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東京都新宿区が特例として建築を許可した建設中のマンションをめぐり、周辺住民が「敷地への進入路が狭すぎる」として建築確認の取り消しなどを求めた訴訟の上告審判決が17日、あった。最高裁第一小法廷(宮川光治裁判長)は、「災害や火災が起きた場合の安全性が十分でない」として建築確認を取り消した二審・東京高裁判決を維持し、同区の上告を棄却。建築確認の取り消しが確定した。
マンションの建築確認が裁判で取り消されるのは異例。建物は既にほぼ完成しているが、違法状態となり、仕上げの工事もできなくなった。同区によると、敷地面積を広げるか建物の床面積を減らせば適法となるため、建設業者に是正を求める方針。ただ、裁判で争ってきた周辺住民らが土地を売る見込みは薄く、取り壊しとなる可能性が高い。
問題となったのは、高さ約10メートルの3階建てマンション。敷地の周りはがけ状で、長さ約34メートル、最小幅約4メートルの進入路だけで外の道路に通じている。
延べ床面積は約2800平方メートル。都条例に従えば災害時の避難のため幅8メートルの通路がなければ、建築確認の前提となる安全認定を出すことができないが、区は建物の規模や耐火性を考慮し、「安全性に支障はない」と判断して2004年12月に特例として安全認定し、06年7月には建築確認が出された。延べ床面積が1千平方メートル以下であれば、安全認定は必要ない。
本来は今年4月に完成予定だったが、東京高裁が1月の判決で「区の安全認定に合理的根拠はなく、建築確認も違法」と指摘したため、工事がストップしていた。部屋は約30戸あるが、訴訟になったこともあり、マンション業者は販売していないという。業者側は「新宿区が安全認定を出したことを信頼して土地を取得し、開発を進めてきたため、非常に困惑している。区に対して損害賠償請求することも視野に、対応を検討したい」と話している。取り壊すことが決まった場合でも、費用負担などが問題となる。
本来は今年4月に完成予定だったが、東京高裁が1月の判決で「区の安全認定に合理的根拠はなく、建築確認も違法」と指摘したため、工事がストップしていた。部屋は約30戸あるが、訴訟になったこともあり、マンション業者は販売していないという。業者側は「新宿区が安全認定を出したことを信頼して土地を取得し、開発を進めてきたため、非常に困惑している。区に対して損害賠償請求することも視野に、対応を検討したい」と話している。取り壊すことが決まった場合でも、費用負担などが問題となる。
現場はタヌキも出没する屋敷跡で「タヌキの森」と親しまれていた。原告の一人、武田英紀さんは「できれば区が土地を買い戻し、再び木を植えてグリーンベルトにしてほしい」と話している。
2009年12月17日 asahicom(朝日新聞社)
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タヌキがすむ東京都新宿区の住宅跡地へのマンション建築を巡り、反対する周辺住民が区を相手に建築確認取り消しを求めた行政訴訟の判決で、最高裁第1小法廷(宮川光治裁判長)は17日、区の上告を棄却した。区側逆転敗訴の2審・東京高裁判決(1月)が確定した。
住民側代理人によると、マンションは9割方完成していたが、高裁判決後の1月に工事がストップ。完成間近の建物の建築確認が取り消されるのは異例。違法建築になるため、建設業者は建物の取り壊しを迫られる。区の責任を追及する動きも起こりそうだ。
問題となったのは、新宿区下落合4に建設中の3階建てマンション(30戸)。敷地はがけや塀に囲まれ、長さ約34メートル、最小幅4メートルの通路だけで外の道路に通じる。
災害時の避難のため建物敷地に接する道路の幅を定めた都条例では、幅8メートルの通路が必要とされているが、区は「中庭が設置され、耐火性があるなど安全上支障はなく、条例の例外規定に該当する」として建築確認を出していた。
1審・東京地裁は区側勝訴としたが、2審は「幅8メートルの通路がある場合と同程度の安全性はなく、例外を認める根拠はない」と指摘。小法廷も「2審の判断は是認できる」と述べた。
◇200年の古木「タヌキの森」
周辺住民は、樹齢200年の古木がある「タヌキの森」の保存を区に要望。土地を買い取り公園化するよう求め、一時は約2億3000万円の基金を集めていた。しかし、区は土地を買収できず、06年に工事が始まった。
現在、敷地内の樹木は伐採され、タヌキも姿を消したが、周辺では生息が確認されているという。記者会見した原告の武田英紀さん(44)は「大変うれしい判決。また自然を復元する活動を続けたい」と喜びを語った。
▽中山弘子・新宿区長の話 司法の最終判断を真摯(しんし)に受けとめ、適切に対応していきたい。
▽建設業者の話 区が安全認定を出したことを信頼して土地を取得し、許可を得て開発を進めてきた。判決に非常に困惑している。当社の手続きに不備はないので、今後は区とも協議し、区に何らかの対応を求めていく。
毎日新聞 2009年12月17日
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東京都新宿区で建設中の3階建てマンションを巡り、周辺住民が「安全性に問題がある」として、区に建築確認の取り消しを求めた訴訟の上告審判決が17日、最高裁第1小法廷であった。
宮川光治裁判長は「マンションの建築確認は違法だ」として、建築確認を取り消した2審・東京高裁判決を支持し、原告勝訴の判決を言い渡した。マンションは本体工事を終えるなど7割方完成しているが、建築確認が取り消されたため、建物の大半を取り壊すなどの措置を取る必要が出てきた。
国土交通省などによると、工事が進んでいる大型建築物の建築確認が取り消されるのは極めて異例。
問題となったのは、千葉市の建設会社が同区下落合で建設中の地上3階地下1階建てのマンション(約30戸、延べ床面積約2820平方メートル)。周囲ががけなどに囲まれ、西側に長さ約34メートル、最小幅約4メートルの通路だけで外部の道とつながっている。
判決によると、都建築安全条例では、延べ床面積が2000平方メートルを超える建築物は幅8メートルの通路が必要だが、区長が安全だと認める場合には例外とする規定がある。新宿区はこの例外規定を適用した上で、2006年7月に建築確認をした。
1審・東京地裁は08年4月、「提訴できる期間を過ぎている」として訴えを退けたが、同高裁は今年1月、「マンションの敷地は周囲ががけになっており、通路以外で避難できない。災害時の避難に支障がないとする区長の判断は合理性を欠き違法」と請求を認めた。
