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2007(平成19)年度 宅地建物取引主任者資格試験 (借地借家法関係) 2

2009年05月28日 | 民法・借地借家法・裁判・判例

問14】 借地借家法第38条の定期建物賃貸借(以下この問において「定期建物賃貸借」という。)と同法第40条の一時使用目的の建物の賃貸借(以下この問において「一時使用賃貸借」という。)に関する次の記述のうち、民法及び借地借家法の規定によれば、正しいものはどれか。


1 定期建物賃貸借契約は書面によって契約を締結しなければ有効とはならないが、一時使用賃貸借契約は書面ではなく口頭で契約しても有効となる。

2 定期建物賃貸借契約は契約期間を1年以上とすることができるが、一時使用賃貸借契約は契約期間を1年以上とすることができない。

3 定期建物賃貸借契約は契約期間中は賃借人から中途解約を申し入れることはできないが、一時使用賃貸借契約は契約期間中はいつでも賃借人から中途解約を申し入れることができる。

4 賃借人が賃借権の登記もなく建物の引渡しも受けていないうちに建物が売却されて所有者が変更すると、定期建物賃貸借契約の借主は賃借権を所有者に主張できないが、一時使用賃貸借の借主は賃借権を所有者に主張できる。


1【正解
口頭の契約の有効性

 定期建物賃貸借契約 は、書面で契約しなければ有効とはならない。
 一時使用賃貸借契約は、口頭で契約しても有効。

 契約の更新がない定期建物賃貸借は、公正証書などの書面によって契約を締結する場合に限り、有効(借地借家法38条1項)。

 書面で契約しなかった場合は、「契約の更新がないという特約」の部分のみが無効になり、普通借家契約になる。

 ● しかし、一時使用目的の建物の賃貸借では、このような制限はなく口頭で契約しても有効。

定期建物賃貸借 契約期間は、公正証書等の書面で契約しなければ効力を有しない(借地借家法38条1項)。

一時使用目的の建物の賃貸借  借地借家法の借家の規定は適用されず、民法のみで規定。
 「契約は書面による場合に限る」等の規定はないので、口約束でも有効。


2【正解×
契約期間

❒ 定期建物賃貸借契約 は、契約期間を1年以上とすることができる。
❒ 一時使用賃貸借契約 も、契約期間を1年以上とすることができる。

 定期建物賃貸借、一時使用目的の建物の賃貸借とも、契約期間を1年以上とすることについて、当事者の合意で設定できるので、2は間違い。

❒ 定期建物賃貸借   契約期間は、1日単位でもできるので1年未満でもよい。
 また、期間の長さについて制限はない(借地借家法38条1項)。

❒ 一時使用目的の建物の賃貸借  契約期間は、民法602条の短期賃貸借(3年),604条1項の最長存続
 期間(20年)を除けば,条文上特に規定はない。(

) 一時使用目的の建物の賃貸借の存続期間は、従来の判例では5年間とされていた(最高裁 昭和43年1月25日判決)。
 ただし、一時使用目的の建物の賃貸借でも当事者の合意で期間の延長や更新をすることは可能。


3【正解×
中途解約権

❒ 定期建物賃貸借契約 は、中途解約を申し入れることができる場合がある。
❒ 一時使用賃貸借契約 は、期間の定めがあるときは中途解約できない。

 定期建物賃貸借で居住用建物で居住部分が200㎡未満の場合に、転勤・療養・親族の介護その他のやむを得ない事情により、建物の賃借人が建物を自己の生活の本拠として使用することが困難となったときは、契約期間中でも、賃借人から中途解約を申し入れることができる(借地借家法38条5項)。

 一時使用賃貸借契約で期間の定めがある場合は、原則として、契約期間中は賃借人から中途解約を申し入れることはできない。
 ⇒ 中途解約権を留保する特約があればできる。

 一時使用の建物の賃貸借で、期間の定めがない場合は、貸主・借主とも、いつでも解約の申し入れができる(民法612条1項2号)。
 この場合、解約の申し入れより3か月が経過することによって契約は終了する。

 また,一時使用の建物の賃貸借で、期間の定めがある場合でも、貸主・借主の合意で一方または双方が中途解約権を留保したときは、特約の範囲内でいつでも中途解約の申し入れができる(民法613条)。


4【正解×
建物の売却による建物の所有権者の変更に賃借人は対抗できるか

❒ 定期建物賃貸借契約 は、賃借権を新所有者に主張できない。
❒ 一時使用賃貸借契約 も、賃借権を新所有者に主張できない。

 賃借権の登記もなく賃借人が建物の引渡しも受けていない間に建物が売却された場合、建物の賃借人は、定期建物賃貸借契約・一時使用賃貸借契約のどちらであっても、賃借権を新所有者に主張することはできないので、4は間違い。

□ 賃借権を主張できる場合
 建物の売却により建物の所有者が変わった場合、建物の賃借人は、賃借権の対抗要件を備えていれば,新所有者に対して,賃借権を主張することができる。

❒ 普通借家、定期借家等(取壊し予定の建物の賃貸借も含む)の借地借家法の適用のある賃貸借の場合は、引渡し又は賃借権の登記(借地借家法31条)があれば、賃借権を主張することができる。

❒ 一時使用の建物の賃貸借の場合は、賃借権の登記(民法605条)<引渡しは対抗要件にならない>(借地借家法40条)があれば、賃借権を主張することができる。

 
一時使用の建物の賃貸借
 一時使用の建物の賃貸借では、借地借家法の適用がない。

 以下の借地借家法の規定は適用されないことになる。
①賃借権の登記がないときに建物の引渡しをもって第三者への対抗要件とする規定(借地借家法31条)。
 ( )<一時使用の建物所有を目的とする借地権では、借地権の登記がなくても借地上の建物に登記があればよいとする対抗要件の規定は適用されることに注意。>

②賃貸借終了時の転借人の保護規定(借地借家法34条)

③造作買取請求権(借地借家法33条)

④借賃増減請求権(借地借家法32条)

⑤居住用建物での事実上の内縁の妻等の賃借権の承継(借地借家法36条)

 

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2007(平成19)年度 宅地建物取引主任者資格試験 (借地借家法関係) 1

2009年05月27日 | 民法・借地借家法・裁判・判例

問13】 Aが所有者として登記されている甲土地上に、Bが所有者として登記されている乙建物があり、CがAから甲土地を購入した場合に関する次の記述のうち、民法及び借地借家法の規定並びに判例によれば、誤っているものはどれか。


1 Bが甲土地を自分の土地であると判断して乙建物を建築していた場合であっても、Cは、Bに対して建物を収去して土地を明け渡すよう請求できない場合がある。

2 BがAとの間で甲土地の使用貸借契約を締結していた場合には、Cは、Bに対して建物を収去して土地を明け渡すよう請求できる。

3 BがAとの間で甲土地の借地契約を締結しており、甲土地購入後に借地権の存続期間が満了した場合であっても、Cは、Bに対して建物を収去して土地を明け渡すよう請求できない場合がある。

4 BがAとの間で期間を定めずに甲土地の借地契約を締結している場合には、Cは、いつでも正当事由とともに解約を申し入れて、Bに対して建物を収去して土地を明け渡すよう請求できる。



1【正解
 甲土地を購入したCがBに対して建物を収去して土地を明け渡すよう請求できない場合としては、まず時効による取得がある。

 「土地賃借権の時効取得については、土地の継続的な用益という外形的事実があり、かつ、それが賃借の意思に基づく事が客観的に表現されていれば、時効取得は可能である」(最高裁昭和43年10月8日判決、同旨、最高裁昭和62年6月5日判決)。
 その際の判断基準は、土地の占有と賃料の支払いの有無である。


2【正解
使用貸借

 使用貸借(民法593条)の借主には、もともと第三者〔新所有者や抵当権者等〕に対する対効力はなく(※1)、使用貸借の目的物である土地の上の建物が登記されていてもこのことに変わりはない。
 また、使用貸借には借地借家法は適用されない。

⇒ 建物所有を目的とした土地の賃貸借では、賃借権の登記がある場合(民法605条)や借地上の建物の登記(※2)がある場合(借地借家法10条1項)には借地権を第三者に対抗することができる。使用貸借にはこれらの規定〔土地の賃借人の保護の規定〕は適用されない。

 したがって、甲土地の購入者であるCは、使用借権者Bに対して、建物を収去して土地を明け渡すよう請求〔妨害排除請求〕することができる。

※1)使用貸借での借主は、貸主に対してのみ、その権利を主張することができるだけなので、甲土地の所有者が変わってしまった以上2場合、BはCの甲土地の返還及び明渡し請求に対して、対抗するものを有していない。

※2)建物の表示に関する登記でもよい(最高裁 昭和50年2月13日判決)


3【正解
継続使用による法定更新(自動更新)

 借地(甲土地)上の建物乙に所有権の登記があるので、Bは対抗力のある借地権を有している(借地借家法10条)。

 借地契約の存続期間が満了していても、
(1) 借地権者が契約の更新を請求し、借地権設定者が正当事由をもって遅滞なく異議を述べなかった場合、

(2) 借地権者が土地の使用を継続しているときに、借地権設定者が正当事由をもって遅滞なく異議を述べなかった場合、

 このどれかに該当する場合は、自動的に更新される〔法定更新〕(借地借家法5条)。

 したがって、Cの甲土地購入後に借地権の存続期間が満了した場合に、Cが正当事由をもって遅滞なく異議を述べなかったときは、Bに対して建物を収去して土地を明け渡すよう請求できないので3は正しい記述。


4【正解×
期間の定めのない借地契約

 借地(甲土地)上の建物乙に所有権の登記があるのですから、Bは対抗力のある借地権を有している(借地借家法10条)。

 借地契約で期間を定めなかった場合、存続期間は30年になります借地借家法3条から、存続期間は30年になる。このため,土地を購入したCに正当事由があっても、解約の申入れをすることはできない。

 

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2008(平成20)年度 宅地建物取引主任者資格試験 (借地借家法関係) 4

2009年05月15日 | 民法・借地借家法・裁判・判例

問14 借地借家法第38条の定期建物賃貸借 (以下この問において 「定期建物賃貸借」 という。) に関する次の記述のうち、民法及び借地借家法の規定によれば、正しいものはどれか。


1 賃貸人は、建物を一定の期間自己の生活の本拠として使用することが困難であり、かつ、その期間経過後はその本拠として使用することになることが明らかな場合に限って、定期建物賃貸借契約を締結することができる。

2 公正証書によって定期建物賃貸借契約を締結するときは、賃貸人は、賃借人に対し、契約の更新がなく、期間の満了により賃貸借は終了することについて、あらかじめ、その旨を記載した書面を交付して説明する必要はない。

3 期間が1年以上の定期建物賃貸借契約においては、賃貸人は、期間の満了の1年前から6か月前までの間に賃借人に対し期間満了により賃貸借が終了する旨の通知をしなければ、当該期間満了による終了を賃借人に対抗することができない。

4 居住の用に供する建物に係る定期建物賃貸借契約においては、転勤、療養その他のやむを得ない事情により、賃借人が建物を自己の生活の本拠として使用することが困難となったときは、床面積の規模にかかわりなく、賃借人は同契約の有効な解約の申入れをすることができる。


1 【正解×
定期建物賃貸借締結について、賃貸人・賃借人の事情に関する要件はない。 

 公正証書等によって契約をする場合に限り〔要するに契約は書面で行うということで、公正証書でなくてもよい。口約束では駄目というこ。〕、契約の更新がない旨を定めること〔定期建物賃貸借の締結〕ができる(借地借家法38条1項)。 

