(前回からの続き)
国家の「アキレス腱」(外国に依存せざるを得ないところ)とは真逆の、国家の「強み」(外国から頼られるところ)について前回、サウジアラビアは「石油」、アメリカは「軍事力」と指摘しました。日本の場合は・・・前記事で論じた「蓄電池」を含む「メイド・イン・ジャパン」がこれに該当しそうです。実際、国内外のさまざまな産業や人々の日常生活において、コレしかないという日本の製品・商品・サービスは数知れず、引く手あまたであり、そのために日本は外国産の原材料に支払うコストを差し引いても余りある利益を享受できる立場にあります。
というわけで、わが国の強みはこのあたりになるでしょうが、上記の石油とか軍事力と同様、もっと戦略的な側面を持つものとして、ここではあえてマネーすなわち「円」をあげてみたいと思います。メイド・イン・ジャパンの「交換券」としての円になります。
「円>ドル>ユーロ>新興国通貨」として本ブログで何度もご紹介しているとおり、円は世界最強の通貨といえます。円の実質の利回り(=名目金利-予想インフレ率)はすべての通貨のなかでもっとも高く、したがって円の価値は本来、時間の経過とともに、ドルはもちろん安全通貨の代名詞スイスフランをも超える率で上がり続けることになります(その上昇分をこちらの記事等で「成長の配当」と表現しました)。つまり、わが国はそれだけ国家的リスクを減らすことができる―――外国から輸入するしかない原油等の支払いに充てる円貨を少なくすることができるというわけです。
「円が強くなってしまっては・・・輸入には有利だろうが、逆に輸出には不利になる」―――たしかに・・・たとえば1ドル120円が同80円になれば、輸出収益1ドルの円換算額は40円も減ってしまいます。しかし、これを上記弱点に照らして考えると、このときの同収益80円で買える原油は1ドル分でイーヴンであり、いっぽうでこれが120円から80円に下がることでもたらされる電気代やガソリン代の値下がりというメリットを勘案すると、下記するように日本経済全体では・・・プラス面のほうがはるかに大きいでしょう。
上述のとおり、そして先般のこちらの記事等でも書いたように、わが国はすでに通貨高に大きな影響を受けない産業貿易構造を構築しつつあります。メイド・イン・ジャパンはたとえ円高になっても(外国からすればその購入額が上がっても)、他国製への代替が効かないものが多いため、引き合いが大きく減るようなことはないでしょう。そもそもこれらの多くは資本財とか中間財、たとえばスマホ向けの精密部品などであり、トータルの製造原価に対するその個々のコストは大きくはないので、これらを自社品に組み込むメーカーが円高値上がりを理由にその購入を断念することは考えにくいと思います。
以上などから、わが国にとって円が強くて困ることはそれほどなく、むしろ円高は、国民の購買力を高めて内需を喚起するほか、上記のように国家の「シーレーン」(=エネルギーや原材料といった日本の経済活動に不可欠の輸入財を確保するためのライン)を低コストで維持できるようにしてくれるうえ、諸外国への投資やM&Aを活性化させる、などなどから、日本が真のプラス成長を遂げるに不可欠の要素と考える次第です。