角館草履の『実演日記』

〓袖すり合うも多生の縁〓
草履実演での日々の出会いには、互いに何かしらの意味があるのでしょう。さて、今日の出会いは…。

メシのタネ。

2006年08月21日 | 実演日記
今日の草履は、一般綿生地シリーズMサイズ23.0cm〔靴サイズ24cmまで可・・・3000円〕
青のいらかをベースに緒はエンジ、真中にブルーの帯を一本入れてみました。この帯、細くしていくつも入れた草履も面白いと思います。

男性と女性5人くらいのグループがお越しになりました。すぐに草履を手にとってご覧でしたが、誰一人として言葉を発しません。最初、韓国か台湾の方で日本語がダメなのかナとも思いましたが、ふと顔を上げて見てみると、みなさん手話で会話をしていました。
お二方が草履を気に入ってくださり、オーダーいただきました。「音」のない角館も気に入っていただけたら嬉しいです。

東京都久留米市からお越しの奥様。実演を関心高くご覧になり、一通りのご説明をすると、すぐに『オーダーしよう!』。
配色を考える最中もとにかく笑顔で、『嬉しいモノに出会っちゃったなぁ、草履が届くまでずーっと角館のことを考えていられるねっ!』。

お年の頃は50歳代半ばとお見受けしました。オーダーを決めてからはとにかく笑顔で、言葉ひとつひとつが子どものように純粋な奥様でした。こちらの奥様のような歳のとりかた、すっごく素晴らしいと思います。

角館のお祭りが近づいてきました。お盆が明けた最初の日曜日に、大半の丁内が「ヤマ出し」をします。曳山を納めている倉庫から一年ぶりにヤマを出し、9月上旬完成に向けたヤマ作りがはじまるわけです。作る→こしらえる→こしゃるの意から、地元言葉で「ヤマこしゃ」と云います。
「ヤマこしゃ」から参加している若衆こそが、本当に祭りの主役たちです。

西宮家隣家の「若き人形師」の作業も、そろそろ追い込みのようです。今日の画像を掲示板にアップしています。
それこそ「ヤマこしゃ」のない日の仕事の休みだけが没頭できる時間ですから、人形作りに向かう彼の顔は真剣そのものです。
それでも、ときおり塀越しに覗く観光客の方々に、丁寧に人形の説明をしていました。思いがけず角館の伝統文化に触れたお客様は、旅の想い出を確実に一個増やしたはずです。これなんです、私が彼に伝えたいひとつが。

『人形でメシ喰えねぇし‥』と彼は言います。確かに「角館のお祭り人形」だけで考えればその通りでしょう。でもそれを、「日本の武者人形」として考えたら‥。
食事の時間も眠る時間も惜しんで精魂傾けたこの人形を、50万円で譲り受けたいという人がこの日本にひとりもいないとは、私にはどうしても思えないんです。

「作品とは命を削るもの」、それを理解している人間が、この町にはたくさんやってくると信じているんですが‥。

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2 コメント

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作る憧れ (umeking)
2006-08-22 11:26:19
「作品づくり」と「生活」。

相反するような両者の間で揺れるひとは

世界中にいっぱいいるんでしょうね。



相反しているような両者が、

限りなく近づけば嬉しいことですね。

それを続けながら「食っていく」ことを

考えたいですね。

すごくむつかしい事だと思います。



すいません。

僕のいる場所から見つめると

とっても眩しい「憧れ」の場所なので、

ついつい、応援したくなってしまいました。



買ってな希望を勝手に言うと

「作り続けてほしいなあ。人形」

「欲しい!」そう言ってくれる人、

そんなに少なくないと、僕も思うんですが。
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価値観 (草履職人)
2006-08-22 22:53:50
狭い地域で永く暮らすと、どうしても価値観というものが定まってきます。その土地で無難に暮らすためには、これも必要とは思いますね。



ただし、角館のように常時他県の方々が流入している地域では、固定概念がビジネスチャンスを潰していることもあるわけです。

『そんなもの誰が買うの?』が、『こういうものを探していたんですよぉ』になる場合が珍しくないってことですね。



「布巻草履」、これが収入の柱になり得るとは、誰も予想していなかったと思いますね。

もちろん強要はできませんが、「若き人形師」に伝えたいひとつです。
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