日々遊行

天と地の間のどこかで美と感じたもの、記憶に残したいものを書いています

海軍操練所跡 神戸市中央区

2010-04-29 | まち歩き

神戸・三宮の市立博物館がある京町筋から阪神高速道路のほうへ向かって行くと、京橋交差点に海軍操練所跡の碑が建っている。
 軍艦奉行、勝海舟が幕末の日本を近代化へ導く足がかりをこの港で実践した過去を示す錨である。

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ペリー来航(嘉永6年)は、それまで鎖国により眠っていた日本に多大な混乱をもたらした。
見たこともない大型の黒船に威力を感じた誰もが
日本は列強国の属国になるのではないかと危機感を抱いた。迷走する時代の幕開けである。

勝海舟はこの危機をさけるには、尊攘派と開国派に二分された混乱を統一し
「国内一致」こそが必要であり、外国と対等になるには日本を近代化させ海軍を強化し、
最新式兵器を使える人材を養成することが急務だと考えていた。

海舟は咸臨丸で米国へ渡った経験から、ドックの修理などをふくめた条件から
摂海が良港だと考えていた。
そしてかねてより上申していた神戸での海軍操練所設立を徳川第14代将軍家茂から許可を得ることができた。


文久3年(1963年)幕府の公布によりここに操練所を設立。
同時に海舟の私塾を持つ許可も得て坂本龍馬が塾頭になっている。
しかし元冶6年(1864年)に池田屋事件、つづく蛤御門の変に操練所の門下生が関わっていたことから、
幕府の統制から離れる可能性があると見られ閉鎖を余儀なくされた。

江戸への帰国を申し渡された海舟は軍艦奉行を免職されたうえ、役高二千石もとりあげられ
元氷川の屋敷に逼塞(ひっそく)することになった。
しかし海舟の意志を継ぎ、坂本龍馬など一党は薩摩に身を寄せる。海舟が西郷隆盛に頼んだともいわれる。
この頃はまだ混沌としているがやがて龍馬は新しい「統一国家」を成し遂げることになり
海舟の希望は後になって花開いたといえる。

参考文献◆『勝海舟』(著)松浦 玲 中公新書


三人の作家の肖像画 ジャン・コクトー

2010-04-19 | Jean Cocteau

ジャン・コクトーは多くの人物の顔をスケッチしている。描く線は人物の個性に合わせて力強く、又ゆるやかに描き、違う動きを想像させるように生き生きとしている。
この3冊はフランス、N,R,F社から1920年代に発行された3人の作家に寄せたコクトーの肖像画である。

                           写真上から
Portraits3crivain『MARY DE CORK』
(著)Joseph Kessel(1898-1979)
『マリー・ド・コーク』 ジョセフ・ケッセル 
フランスの作家、脚本家
映画にもなった『昼顔』『サン・スーシの女』の原作者
1925年発行 記番 410番台

『JACQUOT ET L'ONCLE DE MARSEILLE』
(著)ANDRE BEUCLER(1898-1985)
『ジャコとマルセイユのおじ』 アンドレ・ブークレール
1926年発行 記番 390番台

『LE VOYAGEUR SUR LA TERRE』
(著)JULIEN GREEN(1900-1998)
『地上の旅人』 ジュリアン・グリーン
フランス20世紀のカトリック文学を代表する作家で代表作は『モイラ』『幻を追う人』など
1927年発行 記番720番台


花蘇芳(はなずおう)

2010-04-14 | Flower

葉のない枝に紫紅色の小さな花が集まって咲く花蘇芳は
色が華やかでありながら地味な印象がある。ピンク系の花と混ぜてみた。

春の陽射しはあたたかい。
惜しみなくそそぐ春の光にどんな花もやわらかな金色を帯び、
花蘇芳も溶けるような色になった。

他に使用した花◆シンビジウム、カーネーション、ガーベラ、アルストロメリア、スカビオーサ


藤本能道 命の残照のなかで

2010-04-11 | アート・文化

 

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水のほとりで草はそよぐ。枝に羽を休める鳥、記憶からよみがえったように霞に舞う蝶。磁気に描かれた自然の美である。

ホテルオークラに近い虎ノ門にある「菊池寛実記念 智美術館」で開催されている
藤本能道(ふじもとよしみち)の「色絵磁器」を見てきた。
藤本能道は「色絵磁器」の創作において、草白釉、雪白釉、梅白釉、霜白釉の釉薬を考案し、
仕上げるまでに複数の工程による技法によって人間国宝に認定された。
その精度の高さは淡い背景を出現させ、時間の奥行きと風景の調べを描きだすことを可能にした。