(2009年12月17日 読売新聞)
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敷金礼金が不要の「ゼロゼロ物件」に入居していた福岡県内の男性が、未明に及ぶ延滞家賃の督促で精神的苦痛を受けたとして、家賃保証会社「フォーシーズ」(東京都港区)と社員3人に110万円の損害賠償を求めた訴訟の控訴審判決が2009年12月3日、福岡地裁であった。高野裕裁判長は「取り立て行為は心身の安全や生活の平穏を脅かすようなものだった」として、同社側に5万円の支払いを命じた一審判決を変更、22万円の支払いを命じた。
判決によると、男性は2007年4月、同社の連帯保証を受け福岡市城南区のアパートを借りたが、同年6月分以降の家賃の支払いが遅れた。社員3人は8月31日夜、男性方を訪れ、午前3時まで6時間にわたり同社が立て替えた約6万円の支払いを求めた。
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刑事事件の時効について「犯人が国外にいる場合は進行を停止する」と定めた刑事訴訟法の規定をめぐり、最高裁第一小法廷(桜井龍子裁判長)は「一時的な海外渡航でも適用される」という初判断を示した。これまでは、短期間の旅行のような場合はカウントされないという学説が有力だったが、最高裁が逆の立場を採用する形となった。
判断は、土地購入をめぐって99年に知人女性から約3300万円をだまし取ったとして、07年に詐欺罪で起訴された高知県の男性(57)=一、二審で実刑=の上告を棄却した20日付の決定で示された。詐欺罪の時効は7年だが、検察側は男性が犯行から起訴までの7年10カ月余りの間に数日間の海外渡航を56回繰り返し、計324日を「国外」で過ごしていたため、この期間を除くと時効が完成していないとしていた。
弁護側は上告審で「国外にいる場合に時効を停止するのは、起訴状を送達することが困難なためだ」という学説を引用し、「一時的な海外旅行の場合はすぐに帰国し、起訴状を受け取ることができるため、時効の停止を認めるべきでない」と主張した。しかし、第一小法廷は「国外にいる間は、一時的な渡航による場合でも、時効の進行を停止する」と判断し、起訴が適法だったと結論づけた。(中井大助)
2009年10月23日 asahi.com(朝日新聞社)
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短期の海外旅行でも公訴時効の進行が停止する要件となる「国外にいる場合」にあたるかが争われた詐欺事件の上告審で、最高裁第1小法廷(桜井龍子裁判長)は、「一時的な渡航でも停止する」との初判断を示し、被告側の上告を棄却する決定をした。決定は20日付。詐欺罪に問われ、無罪主張していた団体役員の被告(57)について、懲役1年2月とした2審高松高裁判決が確定する。
短期の海外滞在には時効の停止規定を適用しないとの解釈が有力な説となっているため、決定は捜査実務にも影響しそうだ。
2審判決などによると、被告は平成11年8~9月、不動産投資に絡み、女性から約3300万円をだまし取った。
詐欺罪の公訴時効は7年で、平成18年9月に時効が完成するはずだったが、被告は事件後に56回渡航。ほとんどが10日未満の渡航だったが、検察側は計324日間は「国外にいる場合」にあたると判断、時効は19年8月まで伸びるとして、同年7月に起訴した。
弁護側は「犯人が一時的に国外旅行をしても捜査に支障はなく、10日を超えない程度の渡航では停止しない」と、起訴時点では時効が成立していたなどと主張していた。
2009年10月22日 産経ニュース
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91年9月、自・社・公・民各党の賛成で借地法・借家法を廃止し、新借地借家法が成立。その結果、賃貸借契約の解約に必要な正当事由の緩和と定期借地制度が制定されました。
99年12月には、契約期限が過ぎれば、無条件で追い出される定期借家制度が自・公・民各党の賛成で借地借家法に規定されました。
その結果、民間借家人ばかりか公的賃貸住宅まで、期限付の賃貸契約が増えています。
民間デベロッパーなど借地借家法見直し推進派は、正当事由の抜本的な見直しや既存の契約にも適用できる定期借家制度へ借地借家法を見直しすることを自・公各党などへ強く働きかけています。
全借連は、借地借家人の居住不安を強める「正当事由」の見直しに反対し「定期借家制度」の廃止を要求しています。
06年4月制定された住生活基本法は、国民の住宅保障を民間依存に位置付け、公的責任を極貧層の低所得者層と高齢者世帯へ限定し、国民の住宅保障を民間活力を活用した市場原理に依存した方向が示されています。
特に、公営住宅は、ストックの有効活用と称して、公営住宅の新規供給を行なわず既存の公営住宅の建替と入居有資格者をさらに限定し、既存の入居者の追い出し制度へ指針を示しました。
しかも、政府が責任を負うべし住宅施策を地方自治体へ押しつけ、地方財源不足の中で住宅対策はいよいよ置き去りにする方向を示しました。
全借連は、「住まいは人権」「居住は福祉」を基本理念にし、国民の住宅貧困は公的責任で解決することを中心にした住宅施策の実現を要求します。
96年6月、公営住宅法を、自・民・公各党の賛成で抜本的に改悪し、国会で審議をせずに家賃制度と入居基準を政令で見直すことができるようになりました。
その結果、来年4月から家賃算定基準を見直し、家賃を引き上げると共に、新規入居者の入居資格をこれまで政令月収20万円から15万8千円に引下げ、公営住宅の入居者をますます低所得者世帯と高齢者世帯へ限定しました。
全借連は、国民の住宅問題を解決するために安くて住みよい公営住宅の大量建設と安心して住み続けられる公営住宅制度に見直すことを要求しています。
全国借地借家人新聞より
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全国にホテルを展開しているプリンスホテル(東京都豊島区)が日本教職員組合(日教組)の集会への会場使用を拒否した問題をめぐる訴訟で、東京地裁(河野清孝裁判長)は28日、日教組側の請求をすべて認め、約2億9千万円の支払いと謝罪広告の新聞各紙への掲載を同社側に命じる判決を言い渡した。
プリンスホテル側は「認定は納得できない」などとする談話を公表し、控訴の方向で検討するとした。
