Snowtree わたしの頭蓋骨の下 *鑑賞記録*

舞台は生もの、賞賛も不満もその日の出来次第、観客側のその日の気分次第。感想というものは単なる個人の私感でしかありません。

新橋演舞場『五月大歌舞伎 昼の部』 1等1階中央センター

2011年05月21日 | 歌舞伎
新橋演舞場『五月大歌舞伎 昼の部』 1等1階中央センター

『敵討天下茶屋聚』
あまり再演されてこなかった演目ということで期待してなかったのですが結構楽しめました。芝居自体はあまり深く考えずざっくりとした物語を鷹揚にご見物する感じ。近代になって再演されてこなった演目だけあっていわゆるドラマ性は薄いけど天保時代の芝居ってこんな感じだったのかと思ったりも。物語ではなく役者個々のいかにもなキャラクターを楽しむ方向だと意外と色々ツボに入る。また『盲長屋梅加賀鳶』(元右衛門の目が見えないふりをする件)『忠臣蔵六段目』(奥さんが身を売ろうと決意する件)『合邦』(源次郎が兄、足萎えの伊織を運ぶ件)あたりを何気なく連想させる場面があったりして、そこら辺も個人的には良い擽りになっていたかな~と。

元右衛門/東間三郎右衛門@幸四郎さん、中間、元右衛門は柄らしていわゆる小者らしさはあまり無し。酒好きゆえに人として落ちていく雰囲気もあまりなし。たぶんニンのお役ではないと思う。しかしコメディセンスのある芝居上手な部分で作りこんでみせていており、メリハリのある芝居でなかなか楽しくみせてきていました。また、非常に身軽でよく動きます。尻はしょりする場面が多いのですが70才近い方の太もものラインとは思えない綺麗なラインにもビックリ。鍛えていらっしゃるのでしょうね。東間三郎右衛門のほうは柄に合い押し出しもよく姿が立派。前半は東間はそれほど大悪党という感じには作っておらず。もっと押し出しが強くてもいいかな。後半にいくにつれふてぶてしさが出てきて良かったです。

ただ、せったかくの一人二役ですが、元右衛門と東間の一人二役はあまり効果は感じられませんでした。演じ分けの落差があまりなく、化粧もそれほど変化がないので早替わりの面白さもあまりない。ニンではないにしろ元右衛門の一役に集中したほうが良かったのでは?と思ったりも。

早瀬伊織@梅玉さん、前半では正義感溢れる凛々しさを、後半では怪我で動けなくなった後の苦悩を端正にいかにも二枚目として演じてて役にピッタリ。とはいえ、少々お疲れかいつもより若々しさがなかったかなあ。でも悔しさのうちに死に至る場はさすがでした。台詞だけでやるせなさ切なさが伝わってきました。

早瀬次郎@錦之助さん、前髪姿がよく似合ってて綺麗でした。どこか世間知らずな若者らしい初々しさと一途さ。兄を慕う様子がまた良し。

弥助@彌十郎さん、温かみのある主思いのマジメな弥助を真っ直ぐに。酒ゆえに落ちた兄、元右衛門を思う姿も心根の温かさが出ていてとてもいいキャラでした。

染の井@魁春さん、武家の奥方としての凛としたなかに夫思いの健気さをみせて出番は少ないものの印象が深かったです。

早瀬玄蕃頭@段四郎さん、懐の深い骨のある家老としてさりげなく存在感を見せます。バランスのよい線の太さとでも言いますか、なんとも味わいのある上手さ。

腕助@錦吾さん、ちゃっかりとした腕助を楽しそうに演じていらっしゃいますねえ。ほんのり可笑し味があって良い感じ。やはり70歳近いとは思えない美しい太ももを見せてくださってます(笑)

片桐造酒頭@歌六さん、キリッとした捌き役として登場です。大きさもあってカッコイイです。しかし、物語の役どころがもうひとつ判りづらかった。何かありそうなんですが、どういう人物だったんだろう?

庄三郎@友右衛門さん、少し痩せられたかな?珍しく大立ち回り担当でした。頑張ってらっしゃいました。

幸右衛門@吉右衛門さん、少しの出番でもったいない。しかし、存在感の大きさ、繊細でさりげなくも懐の深い芝居で印象に残します。さすがです。

京屋萬助@歌昇さんもそれだけ?なもったいない使い方でした。でもこのクラスの役者がちょっとでも出てきてくださると嬉しいのも事実。