期間を一年未満とする建物の賃貸借
 期間を一年未満とする建物の賃貸借は、以下のように扱いが異なる。

  一時使用目的の建物の賃貸借
  借地借家法第三章借家の規定は、適用されないので民法の規定通り。

 従来型の建物の賃貸借(定期建物賃貸借ではない場合)
  普通借家契約で、期間を1年未満と定めると期間の定めのない賃貸借とみなされる(借地借家法29条1項)。

 定期建物賃貸借 
 定期建物賃貸借では、期間を一年未満とすることができる(日単位、週単位、月単位でも、期間設定可能)。期間の定めのない賃貸借とみなされることはない。


2 【正解×
契約締結前の「書面を交付しての説明」

 定期建物賃貸借契約を締結しようとするときには、賃貸人は,契約を締結する前に賃借人になろうとする者に対して、「契約の更新がなく、期間の満了により賃貸借は終了すること」について、その旨を記載した書面を交付して説明することが義務付けられている(借地借家法38条2項)。

 この「書面を交付しての説明」をしないで定期建物賃貸借契約を締結した場合は、契約の更新がないこととする定め〔定期建物賃貸借の契約〕は無効になり、普通借家契約を締結したことになります(借地借家法38条3項)。⇒ 借家契約のすべてが無効になるのではなく、「更新の定めがない」ことのみが無効になる。

▼この説明は、賃貸人がしなければならない。したがって、定期建物賃貸借の賃貸人から媒介を依頼された宅建業者が重要事項説明の一つとして説明しても、賃貸人がこの説明義務を果たしたことにはならない〔媒介の宅建業者の重要事項説明に代えることはできない〕。

参考法令
  定期建物賃貸借をしようとするときは、「建物の賃貸人は、あらかじめ、建物の賃借人に対し、同項の規定による建物の賃貸借は契約の更新がなく、期間の満了により当該建物の賃貸借は終了することについて、その旨を記載した書面を交付して説明しなければならない。」(借地借家法38条2項)
 
 「建物の賃貸人が前項(借地借家法38条2項)の規定による説明をしなかったときは、契約の更新がないこととする旨の定めは、無効とする。」(借地借家法38条3項)


3 【正解
期間満了により賃貸借が終了する旨の通知

 定期建物賃貸借〔期間が1年以上の場合に限る〕の賃貸人は、期間満了の1年前から6か月前までの間に、賃借人に対して、期間満了により賃貸借が終了する旨の通知をしなければ、期間満了による終了を賃借人に対抗することができない(借地借家法38条4項)。

定期建物賃貸借の契約期間による違い
 期間満了による賃貸借終了の通知
 期間が1年未満の場合は 、終了通知をする特別な規定はない。
 期間が1年以上の場合は 、通知をしなければ、期間満了による終了を賃借人に対抗できない。


▼賃貸人が通知期間の経過後建物の賃借人に対し、その旨の通知をした場合は、その通知の日から6か月を経過することにより、定期建物賃貸借契約は終了する(借地借家法38条4項)。

 なお、終了通知は期間満了前にしなければならない。何故ならば、38条4項本文には終了通知は「期間の満了により建物の賃貸借が終了する旨の通知」となっており、「但書」の「その旨の通知」が「期間の満了により建物の賃貸借が終了する旨の通知」を指すのは明らかである。従って、期間満了前までに終了通知をすることは、法の趣旨からも当然である。

 <参考記事
  契約期間満了後に定期借家契約の終了通知が届いた場合はどうなるのか


4 【正解×
法定中途解約権〔床面積200平方メートル未満の居住用建物の定期借家〕

 定期建物賃貸借の解約を申し入れることができるのは、「居住用建物のうち、床面積200平方メートル未満のもの」の賃借人に限られるので4は間違い。

 転勤、療養、親族の介護その他のやむを得ない事情により、賃借人が建物を自己の生活の本拠として使用することが困難となったときは、建物の賃借人は、建物の賃貸借の解約の申入れをすることができる。この場合、建物の賃貸借は、解約の申入れの日から1か月を経過することによって終了する(借地借家法38条5項)。

 

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2008(平成20)年度 宅地建物取引主任者資格試験(民法・借地借家法関係) 3

2009年05月14日 | 民法・借地借家法・裁判・判例

問13 Aが所有している甲土地を平置きの駐車場用地として利用しようとするBに貸す場合と、一時使用目的ではなく建物所有目的を有するCに貸す場合とに関する次の記述のうち、民法及び借地借家法の規定によれば、正しいものはどれか。


1 AB間の土地賃貸借契約の期間は、AB間で60年と合意すればそのとおり有効であるのに対して、AC間の土地賃貸借契約の期間は、50年が上限である。

2 土地賃貸借契約の期間満了後に、Bが甲土地の使用を継続していてもAB間の賃貸借契約が更新したものと推定されることはないのに対し、期間満了後にCが甲土地の使用を継続した場合には、AC間の賃貸借契約が更新されたものとみなされることがある。

3 土地賃貸借契約の期間を定めなかった場合、Aは、Bに対しては、賃貸借契約開始から1年が経過すればいつでも解約の申入れをすることができるのに対し、Cに対しては、賃貸借契約開始から30年が経過しなければ解約の申入れをすることができない。

4 AB間の土地賃貸借契約を書面で行っても、Bが賃借権の登記をしないままAが甲土地をDに売却してしまえばBはDに対して賃借権を対抗できないのに対し、AC間の土地賃貸借契約を口頭で行っても、Cが甲土地上にC所有の登記を行った建物を有していれば、Aが甲土地をDに売却してもCはDに対して賃借権を対抗できる。


1 【正解×
存続期間の比較

建物所有を目的としない土地の賃貸借 

 建物所有を目的としない土地の賃貸借は,借地借家法が適用されないため、民法の規定により、20年を超えることができず、20年を超えて存続期間を定めても20年に短縮される(民法603条1項)。

建物所有目的の土地の賃貸借 

 建物所有目的の土地の賃借権は、借地借家法が適用され、一時使用目的の土地の賃貸借や事業用借地権を除いて、当事者間の合意により存続期間を100年以上にすることもでき、50年が上限ではない。土地の賃貸借は最低存続期間は法定されているが、それよりも長い期間を当事者が定める場合は、その存続期間による。したがって、借地の存続期間の上限に関しては制限が無い。

建物所有目的の
土地の賃借権
普通借地権  原則として30年。当事者間でこれより
 長い期間を定めれば、その期間になる(3条
定期借地権
(事業用借
地権以外)
 定期借地権、建物譲渡特約付借地権
 (22条)、(24条)とも50年を超えて設定できる。

事業用
借地権

 50年未満のみ(23条
建物所有を目的としない
土地の賃借権
 民法の存続期間である20年を超えて
 設定できない民法604条1項)。
 
 

2 【正解×
更新の比較

建物所有を目的としない土地の賃貸借 
 賃貸借の期間が満了した後賃借人が賃借物の使用または収益を継続する場合に、賃貸人がこれを知りながら異議を述べないときは、従前の賃貸借契約と同一の条件で更に賃貸借契約をしたものと推定する

 この場合、各当事者は、第617条の規定により解約の申入れをすることができる(民法619条1項。⇒ 期間満了後にが甲土地の使用を継続した場合には、AB間の賃貸借契約を従前のものと同一の条件で契約したものと推定されることがある。

建物所有目的の土地の賃貸借(普通借地権の場合 
 借地上に建物が残っており、期間満了後も借地権者が引き続き土地の使用を継続し、土地の所有者〔貸主。借地権設定者〕が、遅滞なく、正当事由をもって異議を述べない場合は、期間を除いて(※)、従前の賃貸借契約と同一の条件で更新したものとみなされる借地借家法5条2項、6条。⇒ 期間満了後にが甲土地の使用を継続した場合に,存続期間を除いて,AC間の賃貸借契約が更新されたものとみなされることがある。

(※)借地借家法の規定により、この場合、更新後の存続期間は更新の日から10年(借地権の設定後の最初の更新では、20年)とされる(借地借家法4条)。

 みなす 法律関係が確定する。当事者がみなされたものと異なる事実を
主張することはできない。
 推定される 反証を立証すれば、推定された法律関係を覆すことができる。

3 【正解×
存続期間を定めなかった場合の比較 

建物所有を目的としない土地の賃貸借 

 存続期間を定めなかったときは、貸主・借主のどちらも、いつでも解約の申入れをすることができ、申入れから1年が経過すると賃貸借契約は終了する民法617条1項)。

(※)「賃貸借契約開始から1年が経過すれば」という部分は余計です。1年が経過していなくても、また1年が経過していても、解約の申し入れができるからです。

建物所有目的の土地の賃貸借 普通借地権の場合) 

 普通借地権では、存続期間を定めなかったときは、存続期間は30年とされる(借地借家法3条)。

 普通借地権では、期間が満了し、賃貸人の正当事由が認められ、借地の更新されなかった場合にのみ、賃貸借契約は終了する。したがって、正当事由があると認められる場合でなければ、解約の申入れはできない(借地借家法6条)。


4 【正解
賃借権の対抗要件の比較

建物所有を目的としない土地の賃貸借
 賃借権の登記をしていなかったときは、新所有者に賃借権を主張できない〔対抗できない〕。

建物所有目的の土地の賃貸借 
 賃借権の登記をしていなくても、借地上の建物に登記があれば〔表題登記、所有権保存登記、所有権移転登記のどれでもよい〕、新所有者に賃借権を主張できる〔対抗できる〕。(※)

建物所有を目的としない
土地の賃貸借
賃借権の登記をしていなかったときは、
新所有者に賃借権を主張できない〔対抗できない〕。
建物所有目的の
土地の賃貸借
賃借権の登記をしていなくても、
借地上の建物に登記があれば、
新所有者に賃借権を主張できる〔対抗できる〕。

(※) 一時使用目的の場合も適用されることに注意。

 

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2009年05月13日 | 民法・借地借家法・裁判・判例

問8 弁済に関する次の1から4までの記述のうち、判決文及び民法の規定によれば、誤っているものはどれか。

(判決文)
 借地上の建物の賃借人はその敷地の地代の弁済について法律上の利害関係を有すると解するのが相当である。思うに、建物賃借人と土地賃貸人との間には直接の契約関係はないが、土地賃借権が消滅するときは、建物賃借人は土地賃貸人に対して、賃借建物から退去して土地を明け渡すべき義務を負う法律関係にあり、建物賃借人は、敷地の地代を弁済し、敷地の賃借権が消滅することを防止することに法律上の利益を有するものと解されるからである。


1 借地人が地代の支払を怠っている場合、借地上の建物の賃借人は、借地人の意思に反しても、地代を弁済することができる。

2 借地人が地代の支払を怠っている場合、借地上の建物の賃借人が土地賃貸人に対して地代を支払おうとしても、土地賃貸人がこれを受け取らないときは、当該賃借人は地代を供託することができる。

3 借地人が地代の支払を怠っている場合、借地上の建物の賃借人は、土地賃貸人の意思に反しても、地代について金銭以外のもので代物弁済することができる。

4 借地人が地代の支払を怠っている場合、借地上の建物の賃借人が土地賃貸人に対して地代を弁済すれば、土地賃貸人は借地人の地代の不払を理由として借地契約を解除することはできない。

 


 

1 【正解
法律上の利害関係がある第三者の弁済

 法律上の利害関係がある第三者は、債権者と債務者の間で,第三者の弁済を許さないとする意思表示及び特約がない場合には、債務者の意思に反しても弁済することができる(民法474条)。

