ブログ 「ごまめの歯軋り」

読書子のための、政治・経済・社会・文化・科学・生命の議論の場

読書ノート 金成隆一 著 「ルポ トランプ王国」 岩波新書(2017年2月)

2019年01月02日 | 書評
問題だらけのトランプを大統領に選んだアメリカ社会の問題と課題 第9回 最終回

3) アメリカンドリームの終焉  (その2)

トランプが大統領として政策に臨むときどのような難問が待ち受けているのだろうか。もはやオバマやヒラリーのせいだとばかり言っていても仕方がない。自分でどういう政策を出すのだろうか。箇条書きでまとめると、①アメリカ超大国として国連と平和維持活動を行ってきたが、これを放棄するのだろうか。②アメリカファースト(第1主義)は国際貿易協定から離脱するのだろうか。TPPでも他変な労力が必要だったが、二カ国協定を全部やり直すとすればさらに大変である。WTO世界貿易機構を脱退するのだろうか。③グローバリゼーションと国内労働者の賃金という難問を解決する政策はあるのだろうか。共和党の自由貿易主義者や小さな政府論者とどう折り合いをつけるのだろうか。④ブルーカラーの復活とはすなわち製造業の復活だが、アメリカはすでに製造業から金融投資業に楫きりをしている。製造業への設備投資、人材確保はなされないままになっている。本当にブルーカラーに仕事と賃金を約束できるのか。 グローバリゼーションの本質とは世界規模での分業が進むと、労働集約型の仕事は人件費の高い先進国から出ていくことにある。全米の製造業の雇用者数は、第2次世界た戦後の1200万人から1979年に2000万人となったのをピークとして、その後は下降線を描き2000年には1700万人、2016年には1200万人と減少した。今アメリカで製造業に就くにはかなり高度なスキルが要求される、製造業からサービス業へのシフトは着実の異進行している。スキルギャップの問題は先進国全体が直面している。元世銀のエコノミストであるミラノビッチが作成し「象グラフ」は、1988年から2008年までの20年間の統計で、地球上の人の所得を多い順に並べて、その実質所得の上昇率をグラフ化すると、右に象の鼻を上げた形になるという。所得の少ない開発途上国例えば中国やインドなどの新興国の中流階級の所得上昇率は非常に高く8割から9割上昇し、いわゆる象の背にあたる。次に上昇率の高いのは一番所得の高い世界の超富裕層の所得上昇率で6割ほど上昇した。いわゆる象の鼻の部分である。象の背中と鼻に挟まれた部分はもとは所得の高い層であったが所得上昇率はゼロ近辺を低迷しているかマイナスになることもある。つまりグローバル化で所得が増えた勝組は新興国の中流と世界の富裕層であり、敗者は先進国の中流以下と尻尾にあたる貧困層であった。極度の貧困から抜け出したのは東ジアで、61%から4%に貧困状態から抜け出した。今回の大統領選挙でトランプに票を投じたのは、所得上昇率がゼロ以下の中流白人層である。もとスタンフォード大学教授(哲学者)の故ローティはこう言っていた。「アメリカの左派知識人は目の前の労働問題から目をそらしてきた。民主党は労働組合から遠ざかり、富の再配分を話題にしなくなり、中道という意味不明の不毛地帯に移った」と非難した。

(完)