日教組は、08年2月の「教育研究全国集会」(教研集会)の会場とするため、07年10月までに「グランドプリンスホテル新高輪」(港区)の宴会場の使用や参加者向けに190室の宿泊契約を結んだ。ホテル側は同年11月、「右翼の街宣などで周囲に迷惑がかかる」として解約を主張し使用を拒否。日教組側が使用を認める仮処分を求めた。東京高裁は「ホテル側が日教組や警察当局と十分打ち合わせることで混乱は防止できる」として、使用予定日の2日前にホテル側の抗告を棄却する決定をしたが、ホテルは拒否を続けた。51年に始まった教研集会で初めて全体集会が中止される事態となった。日教組側は、プリンスホテルと同社の取締役12人を相手に提訴していた。
判決は、日教組の求めに応じて会場使用を認める仮処分命令を東京地裁が出し、東京高裁も抗告を棄却したのにプリンスホテル側が従わなかった点を厳しく非難。「命令に従うことなく、日教組の使用を妨げた。司法制度の基本構造を無視するもので違法性は著しい」と述べた。同社の渡辺幸弘社長に対しても「日教組に会場を使用させる義務があることを認識しながら、悪意でその職務を怠り、損害を与えた」として、会社法上の損害賠償責任を負うと認めた。
そのうえで「参加者が、様々な意見に接して人格を形成、発展する集会に参加することは法律上守られる利益だ」として、1889人の組合員1人あたり5万円の慰謝料請求も認めた。
朝日新聞 2009.7.29
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会場の使用契約を一方的に解除され、教育研究全国集会(教研集会)の全体集会を開催できなかったとして、日本教職員組合(日教組)らがプリンスホテル(東京)などに対し、約2億9000万円の損害賠償などを求めた訴訟の判決で、東京地裁は28日、ホテル側に請求全額の支払いと全国紙への謝罪広告の掲載を命じた。ホテル側は控訴する方針。
判決理由で、河野清孝裁判長は「ホテル側が正当な法的根拠もなく、会場の使用を拒否したことは、債務不履行に当たる」と指摘。日教組に会場使用を命じた裁判所の仮処分決定に従わなかったホテル側の姿勢を「民事保全法の予定していない行為。司法制度を無視するもので容認できない」と批判した。
その上で、判決は教研集会を「参加者が様々な意見や情報に接することで、思想や人格を形成・発展させる場」と位置づけ、「集会に参加する利益は法律上保護されるべき」と判断。会場の使用拒否が不法行為に基づく賠償責任を負うと結論づけた。
2009.07.28 日本経済新聞
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判例紹介
(裁判要旨)
相手方らが立入禁止等と記載した看板を被告人方建物に取り付けようとした際にこれを阻止するために被告人が行った暴行について,相手方らの行為は被告人らの建物に対する共有持分権,賃借権等を侵害するとともに,その業務を妨害し,名誉を害するものである上,相手方らは以前から継続的に被告人らの上記権利等を実力で侵害する行為を繰り返していた一方,上記暴行の程度は軽微であるなどの本件事実関係の下においては,正当防衛が成立するとされた事例
最高裁判所第一小法廷 平成21年07月16日判決 (平成20(あ)1870)
主 文
原判決及び第1審判決を破棄する。
被告人は無罪。
理 由
弁護人鶴敍の上告趣意は,事実誤認,単なる法令違反の主張であって,刑訴法405条の上告理由に当たらない。
しかし,所論にかんがみ職権をもって調査すると,原判決及び第1審判決は,刑訴法411条1号,3号により破棄を免れない。その理由は,以下のとおりである。
1 本件公訴事実の要旨は,「被告人は,平成18年12月22日午後7時20分ころ,広島市南区所在の被告人方前路上において,B(当時48歳)に対し,その胸部等を両手で突く暴行を加えて同人を転倒させ,よって,加療約1週間を要する後頭部打撲等の傷害を負わせた。」というものである。第1審判決は,公訴事実に沿うBの供述及びその場に居合わせたCの供述に信用性を認め,公訴事実と同旨の犯罪事実を認定し,傷害罪の成立を認め,被告人を罰金15万円に処した。
これに対し,被告人が控訴を申し立て,被告人は上記暴行を加えていないとして第1審判決の事実誤認を主張した。原判決は,要旨以下のような理由により,被告人について傷害罪が成立するとした第1審判決は事実を誤認したものであるとして,これを破棄した上,被告人がBに対してその胸部等を両手で突いて転倒させる暴行(以下「本件暴行」という。)を加えたという暴行罪の限度で事実を認定し,被告人を科料9900円に処した。すなわち,原判決は,本件暴行を否定する被告人及びその夫D(以下「D」という。)の各供述を信用することはできないとする一方,Bが勤務する株式会社E不動産と,被告人,D及び被告人が代表取締役を務める有限会社F宅建との間で,上記被告人方住居兼事務所(登記上は倉庫・事務所。以下「本件建物」という。)の使用方法等をめぐる民事上の紛争が生じており,Bが被告人を不利な立場に陥れることによりE不動産を上記紛争において有利な立場に導こうという意図を有していた可能性は否定し難いことを指摘した上,本件被害状況に関するBの供述の信用性には相当の疑問があるとし,Cの上記供述と一致する点については信用できるものの,転倒した際に地面で後頭部を打ったとする点については信用できず,Bに後頭部打撲等の傷害が生じた事実を認定することはできないとした。
2 原判決の認定及び記録によれば,本件の事実関係は次のとおりである。
(1) 本件建物及びその敷地は,Dの亡父が所有していたところ,その持分の一部は,同人から贈与又は相続により取得した者を経て,E不動産が強制競売又は売買により取得した。本件当時,登記上,本件建物については,D及びE不動産がそれぞれ2分の1ずつの持分を有する一方,その敷地については,E不動産,被告人,Dほかが共有しており,そのうちE不動産は264分の83の持分を有していた。E不動産は,これらの持分を平成15年12月ころまでに取得したものである。
(2) F宅建は,平成3年に本件建物の賃借人の地位を取得し,平成17年9月,それまで他の会社に転貸されていた本件建物の明渡しを受けた。そして,F宅建は,同年10月ころ,建設会社に本件建物の原状回復及び改修の工事を請け負わせた。また,そのころ,被告人及びDは,本件建物の一部に居住し始めるとともに,これをF宅建の事務所としても使用するようになった。ところが,その後,E不動産の関連不動産会社である株式会社Gの従業員が上記建設会社の作業員らに対して上記工事を中止するように申し入れ,同年11月には,本件建物に取り付けられたばかりのサッシのガラス10枚すべてをE不動産関係者が割るなどしたことから,上記建設会社は,工事を中止した。
