ブログ 「ごまめの歯軋り」

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読書ノート 青山弘之 著 「シリア情勢ー終わらない人道危機」 (岩波新書 2017年3月)

2019年01月08日 | 書評
「独裁政権」、「反体制派」、イスラム国が入り乱れ、米国やロシアなど外国の介入によって泥沼化 第6回

4) 「反体制派」の諸勢力 (その2)

勃興著しいイスラーム過激派諸集団と「老舗反体制派」自由シリア軍の関係がこれまた複雑である。武装集団の中には自由シリア軍を名乗る武装集団が多い。たとえば南部戦線やハズム運動は自由シリア軍を名乗る武装集団の連合体と目されていたが、その中にはイスラーム過激派が多数いた。またイスラーム過激派の連合組織であるイスラーム線戦、アレッポ・ファトフ軍には自由シリア軍を名のる師団がある。イスラーム過激派と自由シリア軍との間にも組織・個人の所属の流動性や合従連衡が顕著である証拠である。民主化闘争の自由シリア軍が掲げる「自由」、「人権」と言った価値観は、イスラーム過激派の復古主義的教義との共通性がない。最初は対立していたが、シリア自由軍は生き残りをかけてイスラーム過激派に依存(従属)するようになったというべきであろう。「反体制派」は、アル・カーイダの系譜の組織を含むイスラーム過激派と自由シリア軍を名乗るフリーダム・ファイターが不可分に結び付いた総体をなしている。両者は軍事化とアル・カーイダ化が同時進行する中で、起源・イデーを別にしながら連続模様(スペクトラ)をなしていると言える。反体制派によってシリア政府の支配を脱した「解放区」には「地元評議会」を名乗る活動家が自治を守ると理解されてきた。こうした雑多な個人や組織の穏かなネットワークの中で2014年頃から欧米や日本のメディアが注目したのが「ホワイト・ヘルメット」という全国規模の組織である。「ホワイト・ヘルメット」の正式名を「民間防衛隊」と呼ぶ。ボランティア・チームに起源を持ち2016年までに8県で14のセンターを擁し、2850人の人命救助のボランティアが活動していた。そのボランティアにもシリアの友グループの影が見え隠れする。ホワイト・ヘルメット結成を主導したのは、ジェームス・ルムジュリアという英国人で、NATOや英国の情報部員」であった。欧米諸国の資金援助を得て2013年3月にトルコのイスタンブールでシリア人を教練し組織化したらしい。「アラビアのローレンス」のシリア版である。米英独日本政府は資金を提供した。欧米諸国の多様な支援を考えると、このホワイト・ヘルメットが対シリア干渉政策の一環と位置づけされる。ホワイト・ヘルメットはもはや中立ではなく、反体制派的な色彩を持っているのはやむを得ない。その活動地域は反体制派が制圧する「解放区」の限定されている。ホワイト・ヘルメットはヌスラ戦線とも緊密な関係を持っている。彼らもまた反体制派スペクトラの一員であろうか。「反体制派」の主流をなすイスラーム過激派には多くの外国人戦闘員が参加している。戦闘力がある師団は過激派であろうと民族派であろうと提携してアサド体制打倒に利用している(あるいはイスラーム原理運動にシリアが利用されている)というのが現実なら、アサド政権側も外国に依存している。その支援者はロシア、イランという国に限らず、非国家の政治軍事主体を含む。その一例がレバノンのヒズブッラーである。ヒズブッラーはレバノン国民議会に議席を持ち、様々な文化、福祉、医療、メディアと言った傘下団体を有している。対イスラエル武装部隊を持ちアサド政権と戦略的協力関係を築いてきた。レバノン政府はシリア内戦では不関与政策であるが、ヒズブッラーは最初から戦闘員をシリアに派遣し「反体制派」やイスラーム国と交戦した。シリアのアサド政権を支える外国人武装集団は、イランにはイラン革命防衛軍、レバノンのヒズブッラー、イラクのアッバース旅団、パレスチナの人民解放戦などであるが、その武装集団の数は総計1万7000人~2万8000人と言われる。その数は「反体制派」の外国人戦闘員の数に匹敵する。シリア内戦は「国際問題化」の局面においてシリア国内の当事者間の対立を諸外国がハイジャックするだけでなく、「アル・カーイダ化」の局面では、アサド政権と「反体制派」の双方が、外国人戦闘員を呼び込み、彼らへの依存関係を強めることで混乱を増長させ、シリア人自身の力では収拾不可能なまでに事態を悪化させてしまった。

(つづく)