ブログ 「ごまめの歯軋り」

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読書ノート 池内 了著 「科学者と軍事研究」 岩波新書(2017年12月)

2019年08月03日 | 書評
槿

防衛省と大学の共同研究制度「安全保障技術研究推進制度」で大学は何を失うか 第13回 最終回

第4章) 研究者の軍事研究推進論 (その3)
④ 工学系の研究費問題:
 産学共同は学問の目的に経済論理が掲げられ、「社会において役に立つ」ことが強調されたことがその機運が高まった。大学にとって知的財産の産業界への積極的利用を持ちかけ、産業界が大学に寄付金や建物や講座を寄付しやすい税制を整備することであった。教員の副業を推奨するふうに産学官の連携で急速に進展した。「産学官連携センター」が大学内に設置された。産業界から大学への委託研究制度は、特定の企業と大学の教員とも委託契約で、きょういんは受託研究費や寄付金を通じて資金の提供を受け、それと引き換えに企業の求めるノーハウの援助、開発研究や生産活動への参加などを行う。工学系の分野ではこのような産と学の結びつきは日常的に行われるようになって、委託研究費や寄付金で研究資金に不自由していないとみられがちである。当然分野によって偏りが大きい。重点分野(IT、バイオ、ナノテク、ロボット、医療機器、医薬品、エネルギーなど)では投資が盛んである。日の当たらない分野(理学系、農学系)では科研費などの競争的資金に頼るしかない。その研究が基礎的であればあるほど、資金の量と成果は比例するわけではない。研究費が多いほど自分の思い通りの研究ができると考えるが、現実にはそれは必ずしも研究にとってプラスの作用をしていない。ひも付き研究は研究者にとって、非常にストレスの多い仕事である。期限や成果の制約から心理的には「その日暮らし」の気分に追い詰められている。決していい仕事ができるような精神状態ではない。
⑤ 特許の問題:
 産学協同の委託研究では、特許と関連した研究発表の自由の問題があって、学問の在り方に問題が投げかけられている。特許の帰属、製品化に成功した場合のランニング比率(売上高の何%を大学に支払う)などは、通常「共同研究契約書」、「協定書」などで予め決めて置く。ところが大学の研究者にとって、特許は研究の主導権を握るために必要で、可能な限り成果は論文として発表したいのである。特許との関連において実質的な研究内容の公開が遅らされることがあり、迅速な研究発表は研究成果の認知につながるので、遅れると研究の先陣争いにとって致命傷となる。防衛省装備庁の技術協力、安全保障技術研究推進制度では、成果の公表前にかならず装備庁の紙面による確認、通知が必要である。これには特許申請も含まれるから、特許は公開されるので防衛省の軍事上の秘密に指定されると研究発表も特許申請もできなくなる可能性が高い。たとえ知財権が大学にあるとしても装備庁の同意が得られなければ申請もできないのである。産学協同の笑話であるが、成果が学位論文として提出する期限内に特許申請が間に合わない場合、「黒塗り箇所のある論文の提出」が受け付けられないという矛盾をどうするのか。

(完)