そこで,F宅建は,同年12月,改めて別の建設会社に上記工事の残工事を請け負わせたところ,E不動産の従業員であるBがほとんど毎日工事現場に来ては,上記建設会社の作業員に対し,本件建物の工事差止めを求めて裁判で争っているから工事をしてはならない旨申し向けて威圧的に工事の中止を求め,その工事を妨害した。また,E不動産は,上記建設会社に対し,工事の中止を求める内容証明郵便を送付したり,F宅建から支払われる請負代金額の3倍の保証金を支払うので工事から手を引くよう求めたりし,上記建設会社がこれを断ると,E不動産関係者は,今後広島で無事に仕事をすることができると思うななどと申し向けて脅迫した。平成18年に入ると,Bのほかにも,E不動産の従業員と称する者が,毎日,工事開始から終了まで本件建物前に車を止めて張り付き,作業員らにすごむなどしたため,上記建設会社も工事を中止した。
そして,E不動産は,その工事が続行されないように,本件建物の周囲に残っていた工事用足場をG名義で買い取った上,本件建物の入口付近に鉄パイプを何本も取り付けて出入り困難な状態とし,「足場使用厳禁」等と記載した看板を取り付けるなどした。その後も,E不動産関係者は,本件建物の前に車を止めて,F宅建を訪れる客に対して立入禁止である旨を告げるなどした。
また,E不動産は,同年1月ころ以降,建設業者が本件建物に立ち入らないようにするため,その立入りを禁止する旨表示した看板を本件建物の壁面等に取り付けたところ,被告人らに外されたりしたため,その都度,同様の看板を本件建物に取り付けることを七,八回繰り返した。
(3) 一方,E不動産は,平成17年11月,本件建物の2分の1の共有持分権に基づく妨害排除請求権を被保全権利として,D,被告人及びF宅建を相手方として,本件建物の増改築工事の中止及び続行禁止並びに明渡し断行を求める仮処分を申し立てたが,却下され,即時抗告を申し立てた。広島高等裁判所は,平成18年9月,F宅建はE不動産が本件建物の持分を取得する以前から本件建物について賃借権を有しており,Dは本件建物の共有持分権を有し,被告人はF宅建の代表者又はDの妻として本件建物を占有しているから,E不動産は,F宅建に対しても,D及び被告人に対しても,本件建物の明渡しを請求できない旨,F宅建は賃貸借契約において本件建物の大修繕や改良工事の権限が与えられているから,E不動産はF宅建による工事の中止や続行禁止を求めることもできない旨判示して,E不動産の上記即時抗告を棄却し,これが確定した。
(4) Bは,平成18年12月20日に本件建物の壁に取り付けた立入禁止の看板の一部が同月21日朝にはがされたりちぎられたりし,同日夜にはなくなっているのを発見したので,同月22日午後7時10分ころ,立入禁止の看板3枚を本件建物に取り付けるため,看板製作・取付会社の取締役であるC及び同社従業員のHほか1名と共に本件建物前に行った。Bの依頼により,C及びHは,立入禁止の看板1枚(以下「本件看板」という。)を自動車から下ろし,その裏面全面に接着剤であるコーキングを付け,はしごを本件建物西側の壁面に立て掛けるなど,本件看板を取り付ける作業を開始した。
本件看板は,縦91cm,横119.9cm,厚さ0.3cm,重さ2.5kgのものであり,「立入禁止 広島地方裁判所においてD,AおよびF宅建と係争中のため本件建物への立入を禁ずる。所有者株式会社E不動産」等と記載され,「立入禁止」の文字は赤色で他の文字より大きく,「広島地方裁判所」及び「係争中」の文字もそれぞれ赤色で表示され,その他の文言は黒色で表示されている(なお,E不動産が,F宅建及びDを被告として,本件建物について共有物分割訴訟等を提起したのは,平成19年1月11日になってからである。)。
また,本件建物は,その西側が南北方向に走る市道に面し,その境界から約2m離れて建てられており,その西壁は南北の長さが約18mある。上記市道は車道幅員が約5mであり,その東側には幅員約1.9mの歩道が設けられている。上記市道は,夜間,交通が閑散である。
(5) 前記のとおりCらが本件看板を本件建物の壁面に取り付ける作業を開始したところ,被告人及びDがやってきて,何をするんだなどと大声で怒鳴り,被告人は,Cの持っていた本件看板を強引に引っ張って取り上げ,裏面を下にして,本件建物西側敷地と上記歩道にまたがる地面へ投げ付け,その上に乗って踏み付けた。
Bは,被告人が本件看板から降りた後,これを持ち上げ,コーキングの付いた裏面を自らの方に向け,その体から前へ10cmないし15cm離して本件看板を両手で持ち,付けてくれと言ってこれをCに渡そうとした。そこで,被告人は,これを阻止するため,Bに対し,上記市道の車道の方に向かって,その胸部を両手で約10回にわたり押したところ,Bは,約2m後退し,最後に被告人がBの体を右手で突いた際,本件看板を左前方に落として,背中から落ちるように転倒した(本件暴行)。
なお,Bが被告人に押されて後退し,転倒したのは,被告人の力のみによるものではなく,Bが大げさに後退したことと本件看板を持っていたこととがあいまって,バランスを崩したためである可能性が否定できない。
(6) Bは,本件当時48歳で,身長約175cmの男性であり,被告人は,本件当時74歳で,身長約149cmの女性である。被告人は,本件以前に受けた手術の影響による右上肢運動障害のほか,左肩関節運動障害や左肩鎖関節の脱臼を有し,要介護1の認定を受けていた。
3 原判決は,本件暴行につき被告人を有罪とした上で,被告人はBらによる本件看板の設置を阻止しようとして本件暴行に及んだものであるが,前記2(3)のとおり即時抗告棄却決定においてE不動産が被告人らに対して本件建物の明渡しや工事の中止等を求める権利がない旨判断されていること等からすれば,Bが本件看板を本件建物に設置することは,違法な行為であって,従前の経緯等をも考慮すると,嫌がらせ以外の何物でもないというべきであるとし,Bによる違法な嫌がらせが本件の発端となったことは,刑の量定に当たって十分考慮しなければならない旨判示し,前記1のとおり,被告人を科料9900円に処した。
4 所論は,仮に被告人による本件暴行があったとしても,それは正当防衛に当たる旨主張する。
