25日夜のNHKスペシャル「エリザベス女王~光と影 元側近が語る外交秘話」は、「光と影」と題しながら、「光」がほとんどで、9月に死去した同女王を賛美するものでした。
それは日本の天皇制を考える上でも、見過ごすことができない危険な内容を含んでいました。
①天皇裕仁の戦争責任隠ぺい・美化
エリザベス女王は1975年5月、初めて日本を訪れました。その際、裕仁天皇(当時)との会談を切望し、通訳だけ入れて2人きりの会談を行いました。女王が裕仁との会談を強く望んだのは、立憲君主の手本は裕仁しかいないと考えたからで、女王は裕仁から多くのことを学んだ―というのが番組の内容です。
これは天皇裕仁の実像を歪めるたいへんな美化です。
エリザベス訪日の4年前(1971年)、裕仁は敗戦後初めて欧州諸国を訪れました。
「訪問した7カ国、とくにオランダ、西ドイツ、イギリスでは、憤慨したデモ参加者が彼の車列に物を投げつけたり、侮辱したりした。彼らは天皇を平和の象徴とは認めず…日本人を戦争のただの被害者とは見ていなかった。…ヨーロッパでの抗議運動は、「戦争責任」がまだ過去の問題になっていないことを改めて教えた」(ハーバート・ビックス著『昭和天皇・下』講談社学術文庫2005年)
エリザベス女王が裕仁との会談を切望したというのが事実なら、それはイギリスはじめ欧州諸国の市民の思いとは全く相いれないことであり、裕仁の戦争責任隠ぺいに加担したものです。
②「皇室外交」の政治利用容認・拡大の危険
イギリス(イングランド)は12世紀にアイルランドに侵攻し植民地化しました。以後、同地域の独立問題が大きな政治的課題になっています。とりわけ1960年代以降、IRA(アイルランド共和国軍)との対立を深めました。エリザベス女王はその対立を収め、和平合意(1998年)に大きな役割を果たした―というのが番組の内容です。
ここでアイルランド問題を詳述する力は私にはありませんが、1つ言えることは、イギリスにおいても女王(王室)が直接政治的活動を行うことは許されていないにもかかわらず、エリザベス女王の言動が「和平合意」に向けて重要な役割を果たしたと番組が賛美していることはきわめて問題です。
「女王外交」の賛美は、アイルランド問題だけでなく、植民地化していたガーナの独立(1957年)でも強調されました。
「女王外交」の主な手段は、植民地化の犠牲者への「慰霊」であり、晩さん会などにおける「スピーチ」(写真右)です。
このスタイルは、イギリス王室と歴史的に深い関係にある日本の皇室が踏襲しているものです。戦争・植民地化の現地や政治的に問題のある地へ出向いて「慰霊」「慰問」し「スピーチ」する。それはいかにも平和的活動であるかのように思われていますが、実は時の国家権力の利益に沿ったきわめ政治的な活動です。
それは、皇室の政治利用にほかならず、憲法上も許されるものではありません。
エリザベス女王の「王室外交」を美化することは、日本の天皇・皇族の「皇室外交」を美化し、その政治利用を容認・拡大する危険性を持っています。