「防衛省が世論工作研究」―10日付地方紙がいっせいに1面トップで報じた共同通信のスクープ記事はきわめて重大です。
「防衛省が人工知能(AI)技術を使い、交流サイト(SNS)で国内世論を誘導する工作の研究に着手したことが9日、複数の政府関係者への取材で分かった。インターネットで影響がある「インフルエンサー」が、無意識のうちに同省に有利な情報を発信するように仕向け、防衛政策への支持を広げたり、有事で特定国への敵対心を醸成、国民の反戦・厭戦の機運を払拭したりするネット空間でのトレンドづくりを目標にしている」(同記事)
記事によれば、「政府・防衛省は数年前から「戦略的コミュニケーション」として、防衛政策を進めるに当たり、国民世論が有利に働くよう手法や内容を選択して情報発信するようになった」「防衛省・自衛隊によるネット配信は2020年夏ごろから急速に活発になった」といいます。
その上で記事(石井暁・共同専任編集委員)は、「今回研究に着手した世論操作は、防衛省・自衛隊が姿を現した上で起きた事象を発信し、関心を引きつけようとする戦略的コミュニケーションとは決定的に違う」とし、企業が「一般の投稿を装い宣伝するステルスマーケティング(ステマ)」と似た性質をもつことを重視し、「軍事組織が国民の内心の領域に知らぬ間に直接介入する危うさ」に警鐘を鳴らしています。
防衛省・自衛隊が姿を現さず「ステマ」的に行う世論操作が言語道断であることは言うまでもありません。
しかし、では姿を現した「戦略的コミュニケーション」ならいいのかというと、決してそうではありません。
「「世論工作の研究」が…国内向けの戦術として使うことを企て、研究を進めるというのであれば、憲法が保障する精神的自由にも民主主義にも反する」(憲法学者の志田陽子氏、10日付琉球新報)。防衛省・自衛隊の「世論工作研究」が「国内向けの戦術」であることは明白であり、「ステマ」であろうとなかろうと、明らかな憲法違反です。
インターネットの「インフルエンサー」を軍事上の「世論工作」に利用している実例を、私たちはこのかん目にしてきました。それは「国家総動員」体制下の現在のウクライナです。
ゼレンスキー政権はロシアの軍事侵攻の4日後に、早くも「インターネット・アーミー」を公募しました。その狙いを責任者は、「ロシアの言い分がまかり通る隙を与えずにウクライナの主張を理解してもらう」ためだとし、「ゼレンスキー大統領を筆頭に政府と国民が同じメッセージを発することが大切」だと強調しています。「インターネット・アーミー」には政府から毎日、具体的な指示が行われ、ネットで流す「情報」の例文まで送られているといいます(4月18日のブログ参照)。
これは「インフルエンサー」を使ってSNSで「国民」の思想統制を図り、「反戦・厭戦の機運を払拭」し、戦争への総動員体制をつくりだすものに他なりません。
防衛省・自衛隊の「世論工作研究」はまさにこれに倣うもので、“日本版インターネット・アーミー」の組織化を狙うものです。その策動は、事実上数年前の「戦略的コミュニケーション」からすでに始まっているのです。