湘南ライナー日記 SHONAN LINER NOTES

会社帰りの湘南ライナーの中で書いていた日記を継続中

二つの昭和を読んでみたい

2009-08-08 19:50:27 | 湘南ライナーで読む


『てんやわんや』
辞書で引くと、「大勢の人が秩序なく動き回り、ごった返すこと」とある。
マイナーだったこの言葉を、戦後一気にメジャーにしたのは、獅子文六著の新聞連載小説のタイトルになってから。
僕たちにとって「てんやわんや」といえば、子供のころ日曜のお昼だよ~『大正テレビ寄席』などで人気だった漫才師の「獅子てんや瀬戸わんや」。彼らの芸名も、実はこの小説からいただいたのだという(後年、獅子文六氏宅にお詫びに訪れたらしい)。

横浜名物の『崎陽軒のシウマイ』
昭和25年に、横浜駅のホームで赤いチャイナドレスを着たシウマイ娘が販売する。当時大磯に住んでいた獅子文六氏は東京への行き帰りにこれを目撃、昭和27年に連載が始まった『やっさもっさ』の主人公に抜擢する。すぐに映画化されて、シウマイが横浜名物として全国的に認知された。
こちらは、著者が勝手に小説の主人公に仕立てたので、崎陽軒の社長は朝刊を読んで驚いたというのも、おもしろい。獅子氏は、お詫びに行ったのか(笑)。

『ゴールデンウイーク』
昭和24年に朝日新聞でスタートした獅子文六氏の小説『自由学校』が翌年、松竹と大映で同時に映画化され5月5日に公開、揃って大ヒットした。それまで映画館にとってかきいれ時だったお盆と正月が入場者数を上回ったこの連休を、大映の役員が『ゴールデンウイーク』と命名した。

というようなトリビアを含め、戦前・戦後を通して小説家、劇作家であり、文芸座の創始者の一人である獅子文六氏を通して昭和を語るのが『獅子文六の二つの昭和』(牧村健一郎著 朝日新聞出版社 1300円+税)。
文学界からは軽んじられていたが、大衆からの人気は絶大。その割には、書店で見かけたことがない。
先日読んだエッセイの『ちんちん電車』が面白かったので、小説も読もうと思い、書店の検索システムを使ってみたが、ごくわずか。大ヒットした作品を、いま読むことができないのが現実だ。
この本がきかっけになって、文庫本でもいいからどこか出してくれると嬉しいのだが。

表紙の左上の絵(203Pに写真もあり)は、御茶ノ水駅のホームに佇む獅子文六氏。御茶ノ水橋の下に建つバラック小屋が「自由学校」にも登場する。