ブログ 「ごまめの歯軋り」

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読書ノート 池内 了著 「科学者と軍事研究」 岩波新書(2017年12月)

2019年08月02日 | 書評
ベコニア

防衛省と大学の共同研究制度「安全保障技術研究推進制度」で大学は何を失うか 第12回

第4章) 研究者の軍事研究推進論 (その2)
② 自衛論:
 2014年7月に「集団的自衛権の行使容認」を閣議決定し、2015年9月「国家安全保障法制度」を一括採決した。その結果、もはや自衛隊は専守防衛にとどまらず、同盟国の要請があれば海外に出かけて「防衛活動」を行うことが可能となった。
「戦力非保持」を宣言した憲法のもとで、戦力強化に邁進するという異様な事態となっている。世事に疎い科学者は日本が専守防衛から集団的自衛権の行使に踏み出した事実を真正面から捉えていず、旧来の専守防衛意識のままである。従って防衛目的の兵う機関発には協力するが、攻撃目的の兵器開発には携わらないという「自衛論」は尤もそうに見えて実は空論に過ぎない。核兵器についても、研究者は「核兵器開発はあり得ない」ということは現時点でいえるだろうが、「核兵器の保有・使用は、現在の憲法の範囲では許容される」という閣議決定があることも認識していない研究者が多い。核兵器開発は現政権は禁止していないのである。すべての戦争は「自衛」を口実に開始され、侵略戦争さえ「自衛のため」の開始された。相手の軍事的脅威に対抗して我が国を守るためには「先制攻撃」も辞さないのが戦争の常である。今の状況は、日米政府が北朝鮮のミサイルや核実験の恐怖を煽って国民を脅し、それによって軍事力を強化する圧力にする魂胆である。
③ 研究費不足論:
 国立大学は2004年に法人化されて以来2015年まで一般運営費交付金と呼ばれ各大学に公布される資金に対して、「効率化係数」と呼ばれる毎年1%の一律減額が強いられてきた。予算の1%が毎年減額される一方、学長が知名度上げる施策の経費に回される分だけ、教員積算校費を削減せざるを得ない。科学技術基本計画で「選択と集中」が謳われ、経常研究費はばら撒きだとして削減し、研究費の獲得はもっぱら競争的資金で調達すべきという政策がとられた。又効率化係数で削減された一般運営費交付金は「大学改革」を看板として大学に優先配布される。つまり資金配分による「大学改革誘導策」となった。教員の研究費を取り上げて、大学のパフォーマンスのために使うのである。教員は経常研究費が少なくなって、競争的資金獲得のための作文と説明に忙しくなった。研究に従事する時間が削がれ、日本だけが発表論文数も業績数(論文引用回数)も減少している。研究要員として博士号取得者を任期付きで雇うから、生活が不安定で落ち着いて研究できないというポスドク問題を引き起こしている。2016年度から国立大学を①世界に伍する研究大学(16大学)、②特色ある研究を有する大学(15大学)、③地域連携重視大学(55大学)の3種に分類し競わせて、予算の配分に反映指せるという文部省の裁量制となった。①の中でさらに細分化し、「指定国立大学」として京都大学、東京大学、東北大学の三大学が選ばれた。「指定候補」として東工大、一橋大学、大阪大学、名古屋大学が選ばれた。これは「大学ランキング手法でパフォーマンスを競わせる趣旨である。国立大学以外の私立大学の理工学部ではもっと大変な状況にある。

(つづく)