ブログ 「ごまめの歯軋り」

読書子のための、政治・経済・社会・文化・科学・生命の議論の場

文芸散歩 デカルト著 井上庄七・森啓・野田又夫訳 「省察 情念論」 (中公クラシック 2002年)

2019年01月29日 | 書評
近代哲学・科学思想の祖 デカルトの道徳論  第5回

序(その5)

「哲学の原理―第1部形而上学」(山田弘明ら訳 ちくま学芸文庫2009年)
デカルトの「哲学原理」は全4部からなるが、本書は「人間的認識の原理について」と題する第1部の形而上学のマトメだけを対象としている。これまで刊行された訳書は第1部の形而上学と第2部の自然学を紹介し、第3部と第4部の自然学各論は省略する場合が多かった。本書がなぜ第1部だけなのか、その趣旨はスコラの形而上学との関連を捉えることであった。当時の優れたスコラ哲学の教科書は、ユスタッシュ・ド・サン・ポールの「弁証論、道徳論、自然学および形而上学にかかわる事柄についての哲学大全四部作」(1609年)が有名である。デカルトは明確にこのスコラ哲学大全を読んでおり、かつその形式を踏まえたうえで自身の著書「哲学原理」を書いたものと考えられる。デカルトはスコラ哲学から大きな影響を受けており、多くの点でスコラ哲学を痛烈に批判した。ニュートンはデカルトの「哲学原理」をよく読んでおり、デカルトの「哲学原理」も形而上学というよりも「形而上学に基づく自然哲学の原理」といった方が正しい。デカルトの「哲学原理」の狙いはスコラに代わる新自然学の体系的な展開にあったというべきであろう。「哲学原理」はラテン語で書かれ(本書はフランス語版を基にした)、全体は4部からなる。
第1部 「人間的認識の原理について」 思惟する精神は存在とは区別されるという第1原理ですべては演繹される。
第2部 「物質的事項の原理について」 自然を機械論的な展開と見る。運動量保存則など力学について述べた。
第3部 「可視的世界について」 地球と天体の運動を述べた。宇宙生成論(進化論)を提案した。
第4部 「地球について」 空気、燃焼、磁気など記述した。しかし今ではおかしな推論が多い。
第5部 「動物、植物の状態について」と第6部「人間の本性について」は予定されたのみで書かれなかった。
デカルト「哲学原理」第1部 形而上学「人間的認識の原理について」は第1から第76節に分けてある。ちくま学芸文庫の訳者らは本書の各節ごとを「訳文」、「解釈」、「参照」と3段構成とした。ちくま学芸文庫本の特徴は「解釈」でスコラ「哲学大全」との関連と、デカルトの言いたいことを述べ、ライプニッツの批判など多数の哲学者のコメントを記して理解を深める。「参照」では「哲学原理」の言葉が、他の書物1.「方法論序説」 2.「省察」 1641年 3.「真理の探究」 ではどう扱われているかを検証する。

本書、デカルト著「省察 情念論」(中公クラシック2002年)という本は次の4部からなる。①神野慧一郎著「デカルトの道徳論」(40頁) ②デカルト著「省察 第1-第5」(134頁) ③デカルト著「情念論 第1-第3部」(180頁) ④書簡集 (50頁)である。では各々について内容を検討してゆこう。

(つづく)