そこで,前記2の事実関係を踏まえて検討するに,Bらが立入禁止等と記載した本件看板を本件建物に設置することは,被告人らの本件建物に対する前記2(3)の共有持分権,賃借権等を侵害するとともに,F宅建の業務を妨害し,被告人らの名誉を害するものといわなければならない。そして,Bの依頼を受けたCらは,本件建物のすぐ前において本件看板を取り付ける作業を開始し,被告人がこれを取り上げて踏み付けた後も,Bがこれを持ち上げ,付けてくれと言ってCに渡そうとしていたのであるから,本件暴行の際,Bらはなおも本件看板を本件建物に取り付けようとしていたものと認められ,その行為は,被告人らの上記権利や業務,名誉に対する急迫不正の侵害に当たるというべきである。
そして,被告人は,BがCに対して本件看板を渡そうとしたのに対し,これを阻止しようとして本件暴行に及び,Bを本件建物から遠ざける方向に押したのであるから,Bらによる上記侵害から被告人らの上記権利等を防衛するために本件暴行を行ったものと認められる。
さらに,Bらは,前記2(2)及び(4)のとおり,本件建物のガラスを割ったり作業員を威圧したりすることによって被告人らが請け負わせた本件建物の原状回復等の工事を中止に追い込んだ上,本件建物への第三者の出入りを妨害し,同(3)の即時抗告棄却決定の後においても,立入禁止等と記載した看板を本件建物に設置するなど,本件以前から継続的に被告人らの本件建物に対する権利等を実力で侵害する行為を繰り返しており,本件における上記不正の侵害はその一環をなすものである。
一方,被告人とBとの間には同(6)のような体格差等があることや,同(5)のとおりBが後退して転倒したのは被告人の力のみによるものとは認め難いことなどからすれば,本件暴行の程度は軽微なものであったというべきである。そうすると,本件暴行は,被告人らの主として財産的権利を防衛するためにBの身体の安全を侵害したものであることを考慮しても,いまだBらによる上記侵害に対する防衛手段としての相当性の範囲を超えたものということはできない。
以上によれば,本件暴行については,刑法36条1項の正当防衛として違法性が阻却されるから,これに正当防衛の成立を認めなかった原判決は,事実を誤認したか,同項の解釈適用を誤ったものといわざるを得ない。
5 以上のとおり,公訴事実につき被告人を有罪とした原判決及び第1審判決は,いずれも判決に影響を及ぼすべき法令違反ないし重大な事実誤認があり,これを破棄しなければ著しく正義に反するものと認められる。そして,本件については,訴訟記録並びに原裁判所及び第1審裁判所において取り調べた証拠によって直ちに判決をすることができるものと認められるので,被告人に対し無罪の言渡しをすべきである。
よって,刑訴法411条1号,3号,413条ただし書,414条,404条,336条により,裁判官全員一致の意見で,主文のとおり判決する。
検察官野々上尚 公判出席
(裁判長裁判官 宮川光治 裁判官 甲斐中辰夫 裁判官 涌井紀夫 裁判官 櫻井龍子 裁判官 金築誠志)
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建物を巡るトラブルから、不動産会社の社員を転倒させた行為が正当防衛に当たるかどうかが争われた事件の上告審判決が2009年7月16日、最高裁第1小法廷であった。
広島市で平成18年、自宅や経営する会社が入る建物の明け渡しをめぐって、立ち入り禁止の看板を取り付けようとした不動産会社の男性の胸を突いて転ばせたとして、暴行の罪で2審有罪とされた女性被告(76)の上告審判決で、最高裁第1小法廷(宮川光治裁判長)は16日正当防衛を認定、有罪とした1、2審判決を破棄し、逆転無罪を言い渡した。
上告審で被告側は「以前から業務妨害をくり返され、やむなく反撃したので正当防衛が成立する」などと無罪を主張してきた。
同小法廷は不動産会社の男性の行為について、「女性らの財産を侵害し、名誉を害する急迫不正のものだった」と指摘。さらに「不動産会社の男性らは以前から継続的に建物に対する権利を実力で侵害する行為を繰り返してきた」と述べた上で、「侵害に対する防衛手段として相当な範囲を超えない」と結論づけた。
女性は社員から暴力は受けておらず、身体や生命に対する侵害行為がないのに、嫌がらせをした相手への反撃が生命や身体への攻撃でなく、財産の侵害を守るために加えた暴行について、「正当防衛」が認められるのは異例である。
判決によると、建物は女性の夫の所有であったが、建物の所有権の一部を不動産業者が取得し、建物は女性の夫と不動産会社が持ち分を共有し、トラブルになっていた。
不動産会社は立ち退きなどを求め仮処分を裁判所に申し立てたが認められなかった。その後、自宅兼会社事務所の建物に不動産業者が「立ち入り禁止」と書かれた看板を取り付けては、女性側が外すことが繰り返されていた。
女性は06年12月、再び看板をつけようとした不動産業者の従業員を突いて、頭にけがをさせたとして傷害罪で起訴された。
判決は、(1)不動産会社側が立ち入り禁止の看板を取り付けることは女性の会社の業務を妨害し、建物の共有持ち分権などの侵害に当たる(2)本件以前にも嫌がらせが繰り返された(3)不動産業者の従業員は,「本件当時48歳で,身長約175cmの男性であり,被告人は,本件当時74歳で,身長約149cmの女性である。被告人は,本件以前に受けた手術の影響による右上肢運動障害のほか,左肩関節運動障害や左肩鎖関節の脱臼を有し,要介護1の認定を受けていた」として身長差26センチと体格に差があり、男性が大げさに後ろに下がった可能性もあるとして男性が虚偽被害申告した疑いがあると指摘。暴行の程度も軽く、防衛手段として相当だったと結論づけ、「女性の行為は防衛手段として相当性がある」と判断した。
1審広島地裁は、男性らの証言の信用性を認め、傷害罪で女性に罰金15万円を言い渡した。2審広島高裁は「被害者が負傷した証明がない」として、1審判決を破棄して暴行罪の成立にとどめ、科料9900円とした。
最高裁第1小法廷(宮川光治裁判長)は16日正当防衛を認定、有罪とした1、2審判決を破棄し、逆転無罪を言い渡した。女性の無罪が確定した。
最高裁2009年7月16日判決 全文
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判例紹介
平成20年3月21日判決言渡 東京簡易裁判所
平成19年(少コ)第3209号損害賠償請求事件(通常手続移行)
判 決
主 文
1 原告の請求を棄却する。
2 訴訟費用は原告の負担とする。
事 実 及 び 理 由
第1 請求の趣旨