 判例により、借地上の建物の賃借人は法律上の利害関係がある第三者として認められているので、借地上の建物の賃借人は、借地人の意思に反しても、地代を弁済することがでる。 


2 【正解
第三者の弁済供託

 法律上の利害関係がある第三者も、
 ① 債権者が弁済の受領を拒むとき〔受領を拒絶〕、
 ②債権者が(何らかの理由により)弁済を受領できないとき〔受領不能〕、
 ③ 過失なく債権者を確知できないとき〔債権者不確知〕、
  は,供託により債務を免れることができる(民法494条)。

 ⇒ 第三者の弁済を債権者が受領しなければ、債権者の受領遅滞となる(民法413条)。
 したがって、借地上の建物の賃借人が土地賃貸人に対して地代を支払おうとした場合に(弁済の提供をした場合に)、土地賃貸人が受け取ろうとしないときは、地代を供託することができる。


3 【正解×
代物弁済は、債権者の承諾がなければ,することはできない。

 債務者だけでなく、法律上の利害関係がある第三者も、代物弁済をすることができますが、代物弁済をするには債権者の承諾が必要(民法482条)。
 即ち、「債務者が、債権者の承諾を得て、その負担した給付に代えて他の給付をしたときは、その給付は、弁済と同一の効力を有する。」(民法482条)

 したがって,借地上の建物の賃借人は、土地賃貸人の意思に反して、地代について金銭以外のもので代物弁済することはできない。


4 【正解
◆第三者の弁済により、債権者に対しては、債務者の債務は消滅する。

 法律上の利害関係がある第三者が弁済したときは、債権者に対する債務者の債務は消滅する(債務不履行ではなくなる)ので、債権者は、契約を解除することはできない。

 このため、借地上の建物の賃借人が土地賃貸人に対して地代を弁済すれば、土地賃貸人は借地人の地代の不払を理由として借地契約を解除することはできない。

 

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2008(平成20)年度 宅地建物取引主任者資格試験 (借地借家法関係) 1

2009年05月12日 | 民法・借地借家法・裁判・判例

問4 Aは、Bから借り入れた2,000万円の担保として抵当権が設定されている甲建物を所有しており、抵当権設定の後である平成20年4月1日に、甲建物を賃借人Cに対して賃貸した。Cは甲建物に住んでいるが、賃借権の登記はされていない。この場合に関する次の記述のうち、民法及び借地借家法の規定並びに判例によれば、正しいものはどれか。


1 AがBに対する借入金の返済につき債務不履行となった場合、Bは抵当権の実行を申し立てて、AのCに対する賃料債権に物上代位することも、AC間の建物賃貸借契約を解除することもできる。

2 抵当権が実行されて、Dが甲建物の新たな所有者となった場合であっても、Cは民法第602条に規定されている短期賃貸借期間の限度で、Dに対して甲建物を賃借する権利があると主張することができる。

3 AがEからさらに1,000万円を借り入れる場合、甲建物の担保価値が1,500万円だとすれば、甲建物に抵当権を設定しても、EがBに優先して甲建物から債権全額の回収を図る方法はない。

4 Aが借入金の返済のために甲建物をFに任意に売却してFが新たな所有者となった場合であっても、Cは、FはAC間の賃貸借契約を承継したとして、Fに対して甲建物を賃借する権利があると主張することができる。


 【正解×
物上代位することはできるが、賃貸借契約の解除をすることはできない。
 抵当権者は、債務不履行になれば、抵当権の実行を申し立てることができ、賃料債権に物上代位することがでる。 しかし、AC間の賃貸借契約を解除することはできない。

 抵当権設定者は、抵当不動産を,通常の範囲内であれば、原則として自由に使用収益することができる()ので、抵当権者Bは抵当権設定者であるAがCと締結した賃貸借契約を解除することはできない。

)判例では、「抵当権設定者が、抵当権設定登記後に、抵当権の実行としての競売手続を妨害する目的で賃貸借契約等の占有権限を他の者と設定し、抵当不動産の交換価値の実現が妨げられ、抵当権者の優先弁済請求権の行使が困難となる状況のときは、抵当権者は、占有者に対して、抵当権に基づく妨害排除請求をすることができ、抵当権設定者が抵当不動産を適切に維持管理することができない場合には、抵当不動産を直接抵当権者へ明渡しをするように占有者に求めることができる。」としている(最高裁・平成17年3月10日判決)。


 【正解×
賃借権の対抗要件の具備が抵当権設定登記より先か後かによって、抵当権者に対抗できるかどうかが決まる。

1)抵当権設定の登記の後に、「AC間の賃貸借契約が締結された、または、Cが建物の引渡しを受けた」とすると、Cは、その賃借権を、抵当権者Bや競落人Dに対抗することはでない。


 抵当権設定登記      建物の引渡し


 ―●――――――――――●――
 ただし、抵当権設定登記後に競売手続が開始される前から建物を使用収益していた者(抵当建物使用者)は、競落人がその建物を買い受けたときから6か月が経過するまでは競落人への建物の引渡しが猶予されます(民法395条1項)。 
 この場合、競落人の買受け後から引渡しまでに建物を使用した対価を支払わなければならない。

 この場合、Cは賃借権をBに主張することさえできないのですから、「Cは,短期賃貸借期間の限度で賃借権があると主張することができる」とする2は間違い。

(2)抵当権設定後に、AC間の賃貸借契約が締結されたとしても、AC間の賃貸借契約が抵当権設定の登記の前であり、Cが抵当権設定登記より前に、建物の引渡しを受けていれば、Cは抵当権者に対抗できる(借地借家法31条1項)。

 短期賃貸借の期間の限度にとどまるものではありません。⇒建物の引渡しを受けたのが抵当権設定登記の後であれば、Cは抵当権者であるBにその賃借権を主張して対抗することはできない。

 
 建物の引渡し      抵当権設定登記
 ―●――――――――――●――

 この場合、Cは,賃借権を主張できるのであるから、「Cは,短期賃貸借期間の限度で賃借権があると主張することができる」とする2は間違い。

 <参考
 <抵当不動産の短期賃貸借制度の廃止についての経過措置
 平成16年の改正施行(平成16年3月31日)前は、抵当権設定登記後に締結された賃貸借でも、抵当不動産の短期賃貸借〔通常の土地の賃貸借では5年、建物では3年〕で対抗要件〔賃借権の登記、または,建物では引渡し、土地では借地上の建物の登記〕を備えたものについては、抵当権者に対抗することができた(抵当不動産の短期賃貸借)。

 この規定は民法の改正によって廃止されたが、これには経過措置があり、平成16年4月1日の時点で対抗要件を備えている抵当不動産の短期賃貸借については、改正前の規定が適用され、原則として抵当権者にその賃借権を対抗することができる。

 短期賃貸借に関する経過措置
 「この法律の施行の際現に存する抵当不動産の賃貸借(この法律の施行後に更新されたものを含む。)のうち民法602条に定める期間を超えないものであって当該抵当不動産の抵当権の登記後に対抗要件を備えたものに対する抵当権の効力については、なお従前の例による」(「担保物権及び民事執行法の改善のための民法等の一部を改正する法律」附則第5条)

 しかし、2では、賃貸借契約が締結されたのが平成20年4月1日なので、この経過措置は適用されない。


 【正解×
抵当権の順位の変更、抵当権の順位の譲渡-後順位の抵当権者が、先順位の抵当権者に優先して弁済を受けられる場合がある。

 担保価値が1,500万円で、第1順位の抵当権者Bの被担保債権が2,000万円、第2順位の抵当権者Eの被担保債権が1,000万円の場合、このままでは、後順位の抵当権者Eは先順位の抵当権者Bに優先して弁済を受けることはできない。

 しかし、「抵当権の順位の譲渡」(民法376条1項)や「抵当権の順位の変更」(民法374条1項)をすれば、以下のように,Eは債権全額の回収をすることができる。

(1)抵当権の順位の譲渡が行われ、1,500万円で売却された場合
 BがEに対して抵当権の順位を譲渡すると、Bに本来優先弁済されるはずの枠がまずEに割り当てられるため、Eが1,000万円の配当を受けて、その後にBが500万円の配当を受けることになる(Bの債権の残りの1,500万円は無担保の債権となる)。

(2)抵当権の順位の変更が行われ、1,500万円で売却された場合
 BE間で抵当権の順位が変更されると、Eが第1順位,Bが第2順位となる。この結果、Eは1,000万円の配当を受け、Bは500万円の配当を受けることになる(Bの債権の残りの1,500万円は無担保の債権となる)。⇔抵当権の順位の変更では、Eは本来の先順位抵当権者Bの被担保債権額の枠に縛られない。
 したがって、3は「EがBに優先して甲建物から債権全額の回収を図る方法はない。」としているため、間違い。


▼抵当権の順位の放棄では、BE間では両者は同順位となり、それぞれの債権額に応じて比例配分されるため、Bは債権2,000万円、Eは債権1,000万円であることから、Bは売却金額1,500万円の2/3の1,000万円(Bの債権の残りの1,000万円は無担保の債権となる)、Eは売却金額1,500万円の1/3の500万円(Eの債権の残りの500万円は無担保の債権となる)とそれぞれ配当を受けることになる。つまり、抵当権の順位の放棄では、Eは債権全額を回収することはできない。


 【正解
建物の賃借権は引渡しを受けていれば、新所有者に対抗できる。


           建物を売却
 A(旧所有者) ――――――――→   F (新所有者)
  ↑ 賃貸借               
  ↓       ↘           
 B(賃借人)   引渡しを受けている →→  新所有者に賃借権を対抗できる

 建物の賃借人は、建物の引渡しを受けていれば、建物の新所有者に対して、建物の賃借権を主張することができる(借地借家法31条1項、借家権の対抗要件)。

 民法では、登記された賃借権に対抗力を認めている(民法605条)。だが、賃借権を登記できない場合もあるので(賃借権の登記は任意なので、賃貸人が協力しないことがある。また、アパートのように一室ごとに登記できないものもある。)、借地借家法では、賃借権が登記されていなくても、建物の賃貸借では引渡し土地の賃貸借(借地借家法10条)では借地上の建物の登記〔建物の表示登記、建物の所有権保存登記・所有権移転登記〕があれば新所有者に対して賃借権の対抗力があるとした。

 

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派遣切り労働者の住居 借地借家法で守られている!

