ブログ 「ごまめの歯軋り」

読書子のための、政治・経済・社会・文化・科学・生命の議論の場

読書ノート サイモン・シン著 青木薫訳 「フェルマーの最終定理」 (新潮文庫2006年6月)

2019年01月14日 | 書評
ピエール・ド・フェルマー

17世紀フェルマーによって提示された数学界最大の難問 第2回

序(その2)

著者サイモン・シン氏のプロフィールを紹介する。サイモン・レーナ・シン(1964年1月1日 - )は、プロデューサー、ジャーナリスト、サイエンス・ライター。インドパンジャーブからの移民である両親を持ち、イギリス南西部サマーセット州に生まれる。 インペリアル・カレッジ・ロンドンで学び、その後ケンブリッジ大学大学院にて素粒子物理学の博士号を取得。 のちにテレビ局BBCに就職し、ドキュメンタリー番組『フェルマーの最終定理――ホライズンシリーズ』にて各種の賞を受賞した。後にこの番組はエミー賞にもノミネートされた。この時の取材を元に書下した「フェルマーの最終定理」(本書)も高い評価を受けベストセラーとなる。 受賞歴は1996年 - 英国アカデミー賞、2003年 - 大英帝国勲章、名誉博士号(ラフバラー大学)、2005年 - 名誉博士号(サザンプトン大学)、2008年 - ケルヴィン・メダル(イギリス物理学会)を受けた。
翻訳者青木薫氏のプロフィールを紹介する。青木氏は1956年山形県生まれ、京都大学理学部卒業、1984年同大学院博士課程修了、「原子核間ポテンシャルのパリティ依存性及び角運動量依存性に関する微視的研究」で理学博士。専門は理論物理学。2007年度日本数学会出版賞受賞。科学書の翻訳家でなる。翻訳書は今までに60冊を超えている。著書には「宇宙はなぜこのような宇宙なのか 人間原理と宇宙論」(講談社現代新書 2013)がある。
フェルマーの最終定理(17世紀 フランス)を遡れば、デイオファントスの「算術」(紀元前3世紀 アレクサンドリア)にあり、デイオファントスの算術を遡ればピタゴラス数(紀元前6世紀 ギリシャ)が源泉となる。そこでピタゴラス数すなわち、直角三角形の3つの整数の辺の長さについて、大矢真一著 「ピタゴラスの定理」(東海大学出版会 2001年8月)よりまとめておこう。三つの辺の長さがすべて整数でありa^2+b^2=c^2を満たす直角三角形の辺の組のことを「ピタゴラス数」という。大昔どうして見つけたのかは一切明らかではない。そこで推測であるが、第1段でその整数の二乗を順に書いてゆく。第2段で二乗の数の差を一つ置きに求める。ピタゴラスの四角数と同じようにすると
第1段: 0 1 4 9 16 25 36 49 64 81 100 121 144 169・・・・・
第2段:   4 8 12 16 20 24 28 32 36 40 44 38 52・・・・・
3^2+4^2=5^2より(3,4,5)、6^2+8^2=10^2 より(6,8,10)=(3,4,5) また8^2+15^2=17^2より(8,15,17)などが得られる。
これからすべてのピタゴラス数が得られるはずであろうが、大変なことである。もう少し規則的な方法はないのだろうかと古来いろいろな公式が工夫されてきた。ピタゴラスの方法(推測)は前に示した。プラトン、プロクルス、ユークリッド、ジオファントスの方法がある。詳細は省くがこれらのことからピタゴラス数は、(a, b, c) = (m^2 - n^2, 2mn, m^2 + n^2)  (m, n は互いに素であり0 < n < m、m - n は奇数)となる
こうしてディオファントスは無限に存在するピタゴラス数を求める一般的な方法を示した。(a,b,c)という辺の長さの二乗の関係式がピタゴラスの定理であり、ここまでは幾何学であった。つぎにディオファントス方程式とは、整係数多変数高次不定方程式である。主に数論の研究課題と考えられている。古代アレクサンドリアの数学者ディオファントスの著作『算術』で、その有理数解が研究されたのにちなんだ名称である。ピタゴラスの方程式(2次)、楕円曲線(3次、4次)もディオファントス方程式の特殊例であった。フェルマーの最終定理とは、3 以上の自然数 n について、x^n + y^n = z^n となる自然数の組 (x, y, z) は存在しないという定理のことである。本書の目的はフェルマーの最終定理の証明を厳密に述べることではない。そんなことを書いても数学者でさえ理解できるのは1割くらいであり、一般読者では理解できる人は皆無であろうと思われる。だから本書は17世紀以降の数論に寄与した数学者の業績と、フィルマ―の最終定理に関係した現代数学者の群像を描くことである。

(つづく)</font>