被告は原告に対し,金59万8500円及びこれに対する平成20年1月17日(訴状送達の日の翌日)から支払済みまで年5パーセントの割合による金員を支払え。
第2 事案の概要
1 請求原因及び原告(会社)の主張の要旨
(1) 原告は,平成19年8月24日,訴外Aから,被告マンションに隣接する下記の借地権付き建物(以下「原告建物」という。 )を買い受けた。売買契約の際,原告建物に後記の被告マンションによるテレビの受信障害があることは,Aないし不動産仲介業者から原告には告知されなかった。
記
所 在 東京都北区a町b丁目c番地
家屋番号 d番e
種 類 事務所 共同住宅
構 造 鉄骨造 陸屋根 4階建 延床面積 m2335.8
昭和63年2月29日新築
(2) その後,被告マンションを原因とするテレビの受信障害が発生することが判明したため,管理会社である訴外株式会社Bに問い合わせたところ,原告建物が被告マンションによる受信障害の補償エリア内にあることがわかった。原告は被告(管理組合)に対し,受信障害を解消するための対応を依頼したが,被告は同年11月12日,対応できないとの回答をした。
(3) 原告建物の前所有者であるAは,被告マンションの建設当時,受信障害について何らの説明も受けていない。原告建物はその所在地からして受信障害が発生する可能性が極めて高い地域にあり,被告は受信障害発生の有無を調査した上で,Aにその結果を告知する義務があったのにこれを怠った。被告マンションの建設当時と現在では近辺の状況は大きく変容しているが,原告建物の受信障害は被告マンションが原因であることは間違いなく,被告は依然として受信障害対策を講じる義務を負っている。
(4) 原告の損害及び被告の責任
原告建物のテレビ受信障害を解消するための工事費用(地上デジタル放送の受信を前提とした見積)は59万8500円であり,これを被告マンションによる受信障害の損害賠償として請求する。
2 被告(管理組合)の主張の要旨
(1) 被告マンション(12階建て,高さ36.6メートル)の建築主である訴外株式会社Cは,平成4年の建築当時,訴外D技術協会会員のE電設株式会社に「建造物によるテレビ受信障害調査報告書 」(乙1)を作成させ,テレビの受信障害が発生すると予測された地域の住民に対し建築主の費用負担で共同受信設備を設置し,従前どおりの地上アナログテレビ放送の電波を受信できるよう対策工事を行った(乙2,3)。
(2) 原告建物には前記の対策工事は行っておらず,この地域にケーブルテレビが導入されたのは平成8年になってからであることからすると(乙4,5),平成4年の被告マンション建築当時にはテレビの受信障害が発生していなかったものと推認される。
(3) 昭和51年3月6日付け郵政省電波監理局長通達(乙6)によれば,共同受信施設が設置された後 新たに受信障害地域に家屋を建築するなどした 後, 「住者」が共同受信施設の利用を希望する場合は,設置者は後住者に対してこれを利用させることが望ましく,その場合の付加的設備(引込線,保安器,屋内配線等)の費用は後住者が負担するのが適当とされている。被告マンションの共同受信施設が設置された約15年後に原告建物を購入した原告は前記の後住者にあたり,被告は原告が共同受信施設を利用することは許容するが,付加的設備の費用は原告が負担すべきである。
(4) 原告が主張する本件工事費用は,地上デジタル放送の受信を前提としたものであって(乙8) ,工事費用としては過大である。被告マンションによるテレビの受信障害対策工事は地上アナログテレビ放送を受信するためのものであって,地上アナログテレビ放送を受信するためには,共同受信設備から原告建物の保安器までの引込線をひく工事費用の5万7750円で足りる(乙9 )。
3 本件の争点
被告に,原告建物についてのテレビ受信障害対策工事ないしその費用負担の義務があるか。
第3 当裁判所の判断
1 認定事実
証拠及び弁論の全趣旨によれば,次の事実が認められる。
(1) 被告マンションは平成4年に建築に着手され 平成5年9月頃完成した (甲4) 。建築当時,建築主がテレビ受信障害調査を行い,テレビの受信障害が発生すると予測された地域の住民に対しその費用負担で共同受信設備を設置し,従前どおりの地上アナログテレビ放送の電波を受信できるよう対策工事を行ったが,原告建物は対策工事の対象とはされなかった(乙1,2,3 )。
(2) その後,平成9年9月25日頃,原告建物の前所有者であるAはF株式会社が運営するケーブルテレビに加入した(甲4,乙4,5)。
(3) 原告は,平成19年8月24日,Aから被告マンションに隣接する原告建物を買い受けた。その際,原告はAないし不動産仲介業者から受信障害の事実を知らされず,契約書,重要事項説明書等の関係書類にもその旨の記載はない(甲1,8,9 )。
2 被告のテレビ受信障害対策工事ないしその費用負担の義務
(1) 前記認定した事実に基づいて,まず被告マンション建設当時に原告建物に既に受信障害が発生していたかどうかについて検討する。前記の受信障害の調査結果に基づいて周辺建物に広く対策工事が行われたにもかかわらず,原告建物がその対象とされなかったことが認められる。また,原告建物の前所有者であるAがケーブルテレビに加入した目的のひとつは,受信障害を解消するためであったと解することもできるが,その時期が被告マンション建設の約4年後である平成9年9月25日頃であることからすると,その頃までの間は,A及び原告建物の賃借人等からの受信障害のクレームはなく経過したものと推認される。これらの事実からすると,被告マンション建設当時においては,原告建物について対策工事による補償を必要とするほどの受信障害は発生していなかったと推認するのが相当であり,これを覆すに足りる証拠はない。したがって,建設当時において,被告に,原告建物のテレビ受信障害対策工事をする義務はなかったものと認められる。
(2) 被告マンション建設の約4年後である平成9年9月25日頃までに,Aがケーブルテレビ加入の必要を感じるに至った原因は,新たな建物の建築等による近辺の状況の変容が原因である可能性を否定できないというべきである。
(3) 以上の経過によれば,原告は,被告マンション建設後約4年あまり経過した時点から受信障害が発生し始めたと解される地域にある原告建物を,さらにその後約10年経過した時点で購入した者であり,乙6号証の電波監理局長通達にいう「後住者」にあたると解するのが相当である。本件のようなテレビ受信障害を除去するための費用の公平負担の観点からすれば,後住者には受信障害の原因者が設置した共同受信施設の利用を無償で認め,同施設までのアクセスを確保するための引込線設置等の費用は,後住者が負担すべきであると解するのが相当である。そうすると,現時点においても被告に受信障害対策工事を行う義務はなく,共同受信施設までの引込線設置等の費用負担の義務もないと解される。