2009年03月19日 | 民法・借地借家法・裁判・判例

 全借連が緊急提言

 2009年2月24日
 全国借地借家人組合連合会常任理事会

 派遣・期間雇用者の既存住宅における持続可能な居住の権利提言


 全借連は、2月24日開かれた第7回常任理事会で、派遣・期間切れなどから解雇された労働者が即日住まい失い、路頭にさまようことで住み続けられる権利を失う事態に憂慮し、別項のとおり「派遣・期間雇用者の既存住宅における持続可能な居住の権利」をまとめ、現行法でも居住の権利が守られることを明らかにし、政府と労働者へ居住の権利を守るよう訴えることにしました。

 昨年末、自動車および家電メーカーを中心に大企業は、「派遣切れ」「期間工の雇い止め」を理由にして大量の非正規労働者を一方的に解雇し大きな社会問題となりました。職を失った人々は、大量の非正規雇用を生み出した原因が人権を無視した雇用形態にあり、政治災害であると訴えました。

 そして、住まいを失い雨つゆや風雪に見舞われ路頭にさまよいながら、職と住まいの確保を求めています。

 今年3月末には、このような職を奪われる非正規雇用の人々が約40万人を上まわることが報道されています。

 しかも、「職と居住」を同時に失う事態は、40数年居住の権利を守る運動に取り組んできた全借連がかって経験しなかった非常事態でもあります。

 全借連は、「住まいは人権」のスローガンを掲げて「人間が人間らしく住み続けられる住居を」求めて運動に取り組んできましたが、大量の失業者が同時に住まいを失い居住不安に陥ることを放置することはできません。

 憲法第25条は、「健康で文化的な生活を営む権利」をすべての国民へ生存権として保障しなければならないことになっています。

 今日の事態は、この憲法で保障された居住の権利を軽々しく放棄していたことを示すものです。

 全借連は、このような居住の権利の侵害から、住まいを失った人々、居住不安に脅え生活基盤を失った人々と連帯し、「住まいは人権」として政府へ居住保障を求めて運動を強めていくことを決めました。

 そこで、全借連は、解雇されると同時に住まいも失う人々の居住の権利が現行法の下でも確保されなければならないとの視点から次の事項を訴えます。


   [記]
(1)世界人権宣言・ILO(国際労働機構)の労働者住宅に関する勧告・経済的、社会的及び文化的権利に関する国際規約・第2回国連人間居住会議の「居住の権利宣言」など国際的に認知された「住宅の権利・誓約」の理念を可及的速やかに最大限実行することを政府へ要求する。

(2)居住の安定を前提に、すべての公的賃貸住宅の空家を早期に開放することを、政府と地方自治体及び関係事業主体へ要求する。

(3)民法及び借地借家法・労働基準法・消費者契約法などが適用されることを退去を求められている居住者へ周知徹底することを要求する。

(4)既存契約で住み続けられる具体的な事例については、次のとおりである。

 ①解雇予告期間30日以内は、労働基準法によって居住できる。この間に、住み替え先及び家賃の確保の準備を行なうこと。

 ②派遣会社へ家賃を支払っている場合は、派遣切れになっても、借地借家法により賃借権が継続し既存住宅に住み続けられる。

 ③家賃支払い不能となった場合であっても、民法や消費者契約法などで一定期間住み続けられる。法的手続きによらない限り、強制的に明け渡しや追い出し行為はできない。

 ④賃貸人は、借家の寮を解約する場合居住者へ正当事由が必要であり、その場合であっても6ヶ月前から1年以内に賃貸借契約の解約通知をしなければならない。従って、解雇即日明け渡しにはならない。

 ⑤家賃の支払い資金が確保できない場合は、早急に生活保護制度を活用すること。

 

 

全国借地借家人新聞より

 

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更新料の支払を拒否すると地主が調停に (東京・豊島区)

2009年03月10日 | 民法・借地借家法・裁判・判例

 豊島区上池袋で借地している上島さんは今年、20年の更新を迎えた。

 20年前に更新したときにはバブルが崩壊しはじめた直後でもあり、上島さんは、地主の言うとおりに地代の値上げや、借地契約にない地主の言うところの更新料(当方はそのような認識ではない旨主張)の支払いに応じてしまった。

 地主は、昨年夏に、更新料の支払い(200万円)と地代の一割以上の値上げを請求してきた。上島さんは、更新料については特段の約束もないものについては支払う義務がないという昭和53年()の最高裁の判決を示し、支払う意思のないこと又、地代についても固定資産税など公租公課の約5.5倍の地代であることから値上げも拒否することを通知した。その後、何回かの話合いを行ったが、双方の主張は平行線のままだった。

 今年に入り、地主は調停にかけてきた。上島さんは、調停の場でも地主の数字の間違いなどずさんな請求に対してきちんと資料を提供し説明した。調停委員もその資料のコピーを申出るなどしていたが、調停委員は、最終的にはいくらかでも更新料を支払ったほうが今後裁判なると大変だといって合意するよう圧力をかけてきた。しかし納得のいかない上島さんはあらためて最高裁の判決を提示してこの調停を不調に終わらせるように頑張ることにした。

 

東京借地借家人新聞より

 


 


最高裁昭和53年1月24日判決
  「建物所有を目的とする土地賃貸借契約における賃借期間満了に際し賃貸人の一方的な請求に基づき当然に賃借人に賃貸人に対する更新料支払義務を生じさせる事実たる慣習が存在するものとは認められない」

 

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【Q&A】 防火・準防火地域では建物は境界線からどの程度隔てる必要があるのか

2008年12月03日 | 民法・借地借家法・裁判・判例

 (問) 借地が15坪と狭いので、敷地一杯に建てたいと思い、建設会社に相談した。ここは防火地域であり、建築基準法で外壁が耐火構造の建物の場合、隣地境界に接して建てられると言われた。そこで鉄骨3階建の建物を境界ギリギリに建て始めたところ、隣家に境界から50㎝以上離して建てるよう要求された。要求に従わなければならないのか。


 

 (答) 建物をどの程度離して建てるべきかについては、その地方の慣習に従う(民法236条)。そのような慣習がない場合は民法の規定によって、境界から50㎝以上離すことが原則となっている(民法234条)。この距離は「建物の側壁及びこれと同視すべき出窓その他建物の張出し部分と境界線との最短距離を定めたもの」(東京地裁平成4年1月26日判決)とされている。尚、判例では屋根は民法234条の「建物」に含まれていない。

 ところが建築基準法では「防火地域又は準防火地域内にある建築物で、外壁が耐火構造のものについては、その外壁を隣地境界線に接して設けることができる」(建築基準法65条)と規定している。この規定は明らかに民法の50㎝以上の距離規定に反するものである。

 問題は民法の規定に反していても、防火・準防火地域では外壁が耐火構造の建物であれば、境界線に接して建てることが許されるのか。換言すれば、民法と建築基準法とのどちらの規定が優先するのか。

 民法では境界から50㎝以上離さない規定違反建築は、建築に着手してから1年以内又は完成前であれば、建築変更や差止めが出来ると規定している(民法234条2項)。

 これに関係する事例(境界から50㎝以内の建物の収去請求訴訟)では、民法と建築基準法のどちらが優先するのかが争点となり、一審の大阪地裁、控訴審の大阪高裁は、相隣者の同意や民法236条の慣習等の合理的な理由がないから建築基準法の適用は認められないとして、建物の一部収去の請求を認めた。

 これに対して、上告審は、「建築基準法65条は、民法234条1項の規定が排除される旨を定めたものと解するのが相当である」(最高裁平成元年9月19日判決)として、建築基準法は民法の特則という立場から民法に優先すると明確に判断した。耐火外壁の建築物に限り、隣地境界に接しての建築を許可する趣旨とした。

 結論、最高裁の判例に従えば隣家の要求に従わなくてもよい。

 


 

 参考法令  民法
 (境界線付近の建築の制限
第234条  建物を築造するには、境界線から50センチメートル以上の距離を保たなければならない。

2  前項の規定に違反して建築をしようとする者があるときは、隣地の所有者は、その建築を中止させ、又は変更させることができる。ただし、建築に着手した時から1年を経過し、又はその建物が完成した後は、損害賠償の請求のみをすることができる。

(境界線付近の建築に関する慣習)
第236条  前2条の規定と異なる慣習があるときは、その慣習に従う。


  建築基準法 
 (隣地境界線に接する外壁)
第65条
 防火地域又は準防火地域内にある建築物で、外壁が耐火構造のものについては、その外壁を隣地境界線に接して設けることができる。

 

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【判例紹介】 駐車場の瑕疵につき損害賠償および礼金の一部返還ガ認められた事例 

2008年09月09日 | 民法・借地借家法・裁判・判例

 判例紹介

 駐車場の賃貸借契約にいて、貸主の修繕義務の不履行責任が認められ、駐車場の瑕疵につき損害賠償および礼金の一部返還ガ認められた事例 東京地裁平成5年10月1日判決、判例時報1497号82頁)

 (事実)
 地主から駐車場目的で土地を賃借し、使用を開始したところ、本件駐車場が舗装されれていないため、雨が2,3日続くとぬかるみになり、駐車中の車が脱出するためには他の車牽引を必要とする状態であった。

 そこで、借主は貸主に対し、再三にわたり本件駐車場に砂利をいれるなどして使用可能な状態に改善するよう催告したが、貸主は駐車場の一部に砂利を入れただけで、その他の部分については応じなかったので、借主は貸主に対し、本件土地賃貸借契約を解除し、債務不履行に基づく損害賠償および礼金の返還を求めた。

 (争点)
 貸主が本件駐車場の一部に砂利を入れたがその他の部分には砂利を入れなかった場合、これを債務不履行と認めるか、またはそれを認めた場合借主の損害額および礼金の返還額をどう算定するかである。

 (判決の要旨)
 裁判所は、本件駐車場は雨が降ると地盤が水を含んだ状態となり駐車車両が自力で脱出できなくなる事態が発生し、その都度他の駐車場から本件駐車場まで2トン車を持っていき脱出不能の車両を牽引せざるを得なかったのに地主は本件駐車場の入口付近に約2台分の砂利を入れたに過ぎなかったのでこれにより、本件駐車場の約半分の使用ができなかったとして賃料の半額相当分についての損害額を認定した。

 また、礼金の返還請求については、礼金の性格を契約期間中の本件駐車場の使用収益に対する対価の一部前払と解して、使用収益ができなかった分についての礼金の返還を認めた。

 (短評)
 貸主は借主に対して賃貸物件を使用収益させるべき義務を負い、右使用収益ができないときは、その使用収益に必要な修繕をすべき義務を負っているが、その修繕義務の具体的な内容および程度については、賃貸物件の種類、性質、使用収益の具体的な内容等によって異なる。

 本件は、修繕義務の具体的な内容程度について、具体的な事案に即して、綿密に算定したものであり、参考となる。

 また、事案によるが、敷金の返還請求以外に、本件において、礼金の返還請求を認めている点は評価できる。

(1994.10.)

(東借連常任弁護団)

東京借地借家人新聞より

 

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賃貸借契約と破産・民事再生・会社更生 (レジメ)

2008年07月25日 | 民法・借地借家法・裁判・判例

  レジメ


    賃貸借契約と破産・民事再生・会社更生 (2005年9月11日)

                                    弁護士 榎本 武光


一 賃貸借契約と破産

 1 賃借人が破産した場合

  ① 賃貸借契約はどうなるか
   
これまで、民法第621条で賃借人が破産すると、賃借期間があっても、賃貸人は賃貸借契約の解約の申入れができた。

 平成16年の法改正(平成17年3月1日施行)で、民法621条が削除された。

 その結果、賃借人が破産しても、賃貸人は賃貸借契約の解約申入れができなくなり、賃貸借契約は継続できることになった。

  ② 賃料はどうなるか
   賃借人が破産手続開始決定前に延滞していた賃料については、破産債権となる。=そうすると、賃貸人は、延滞賃料を全額回収することが困難となる。

 破産手続決定後の賃料については、財団債権となる。=この場合には、賃貸人は賃料の受領が保障される。


 2 賃貸人が破産した場合

  ① 賃貸借契約はどうなるか
   これまでの賃貸人に代わって、破産管財人が賃貸借契約の当事者になる。

   破産管財人は、賃借人が対抗要件=登記・引渡=を備えている場合には、賃貸借契約を解除できない。

   賃借人が対抗要件を備えていないときは、破産管財人から賃貸借契約を解除されて明渡さざるを得なくなる。

  ② 請求権の性質
   賃借人が破産管財人に対して有する請求権は、賃貸借契約の目的物を使用収益することができる権利であり、これは財団債権となる。(破産法56条2項)=このことは、賃借人が破産管財人から賃貸借契約が保護されることを意味する。

