日々遊行

天と地の間のどこかで美と感じたもの、記憶に残したいものを書いています

パリでひとりぼっち

2009-03-06 | book

         「パリでひとりぼっち」 鹿島茂(著) 講談社

それにしても、どうしたらいいんだろう? 昨日から何度も口にしたこの独り言がまた口をついて出ました。(本文より)

Paridehitoribtti 1912年7月、パリのアンリ4世校に籍をおいていた「コマキ・オオミヤ」は、
送金をしてきた父親が行方不明になり、授業料滞納のため放校処分になって
一人パリをさまようことになった。

コマキの所持品は父がくれた時計とわずかなお金。
唯一の身元保証人はヴァカンスで2週間の留守でその間を何とか生きていかなければならない。

友人を頼ってやっと仕事に就けても、それは今までコマキが知ることもなかった過酷なものだった。
そんな中でも娼婦ベルトがコマキを気にかけて助けの手を伸べるが、
泊まるところがなくなったコマキはゾーンと呼ばれる貧民街で暮らすことになった。
そこで知り合ったアンナとクロード姉弟との心の通いあいはつらい日々の彼を助ける。

やがて身元保証人が早めに帰ったことによってコマキは身柄を引き取られ、
1年後に父親の友人の世話で日本大使館で働くことになった。


この小説の主人公、コマキ・オオミヤは実在した「小牧近江(こまきおうみ)」のことである。 
彼はこの後パリ大学に学ぶが第一次世界大戦が始まり多くの日本人が帰国した。
 小牧はパリに残ったがもうひとり残っていた日本人がいた。画家志望の藤田嗣治である。
小牧が日本を離れる際、ふたりは友情の証として共作の小冊子『ケルク・ポエム』(1919年)を出版したという。
小牧は郷里の秋田に戻り、「種蒔く人」を創刊。戦争の無残さから平和を訴え、常にコスモポリタンであり続けた。
 藤田は個展を開いたのち、パリ画壇に画家としてデビューを果たした。