3 まとめ
以上によれば,原告主張の工事費用の当否を議論するまでもなく,被告の義務違反を理由とする原告の損害賠償請求を認めることはできない。よって,原告の請求は理由がないからこれを棄却することとして, 主文のとおり判決する。
東 京 簡 易 裁 判 所 民 事 第 9 室
藤 岡 謙 三裁 判 官
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【問14】 AとBとの間で、平成16年4月に、BがCから借りている土地上のB所有の建物について賃貸借契約 (期間2年) を締結し引渡しを受け、債務不履行をすることなく占有使用を継続している。この場合に関する次の記述のうち、民法及び借地借家法の規定並びに判例によれば、誤っているものはどれか。
1 Bが、Cの承諾を得ることなくAに対して借地上の建物を賃貸し、それに伴い敷地であるその借地の利用を許容している場合でも、Cとの関係において、借地の無断転貸借とはならない。
2 借地権の期間満了に伴い、Bが建物買取請求権を適法に行使した場合、Aは、建物の賃貸借契約を建物の新たな所有者Cに対抗できる。
3 平成18年3月に、借地権がBの債務不履行により解除され、Aが建物を退去し土地を明け渡さなければならなくなったときは、Aが解除されることをその1年前までに知らなかった場合に限り、裁判所は、Aの請求により、Aがそれを知った日から1年を超えない範囲内において、土地の明渡しにつき相当の期限を許与することができる。
4 平成18年3月に、借地権が存続期間の満了により終了し、Aが建物を退去し土地を明渡さなければならなくなったときは、Aが借地権の存続期間が満了することをその1年前までに知らなかった場合に限り、裁判所は、Aの請求により、Aがそれを知った日から1年を超えない範囲内において、土地の明渡しにつき相当の期限を許与することができる。
1【正解:○】
◆借地上の建物を第三者に貸すことは、土地の無断転貸借とはならない
C (土地の賃貸人)
|
B (土地の賃借人,建物の賃貸人) ― A (建物の賃借人)
土地の賃借人が借地上に建てた建物を第三者に賃貸した場合は、その建物の借主が建物を使用収益するのに伴って敷地を利用するのを許容している場合であっても、第三者に転貸したとはいえないので、地主 (借地権設定者) の承諾は不要である(大審院・昭和8年12月11日判決)。
したがつて、Cとの関係において、借地の無断転貸借になることはない。
2【正解:○】
◆建物の賃借権の対抗要件は引渡し
C (土地の賃貸人)
|
B (土地の賃借人,建物の賃貸人) ― A (建物の賃借人)
建物の買取請求権を行使
建物の賃貸人が第三者に建物を譲渡した場合に、建物の賃借人は、建物の引渡しを受けていれば、建物の賃借権を新しい建物の所有者に対抗できる(民法605条、借地借家法31条1項)。
Bが建物買取請求権を行使した結果、建物の所有権は土地の賃貸人であるCに移る。
3【正解:×】
◆借地契約が債務不履行により解除された場合、明け渡し猶予はない
C (土地の賃貸人)
| Bの債務不履行により解除
|
B (土地の賃借人,建物の賃貸人) ― A (建物の賃借人)
賃借人の債務不履行により賃貸借契約が解除された場合、賃貸人の承諾のある転貸借は、賃貸人が転借人に対して目的物の返還を請求した時に終了するとされた事例 (最高裁平成9年2月25日判決。判例時報1599号69頁)
借地借家法
第35条 借地権の目的である土地の上の建物につき賃貸借がされている場合において、借地権の存続期間の満了によって建物の賃借人が土地を明け渡すべきときは、建物の賃借人が借地権の存続期間が満了することをその1年前までに知らなかった場合に限り、裁判所は、建物の賃借人の請求により、建物の賃借人がこれを知った日から1年を超えない範囲内において、土地の明渡しにつき相当の期限を許与することができる。
借地契約が満了した場合は、裁判所による明渡し猶予がありますが、借地権が債務不履行により解除された場合には、明渡し猶予はの制度はない。
4【正解:○】
◆借地権満了の場合の明渡し猶予
借地権の存続期間の
満了1年前 借地権の存続期間の満了
――●―――――○―――――――――○――――――●―――――
借地権の満了を知る 裁判所に請求
└ この日から1年以内に明渡しをすればよい。
建物の賃借人が借地権の存続期間が満了することをその1年前までに知らなかった場合は、裁判所に請求することにより、このこと知った日から1年を超えない範囲内で、土地の明渡しについて相当の期限をつけて猶予してもらうことができる(借地借家法35条1項)。
(借地上の建物の賃借人の保護)
第35条 借地権の目的である土地の上の建物につき賃貸借がされている場合において、借地権の存続期間の満了によって建物の賃借人が土地を明け渡すべきときは、建物の賃借人が借地権の存続期間が満了することをその一年前までに知らなかった場合に限り、裁判所は、建物の賃借人の請求により、建物の賃借人がこれを知った日から一年を超えない範囲内において、土地の明渡しにつき相当の期限を許与することができる。
2 前項の規定により裁判所が期限の許与をしたときは、建物の賃貸借は、その期限が到来することによって終了する。
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【問13】 自らが所有している甲土地にを有効利用したいAと、同土地上で事業を行いたいBとの間の契約に関する次の記述のうち、民法及び借地借家法の規定によれば、誤っているものはどれか。
1 甲土地につき、Bが建物を所有して小売業を行う目的で公正証書によらずに存続期間を35年とする土地の賃貸借契約を締結する場合、約定の期間、当該契約は存続する。しかし、Bが建物を建築せず駐車場用地として利用する目的で存続期間を35年として土地の賃貸借契約を締結する場合には、期間は定めなかったものとみなされる。
2 甲土地につき、Bが1年間の期間限定の催し物会場としての建物を建築して一時使用する目的で土地の賃貸借契約を締結する場合には、当該契約の更新をしない特約は有効である。しかし、Bが居住用賃貸マンションを所有して全室を賃貸事業に供する目的で土地の賃貸借契約を締結する場合には、公正証書により存続期間を15年としても、更新しない特約は無効である。