  ③ 賃料について
   賃借人は、破産管財人に対して、賃貸人に対して賃料を前払いしていたことを主張できる。=二重払いをする必要がない。

   賃貸人が破産手続開始決定前に賃料債権を他に譲渡していたときは、破産管財人はその賃料債権を取り立てることができない。=賃貸人は賃料債権の譲渡を破産管財人に対して対抗できる。

   したがって、賃借人は、賃貸人から第三者に対し賃料債権が譲渡された場合は、賃料債権の譲受人(第三者)に対して賃料を支払うことになる。

  ④ 賃借人の有する債権と賃料の相殺の可否について
    
賃借人が賃貸人に対して有する債権で、未払賃料債務あるいは将来の賃料債務を受働債権として相殺できる。=賃借人が賃貸人に対して債権を有する場合は、賃料債務と相殺することによって回収できる。

   * 但し、民事再生、会社更生の場合には、手続開始後に弁済期が到来すべき賃料債務のうち6か月分相当額についてのみ相殺できる。(民事再生法第92条2項、会社更生法第48条2項)=民事再生・会社更生のためには、賃借人の賃貸人に対して有する債権の回収が制限される。

  ⑤ 保証金・敷金について
    
賃借人から賃貸人に対する敷金返還請求権は、建物明渡を停止条件とする債権である。=賃借人は、建物を明渡さない限り敷金返還請求ができない。

    賃借人は、破産管財人に対して、賃料を支払う際に、敷金返還請求権の債権額の限度で、支払額の寄託を請求することができる。(破産法第70条)=そうしないと、建物明渡後、敷金請求をしても返還すべき敷金が不足している場合が起こりうる。

  ◎ 必ず、賃借人は破産管財人に対して、支払額の寄託を請求する必要がある。

  * 民事再生、会社更生の場合には、手続開始後に賃料債務を支払ったときは敷金の返還請求権は、賃料のの6か月分の範囲内における支払額を限度として共益債権とする。(民事再生法第92条3項、会社更生法48条3項)=民事再生、会社更生のためには、賃借人の賃貸人に対して有する敷金返還請求権が制限される。

  保証金について
   今後、保証金については、敷金として扱うよりも、貸金債権として扱った方が、ただちに賃料債務と相殺できるので有利となった。=◎ これまでは敷金として扱う方が保護されていたが、今後は保証金は貸金と主張する必要がある。


二 競売と賃貸借契約

 1 抵当権設定前の賃貸借契約について

   抵当権設定前の賃貸借契約については、対抗要件(登記・引渡)を有していれば、買受人に対して賃貸借契約を主張できる。


 
2 抵当権設定後の賃貸借契約について
 
   
① 民法395条の改正(平成16年4月1日施行)により、短期賃貸借の保護はなくなった。=従前は、短期賃貸借(建物賃貸借契約3年)は抵当権の登記後に引渡しを受けてたものであっても抵当権者に対抗することができた。

   ② 平成16年4月1日以降の賃貸借契約の場合は、買受人の買受の時から6か月を経過するまでは買受人に引渡すことを要しない。(改正民法395条1項)但し、競売手続の開始前から使用収益をなすものに限る。

   ③ また、買受人が、相当期間を定めて、使用の対価につき1か月分以上の支払いを催告したにもかかわらず、相当期間内に支払わなかった時は買受人に引渡すことになる。(改正民法395条2項)

   ④ 改正法施行前の短期賃貸借(建物賃貸借契約3年)については、なお従前の例による。(附則第5条=短期賃貸借契約に関する経過措置)=◎ 平成16年4月1日前の短期賃貸借契約については、短期賃貸借契約の保護がある。

   東借連夏季研修会「賃貸借契約と破産・民事再生・会社更生」要旨はこちら

 

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76歳孤独死、8カ月後の今も家賃を UR、主なき口座から引き落とし (毎日)

2008年07月06日 | 民法・借地借家法・裁判・判例

76歳孤独死、8カ月後の今も家賃 UR、主なき口座から (その1)

         毎日新聞 2008年7月6日 


◇身寄りなく、URは「放置」--足立の旧公団住宅

 都市再生機構(UR、旧日本住宅公団)の賃貸住宅団地で、居住者が孤独死した後も、URが家賃を金融機関口座から引き落とし続けていることが分かった。部屋も死亡時の状態のままにされている。URは「退去手続きや残された財産管理の引き受け手がないためのやむを得ない措置」としているが、違法性を指摘する専門家もいる。居住者の高齢化などで孤独死が急増している状況の中、法的な整備を求める声が出ている。

 東京都足立区の花畑(はなはた)団地(2725戸)で昨年10月、福岡県出身の76歳の男性が自室で病死し、1週間後に見つかった。

 既に8カ月以上が経過し、男性の身寄りも分からないにもかかわらず、URは男性の口座から毎月3万円前後の家賃の引き落としを続けている。

 さらに、「居室は維持したまま身寄りを探している」(UR関係者)として、男性の部屋は遺体発見当時のままにされている。しかし、孤独死があったことを知る同じ棟の居住者は「部屋がなんでそのままなのか」と不審そうに話す。

 1964年に入居が始まった花畑団地は老朽化が著しいため、URは新たな入居募集をせず、一部を取り壊して再開発する方針を決めている。

 UR東日本支社総務企画部は「死亡後も家賃の引き落としが続くケースはある。期間は個別の事情で異なるが、長期間に及ぶ場合は一部を遺族に戻したり、国庫に入れる」としている。

 URは全国で約1800団地77万戸の賃貸住宅を管理。URが統計を取り始めた99年度の孤独死は207人だったが、毎年増え続け、最新の06年度では517人で2・5倍に膨らんでいる。

 今回の問題について、経済アナリストの森永卓郎さんは「民営化してURになる前の日本住宅公団は居住者に親身で、考えられない対応だ。利益確保のため意図的に放置したと見られても仕方がない」と批判する。

 羽衣国際大の岸本幸臣教授(住居学)は、「入居者が亡くなった時点で、民法上の賃貸借契約は解約されたと解釈すべきで、その後の家賃徴収は違法だ。しかし、親族が見つからずに荷物が搬出されない場合はURも対処に迷うだろう。身内のない独居老人が亡くなるケースは今後、増える可能性があり、民法上問題が出ない対処方法を法的に整備する必要がある」と指摘している。

 

 

76歳孤独死、8カ月後の今も家賃(その2) 人も団地も老いゆく 
 
 ◇都市の「限界集落」、身近な孤独死

 遺体は、1DKの居間で布団に横たわっていた。目を開き、天井を見上げていた。孤独死だった。

 部屋の主がいなくなって8カ月以上もたつのに、ペン書きで「イシマル」とある郵便受けには今もはがきや封書が届く。部屋のベランダでは洗濯物が風に揺れている。家賃の口座引き落としも続いている。

 東京都足立区の花畑(はなはた)団地。福岡県出身の76歳の独居男性が昨年10月22日、4階の自室で死亡しているのが見つかった。同じ階段を使う住人が異変に気づき、管理事務所に連絡した。

 管理事務所は孤独死が疑われる場合、親族を呼ぶ。いなければ警察官を立ち会わせ、錠前業者に開錠させる。イシマルさんは後者。死後1週間だった。

 警察は孤独死を「変死」とみなす。イシマルさんを検視した結果、事件に巻き込まれた可能性はなかった。親族と連絡が付かないため区役所に連絡。イシマルさんは、区と契約する寺で無縁仏として眠っている。

 花畑団地は、東京五輪のあった1964年に入居が始まった。総戸数2725。当時の日本住宅公団の大規模団地、いわゆる「公団住宅」の先駆けだ。

 98年、転機が来る。老朽化による建て替え計画で入居募集が停止された。直後、公団は政府による整理・合理化の対象となった。翌年、都市基盤整備公団に再編されて建て替えは凍結。04年には独立行政法人都市再生機構(UR)となった。

 民営化の流れが荒廃に拍車をかけた。建て替えどころか補修もない。若い世代の入居による新陳代謝もない。空き室は現在1000戸。URによると2月現在、65歳以上の世帯主が全体の64・9%を占める。

 65歳以上の割合が人口の50%を超えると、地域のまとまりの維持が困難になるとされる。大都市の中の「限界集落」で、イシマルさんのような死はごくありふれた光景だ。

     ■
 イシマルさんが生きた痕跡を探し求めた。部屋は5階建て60戸の棟。入居は26世帯だけだ。
 1階の老夫婦がようやくドアを開けてくれた。居間と狭い台所。その間の廊下に介護ベッドが置かれ、玄関をふさぐ。「狭くてごめんね。足が弱って買い物もヘルパーさん頼みなのよ」。81歳の女性がベッドで身を起こし、記憶をたぐる。

 「気難しい人だったわ」。イシマルさんは足を引きずり、つえを手放さなかった。重い買い物袋を提げ階段を上がる途中、ヘルパーが近寄って声を掛けると、「構うな!」と叫んだ。あいさつしても返ってこない。だから素性も分からない。

 取材の間、居間からテレビの「水戸黄門」が大音量で流れてくる。「だんなは大正14年、あたしは大正15年生まれ」。老夫は顔をブラウン管にくっつけ、時どき大声で何か話しかける。「気にしないでね。あの人、ちょっと耳が遠いのよ」

 栃木県出身で、夫は車の修理工だった。足立区・北千住のアパートに住み、75年、家賃の安い花畑団地へ引っ越した。子供はなく、夫婦2人の年金で細々と食べている。

 「お墓が心配。広告で見た永代供養を今年2人分予約したの」。栃木にはあるが生まれ育った故郷から遠く離れた寺だ。

     ■
 団地商店街の多くは日中もシャッターを閉めている。大手ストアは数年前に撤退した。代わりに100円ショップが進出し、銀行の支店はATMコーナーに変わった。

 書店を開けている豊田実さん(70)が嘆く。「質素な身なりのお年寄りがテレビガイドを買うだけじゃ電気代も出ない」。2年前、家賃の督促に訪れたUR関係者から「家賃がご負担ならいつでも出て行ってください。いい時もあったんでしょうから」と言われた。

 「確かに、いい時代もありましたよ」。団地誕生時から開店、最初は米を売った。「あのころ団地族と言えば世のあこがれです」。高度経済成長で止めどなく流入する地方出身者を団地が吸収し、活気にあふれた。子供4人を花畑で育てた。

 団地の荒廃に業を煮やした足立区は2年前、URに対策を申し入れた。URは昨年12月「入居募集はせず、残す部分と再開発する部分に分けて再生させる」と決めた。しかし、具体的な事業計画はまだ先だ。

 イシマルさんの棟が残るかどうかは不明だが、駐輪場にはイシマルさんの三輪自転車が残されている。ほこりをかぶり、左の後輪がパンクしていた。【井上英介】

毎日新聞 2008年7月6日 

 

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【判例】 *ヤミ金訴訟 (2008年6月10日最高裁判決 全文)

2008年06月16日 | 民法・借地借家法・裁判・判例

 判例紹介

 著しく高金利で貸し付けた金融業者(ヤミ金業者)からは、利息だけではなく元金も含めて借手が支払った全額を損害金として取戻せるという最高裁の初判断があった。
 例えば、ヤミ金から10万円を借り、金利(年率数100~数1000%)を含めて200万円を返済した場合、一般的には借手は190万円の損害賠償請求が出来るという結論になる。しかし、今回の最高裁判決は損害賠償として200万円請求出来るという判断である。


