【問4】 Aは、Bから借り入れた2,000万円の担保として抵当権が設定されている甲建物を所有しており、抵当権設定の後である平成20年4月1日に、甲建物を賃借人Cに対して賃貸した。Cは甲建物に住んでいるが、賃借権の登記はされていない。この場合に関する次の記述のうち、民法及び借地借家法の規定並びに判例によれば、正しいものはどれか。
1 AがBに対する借入金の返済につき債務不履行となった場合、Bは抵当権の実行を申し立てて、AのCに対する賃料債権に物上代位することも、AC間の建物賃貸借契約を解除することもできる。
2 抵当権が実行されて、Dが甲建物の新たな所有者となった場合であっても、Cは民法第602条に規定されている短期賃貸借期間の限度で、Dに対して甲建物を賃借する権利があると主張することができる。
3 AがEからさらに1,000万円を借り入れる場合、甲建物の担保価値が1,500万円だとすれば、甲建物に抵当権を設定しても、EがBに優先して甲建物から債権全額の回収を図る方法はない。
4 Aが借入金の返済のために甲建物をFに任意に売却してFが新たな所有者となった場合であっても、Cは、FはAC間の賃貸借契約を承継したとして、Fに対して甲建物を賃借する権利があると主張することができる。
1 【正解:×】
◆物上代位することはできるが、賃貸借契約の解除をすることはできない。
抵当権者は、債務不履行になれば、抵当権の実行を申し立てることができ、賃料債権に物上代位することがでる。 しかし、AC間の賃貸借契約を解除することはできない。
抵当権設定者は、抵当不動産を,通常の範囲内であれば、原則として自由に使用収益することができる(※)ので、抵当権者Bは抵当権設定者であるAがCと締結した賃貸借契約を解除することはできない。
(※)判例では、「抵当権設定者が、抵当権設定登記後に、抵当権の実行としての競売手続を妨害する目的で賃貸借契約等の占有権限を他の者と設定し、抵当不動産の交換価値の実現が妨げられ、抵当権者の優先弁済請求権の行使が困難となる状況のときは、抵当権者は、占有者に対して、抵当権に基づく妨害排除請求をすることができ、抵当権設定者が抵当不動産を適切に維持管理することができない場合には、抵当不動産を直接抵当権者へ明渡しをするように占有者に求めることができる。」としている(最高裁・平成17年3月10日判決)。
2 【正解:×】
◆賃借権の対抗要件の具備が抵当権設定登記より先か後かによって、抵当権者に対抗できるかどうかが決まる。
1)抵当権設定の登記の後に、「AC間の賃貸借契約が締結された、または、Cが建物の引渡しを受けた」とすると、Cは、その賃借権を、抵当権者Bや競落人Dに対抗することはでない。
抵当権設定登記 建物の引渡し
―●――――――――――●――
ただし、抵当権設定登記後に競売手続が開始される前から建物を使用収益していた者(抵当建物使用者)は、競落人がその建物を買い受けたときから6か月が経過するまでは競落人への建物の引渡しが猶予されます(民法395条1項)。
この場合、競落人の買受け後から引渡しまでに建物を使用した対価を支払わなければならない。
この場合、Cは賃借権をBに主張することさえできないのですから、「Cは,短期賃貸借期間の限度で賃借権があると主張することができる」とする2は間違い。
(2)抵当権設定後に、AC間の賃貸借契約が締結されたとしても、AC間の賃貸借契約が抵当権設定の登記の前であり、Cが抵当権設定登記より前に、建物の引渡しを受けていれば、Cは抵当権者に対抗できる(借地借家法31条1項)。
短期賃貸借の期間の限度にとどまるものではありません。⇒建物の引渡しを受けたのが抵当権設定登記の後であれば、Cは抵当権者であるBにその賃借権を主張して対抗することはできない。
建物の引渡し 抵当権設定登記
―●――――――――――●――
この場合、Cは,賃借権を主張できるのであるから、「Cは,短期賃貸借期間の限度で賃借権があると主張することができる」とする2は間違い。
<参考>
<抵当不動産の短期賃貸借制度の廃止についての経過措置>
