角館草履の『実演日記』

〓袖すり合うも多生の縁〓
草履実演での日々の出会いには、互いに何かしらの意味があるのでしょう。さて、今日の出会いは…。

被災地からの旅人。

2011年08月31日 | 実演日記




今日の草履は、彩シリーズ24cm土踏まず付き〔四阡円〕
濃紺や黒には、黄色がよく合いますね。ちょっと洋風な感じに見えるのは、ベース生地のプリント柄にもよるのでしょう。平生地はこちらです。



岩手県からお越しの母娘さんペア。お母さんは「おばあちゃん」と呼ばれるほどの年代です。こうした年代の母娘さんペアは旅人にとても多く、旅の主導権はすでに娘さんにありますね。お母さんはどちらかと言えば「後について来た」という感じで、角館草履のご購入も娘さんがお母さんに勧めるケースが多いように思います。
こちらの母娘さんペアも、娘さんから勧められるようにおふたりオーダーくださいました。

岩手県というのは先に聞いていたので、『盛岡市や奥州市からは、散歩のようによく来てくださいますよ。さすがに三陸にお住まいの方は、今年まるっきり会えませんけどね』と言うと、おふたり同時に表情が動きました。
『実は私、陸前高田市に住んでるんです』とお母さん。すかさず娘さんが、『私は一関に住んでいるんですけど、実家の母を旅行に誘いまして…』。

よくよく聞いてみると、お母上が暮らす陸前高田市のご実家は、ほんの僅かの差で津波の被害を免れました。でもご近所さんたちは大勢津波の被害に遭われ、お母上はご自身の家をそんな方々に開放したと言います。
たいへんなご苦労を重ねたものの今は少し落ち着き、娘さんが「癒しの旅」として角館をお選びになったというわけでした。

そしてそこで出会った角館草履、『心に残るものと巡り会えて良かったわねっ』と微笑む娘さんのお顔を見て、近日編むオーダー草履に責任を感じています。
どんなお客様がどんな目的でお買い上げくださっても、作り手してまた商人として、そりゃあ嬉しいに決まっています。そんな中でも、「記念に残る」「心に残る」としてお選びいただけたのなら、これが至上の喜びでしょう。

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