事件番号
       (受)569平成19
事件名        損害賠償請求事件 (旧五菱会系ヤミ金訴訟)
裁判所        最高裁判所第三小法廷
裁判年月日     平成20年06月10日
裁判種別
        判決
結果           破棄差戻し
原審裁判所     高松高等裁判所
原審事件番号    平成18(ネ)231
原審裁判年月日  平成18年12月21日

 (裁判概要) 
  いわゆるヤミ金融の組織に属する業者から,出資の受入れ,預り金及び金利等の取締りに関する法律(出資法)に違反する著しく高率の利息を取り立てられて被害を受けたと主張する上告人らが,上記組織の統括者であった被上告人に対し,不法行為に基づく損害賠償を求める事案。

 (裁判要旨)
 1 反倫理的行為に該当する不法行為の被害者が当該反倫理的行為に係る給付を受けて利益を得た場合に,被害者からの損害賠償請求において同利益を損益相殺等の対象として被害者の損害額から控除することは民法708条の趣旨に反するものとして許されない

 2 ヤミ金融業者が著しく高利の貸付けにより元利金等の名目で借主から金員を取得し,これにより借主が貸付金に相当する利益を得た場合に,借主からの不法行為に基づく損害賠償請求において同利益を損益相殺等の対象として借主の損害額から控除することは民法708条の趣旨に反するものとして許されないとされた事例

 


主    文

     原判決のうち上告人らの敗訴部分を破棄する。
     前項の部分につき,本件を高松高等裁判所に差し戻す。


理     由

 上告代理人五葉明徳ほかの上告受理申立て理由について

 1 本件は,いわゆるヤミ金融の組織に属する業者から,出資の受入れ,預り金及び金利等の取締りに関する法律(平成15年法律第136号による改正前のもの。以下「出資法」という。)に違反する著しく高率の利息を取り立てられて被害を受けたと主張する上告人らが,上記組織の統括者であった被上告人に対し,不法行為に基づく損害賠償を求める事案である。


 2 原審が確定した事実関係の概要は,次のとおりである。
 (1) 被上告人は,著しく高利の貸付けにより多大の利益を得ることを企図して,Aの名称でヤミ金融の組織を構築し,その統括者として,自らの支配下にある第1審判決別紙2「被害明細表」の「店舗名」欄記載の各店舗(以下「本件各店舗」という。)の店長又は店員をしてヤミ金融業に従事させていた。

 (2) 上告人らは,平成12年11月から平成15年5月までの間,それぞれ,第1審判決別紙2「被害明細表」記載の各年月日に同表記載の金銭を本件各店舗から借入れとして受領し,又は本件各店舗に対し弁済として交付した。そして,上記金銭の授受にかかわる利率は,同表の「利率」欄記載のとおり,年利数百%~数千%であった。

 (3) 本件各店舗が上告人らに貸付けとして金員を交付したのは,上告人らから元利金等の弁済の名目で違法に金員の交付を受けるための手段にすぎず,上告人らは,上記各店舗に弁済として交付した金員に相当する財産的損害を被った。


 3 原審は,次のとおり判示して,被上告人について不法行為責任を認める一方,上告人らが貸付けとして交付を受けた金員相当額について損益相殺を認め,その額を各上告人の財産的損害の額から控除した上,原判決別紙認容額一覧表の「当審認容額」欄記載のとおり,上告人らの各請求を一部認容すべきものとした。

 (1) 出資法5条2項が規定する利率を著しく上回る利率による利息の契約をし,これに基づいて利息を受領し又はその支払を要求することは,それ自体が強度の違法性を帯びるものというべきところ,本件各店舗の店長又は店員が上告人らに対して行った貸付けや,元利金等の弁済の名目により上告人らから金員を受領した行為は,上告人らに対する関係において民法709条の不法行為を構成し,被上告人は,Aの統括者として,本件各店舗と上告人らとの間で行われた一連の貸借取引について民法715条1項の使用者責任を負う。

 (2) 本件各店舗が上告人らに対し貸付けとして行った金員の交付は,各貸借取引そのものが公序良俗に反する違法なものであって,法的には不法原因給付に当たるから,各店舗は,上告人らに対し,交付した金員を不当利得として返還請求することはできない。その反射的効果として,上告人らは,交付を受けた金員を確定的に取得するものであり,その限度で利益を得たものと評価せざるを得ない。

 (3) 不法行為による損害賠償制度は,損害の公平妥当な分配という観点から設けられたものであり,現実に被った損害を補てんすることを目的としていると解される(最高裁昭和63年(オ)第1749号平成5年3月24日大法廷判決・民集47巻4号3039頁参照)ことからすると,加害者の不法行為を原因として被害者が利益を得た場合には,当該利益を損益相殺として損害額から控除するのが,現実に被った損害を補てんし,損害の公平妥当な分配を図るという不法行為制度の上記目的にもかなうというべきである。


 4  しかしながら,原審の上記3(3)の判断は是認することができない。その理由は,次のとおりである。
 民法708条は,不法原因給付,すなわち,社会の倫理,道徳に反する醜悪な行為(以下「反倫理的行為」という。)に係る給付については不当利得返還請求を許さない旨を定め,これによって,反倫理的行為については,同条ただし書に定める場合を除き,法律上保護されないことを明らかにしたものと解すべきである。したがって,反倫理的行為に該当する不法行為の被害者が,これによって損害を被るとともに,当該反倫理的行為に係る給付を受けて利益を得た場合には,同利益については,加害者からの不当利得返還請求が許されないだけでなく,被害者からの不法行為に基づく損害賠償請求において損益相殺ないし損益相殺的な調整の対象として被害者の損害額から控除することも,上記のような民法708条の趣旨に反するものとして許されないものというべきである。なお,原判決の引用する前記大法廷判決は,不法行為の被害者の受けた利益が不法原因給付によって生じたものではない場合について判示したものであり,本件とは事案を異にする。

 これを本件についてみると,前記事実関係によれば,著しく高利の貸付けという形をとって上告人らから元利金等の名目で違法に金員を取得し,多大の利益を得るという反倫理的行為に該当する不法行為の手段として,本件各店舗から上告人らに対して貸付けとしての金員が交付されたというのであるから,上記の金員の交付によって上告人らが得た利益は,不法原因給付によって生じたものというべきであり,同利益を損益相殺ないし損益相殺的な調整の対象として上告人らの損害額から控除することは許されない。これと異なる原審の判断には法令の解釈を誤った違法があり,この違法が判決に影響を及ぼすことは明らかである。


 5  以上によれば,論旨は理由があり,原判決のうち上告人らの敗訴部分は破棄を免れない。そして,上告人らが請求し得る損害(弁護士費用相当額を含む。)の額等について更に審理を尽くさせるため,同部分につき本件を原審に差し戻すこととする。

 よって,裁判官全員一致の意見で,主文のとおり判決する。なお,裁判官田原睦夫の意見がある。

 

 裁判官田原睦夫の意見は,次のとおりである。
 私は,本件において,被上告人の支配下にある各店舗から上告人らに対して,著しく高利の約定による貸付金名下で交付された金員は,不法原因給付として,本件各店舗から上告人らに対して返還を請求することができないものであり,また,上告人らが上記貸付金名下で交付を受けたことによる利得は,損益相殺ないし損益相殺的な調整として上告人らが被った損害額から差し引くべきではないとする点では,多数意見と結論を同じくする。しかし,多数意見のように「反倫理的行為に該当する不法行為の被害者が,これによって損害を被るとともに,当該反倫理的行為に係る給付を受けて利益を得た場合には,同利益については,加害者からの不当利得返還請求が許されないだけでなく,被害者からの不法行為に基づく損害賠償請求において損益相殺ないし損益相殺的な調整の対象として被害者の損害額から控除すること」も許されない,と一義的に言い切ることには,なお躊躇を覚える。不法行為の被害者が加害者から受けた給付が,不法原因給付としてその返還を要しない場合であっても,被害の性質や内容,程度,被害者の対応,加害行為の態様等から,その給付をもって損益相殺的処理をなすことが衡平に適う場面があり得ると考えられるからである。

 ところで,本件では,上告人らの被った財産上の損害は,上告人らが本件各店舗に対して支払った元利金等と解されるところ,それに関連して,本件における損害の捉え方及び損益相殺との関係,並びに不法原因給付の給付物を被害者が加害者に交付した場合の関係について,以下に若干の補足的な意見を述べる。

 加害者による不法行為により被害者が金銭等の財産上の損害を被った場合に,被害者が当該不法行為自体によって財産上の利益を得ているときには,その差額をもって財産上の損害額と評価すべきものである。例えば,加害者が投資名下の詐欺で被害者から100万円の交付を受け,その際に利益配当の前払であるとして被害者に5万円を交付した場合には,95万円が損害額である。そして,被害者が当該不法行為に起因して,別途,何らかの利得を得ている場合に,当該利得を既に評価されている損害額から差し引くべきか否かという点において,損益相殺の可否が問題となると考える。

 本件では,上告人らは本件各店舗から著しく高い利率で貸付けを受け,その後に本件各店舗に対して元金部分と利息部分とを明確に区別することなくその元利金名下で支払っているところ,上告人らには,その支払の都度その支払った金額相当額の損害が発生していると評価されるのであり,その損害額の算定において,上告人らが当初に貸付金名下に給付を受けた金額との差額が問題になる余地はない。

 このように,本件では当初の貸付金名下の金員の交付とは別途に損害の発生が認められるところから,その損害と貸付金名下で交付を受けた金員相当額との損益相殺の可否が問題となり得るが,本件では,それが認められるべきでないことは,多数意見の述べるとおりである。

 ところで,上告人らは,貸付金の元利金の支払名下で本件各店舗に支払をなしているところから,利息制限法を超える利息を支払った場合に,その超過部分は,当然に元本に充当されるとする判例法理との関係が一応問題となり得る。しかし,同判例法理は,金銭消費貸借契約の約定で定められた利率が利息制限法で定める利率を超えてはいるものの,当該金銭消費貸借契約それ自体は有効である場合にかかるものであって,本件のごとく貸付行為自体が公序良俗に反し無効である場合には,その貸付けに対する利息の支払を観念する余地はないから,上記判例法理の適用の可否は問題となり得ない。

 また,給付が不法原因給付であって,給付者から利得者に対して不当利得返還請求をすることができない場合に,利得者が給付者に対し,当該給付にかかる物を引き渡し,あるいは給付にかかる利得額の一部又は全部を支払った時は,利得者は,それを返還し又は支払うべき義務が存しなかったことを理由として,給付者に対して,再度の給付を求めることができないと解されているところ,上告人らの本件各店舗に対する支払が,本件貸付金名下で交付を受けた金員の弁済としてなされている場合には,その弁済は,不法原因給付にかかる給付の返還と評価され,その弁済額相当額は損害として評価することができない余地がある。しかし,本件においては,上告人らの本件各店舗に対する支払は,元利金等としてなされてはいても,上記のとおり明確に元金部分として区分して弁済された事実は認められず,また,元利金名下の弁済であっても,上記のとおり判例法理を適用して制限利息超過部分が元本の弁済に充当される余地もないから,上告人らから本件各店舗に対して,貸付金名下の元金に対する弁済としてなされた給付は存しないものというべきである。