平成16年の改正施行(平成16年3月31日)前は、抵当権設定登記後に締結された賃貸借でも、抵当不動産の短期賃貸借〔通常の土地の賃貸借では5年、建物では3年〕で対抗要件〔賃借権の登記、または,建物では引渡し、土地では借地上の建物の登記〕を備えたものについては、抵当権者に対抗することができた(抵当不動産の短期賃貸借)。
この規定は民法の改正によって廃止されたが、これには経過措置があり、平成16年4月1日の時点で対抗要件を備えている抵当不動産の短期賃貸借については、改正前の規定が適用され、原則として抵当権者にその賃借権を対抗することができる。
短期賃貸借に関する経過措置
「この法律の施行の際現に存する抵当不動産の賃貸借(この法律の施行後に更新されたものを含む。)のうち民法602条に定める期間を超えないものであって当該抵当不動産の抵当権の登記後に対抗要件を備えたものに対する抵当権の効力については、なお従前の例による」(「担保物権及び民事執行法の改善のための民法等の一部を改正する法律」附則第5条)
しかし、2では、賃貸借契約が締結されたのが平成20年4月1日なので、この経過措置は適用されない。
3 【正解:×】
◆抵当権の順位の変更、抵当権の順位の譲渡-後順位の抵当権者が、先順位の抵当権者に優先して弁済を受けられる場合がある。
担保価値が1,500万円で、第1順位の抵当権者Bの被担保債権が2,000万円、第2順位の抵当権者Eの被担保債権が1,000万円の場合、このままでは、後順位の抵当権者Eは先順位の抵当権者Bに優先して弁済を受けることはできない。
しかし、「抵当権の順位の譲渡」(民法376条1項)や「抵当権の順位の変更」(民法374条1項)をすれば、以下のように,Eは債権全額の回収をすることができる。
(1)抵当権の順位の譲渡が行われ、1,500万円で売却された場合
BがEに対して抵当権の順位を譲渡すると、Bに本来優先弁済されるはずの枠がまずEに割り当てられるため、Eが1,000万円の配当を受けて、その後にBが500万円の配当を受けることになる(Bの債権の残りの1,500万円は無担保の債権となる)。
(2)抵当権の順位の変更が行われ、1,500万円で売却された場合
BE間で抵当権の順位が変更されると、Eが第1順位,Bが第2順位となる。この結果、Eは1,000万円の配当を受け、Bは500万円の配当を受けることになる(Bの債権の残りの1,500万円は無担保の債権となる)。⇔抵当権の順位の変更では、Eは本来の先順位抵当権者Bの被担保債権額の枠に縛られない。
したがって、3は「EがBに優先して甲建物から債権全額の回収を図る方法はない。」としているため、間違い。
▼抵当権の順位の放棄では、BE間では両者は同順位となり、それぞれの債権額に応じて比例配分されるため、Bは債権2,000万円、Eは債権1,000万円であることから、Bは売却金額1,500万円の2/3の1,000万円(Bの債権の残りの1,000万円は無担保の債権となる)、Eは売却金額1,500万円の1/3の500万円(Eの債権の残りの500万円は無担保の債権となる)とそれぞれ配当を受けることになる。つまり、抵当権の順位の放棄では、Eは債権全額を回収することはできない。
4 【正解:○】
◆建物の賃借権は引渡しを受けていれば、新所有者に対抗できる。
建物を売却
A(旧所有者) ――――――――→ F (新所有者)
↑ 賃貸借
↓ ↘
B(賃借人) 引渡しを受けている →→ 新所有者に賃借権を対抗できる
建物の賃借人は、建物の引渡しを受けていれば、建物の新所有者に対して、建物の賃借権を主張することができる(借地借家法31条1項、借家権の対抗要件)。
★ 民法では、登記された賃借権に対抗力を認めている(民法605条)。だが、賃借権を登記できない場合もあるので(賃借権の登記は任意なので、賃貸人が協力しないことがある。また、アパートのように一室ごとに登記できないものもある。)、借地借家法では、賃借権が登記されていなくても、建物の賃貸借では引渡し、土地の賃貸借(借地借家法10条)では借地上の建物の登記〔建物の表示登記、建物の所有権保存登記・所有権移転登記〕があれば新所有者に対して賃借権の対抗力があるとした。
東京・台東借地借家人組合
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