3 甲土地につき、小売業を行うというBの計画に対し、借地借家法が定める要件に従えば、甲土地の賃貸借契約締結によっても、又は、甲土地上にAが建物を建築しその建物についてAB間で賃貸借契約を締結することによっても、Aは20年後に賃貸借契約を更新させずに終了させることができる。
4 甲土地につき、Bが建物を所有して小売業を行う目的で存続期間を30年とする土地の賃貸借契約を締結している期間の途中で、Aが甲土地をCに売却してCが所有権移転登記を備えた場合、当該契約が公正証書でなされていても、BはCに対して賃借権を対抗することができない場合がある。
1【正解:×】
◆民法の賃貸借との比較
借地の存続期間
●建物所有目的の賃貸借 ⇒ 借地借家法が適用される。
●駐車場用地目的の賃貸借 ⇒ 民法の賃貸借の規定が適用される。
■駐車場にする目的での土地の賃貸借契約は、借地借家法ではなく、民法が適用される。借地借家法では、建物所有を目的にした地上権または土地の賃借権が対象。
●借地借家法 3条
30年より長い期間を定めた場合は、その期間が存続期間となる。
●民法 604条1項
存続期間は20年を超えることはできない。
20年より長い期間を定めたときは、20年に短縮される。
2【正解:○】
◆居住用建物所有目的では、事業用定期借地権を契約できない
一時使用目的の借地権には、借地借家法での存続期間・更新の規定とも適用されないので、更新をしない特約は有効です(借地借家法25条)。
適用できないのは、事業用定期借地権である。すなわち、「事業用定期借地権の設定された借地上に建てられる、専ら事業の用に供する建物は、居住の用に供するものを除く」と借地借家法(23条1項、2項)に記載されている。
したがって,居住用賃貸マンションを所有して全室を賃貸事業に供する目的で土地の賃貸借契約を締結する場合には、公正証書により存続期間を15年としても、更新しない特約は無効です。
●事業用定期借地権
事業用定期借地権の契約は、公正証書によって行う必要がある(借地借家法23条3項)。⇒公正証書によつて行わないと、事業用定期借地権にはならない。
事業用借地権の存続期間は「10年以上30年未満」と「30年以上50年未満」の2つある。
● 「10年以上30年未満」(借地借家法23条2項)・・・契約の更新、再築による存続期間の延長,建物買取請求権は認められない。契約は公正証書でしなければならない(借地借家法23条3項)。
● 「30年以上50年未満」(借地借家法23条1項)・・・契約の更新、再築による存続期間の延長、建物買取請求権はないことを特約で定めることが出来る。契約は公正証書でしなければならない(借地借家法23条3項)。
3【正解:○】
◆契約を更新させずに,存続期間の満了時に,確実に契約を終了させるには
■20年後に賃貸借契約を更新させずに終了させることができるのは,以下の2つの場合がある。
● 甲土地の賃貸借契約締結によって、20年後に賃貸借契約を更新させずに終了させる ⇒ 事業用定期借地権(23条),
● 甲土地上にAが建物を建築し、その建物についてBが賃借して、20年後に賃貸借契約を更新させずに終了させる ⇒ 定期建物賃貸借(38条),取壊し予定の建物の賃貸借(39条)
4【正解:○】
◆借地上の建物に登記がないとき
A (元の所有者) ⇒ C (新しい所有者)
|
B (借地権者)
借地借家法第10条第1項・・・「借地権は、その登記がなくても(借地権の登記がなくても)、土地の上に借地権者が登記されている建物を所有するときは、これをもって第三者に対抗することができる。」
借地上の建物に、借地権の登記もなく、また、借地権の登記に代わる表示の登記や所有権保存登記がない場合は、借地権者は、第三者に対抗できない。
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【問10】 AがB所有の建物について賃貸借契約を締結し、引渡しを受けた場合に関する次の記述のうち、民法の規定及び判例によれば、誤っているものはどれか。
1 AがBの承諾なく当該建物をCに転貸しても、この転貸がBに対する背信的行為と認めるに足りない特段の事情があるときは、BはAの無断転貸を理由に賃貸借契約を解除することはできない。
2 AがBの承諾を受けてDに対して当該建物を転貸している場合には、AB間の賃貸借契約がAの債務不履行を理由に解除され、BがDに対して目的物の返還を請求しても、AD間の転貸借契約は原則として終了しない。
3 AがEに対して賃借権の譲渡を行う場合のBの承諾は、Aに対するものでも、Eに対するものでも有効である。
4 AがBの承諾なく当該建物をFに転貸し、無断転貸を理由にFがBから明渡請求を受けた場合には、Fは明渡請求以後のAに対する賃料の一部又は一部の支払を拒むことができる。
1【正解:○】
◆無断転貸を理由にした解除の制限
賃貸人の承諾のない転貸借は、賃貸人につき契約の解除権が発生する(民法第612条2項)ものと考えられますが、転借人の保護の観点から、判例によれば「その転貸借が、建物の持主に対する背信的行為と認めるに足りない特段の事情があるときは、解除権は発生しない」と、その転貸借は保護がされ、このような特段の事情があれば、解除権は発生しない(最高裁昭和41年10月21日判決)。
2【正解:×】
◆債務不履行を理由にした原賃貸借の解除には対抗できない
賃借人の債務不履行により賃貸借契約が解除された場合、賃貸人の承諾のある転貸借は、賃貸人が転貸借人に対して目的物の返還を請求した時に終了する(最高裁平成9年2月25日判決)。
原賃貸借が賃貸人と賃借人の合意により解除されたとき賃貸人と賃借人とが賃貸借契約を合意解除しても、特段の事情がない限り、 賃貸人は転借人に対してこの合意解除の効果を主張できない(最高裁昭和62年3月24日判決)。
3【正解:○】
◆賃借権の譲渡
賃貸人が,賃借権の譲渡について、承諾をするのは,賃借権の譲渡人だけでなく、賃借権の譲受人に対するものであってもよいとされている(最高裁昭和31年10月5日判決)。
4【正解:○】
◆無断転貸を理由にした明渡し請求があったときの賃料支払拒否
「建物賃借人は、賃借建物に対する権利に基づき自己に対して明渡しを請求することができる第三者からその明渡しを求められた場合には、それ以後、賃料の支払いを拒絶することができる」(最高裁昭和50年4月25日判決)
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