角館草履の『実演日記』

〓袖すり合うも多生の縁〓
草履実演での日々の出会いには、互いに何かしらの意味があるのでしょう。さて、今日の出会いは…。

自由な「おじさん」。

2010年02月16日 | 実演日記


今日の草履は、彩シリーズ23cm土踏まず付き〔四阡円〕
赤基調の金文字プリントをベースに、紺無地を三本配してみました。
赤と紺の相性の良さもさることながら、ところどころに見える金文字が面白いですね。中国の民族衣装に見えるのは私だけでしょうか。

未だ気温は低いのですが、日中の明るい日差しに春を感じられるところまで来ました。午後5時の閉店時は充分明るさが残り、なんかそれだけでもちょっと得した気分になります。
散策のお客様に『外は寒いでしょう?』とお声をかけると、『えぇ、でもお日様が出てると気分はイイですねっ』という声が返ってきます。人というのは、心にも体にも明るさが重要ということでしょう。

千葉県からお越しのお若い女性ひとり旅。秋田市へ嫁ぐおともだちの誘いで、秋田県内の冬祭りを制覇すべく歩いているそうです。途中からはひとり旅になり、男鹿なまはげ、大館あめっこ市、横手かまくら、さらには森吉山の樹氷を見物し、『今日は角館の散策なんですぅ』。明るく話す女性に、充実した旅をしてるんだなぁと感じました。

角館草履にも高い関心を示し、しばらくの時間を実演席の丸太椅子で過ごされました。健康効果をご説明し試し履きのあと、『じゃあ、オーダーして行ってイイですか?』。
今の時期はフルサイズの草履が揃っていますから、飾ってある草履はお持ち帰りOKです。しかし女性があえて「オーダー」としたのは、自分好みのオリジナルが欲しかったからなんですね。こちらの草履は早速明日編んで、次回の「今日の草履」でご紹介しましょ。

最近ふと気付いたのは、実演席の丸太椅子で一定時間を過ごされる方に、「ひとり旅」が多いということなんです。ひとり旅の利点はやはり「自由」でしょう。気に入ったところで好きに時間を使い、お腹が減ったら好きなものを食べる、逆に時間がもったいないから食事らしい食事は省くなんてことも、グループ旅行ではなかなかできません。そういう意味では、自分らしい旅ができるのはひとり旅に限るわけです。

一昨日は卒業旅行の若い男性が、昼と夕方の二度に渡り、しばらくの時間を実演席で過ごしました。今春大学を卒業予定で就職も決まり、たったひとりの「思い出旅行」なんですね。彼も気ままに愉しんでいるのがよく分かりました。
自由を好むひとり旅は、言い方を変えれば「束縛を嫌う」ということになります。勝手な推測なんですが、そうした人が実演席に時間を費やすのは、草履職人に「自由」を見るからじゃないですかね。

卒業旅行の男性との会話は多岐に渡りました。私が彼に話したひとつは、「一年間はゼッタイに会社を辞めるな」ということです。まず一年勤めれば、与えられた仕事も上司のクセもだいたいは分かります。そのうえで納得して勤務を続けられるのがベストですが、その後「本当にこの道で良いのか」を考えるのも大事だと思うんですね。まぁ、いまどきの雇用情勢を思えば、簡単に会社を辞められないのも事実ですけどね。

彼も私との会話を楽しんでくれました。いつかの再会を約束して、ふたり記念撮影のあと握手をしてお帰りです。おっと、ミニ草履もお買い上げでしたね。
彼は会話の最中、私のことをしきりに『おじさん』と呼びました。実演をはじめた頃はこの「おじさん」の呼ばれ方に違和感があったのですが、まぁ若い世代からの呼ばれ方としては自然でしょう。今日、『このあいだの新聞サ、おじさん載ってらっけなっ』と声をかけられた地元のおかあさんは、明らかに私の母親の年代でしたけどね。

角館の草履職人は、本日47回目の誕生日を迎えました。文字通り充分すぎるほどの「おじさん」です。
明日からまた「草履を編む自由なおじさん」として、はりきって参りましょっ。

コメント    この記事についてブログを書く
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする
« 春を告げる草履。 | トップ | ふるさとへの恩返し。 »
最新の画像もっと見る

コメントを投稿

実演日記」カテゴリの最新記事