特に、本件計画建物の場合には、その規模構造及び建築された場合の跨りの状況からすると、建物収去、介入権行使後の建物取得は事実上不可能であることが推認されるので、跨り建物たる本件計画建物を建築することは認められない。」

(1993.09.)

(東借連常任弁護団)

東京借地借家人新聞より

 

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【判例紹介】 親子間の借地の転貸借について承諾料を転借地権価格の1%とした例

2008年06月03日 | 承諾に関して

 判例紹介


 親子間の借地の転貸借について、承諾料を転借地権価格の約1%とした例 (東京地裁平成4年9年25日判決、判例集未登載)


 (事案)
 BはAから宅地35坪を借地しているが、借地上の建物の建替(改築)を計画、しかしBは高齢で無職のためもはや住宅ローンを借りられない。同居を予定している二男Cが建築するしかない。

 この場合、①BからCに借地権を譲渡するか、②Bの借地をCに転貸するか、いずれかによることになる。①の場合は贈与税が気がかりだし、②の場合には無償使用の届出を税務署に提出しておけば贈与税はかからない(その代わりB死亡後B名義の借地権は相続の対象になる。しかし相続税の方が贈与税よりずっと安くてすむ)。

 そこでBCは②を選択。地主Aに改築と合わせて転貸借の承諾を求めたが、Aは間近に更新を控えているので(平成3年12年31日が期間満了)、先ず更新料を支払ってもらい更新契約を済ますことが前提だと主張して譲らない。

 BCは已む無く改築の許可と転貸の許可を求めて借地非訟の申立をした。(BCは新築後は同居する親子であるから、転貸の承諾又は承諾に代わる裁判所の許可がなくても無断転貸を理由とする借地解除が認められる可能性は極めて低いといえるが、そういったトラブル回避のため転貸の点も申立をした)


 (決定)
 1、改築承諾料は更地価格の約3%が相当である。

 2、転貸承諾料について、鑑定委員会は、本件転貸借を許可する場合の財産上の給付を、借地権を第三者に譲渡する場合の譲渡承諾料の慣行(借地権価格の10%程度)に照らし転借地権価格(更地価格の49%。すなわち借地権価格の70%の更にその70%)の約10%が相当だとする。

 しかし、当裁判所は、本件が第三者ではなく親子間の転貸借であること、転貸借後も申立人Bは本件土地の上に居住し土地の利用者に実質的な変更はないこと、転貸借の設定によりBに何ら権利金等の金銭的利益の生じていないことに照らし第三者への借地権譲渡の承諾料割合を用いるのは相当ではなく転借地権価格(前記のように更地価格の49%)の1%が相当と判断する(坪当り1万円強)。

 3、なお相手方Aは更新料の支払を命ずるべきだと主張するが、当事者間の利益を図るためには前記1、2及び賃料も改定することで足りるからAの主張は採用しない。


 (寸評)
 「決定」のうち1は判例通り、3も当然のこと。問題は2の転貸借承諾料であったが、本当はゼロでもよいと考えられる。裁判所が転借地価格の約1%(更地価格に対する割合にすりと0.49%)としたのは、親子間の場合には形式的名目的なものでよいということである。先例が見当らないのでご紹介する次第。

(1992.11.)

(東借連常任弁護団)

東京借地借家人新聞より

 

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【判例紹介】 更地価格の約83%の立退料の提供があっても土地明渡が認められなかった事例

2008年06月02日 | 土地明渡(借地)

 判例紹介

 借地の期間満了に伴う正当事由として自己使用のためのビル建築計画等・更地価格の約83%に相当する立退料の提供があったとしても、木造建物収去土地明渡請求が認められなかった事例 (平成4年6月24日東京高裁判決、判例タイムズ807号239頁以下)

 (事案)
 昭和23年8月頃に木造2階建として建築された都心の中央区銀座すずらん通りの商業地域にある老朽化した建物の明渡請求事件。

 借地人Yは家内営業で靴屋をしているが、従業員はなくYの妻と子で経営している。Yは本件借地の外に都内に53㎡の駐車場を所有。

 昭和43年当時Yと当時の地主との間で昭和52年末までに本件土地上にビルを建築しないときはYが鉄骨耐火構造の建物を新築することを承諾する約定があったが、地主がビルを新築しなかったところ、Yも10年以上も堅固建物の建築が可能であるにも拘らず新築しなかった。

 一審判決は立退き料4億5000万円の支払を条件として地主の請求を認めた。これに対しYは控訴し逆転勝訴した事件である。

 (判旨)
 「被控訴人(地主)は本件土地上に本社ビルを建築して事務所を設ける意向であることが認められるから、被控訴人の自己使用の必要性は一応肯首することができ、また本件建物は改築後既に30年余りを経過した木造建物である上、本件土地は銀座の商業地域、防火地域にあるから、土地の有効利用・地域開発の点からも、本件建物に代えて被控訴人の計画するような耐火性のあるビルを建てることは、地域性に適うものと言えないこともない。しかし被控訴人は本件土地上に借地権が設定され、建物が存在することを認識しながら本件土地を取得したものと見られ、事務所ビルの建築の計画も偶々代物弁済により本件土地を取得したものであり、前示のようなビルの規模も被控訴人の本社及び関連会社の事務所として使用する上で適当かどうか疑問が残る。・・・・・・そうすると、被控訴人の本件土地使用の必要性はそれ程強いものであるとは認め難い」

 「控訴人(借地人)の本件土地使用の必要性は極めて強いものがあり、・・・・・・被控訴人は4億5000万円という高額の立退料提供の申出でをしており、右金額は本件土地の更地価格とされる5億5400万円の約83%余りに当たるけれども、右金額ではほぼ同じ条件の借地を求め店舗も開店することは困難であるに前示の被控訴人の本件土地取得の経緯を考えると、右金額の立退料提供の申出では正当事由が補完されるものとは認め難く結局控訴人の本件土地の継続に対し被控訴人が述べた異議について正当事由が充足されるものとは言えない。」

 (寸評)
 本件は故植木東借連会長(弁護士)が控訴人(借地人)代理となって争われ、一審の判断を覆し逆転勝訴したものである。一審と結論を異にした理由は、地主の土地取得の経緯について感ずる所があったものと推される。正当事由の限界を示す事例として極めて注目されるので紹介した。

(1993.08.)

(東借連常任弁護団)

東京借地借家人新聞より

 

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