 したがって,上告人らが被った財産上の損害は,上告人らが本件各店舗に元利金名下で支払った金員の総額というべきである(なお,上告人らが,本件各店舗に対して元利金名下で支払った金額につき,一審判決は,上告人らの陳述書記載の金額は,銀行に対する調査嘱託の結果と明らかに異なっている部分があり,その記載を直ちに信用することができない,として,上告人らが本件各店舗に対して支払った元利金につき一審判決別紙4取引一覧表の弁済額欄の金額を認定しているのに対して,原判決は,その陳述書の信用性について判決理由中に何ら触れることなく,同陳述書を証拠として引用した上で,上告人らの主張するとおりの元利金名下での金員の支払がなされたものと認定している。この点は,証拠の評価の問題ではあるが,同一の証拠関係に基づいて原審の認定を変更する場合には,当事者に対する説明の観点からも,判決理由中に何らかの説示がなされることが望まれる。)。


 (裁判長裁判官  那須弘平  裁判官  藤田宙靖  裁判官 堀籠幸男  裁判官 田原睦夫  裁判官  近藤崇晴)




 

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【判例】 国籍又は民族性を理由とする差別による賃貸マンションへの入居拒否 1

2008年06月09日 | 民法・借地借家法・裁判・判例

 判例紹介

事件番号      平成17(ワ)11364
事件名    損害賠償請求事件
         賃貸マンションへの入居拒否

裁判所    大阪地方裁判所 第20民事部
裁判年月日
 平成19年12月18日

裁判概要   日本で生まれ育った在日韓国人2世である原告が,賃貸住宅の入居に関して原告の国籍又は民族性を理由とする差別を受け,精神的苦痛を被ったことについて,これは被告が人種差別を禁止する条例を制定していないことによるものであり,同不作為は国家賠償法1条1項の適用上違法であると主張して,被告に対し,上記精神的苦痛に係る慰謝料等450万円及び遅延損害金の支払を求める事案。

判示事項  あらゆる形態の人種差別の撤廃に関する国際条約2条1項柱書き及び同項(d)の規定は,私人間の人種差別を禁止させるための立法措置を執ることについて,個別の国民に対する締約国の具体的作為義務を定めたものではない。

                   主        文

1 原告の請求を棄却する。
2 訴訟費用は原告の負担とする。

 

                     事 実 及 び 理 由

第1 請求
1 被告は,原告に対し,450万円及びこれに対する平成17年1月15日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
2 訴訟費用は被告の負担とする。
3 仮執行宣言

第2 事案の概要及び前提事実
1 本件は,日本で生まれ育った在日韓国人2世である原告が,賃貸住宅の入居に関して原告の国籍又は民族性を理由とする差別を受け,精神的苦痛を被ったことについて,これは被告が人種差別を禁止する条例を制定していないことによるものであり,同不作為は国家賠償法1条1項の適用上違法であると主張して,被告に対し,上記精神的苦痛に係る慰謝料等450万円及び遅延損害金の支払を求める事案である。

2 前提事実(証拠[甲1~3,6,8,15,46,51,原告本人]により容易に認定できる事実及び当裁判所に顕著な事実)

(1) 原告は,日本で生まれ育った在日韓国人2世である。

(2) 原告は,平成17年1月9日,株式会社エイブル梅田新道店(以下「エイブル」という。 )に賃貸住宅の紹介及び賃貸借契約の仲介を依頼した。

(3) エイブルは,同月11日から同月14日までの間,原告に対し,複数の物件情報を紹介した。その中には,大阪市a区b町c丁目d番地所在の建物(以下「本件建物」という。 )が含まれていた。

(4) 原告は,同月15日,本件建物に入居したいと考えて,エイブルの店長に対し,その旨伝えた。同店長は,本件建物の共有者の1人(以下「本件家主」という。 )に対し,電話で,原告が本件建物への入居を希望していることなどを伝えた。
同店長は,上記電話の後,原告に対し,本件家主が原告の入居を拒否した旨伝えた。
同店長は,本件家主に対し,再度電話をして説得したが,本件家主の意思は変わらず,原告は,本件建物への入居を申し込むことができなかった(以下,上記の出来事を「本件入居拒否」という 。)。

(5) 原告は,同年11月17日,大阪地方裁判所に対し,本件家主を被告として,本件入居拒否は原告の国籍又は民族性を理由とする差別であり,本件入居拒否により精神的苦痛を受けたと主張して,不法行為に基づく損害賠償請求訴訟を提起した。原告及び本件家主は,平成19年3月13日,同訴訟事件において裁判上の和解をし,本件家主は,原告に対し,解に基づき,解決金として100万円を支払った。

   「国籍又は民族性を理由とする差別による賃貸マンションへの入居拒否 2」へ続く


【判例】 国籍又は民族性を理由とする差別による賃貸マンションへの入居拒否 2 原告の主張

2008年06月09日 | 民法・借地借家法・裁判・判例

第3 争点及び当事者の主張
 本件の争点は,1 本件入居拒否が生じた時点までに被告が人種差別を禁止する条例を制定しなかった不作為が国家賠償法1条1項の適用上違法であるか,2 原告の損害(本件入居拒否が人種差別に当たるかどうかを含む。 )の有無及びその額以上の2点であり,これらに関する当事者の主張は,以下のとおりである。

 1 本件入居拒否が生じた時点までに被告が人種差別を禁止する条例を制定しなかった不作為が国家賠償法1条1項の適用上違法であるか(争点①)について

(1) 原告の主張
 ア 人種差別に関して国及び地方公共団体が憲法及び条約上負う義務の内容
 (ア) 憲法上の義務
 憲法14条1項が定める平等原則は,国籍又は民族性を理由とする差別(以下「生まれによる差別」という。 )である封建的身分を否定し,人は皆その価値において等しく尊重されるべきとする人間平等の思想を前提とするものであり,近代社会の基本的な秩序として近代的平等原則の核心を成すものである。憲法14条1項後段は 「人種,信条,性別,社会的身分又は門地により,政治的,経済的又は社会的関係において,差別されない」と規定し,生まれによって決定される具体的な先天的事項を列挙してそれらに基づく差別を特に禁止している。このことは,生まれによる差別の禁止という平等原則の核心部分の確認であり,この核心部分は近代社会の公序を形成する。したがって,生まれによる差別は,公権力によるものだけではなく,私人によるものであっても公序に反するものとして,当然に違法となる。

 また,住居は,人間生活の基盤であり,人格的生存のための最も基本的かつ不可欠な要素であることからすれば,住居を確保することは,憲法13条,25条1項,22条1項により保障される基本的人権であり,適切な住居を得る自由権的性格及び生活の基礎として適切な住居を確保することを求める社会権的性格を有する複合的権利である。この住居を確保する権利は,憲法14条1項によって平等に保障されなければならない。

 本件入居拒否のような生まれによる差別は,社会の中に構造的に組み込まれている偏見に根ざすものであり,今日においても,単発的,偶発的な例外事象ではなく,多発している状況である。このような状況の下では,国は,憲法14条1項に定める差別の禁止を実効的なものにするために,民事上の損害賠償請求等による解決にゆだねるだけでなく,生まれによる差別を禁止し,終了させるためのあらゆる施策を積極的に展開しなければならず,このことは憲法14条1項に基づく国の義務である。そして,被告は,公権力の一翼を担う地方公共団体であり,その行為は国際的には国家行為とみなされ,条例制定権,地方公共団体の自治行政権を有する主体であるから,国と同様の義務を負うというべきである。

(イ) 国際条約上の義務
 a 条約の国内法的効力
 日本が平成7年12月20日に加入したあらゆる形態の人種差別の撤廃に関する国際条約(以下「本件条約」という )は,締約国(地方公共団体を含むと解する。 )自身による人種差別行為を禁ずるとともに,その2条1項柱書きで 「締約国は,人種差別を非難し,また,あらゆる形態の人種差別を撤廃する政策及びあらゆる人種間の理解を促進する政策をすべての適当な方法により遅滞なくとることを約束する。このため 」と規定した上,同項(d)で 「締約国は,すべての適当な方法(状況により必要とされるときは,立法を含む。 )により,いかなる個人,集団又は団体による人種差別も禁止し,終了させる 」と規定し,締約国(地方公共団体を含むと解する。 )に対し,国内における「人種差別を非難し,また,あらゆる形態の人種差別を撤廃する政策及びあらゆる人種間の理解を促進する政策をすべての適当な方法により遅滞なくとる」義務及び「すべての適当な方法(状況により必要とされるときは,立法を含む )により,いかなる個人,集団又は団体による人種差別も禁止し,終了させる」義務を定めている。

 日本が批准,加入した国際条約は,一般に法律に優越する国内法的効力が認められている。また,本件条約は,その内容に照らし,締約国内の差別事象のみを対象としており,日本は,上記各義務を遵守するために,本件条約の趣旨に合致するよう国内の差別事象を防止,禁止,終了又は救済するほかない。したがって,本件条約は,その締約国である日本において憲法に次ぐ国内法規範となるものであり,上記規定は,これらの義務違反を判断する上で裁判規範となるものである。

b 本件条約に定める人種差別撤廃義務について
 本件条約2条1項(d)の規定内容及び同項が定める義務のうちの人種差別を禁止する義務(以下「差別禁止義務」という )は,条文構造上,同差別を終了させる義務(以下「差別終了義務」という。 )とは異なり,条約の批准,加入の時点で直ちに実施されるべき即時的なものと解するべきであることからすると,国及び地方公共団体が本件条約上負う差別禁止義務は,それぞれの法域で適当とされる方法を通じて人種差別撤廃のための措置を執るべきことを具体的に義務づけたものである。

 そして,本件条約5条柱書き及び同条(e)(iii)によれば 「第2条に定める基本的義務に従い,締約国は,特に次の権利の享有に当たり,あらゆる形態の人種差別を禁止し及び撤廃すること並びに人種,皮膚の色又は民族的若しくは種族的出身による差別なしに,すべての者が法律の前に平等であるという権利を保障することを約束する 」と規定して 「住居についての権利」を挙げている。したがって,本件条約2条1項柱書き及び同項(d)に定める上記各義務は,締約国(地方公共団体を含むと解する )に対して単なる政治的責務を定めたにすぎないものではなく,具体的な作為義務を定めたものであり,本件入居拒否のような住居についての権利を侵害する差別を禁止することは,本件条約の下で法的義務とされていることは明らかである。

c 国及び地方公共団体の裁量について
 本件条約における国及び地方公共団体が実現すべき目的は,人種差別を禁止し,終了させるという明確なものである。このように目的が明確である場合には,国及び地方公共団体は,当該目的達成のためにいかなる手段を執るかという点に裁量権を有するにとどまり,何もしないという選択肢を有しているものではない。そして,人種差別を禁止し,終了させるためにある適当な方法を執った場合において,それにより人種差別を禁止し,終了させることができないときは,更に別の適当な方法を執らなければならず,その方法の選択に関して裁量の逸脱があれば違法となる。

d 国及び地方公共団体の立法義務
 本件条約に基づいて国及び地方公共団体が執るべき施策,措置は,いかなる人種差別も禁止し,終了させるものでなければならない。憲法14条は私人によるものも含む人種差別を禁止しており,国及び地方公共団体による教育,啓発活動が行われ,個別の事案においては損害賠償請求等による救済もされているが,それにもかかわらず,本件入居拒否のような人種差別事象が多発している。また,本件条約2条1項(d)及び6条によれば,本件条約は,締約国に対し,私人間の人種差別事象に関して立法(条例を含む。 ),行政(地方自治行政を含む 。)及び司法を総動員して人種差別の防止,禁止,終了及び救済措置を講ずることを義務づけているところ,散発的に人種差別事象が発生しているにすぎない場合においては,民事上の損害賠償請求によって本件条約上の差別禁止義務を尽くしたと評価されることもあり得るが,相当の規模の人種差別事象が発生している場合には,民事上の損害賠償請求では人種差別を防止するには不十分であり,その場合に司法のみに差別禁止義務を負わせるという対応は,本件条約の趣旨に沿うものではない。したがって,国及び地方公共団体が立法によらないで人種差別禁止のための措置,施策を執ったものの,それによって人種差別を禁止し,終了させることができない場合には,法律上人種差別を禁ずる義務を課す以外に有効で適当な方法はなく,この場合には,国及び地方公共団体はその旨の立法措置を執らなければならないというべきである。