  

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展示されている壷や筥(はこ)に描かれているのは、自然と共に生きる鳥類や昆虫、植物のいのちであり、優美で儚く、また妖しい文様は叙情的な楽園のようでもある。



晩年の藤本能道は病に侵されながらも自身を燃焼するように創作に打ち込み、
辰砂の赤を用いた作品を多く作る。それは刹那、運命に燃えさかる炎であった。

燈火の下で、あるいは赤い炎と同化するように舞い続ける金色の蛾は、
不安でありながら不思議な残像となって胸に残る。

藤本能道追悼に深い思いを込め、展示会場は美術館側の配慮により
米国のリチャード・モリナロリによって構成されている。

写真右上:金彩黄色の花苑図四角隅切筥
写真左下:金彩蝶と虫図四角筥                  4月18日(日)まで開催


枝垂れ柳

2010-04-08 | Flower

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我にはこの思い、オークの木に似たれど、君には曲がりし柳のごとくあらん                              

                     シェイクスピア「恋の骨折り損」 より

柳は女性のイメージで語られることが多く
日本でも柳腰、柳眉、柳髪と美しい女性の表現に用いられることばでもある。

柳は春の季語であり、奈良時代に中国から梅とともに渡来したが
「柳は緑、花は虹色」といわれるように、柳の葉は緑色、桜の花は虹色という
自然のあるがままの春の美しい風景をたとえている。

又、ヨーロッパでは川岸の柳が水中まで垂れている様子を
涙を流して悲しんでいる人にたとえられるのだという。

 

 


バラード神戸 田中良平

2010-04-05 | book

街は歴史とその場所の個性を織り交ぜながら変身をとげていく。
そのいっぽうで変わらないまま時をとどめている場所がある。本書には男女の出会いと別れ、
その背景に「神戸」だけが放つ香りをただよわせ、神戸生きた人々の悲哀と感動が描かれている。

Balladekobe
第一編 メリケン波止場
戦争から起きた苦悩が生んだ愛は尊い志をも生んだ。
永い時間をかけて果たした誠意はメリケン波止場にむかって真実の声を叫ばせた。

第二編 天女たちの美術館
神戸松蔭女学校の60年後の同窓会。
小磯良平のただひとりの弟子だった女流画家が師と自分のための美術館を建てるまでの
敬愛の念、そして「斉唱」のモデルになった当時の乙女たちの思い出。

第三編 光芒
バー「木犀」のマダム梨花を軸に、人間の存在を基とした建築に生涯をかけた男と
バーに通う広告制作マンとの沁み入るような心の交流。

第四編 G線のめぐり逢い
お互いに干渉をしない割り切ったつきあいをしていた男女が別れ、
30年後に三宮の喫茶店「G線」で再会する約束をするが神戸は震災に遭う。
その中で手を尽くして届けられた感動の約束。

第五編 愛しのホテル
神戸オリエンタルホテル。そこに勤務したホテルマンが見たホテルの記録と、震災で体験した
「もてなす心」の深い意味。そして震災とともに終えた波乱の旧ホテル。

神戸の情緒、空気が感じられればという期待でこの本を手にした。
時間を現代と過去にスライドして先人たちが作った神戸の文化も描かれていたのが印象的であり、
やはり憧れてやまない気持ちで本を閉じた。


花冷えの千鳥ヶ淵

2010-04-04 | まち歩き

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曇り空の今日、千鳥ヶ淵へ桜を見に出かけた。
めぐる季節が彩る風景は、このあたりを絵物語の姿に変える。
見事に咲く桜は多くを語っているようでもあり、
何も語らず季節の中に身をまかせているようでもある。

 

 

写真左上は九段下から田安門への道から武道館を見る。右は半蔵濠あたり。左下は国立近代美術館工芸館。

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Hanzoubori

かつて勤務していた職場がこの近くだったので、千鳥ヶ淵に来るとついその頃にタイムスリップしてしまう。
牛ヶ淵あたりの桜の下で昼休みを過ごしたこと、帰りに靖国神社の夜桜を見に行ったこと、修復された国立近代美術館工芸館がまだ旧近衛師団司令部庁舎のまま周りが草におおわれていた風景など…。
このあたりは過去に栄枯盛衰のドラマがあった場所である。ここだけに限らず桜の咲く場所はいずこも同じなのかも知れない。人それぞれの想いをのせて北上しながら日本列島がピンクに染まってゆく。