日々遊行

天と地の間のどこかで美と感じたもの、記憶に残したいものを書いています

本・その周辺 串田孫一 (古通豆本58)

2012-07-30 | book

Mamehon



古書店でこの豆本を目にした時、多くの本が並べられている中で
大切な物のように置かれていたのが印象的だった。
ディスプレーが上手な古書店。
良い本があるかも知れない…。そんな気持ちで行った時に
気に入った一冊とめぐり合えるのはひとしおの喜びがある。

詩人であり、随筆家でもあった串田孫一が本にまつわる自身の思いを綴っている。
(表紙のカットも串田孫一自身の手彩)

本との出会いから始まり、手作りの本を初めて手にした思い出、
造本の魅力に惹かれた時代、そして印刷への関心、特装版が出来るまでの過程へと話は進む。
読み返したり、同じページを何度も読める読書の道草。
そして最後は刊行された日記類の中から、盲目の筝曲師「葛原匂当」(くずはらこうとう)に触れ
簡略された一言、二言の日記の奥にある大切なものと56年間書き続けた匂当への敬意で終わっている。

「古通豆本」(こつうまめほん)は、「日本古書通信社」が昭和45年(1970)から
平成14年(2002)まで全141冊を刊行した豆本シリーズ。

串田孫一の本への愛着は、著者だからという衒いもなく本を愛する一人の読者として
本に関わるすべてに共感や疑問を自然に語っている。

昭和58年5月 日本古書通信社 発行       (写真をクリックするとほぼ実物大)


白書 ジャン・コクトー

2012-07-24 | Jean Cocteau

Blanc

 

「たぶんこの次のぼくの本は、著者名も出さず、刊行の名も入れずに少部数発行します。生きながら葬られた作品というようなものが、ひとりきりで墓場から出てくる力をもつだろうか知るために…」(コクトー)

    『批評に関するインタビュー』より

こうして著者と発行社名を伏せて発売されたのが『白書』である。
1928年のことであった。
発行はカトル・シュマン社。わずか21部の発行であった。
その2年後にやはり名を出さずにコクトーのデッサンを入れてシーニュ社から発売された。

内容を読めば設定を多少変えてはいるものの、
状況や登場する人物はコクトーの実生活に深くかかわった人たちで、コクトー著作であることは一目瞭然である。

この書はコクトーの衝撃的な恋愛遍歴であり
『浮かれ王子』は同時に『阿片』を吸う『恐るべき子供』だったことを物語る。
しかしコクトーはそれだけで生きたわけではない。
詩人としてすでに生前から名は世界に知られ、各分野の業績によって今日も「詩人王ジャン・コクトー」として
フランスの文学界に名を残している。
名を伏せてまで出版したコクトーの心情には、愛の形などが問題ではなく
その気持ちを育てあげることへの熱望が行間から痛々しいほど伝わってくる。

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中央の白い本が『白書』。
パラフィン紙に覆われた外箱を紐解
 







本書は昭和39年(1964)の「文芸」に掲載されたものを
森開社版で江口清訳により発売された。
中に収められているデッサンはコクトーの『デッサン』から選んだという。
コクトーの初期の頃を思わせる絵で、どの絵も大らかな表情をした人物がページを飾っている。

1973年 森開社 限定400部の130番台


喫茶 「アンヂェラス」 台東区浅草

2012-07-20 | まち歩き

Angelus





浅草で喫茶店に入るなら「アンヂェラス」といわれる有名な店。
昭和21年(1946)創業の老舗喫茶である。
外観も店内もチロル風。
そして時代の波に押されない風格を感じさせる。








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竪琴のような白木の飾りが特徴の壁
(2階から3階への階段)








山小屋にあるようなランプが灯る2階

衝立もノスタルジック(2階)

ここには作家の川端康成、永井荷風、池波正太郎をはじめ、財界、画家など多くの著名人が訪れている。
テレビや雑誌などにも多く紹介された。

メニューで人気があるのは「梅ダッチコーヒー」。アイスコーヒーに梅酒を入れて飲む。
グラスに入っている梅とともに味は美味。
そしてお店と同じ名のケーキ「アンヂェラス」と、ゼリーがいっぱいの「フルーツポンチ」も人気。


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場所は雷門から近い浅草オレンジ通り。 浅草公会堂へ向かって2つ目の交差点にある。

毎週月曜定休
AM10:00~PM9:30


ギャラリー「SCAI THE BATHHOUSE」 台東区 谷中

2012-07-19 | アート・文化

Bathhouse 
一見、銭湯と間違えてしまった。
200年も続いた由緒ある「柏湯」を改造して1993年にオープンした現代アートギャラリーである。
「BATHHOUSE」と銭湯の名を残したセンスが感じられる。

SCAI THE BATHHOUSE(スカイ・ザ・バスハウス)は
先鋭の日本アーティストを世界に向けて発信。
そして日本ではまだ知られていない海外の作家を紹介する現代美術ギャラリーとHPにある。


ガラス戸を開けると両側には下駄箱が銭湯の頃と同じように残されている。
中は静かなアート空間。
フッと気持ちが無になるような清潔感に包まれる。

今回の展示は、平野薫「Re-Dress」 (7/28土まで)


天井から下げられた純白のウェディングドレスは、そこにありながら
細い糸となって白いもやのように床まで広がっていく。
衣装は形をとどめながらかすかな過去を閉じている。ドレスに織られた糸は平野薫の手によってほぐされ
よみがえり、幾すじもの神秘を秘めているかのように糸の在りかたを私たちに語っていた。

SCAI THE BATHHOUSEホームページ
http://www.scaithebathhouse.com/

平野薫ホームページ
http://www17.plala.or.jp/hiranokaoru/


しずくの向こう

2012-07-03 | 日常

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午後から雨が降り出した。
梅雨のあいまいな空が続いているが
この雲があと少しで払い尽くされれば青い空が夏の窓を開ける。

画像は何年前の写真だったか・・。
緑の公衆電話を見かけることもなくなったが、どこかではまだ使われているのだろうか。

  雨はよく季節を教へる。だから季節の
  かはり目ごろの雨が心にとまる。梅の
  ころ、若葉のころ、また冬のはじめの
  時雨など。   
                 (若山牧水)



雨は季節ごとに表情を変える。
そして都市に降る雨、山野に降る雨など場所によっても映す風景はさまざまである。
しかし地球環境が変わり、天の采配ひとつで被害をもたらすこともある雨。
小説や詩歌、映画や絵画に描かれたような雨の情景が破壊されない地球であればと思う。