 民族差別,外国人差別の度合いは,全国一律のものではなく,当該地域の歴史的,社会的条件によって現れ方が一様でない。これらの差別を禁止し,終了させるためには,それぞれの地域の実情に応じた対応を可能にする立法措置が執られるべきである。また,本件入居拒否のような差別を無くすためには,個々の具体的な人種差別事象を把握し,それぞれの事案に応じた適切な措置を講ずることが必要である。このような措置は,地方自治法が「住民に身近な行政はできる限り地方公共団体にゆだねることを基本」としているように(同法1条の2第2項) ,国よりも地方公共団体,それも市町村レベルの方がよりよく行うことができる。

 地方公共団体が人種差別を禁ずる法的義務を課するためには,法令に特別の定めがある場合を除くほか,条例によらなければならない(同法14条2項)ところ,日本政府は,本件条約上の義務の国内的履行に関して,現行法の運用によってその履行が可能であり,その履行のために新たな立法を必要とするものではないとの立場に立っていたから,地方公共団体が上記法的義務を課する条例を定めることに支障はない。

 以上によれば,事案に応じて人種差別を禁止し,終了させる適切な措置を具体的に実施する義務は,地方公共団体である市町村がこれを負うものというべきであり,市町村は,国による新たな立法措置を待たずに,本件条約への加入及びその発効により,本件条約上の義務を履行するための措置として住居についての権利に係る差別を含む生まれによる差別を禁止する条例(以下「差別禁止条例」という )を制定しなければならない法的義務が課せられた。なお,同条例には,賃貸人又は宅地建物取引業者(以下「宅建業者」という )が入居拒否を行った場合に強制力のある中止命令や罰則を伴うことは必ずしも必要ではないが,これらを伴う方が望ましい。この場合,それらが他の法律と抵触する内容のものとなるとしても,人種差別を禁止し,終了させるために必要不可欠である限り,法律より上位の憲法及び条約上の義務の履行として行われるものであるから,無効なものではないというべきである。

イ 被告の条例制定義務違反
 (ア) 被告が差別禁止条例を制定する必要性及び相当性a 大阪市内における外国人に対する入居差別の実態
 (a) 昭和7年版「社会運動の状況」において「近似家主ハ朝鮮人ニ対シ貸家ヲ嫌忌スルノ傾向アリ」と報告されているところ,その当時,このような状況が全国共通のものであった。大阪市内には,歴史的な経緯から在日韓国・朝鮮人が多く居住しており,第2次世界大戦以前の朝鮮人蔑視の態度が同大戦以後も続き,民間賃貸住宅の家主がこれらの者に対して外国人であることを理由にその入居を拒否するという入居差別問題が継続して頻発していた。被告は,遅くとも昭和52年ころには,このような入居差別の問題が存在していることを認識していた。

 (b) 平成5年6月18日,大阪地方裁判所において,マンションの賃貸借に関して借入申込者が外国人(在日韓国人)であることを理由に家主が入居を拒否したことが,契約準備段階における信義則上の義務に違反し,家主は損害賠償義務を免れないとした判決が言い渡された。

 (c) 被告は,昭和57年に市民生活局内に人権啓発課を設置したが,同年以降も,大阪市内における外国人に対する入居差別を防止することができなかった。

 b 以上のような状況及びこれらの入居差別について個別救済としての民事上の損害賠償が命じられてもなお入居差別事象が発生していたことからすると,本件条約が日本において発効した平成8年1月14日ころの時点には,賃貸人及び宅建業者に対して何らかの法的な義務を課することなく外国人に対する入居差別を禁止し,終了させることができないことは明らかであったし,被告はそのことを認識していたということができる。したがって,上記時点において,被告が大阪市内における外国人に対する入居差別を禁止し,終了させるためには,賃貸人及び宅建業者に対して外国人に対する入居差別を禁止する法的義務を課す内容の条例を制定する以外に執り得る適当な方法がなかったことは,一義的に明らかな状況であり,上記時点のころには,被告において,憲法及び本件条約に基づき,差別禁止条例を制定すべきことが状況により必要とされる事態に至っており,被告は同条例を制定する法的義務を負っていた。

 c 被告は,上記時点以降も,人種差別撤廃への取組に関して,① 平成11年4月に大阪市人権行政基本方針を策定し,② 平成12年に大阪市人権尊重の社会づくり条例を制定し,③ 平成6年11月に設置した大阪市外国籍住民施策有識者会議が平成9年7月に出した提言を踏まえ,平成10年3月に「大阪市外国籍住民施策基本指針-共生社会の実現を目指して- (甲34の1。以下「住民施策基本」指針」という )を策定し,平成16年3月に同指針を改定し,④ 相談事業,関係機関と連携した差別事象への対応,賃貸人,宅建業者に対する啓発事業を行っているという。しかし,①の大阪市人権行政基本方針は,一般的な人権尊重の指針にすぎず,被告が具体的にどのような施策を行うかは,同方針からは明らかではない。②の大阪市人権尊重の社会づくり条例は,被告に対する抽象的な義務を規定するにとどまるものであり,賃貸人又は宅建業者に対して直接に行政指導,勧告をすることができるというものではなく,被告が具体的にどのような施策によって差別を解消するのかについては明らかでない。3の住民施策基本指針は,その目標達成のための取組として人権啓発や行政サービスを多言語で提供するなどというものであり,実際に差別が生じたときにどう対処し,救済するかという問題に応えるものではなく,入居差別を防止し,救済するには効果的でない。4は,相談者の自主的解決を支援したり,専門家相談を実施するという内容のものであり,被告が主体的に差別事象の禁止及び救済措置を執る内容のものではない。このように,以上の施策等は,いずれも外国人に対する入居差別を解消させ得るものではなく,大阪市内ではこの間も外国人に対する入居差別が頻繁に発生しており,被告の調査においても,以下のとおり,差別状態が明らかになっている。

 平成13年3月末日当時,大阪市内の外国人登録者は11万8926人であり,そのうち80.7%が韓国・朝鮮籍であったところ,被告は,同月末日現在大阪市内に居住している20歳以上の外国人登録者を母集団とする大阪市外国籍住民の生活意識についての調査(標本調査)を行い,平成14年3月,同調査の結果をまとめた報告書(甲35の1)を発表した。同報告書によれば 「住宅・入居において,差別や不愉快な経験,偏見を感じたこと」とする質問に対する回答(重複回答方式)は,全回答者数のうち56.6%が「とくにない」であり, 「回答なし」が11.3%であったから,住宅・入居において差別等を感じた者は32.1%となる。受けた差別の内容に関しては 「家主から日本国籍が必要と言われて,入居を断ら,れた」者が17.3%(差別等を感じた者に対する割合は53.9%。以下,括弧内の数値は同じ割合を表す 「マンション・アパートの入口に『外国人お断り』)と書かれているのを見た」者が13.9%(43.2%), 「家主から入居の際,日本人の保証人が必要と言われて,入居できなかった」者が12.2%(38.0%), 「不動産業者に外国人を理由として,あっせんしてもらえなかった」者が11.8%(36.9%)であった。また,被告は,上記調査と同時に,大阪市内に居住している有権者を母集団として大阪市における外国籍住民との共生社会実現のための意識調査を行い,その報告書(甲35の2)を発表した。同報告書によれば,基本的人権にかかわる問題として有権者が関心を持っているものとして,障害者やその家族に対する差別の問題(39.8%)の次に在日外国人に対する差別の問題(37.3%)が挙がっており,外国籍住民が受けている不利益として,就職時の不利益(34.3%) ,労働条件(25.% ),結婚時における文化,習慣の違いからくるいやな思い(19.5%)に次いで,住宅への入居拒否(15.2%)が挙げられている。以上のことは,上記各調査が行われた当時,大阪市内に入居拒否を受けた経験を有する外国人登録者が多数いたこと,換言すれば,一定数の家主が外国人に対する入居拒否をしていたことを示している。また,本件入居拒否が行われた時点においても,大阪市内において,外国人に対する入居差別は公然又は隠然として存続していた。

 d 差別禁止条例は,人権保障に資するものであって容易に制定できるものであり,被告が指摘する人種差別撤廃への取組より有効なものである。具体的には,条例という法規範により差別の禁止を宣言することによって,被告の市民に対する教育的効果があり,仲介業者は賃貸人に対して差別禁止条例を根拠に積極的に入居差別を防止するよう働きかけることができ,入居差別による被害を受けた当事者は差別禁止条例を根拠に救済を受けることができる。そして,被告は,差別した者と差別された者との間の自主的解決を支援するという対応にとどまらず,積極的に差別事象に介入することや,賃貸人及び宅建業者に対する入居差別是正のための行政指導をすることが可能となる。

 川崎市は,平成12年に川崎市住宅基本条例を制定した(甲23) 。同条例14条1項は 「何人も,正当な理由なく,高齢者,障害者,外国人等(以下「高齢者等」という。)であることをもって市内の民間賃貸住宅への入居の機会が制約され,又は高齢者等であることをもって入居している民間賃貸住宅の居住の安定が損なわれることがあってはならない 」と規定し,民間賃貸住宅における外国人の入居差別を禁止している。また,同条2項は 「高齢者等の入居の機会の制約又は居住の安定が損なわれることがあったときは,関係者から事情を聴き,必要な協力又は改善を求めるものとする 」と規定し,さらに,同条3項(3)は,高齢者等の民間賃貸住宅への入居の機会の確保及び民間賃貸住宅における居住の安定を図るために民間賃貸住宅への入居に際して必要な保証制度の整備をするなどの施策を実施することを明記している。そして,同市においては,同条例の制定を皮切りに入居差別を禁止するための具体的な施策が施され,同条例の制定後,入居者の限定を行っている家主の割合が減少し,入居者の限定の対象として外国人を挙げる割合も減少している旨の報告がある。

(イ) 被告の義務違反について
 上記(ア)のとおり,被告は,平成8年1月より前に行っていた立法措置以外の方法による施策等では入居差別を解消できない状況にあったところ,同月14日に本件条約が発効して,差別禁止条例を制定する法的義務を負ったにもかかわらず,同条例制定のための措置を何ら執ることなく,その後10年を経過しても,入居差別事象が多数存在していたことを認識しながら同条例を制定せず,大阪市内の賃貸人や宅建業者の入居差別行為を放置し続けた。そして,その結果,国籍又は民族性を理由とする本件入居拒否を招いた。

ウ 被告の義務違反が国家賠償法1条1項の適用上違法であること
 上記ア及びイのとおり,憲法及び本件条約に基づく被告の差別禁止条例制定義務は具体的な義務であり,遅くとも本件条約が発効した時点で同条例の制定が必要とされる状況にあった。そして,上記イ(イ)によれば,被告が同条例を制定するのに不可避的に要する期間を考慮に入れても,本件入居拒否までに同条例を制定するのに必要な相当期間は経過しているということができる。したがって,被告の同条例制定義務の懈怠(公権力の不行使)は,国家賠償法1条1項の適用上,違法というべきである。

   「国籍又は民族性を理由とする差別による賃貸マンションへの入居拒否 3」へ続く